日本経団連タイムス No.3029 (2011年2月3日)

日本経団連労使フォーラム

−米倉会長基調講演(要旨)


講演する米倉会長

日本経団連と日本経団連事業サービスは1月20、21の両日、「第114回日本経団連労使フォーラム」(概要は1月27日号既報)を開催した。同フォーラムから、米倉弘昌会長の基調講演の概要を紹介する。

今次労使交渉・協議に向けて

厳しさを増すグローバル競争のなかで、わが国企業が勝ち抜いていくためには、労使が一丸となって事業の付加価値を高め、企業の競争力を強化していくことが不可欠である。そのためには、労使協調にもとづく粘り強い努力を重ねる必要があり、それが企業の成長と処遇の改善につながるという認識を労使で共有することが重要である。

春季労使交渉は1年に一度、労使がひざを突き合わせ、企業の置かれている現状と方向性について率直に話し合う、世界に誇るべき慣行である。そうした思いから、この話し合いを「春の労使パートナーシップ対話」と呼ぶことを提案した。

世界経済と日本企業を取り巻く状況

世界経済と日本企業が置かれている状況について、3点申し上げたい。第1に、世界経済の成長の牽引役が新興国へシフトし、その動きはさらに加速している。わが国はアジア太平洋地域に位置するというアドバンテージを活かし、地域経済統合の推進に国を挙げて取り組み、その成長力を引き出し、共に持続的な経済成長の実現を目指していく必要がある。

第2に、わが国経済は、少子高齢化の進行により労働力人口が減少しつつあり、内需拡大による成長の実現が難しい状況にある。地域経済に目を移すと、その疲弊ぶりはさらに著しい。

第3に、事業環境の国際的なイコールフッティングの確保が遅れている。これを早急に確保しなければ、世界の成長から取り残される可能性がある。菅内閣には、日本経済の復活と再生を実現していくための重要政策を着実かつ迅速に実現してほしい。とりわけ、TPPをはじめとする高いレベルの経済連携を推進するとともに、農業の競争力強化を含めた抜本的な国内改革を推し進め、「平成の開国」を実現していかなければならない。

その際、大切なのは企業自らが知恵を絞り、国際競争力の強化に向けて積極果敢に行動していくことである。日本には「技術力」と「人材力」という世界に誇る財産がある。こうした強みに磨きをかけ、革新的な技術や製品、サービスを連続的に創出することにより、産業競争力を強化し、さらなる成長を実現すべきである。

サンライズ・レポート−民主導の競争力強化

経団連は昨年12月、民主導の競争力強化のための新たなアクションプランを示した「サンライズ・レポート」を発表し、「未来都市」「資源確保」「人材の育成・活用」の3つの具体的なプロジェクトを提案している。「未来都市モデルプロジェクト」では、人口20-30万人の都市を舞台に、産業分野や業種の垣根を越えて、企業の持つ最先端の技術やサービスを組み合わせて実証実験を行い、そこで得られた成果を広く国内外の市場に展開し、新しい成長産業をつくり出すことを目指している。

これからの人材育成と人材活用のあり方

持続的な成長を実現するためには、人材の育成と活用が重要な課題である。ポイントとなるのは、第1にグローバル人材の資質である。まず大切なのは、「世界で何が起こっているのか」「世界の人々は何を感じ、何を考えているのか」「どんな変化が起きようとしているのか」を敏感に感じ取る感受性である。また、相手の考え方の土台となる文化、習慣、社会的背景を理解したうえで自分の立場や意見を主張していく能力、さらに、積極的に海外に出て新しい環境に挑戦する意欲や競争社会のなかで生き抜くたくましさも重要である。

こうしたグローバル人材を育てるためには、困難な課題にもチャレンジする気持ちや世界を舞台に活躍したいという情熱を若者の心の中に育てていく必要があり、家庭や初等・中等教育が大きな役割を担っている。また、海外でさまざまな経験を積んだ若者は、将来の日本を支えるグローバル人材として大変貴重であり、企業がこうした人材を評価し、積極的に採用していくことも重要である。

第2は世界で通用するプロフェッショナル人材の育成である。そのためには社員に海外の企業との折衝など、実際の現場の経験を積むチャンスを提供していくことが大切である。また、海外事業の持続的な発展のためには、現地法人のトップ・マネジメント候補となる人材を確保する必要もある。優秀な人材を経営幹部候補として選抜し、育成する仕組みも広がっていくだろう。世界的な視野に立って、人事戦略を再構築する必要があることも、労使は十分に理解する必要がある。

第3はものづくりのプロフェッショナルの育成である。技術・技能の伝承はわが国にとって大きな課題である。競争力の源泉であるものづくりの基盤を維持していくには、匠の技ともいえる技術・技能を次世代に伝えていかなければならない。ものづくりの基盤を支える基礎研究を国が支援することや、産学官が連携して若い世代の科学に対する関心を引き出す教育を進めることが、ものづくりのプロフェッショナルの育成につながる。

第4は組織の一体感の醸成である。異なる文化や価値観を持つ国や地域の人々が共に働くようになると、組織の求心力を高めるための努力が一層必要になる。良好な労使関係はわが国の強みであり、グローバル化のなかでもこの強みを発揮し、さらに、経営理念やビジョンを国内外含めたグループ全体で共有することで求心力を高め、強い一体感を醸成し、人材の持てる力を最大限引き出していくことが不可欠である。

第5は多様性の尊重である。優秀な人材を確保し定着させるには仕事と家庭の両立など、多様な人材が活躍できる環境づくりを積極的に進める必要がある。

日本が明るい未来を拓くために、各社の労使交渉・協議が、企業の成長と従業員の豊かな生活の実現に向けたさらなる一歩となることを期待したい。

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