日本経団連タイムス No.3027 (2011年1月20日)

「2011年版経営労働政策委員会報告」公表

−労使一体となってグローバル競争に打ち勝つ


記者会見する大橋洋治副会長・経営労働政策委員長

日本経団連(米倉弘昌会長)は18日、「2011年版経営労働政策委員会報告」 <目次のみ掲載> (経労委報告)を公表した。同報告は、春季労使交渉・協議に臨む経営側の指針をまとめたもので、副題を「労使一体となってグローバル競争に打ち勝つ」とし、「新たな成長に向けて」「成長を支える人材の確保・育成」「今次労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢」の3章構成としている。報告の主なポイントは次のとおり。

■ 日本企業を取り巻く経営環境と民間主導の活力による成長力の強化

企業の想定を上回る円高や、出口が見えないデフレの継続など、日本企業を取り巻く経営環境は厳しさを増している。加えて、労働市場の柔軟性を損ねる規制強化など、国際的なイコール・フッティングの確保に向けた取り組みは遅れており、国際競争力を維持・強化するうえで障害となっている。日本企業が激化するグローバル競争に打ち勝つためには、「成長」をキーワードに、雇用創出につながる企業活動活性化への取り組みが必要である。

■ グローバル競争に対応し得る人材の確保・育成

企業が持続的に成長・発展を遂げるためには、新興国をはじめとする海外市場の需要を積極的に取り込んでいく視点が大切であり、グローバルに事業を展開していくうえでは、多様な人材を受容することが重要である。グローバル人材の基本的な要件としては、語学力に加え、国や文化的背景の異なる人との円滑なコミュニケーション能力や、自ら幅広く、深く考えることができるよう高い教養と見識を持つことが挙げられる。企業の採用においても、海外留学や、青年海外協力隊への参加を通じたボランティア活動の経験があるなど、チャレンジ精神にあふれ、経験豊かな人材を尊重、評価し、門戸を積極的に開いていくことが求められる。
グローバル人材の育成に関しては、海外要員としての研修、経験がキャリアに反映されることでモチベーションの向上にも結び付くことから、海外での活躍を評価しつつ、グローバル人材の選抜、育成、配置をトータルで計画し運用する必要がある。
さらに、グローバル競争に打ち勝つためには、長期雇用や、従業員のチームワーク、良好な企業内労使関係など、人事労務面における日本企業の持つ強みを活かし、これらにさらに磨きをかけ、労使一丸で自社の成長への道を開いていく姿勢が求められる。

■ 若年者の就業機会の創出への取り組み

新卒者の就職環境の改善や、若年者の雇用安定のためには、何より、経済の持続的成長が不可欠である。政府には、新成長戦略の早期かつ着実な実施を図り、将来の成長期待を高めることにより、企業の採用意欲の向上につながる経済環境を実現していくことが求められる。
一方、企業としても、わが国の将来を担う若い人材のために、多様な採用機会の拡大に向けた取り組みを継続していくことが重要である。また、採用意欲の旺盛な中小企業と新規学卒者を結び付けていくことにより、就職状況の改善が期待できる。

■ 最低賃金引き上げ問題

最低賃金の引き上げは、経済成長と企業活性化に加え、とりわけ引き上げの影響を大きく受ける中小零細企業の生産性向上が不可欠である。これらの前提を満たさずに最低賃金引き上げだけが行われれば、中小零細企業の経営、ひいてはそこで働く従業員の雇用への影響が強く懸念される。

■ 賃金決定の判断基準

賃金の決定にあたっては、基本給のほか、手当、賞与・一時金、福利厚生費なども含め、すべての従業員に関わる総額人件費を管理する観点から、自社の支払能力に即して判断することが重要である。また、需給の短期的変動による一時的な業績変動があった場合には、賞与・一時金に反映させることが基本となる。
賃上げについては、恒常的な付加価値の増加が見込まれる場合において行われるべきところ、その具体的な判断にあたっては、変化する経営環境に迅速に対応し得るだけの競争力を有し、それを今後とも維持できるかが一つの目安になる。

■ 労使交渉・協議における経営側の基本スタンス

労働側は、マクロで見て下がった賃金をピーク時の1997年当時の水準へ復元することを求め、1%を目安とした処遇改善を要求に掲げているが、国内事業立地の維持を図ろうとすれば、賃金より雇用を重視して考える必要があり、恒常的な総額人件費の増加を招く要求に対しては、慎重に対応する必要がある。とりわけ、地域経済は回復の遅れが目立っており、中堅・中小企業では、雇用を最優先した交渉を継続せざるを得ず、ベース・アップはもとより、手当の増額などの賃金改善を行う企業は少ないものとみられる。こうしたことから、今次労使交渉・協議では、定期昇給の維持をめぐる賃金交渉を行う企業が大半を占めると見込まれる。
非正規労働者の処遇改善要求に関しては、正規、非正規を問わずすべての労働者の総額人件費の問題として考える視点が大前提となるため、非正規労働者の賃上げだけを取り上げて議論することはできない。

■ 企業の成長と従業員の豊かさの実現

経営者は、従業員、労働組合と協力しながらグローバル競争に打ち勝ち、従業員の豊かさを実現していくことが重要である。幾多の経営課題を解決し、企業と従業員がともに成長・発展していくため、健全な労使関係の深化を図りながら人間尊重の経営を実践することが求められる。

【労働政策本部】
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