日本経団連タイムス No.2977 (2009年12月3日)

「ドクターヘリの普及に向けた今後の課題」

−理事会で救急ヘリ病院ネットワークの國松理事長が講演


日本経団連が11月17日に東京・大手町の経団連会館で開催した理事会で、認定NPO法人・救急ヘリ病院ネットワーク理事長の國松孝次氏が「ドクターヘリの普及に向けた今後の課題」と題し講演した。概要は次のとおり。

ドクターヘリ(救急医療用ヘリ)は、ドイツでは80カ所、米国では600カ所以上の拠点がある。日本は2007年に「救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法」が成立してから増加したが、まだ16都道府県20カ所にすぎない。こうした救急体制の遅れは、特に地方で深刻な救急事情の悪化を来している。

重篤の救急患者を扱う救命救急センターに、東京は平均15分、大阪は20分で到着するが、北海道は86分、鹿児島は89分かかる。60分以上かかる県は18県ある。14年前、警察庁長官時代に銃撃を受け瀕死の重傷を負った。そのとき助かったのは病院に30分で着いたからであり、地方では助からなかったかもしれない。こうした救急格差を埋め、命の危機管理体制を確立するためには、ドクターヘリの導入が不可欠というのがわれわれの信念である。

ドクターヘリは、救急車のように単に患者を病院に運ぶだけでなく、医師が救急の現場に急行し、迅速な医療行為を行うことができる機能を備えており、それにより患者の救命率が上がっている。

年間の運行費用1億7千万円を国と都道府県が半分ずつ負担している。これは一機当たり年間240回運航することを想定しているが、08年度には国の想定件数をはるかに超える390回程度運航している。現場の医師、看護師、パイロットの医療チームの献身的な活動によって大きな成果を上げているが、オーバーワークが大きな問題となっている。現場の関係者のオーバーワークに注意し、運航の安全を確保しなければならない。

ドクターヘリを用いれば、救急車搬送に比べ、死亡率で27%程度、重症の後遺症では約45%削減できるという研究結果がある。昨年1月に愛知県設楽町で3歳児が心肺停止状態となった際に、40キロ離れた静岡県の浜松市からドクターヘリが急行して救急医療措置を行い、70キロ離れた静岡県立子ども病院に搬送した結果、子どもが全く後遺症もなく退院した事例がある。ドクターヘリの利点は、このように広域で最適の病院に救急患者を搬送して救助することができる点にある。こうしたオペレーションはヘリコプターでなければ不可能だ。

ドクターヘリを普及させるために、国民の認識と理解を深めていくことが肝要と考えている。また、地方によって事情が異なるので、ドクターヘリは、全国一律の仕組みではなく、地方の実情に合わせた運用が望ましいと考えている。

最大の問題はヘリコプターの運航費用が十分に確保されていないことである。財政力がない県でドクターヘリを導入するため、地方の実質負担分を少なくする努力が必要である。今年から特別交付税交付金により、都道府県の負担分は2分の1から4分の1に減少したが、これをさらに減少させる努力が必要である。

また、ドクターヘリに乗る医師・看護師の研修に要する費用については、何の手立てもない。そこで医師、看護師に対する研修費用を助成するために「ドクターヘリ支援基金」を設置することとした。

いずれにせよ、ドクターヘリを導入し、その円滑な運用を図るための努力を続けていきたい。

【総務本部】
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