日本経団連タイムス No.2983 (2010年2月4日)

集団的消費者被害救済制度の論点で説明聞く

−三木・慶應義塾大学大学院教授から/経済法規委員会消費者法部会


日本経団連は1月19日、東京・大手町の経団連会館で、経済法規委員会消費者法部会(渡邉光一郎部会長)を開催し、慶應義塾大学大学院法務研究科の三木浩一教授を招き、三木教授が座長を務める消費者庁の集団的消費者被害救済制度研究会で検討されている救済制度に関するさまざまな論点について説明を聞き、意見交換を行った。三木教授からの説明概要は次のとおり。

■ 議論の経緯

将来生じるおそれのある消費者被害を防ぐための差止訴訟については、すでに法的手当てがされているところであるが、過去に生じた被害救済の実効性を確保する必要性が指摘されている。そこで政府は昨年11月、消費者庁に「集団的消費者被害救済制度研究会」を設置し、今年夏ごろを目途に新たな制度の考えられる選択肢の提示および論点整理を行うため、関連するわが国における現行制度や諸外国の制度の内容および運用状況等を調査している。

■ 考えられる制度と事件類型の関係

(1)包括的保全制度

わが国では、消費者をだますことを前提にした詐欺的、犯罪的な商法による消費者被害への対応が必ずしも十分とはいえない。詐欺的な事案への対応は通常の民事訴訟にはなじまないため、むしろ事件を起こした事業者の資産の隠匿や目減りを最大限抑える観点から包括的保全制度のあり方について検討を行っている。保全制度は、証拠資料がそろった段階で行われるものであることから、むしろ消費者庁等の行政機関に調査権限を与え、証拠収集が実効的に行われるべきではないかと考えている。なお、このような詐欺的事案は、通常の企業活動と消費者との間の紛争と峻別すべきであり、新たな制度が通常の健全な企業活動を不当に妨げることのないよう留意する必要がある。

(2)不当収益剥奪制度

一部から不当な収益を剥奪する制度について提案があるが、どういう問題を解決するために提案されているのか不明である。不当収益を剥奪しただけでは被害の救済にはならないし、仮に剥奪した不当収益を被害者に分配するのであれば、集合的訴訟制度と別に不当収益剥奪制度を検討する意味はない。提案者等が想定する不当表示や不当広告に関する事案は、被害者個人が特定不可能な拡散的被害なので、剥奪した不当収益を分配することは、理論上も実務的にも問題がある。私見であるが、課徴金制度との関係を十分に整理して検討すべきであると考える。

(3)集合的訴訟制度

集合的訴訟制度について、まずオプトアウト型は、米国のクラスアクションが典型である。代表原告がクラス(被害者の集団)を代表して訴訟を提起し、訴訟からの離脱を表明した者を除き、クラス全員に判決の効果が及ぶ。ただし、通知・広告が厳格に求められ、膨大な費用や手間がかかるとともに、米国には他国に例のない懲罰賠償制度、民事陪審制度、完全成功報酬制度、証拠開示制度が存在するなど、基本的な法体系が異なることから、米国と同じ内容のクラスアクションの導入は考えにくい。

次に、オプトイン型は、わが国の選定当事者制度が典型であるが、各自が代表原告に対して委任をしなければ判決の効果は及ばない。選定当事者制度はほとんど利用されていないことから、この制度の拡充は想定していない。

また、オプトインとオプトアウトの併用型は、双方の欠点を引き継ぐことになるという問題がある。ノルウェーやデンマークが2009年に併用型を導入したが、いまだ具体的な運用例がなく不確定要因が多い。

一方、ブラジルなどですでに導入され、フランスでも導入が検討されている二段階型は、多数被害の共通争点について違法性を中心に争う(責任論)第一段階と、個々の被害者の被害事実と被害額を認定して救済を図る(損害論)第二段階に分かれている。大勢の被害者に共通するのは「責任論」なので、これを一つの訴訟に束ねることは意味があるが、個々の被害額はいずれにせよ個別に立証する必要があるので、損害論を集合的訴訟から切り離すことには合理性がある。

なお、オプトアウト型の米国クラスアクションも、実際には和解で終わるものがほとんどであり、その意味では責任論までの解決であるので、個々の損害額については個別に対応しているとも考えることができる。つまり、実質的には二段階型といえる。わが国の法体系には、二段階型の集合的訴訟制度がなじみやすいという議論もある。

【経済基盤本部】
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