日本経団連タイムス No.2973 (2009年11月5日)

中期目標がわが国経済社会に与える影響など

−慶応義塾大学産業研究所の野村准教授と意見交換/環境安全委員会


2020年におけるわが国の温室効果ガス排出削減量を定める中期目標は、10年以上にわたって、日本の経済社会のあり方に大きな影響を及ぼす重要な課題である。
そこで、環境安全委員会(坂根正弘委員長)では10月19日、東京・大手町の経団連会館で会合を開き、中期目標がわが国経済社会に与える影響などについて、慶応義塾大学産業研究所の野村浩二准教授と意見交換を行った。野村准教授の説明概要は次のとおり。

 ■経済モデル評価に対する誤解

2020年の温室効果ガスを1990年比で25%削減するという鳩山新政権の中期目標を受けて、今後検討すべき課題は、麻生政権下の中期目標検討委員会で行われた地球温暖化対策の経済に与える影響を再検討することである。国内対策として90年比25%削減することは、日本経済にどのような影響を与えるのか、また、グリーン・ニューディールは本当に期待できるのか、客観的な議論が求められる。

中期目標検討委員会の経済モデルに対しては、誤解が散見される。その代表例は、(1)投資誘発による生産増の効果が考慮されていない(2)省エネによる生産コストの低下が考慮されていない(3)技術が不変とされている(4)産業構造が不変とされている――などである。

しかし、経済へのプラスの効果として、省エネ投資拡大による直接・間接の生産への波及、所得の増加、省エネによるコスト削減効果などがすでに織り込まれている。また、マイナスの効果として、エネルギー価格上昇による企業のコスト増、それによる需要減、家計の負担増に伴う実質的な購買力低下、労働需要減などが勘案されている。

他方、織り込まれていない影響は、新産業の育成による輸出増などのプラスの効果、産業空洞化の加速、既存商品の陳腐化などのマイナスの効果である。これらは、恣意的に落とされているのではなく、現象自体の不確実性が特に高いために考慮されていないものである。もし合理的に算定できるのであれば、モデル内に組み込んで総合的に評価すべきであろう。

■ 家計負担問題の本質

麻生前政権のもと、政府の中期目標検討委員会で行われた試算によれば、90年比25%削減という選択肢を取った場合、可処分所得の減少と光熱費の増大により、世帯当たり国民負担が年間36万円に及ぶとされてきた。

しかし、経済モデル上、光熱費の上昇は本来、実質可処分所得の内数にすぎず、単純に足し上げることは不適切である。ただし、36万円の水準自体は過大ではなく、慶応義塾大学産業研究所の経済モデルの試算によれば、90年比25%削減による実質可処分所得の減少は、76万5000円にも上る。

■ 地球温暖化対策に伴う経済効果の再検討

すでに述べたように、経済モデル評価は、かなりのプラスの効果を織り込んでいるが、合理的に算定できる輸出増効果があれば、モデルで総合的に評価するように組み込むことが今後の課題である。

他方、グリーン・ニューディールの効果については、2020年の中期目標との関係ではなく、一過性の景気対策、あるいはより長期の視点からとらえるべきであると考える。

【環境本部】
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