日本経団連タイムス No.2992 (2010年4月8日)

「経済成長戦略と制度変化」で説明聞く

−経済産業研究所の小林上席研究員に/経済政策委員会


日本経団連(御手洗冨士夫会長)の経済政策委員会(奥田務共同委員長、畔柳信雄共同委員長)は3月24日、都内で会合を開催し、小林慶一郎・経済産業研究所上席研究員から、「経済成長戦略と制度変化」をテーマに説明を聞いた。概要は次のとおり。

少子化対策講じ労働人口確保、法人税減税などで生産性向上/スピード調整行いつつ制度改革推進

1.経済理論からの含意

経済成長は、新古典派経済学の理論に基づけば、資本蓄積・労働人口の増加・生産性の向上の3つの要因に分解される。わが国ではバブル崩壊後、生産性は低迷し、労働人口も減少している。経済成長率を高めるためには、生産性の向上を図るとともに、少子化対策を講じることにより、労働人口の減少を食い止めることが重要となる。

また、1980年代以降、注目されている内生的成長理論によれば、教育や技術開発による人的資本の蓄積は正の外部性(周囲に好影響を及ぼす)を持ち、経済成長を促進させる。ただし、こうした人的資本の蓄積は、民間の意思決定のみに任せると、社会全体にとって最適な水準よりも過小となってしまう。したがって、今般の政府の新成長戦略の基本方針にも盛り込まれたように、政府が公的資金を投入して、教育支援や技術開発支援を行っていくことが必要である。

2.需要主導の経済成長モデル

経済学では、需要を重視する成長理論はほとんどなく、また、産業構造の変化などにより経済成長を説明する理論も日本経済の現状を説明するには不適切である。そこで、需要主導型の経済成長を実現するためには、需要(市場)の増大が、企業の分業や研究開発投資を促進し、企業の生産性が上昇することが必要となる。今般策定される成長戦略では、消費を喚起するための財政支援策だけでなく、法人税の減税など生産性向上のための政策も組み合わせて実施することが求められる。また、需要は国内に限らず、外需の役割も大きい。経済のグローバル化にあわせ、新興国市場の開拓を進めていくことが重要である。

3.制度変化と経済成長

政治経済システムを構成する各要素にはお互いの働きを強め合う補完性が存在する。制度改革を進めるなかで、各種制度の転換のスピードが異なると、制度間の補完性が崩れ、経済成長に悪影響を及ぼす。90年代以降の日本では、「アメリカ型」「市場型」の経済制度を志向して、大規模な政治・経済両面の制度転換が進められたが、労働者派遣法の規制緩和など労働市場の自由化が先行する一方で、雇用のセーフティーネット整備が遅れるなど、制度変化のスピード調整に失敗したため、経済のパフォーマンスが悪化してしまった。しかし、いったん緩和した規制を元に戻しても、経済の落ち込みは元に戻らない。また、各省庁が所管制度について、バラバラに改革を行うことも、制度間の補完性の崩壊につながる。新たな成長を実現していくためには、政治主導で適切にスピード調整を行いつつ、制度改革を進めていくことが必要である。

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なお、当日は小林上席研究員の説明に続き、提言案「豊かで活力ある国民生活を目指して〜経団連成長戦略2010」の審議が行われ、了承された。

【経済政策本部】
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