日本経団連タイムス No.3025 (2011年1月1日)

今後の雇用社会のあり方めぐり論議

−21世紀政策研究所が第74回シンポジウム


日本経団連の21世紀政策研究所(米倉弘昌会長、森田富治郎理事長)は12月10日、東京・大手町の経団連会館で第74回シンポジウム「新しい雇用社会のビジョンを描く−競争力と安定 企業と働く人の共生を目指して」を開催した。

冒頭、森田理事長が開会あいさつで、「高度経済成長の過程で形成されてきたわが国の雇用慣行は、前提が大きく変化した現状ではうまく機能しなくなっているのではないか。企業の競争力を高めると同時に、働く人のニーズに応え、双方の共生を基盤とした雇用社会の新しい安定のための方策を人材活用、労働市場、労働法、社会保障の各視点から議論したい」と問題意識を示し、活発な議論への期待を表明した。

その後、同テーマに関するタスクフォースの各委員から報告があり、佐藤博樹研究主幹(東京大学教授)は、「経営環境の不確実性の増大により、従来型の正社員のみを前提とした人材活用は困難である。複数の雇用・就業形態を組み合わせた人材活用、そのための雇用慣行やルールの見直しが必要」と指摘した。21世紀政策研究所の細川浩昭主任研究員は、「企業競争力向上には、人材の創造性を最大限に引き出すことが不可欠。そのためにはより柔軟な労働時間管理制度が必要ではないか」と指摘した。阿部正浩獨協大学教授は、「今後の雇用安定には、外部労働市場の機能強化と、内部労働市場と外部労働市場の連携の強化が必要。そのためには職種別雇用管理の普及が重要な要因となるのではないか」と指摘した。

大内伸哉神戸大学教授は、「今後の労働法制の視点として、企業と労働者のウィン・ウィンの関係や、エンプロイアビリティー向上などの視点でとらえ直した規制のあり方の検討が必要ではないか」と主張した。駒村康平慶應義塾大学教授は、「社会保障システムは、雇用を含む他の社会システムと補完的である。雇用のあり方、人口や世帯構成の変化にあわせて、新たな雇用リスクを受け止める社会・雇用保険、年功給や持ち家標準世帯を想定しない所得保障制度などの検討が必要」と指摘した。

続くパネル討議では、日本労働組合総連合会の逢見直人副事務局長と日本アイ・ビー・エムの坪田國矢取締役専務執行役員がコメントした。逢見氏は、「雇用のルールや慣行を修正するにも、日本の雇用システムの強みを堅持する視点を重視すべきである。同時に、外部労働市場の強化は不可欠で、社会全体で取り組む課題である」と指摘した。坪田氏は、「世界企業として、人材活用策や働き方も世界標準を無視できない。“ワーク・ライフ社員”の育成を促す社会的・制度的環境整備が必要である。また、これらの取り組みが企業のイノベーションの創出にも不可欠」とコメントした。

全体討議では、現状の雇用システムの持続性、解雇規制や有期雇用規制の妥当性、労働時間管理制度のあり方、学校教育や職業訓練のあり方などについて、幅広く議論が行われた。

【21世紀政策研究所】
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