日本経団連タイムス No.2984 (2010年2月11日)

日本経団連労使フォーラム

−御手洗会長基調講演(要旨)


日本経団連と日本経団連事業サービスは1月25、26の両日、「第113回日本経団連労使フォーラム」(概要は2月4日号既報)を開催した。同フォーラムから、御手洗会長の基調講演による講演の概要を紹介する。

■ 世界経済とわが国経済社会の現状

リーマン・ショックから1年以上が経過した今日でも、世界経済は、依然として厳しい状況が続いている。米国、欧州ともに、最悪期は脱したものの、景気の下振れ懸念は依然として根強い。一方、中国・インドなど、アジアを中心とする新興国の経済は総じて持ち直している。

わが国経済も、一部に景気の持ち直しの動きが見られるが、政策効果に支えられている面が強く個人消費に力強さは見られない。企業の在庫調整は進んだものの、生産は経済危機発生前の8割程度にとどまっており、設備過剰感も根強い。さらに、デフレの進行や円の先高感等の懸念もある。

今後の見通しも、景気対策の政策効果が弱まるなかで、個人消費は当面弱い動きが見込まれる。輸出については、アジア向けは上向いているが、大きなウエートを占める米国向けの回復は遅れ気味である。これらを勘案すれば、少なくとも2010年の前半は厳しい状況が続くと考えられる。

他方、経済活動のグローバル化が進展し、アジアを中心とする新興国の追い上げによって、国際競争が一段と激化している。国内でも、人口減少と、世界に例を見ないスピードで進む高齢化が一層進行しているため、経済活力の低下が懸念されている。

■ 持続的な経済成長による安心社会の実現

国内外において、多くの難題に直面している現実は重く受け止めねばならないが、現状の厳しさに悲観するのではなく、危機を克服し、経済の回復に向けたモメンタムを得る一年としていくことが大変重要である。

豊かな国民生活を実現するためには、持続的な経済成長の実現が不可欠であり、経済成長の源は民間企業の活力である。企業が果たすべき役割を改めて認識し、明るい展望を切り拓く原動力として大いに活躍されるよう願っている。

他方、政府においては、一刻も早く景気を自律的な回復軌道に乗せるため、財政・金融の両面から、あらゆる政策を総動員し、切れ目のない景気刺激策を行うことが求められる。

今後は、財源の裏付けを持つ工程表の策定を含め成長戦略の具体化を急ぐ必要があるが、その際には、経済成長の原動力である企業の活力を最大限に引き出すという視点が求められる。特に、税・財政・社会保障の一体改革、規制改革、基礎研究への投資、道州制の導入、ICTの積極的な活用などが欠かせない。

■ 厳しい経営環境のなかでの経営者の姿勢

第一点は、積極的な事業展開を貫くということである。「経済情勢が厳しいから、需要がない」とあきらめてしまうのではなく、新しい発想や、新しい方法によって、市場を開拓しようとする意識を持つことが何よりも重要である。加えて、増大する高齢者のニーズをとらえた市場の開拓など、発想を大胆に転換して危機に対処するという姿勢も大事である。人口減少と高齢化は、海外でもいずれ生じる現象であり、わが国で需要の掘り起こしに成功すれば、海外市場の開拓にもつながるため、大きなビジネス・チャンスと考えられる。

さらに、国内市場にとどまらず、ダイナミックな成長が期待できるアジアを中心に新興国の市場を積極的に取り込んでいくなど、海外市場のフロンティアを絶えず広げていく視点も重要である。

二点目は、将来の成長に向けて、研究開発をさらに強化するということである。新興国の市場を取り込むためには、価格競争力はもちろん、それぞれの国や地域の実情やニーズを十分に踏まえたうえで、良質な製品・サービスを開発・提供する必要がある。

最近は、研究開発費用が膨大になるなかで、製品化やサービス開始までの速度をいかに早めるかがカギとなっており、産学官による共同研究などを活用しつつ、効率的な研究開発を志向する必要がある。また、世界市場でのシェアを伸ばすためには、国際的な標準化の動きを注視するとともに、日本発の国際基準づくりを積極的に進めていくことが求められる。

三点目は、企業競争力を発揮できるよう、組織、あるいは地域などさまざまなレベルでの協働を強く推進することである。企業内のチームワークの力を最大限に発揮するためには、自社は何のために存在するのか、従業員は何のために仕事をするのか等の根源的な価値を共有することが重要であり、自社の将来ビジョンを明確に描き、経営者から従業員に対して、繰り返し語りかけていただきたい。大企業から中小企業への「知財の流通」なども一つのアイデアとして、大企業と中小企業の協働、地域における協働を進めることも必要である。

■ 今次労使交渉・協議に向けて

第一点として、今回は、賃金よりも雇用を優先した交渉・協議が求められる。現在の景気後退は、戦後最大規模だが、過去と比較して、企業が雇用を守ろうとする動きが顕著であった。経営者として最大の経営資源を守るという観点に立ち、引き続き雇用の確保に努めていただきたい。

第二点として、各企業の皆さまに、新卒採用に向けた一層の努力をお願いしたい。定期的な新卒者の採用は、中長期的な企業競争力を維持するため、また、次代を担う若者の将来の安定を図ることは、社会の安定と発展のために不可欠である。

第三点は、賃金の決定に関し、総額人件費の視点をもち、あくまで自社の支払能力に即して判断することである。

最後は、このような危機的な状況でこそ、企業労使の関係をより深化させていく必要があるということである。大幅な経営環境の変化に対応することは容易ではないが、「ヒト」を大切にする日本的経営の原点に立ち、健全な労使関係の深化を図ることができれば、おのずと道は開けていくものと確信している。

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