日本経団連タイムス No.3030 (2011年2月10日)

「流通産業を取り巻く環境変化と流通政策のあり方」説明聞き意見交換

−専修大学の渡辺教授から/運輸・流通委員会流通部会


日本経団連の運輸・流通委員会流通部会(中野勘治部会長)は1日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、専修大学の渡辺達朗教授から、「流通産業を取り巻く環境変化と流通政策のあり方」と題して、説明を聞くとともに、意見交換を行った。概要は次のとおり。

■ 流通産業を取り巻く環境変化

渡辺教授はまず、流通産業の現状として、2000年以降、流通産業のあらゆる業態において、販売額、従業者数、事業所数など、すべての指標が停滞または減少を示していると説明。今後の大きな環境変化としては、人口減少の問題を取り上げ、高齢化の進行により、総人口の構成が大きく変わることから、流通産業のあり方はもちろん、わが国全体が、あらゆるものの“設計”を見直す必要があると指摘した。

■ これまでの流通政策の変遷とその評価

わが国の流通政策は、1990年前後に行われた日米構造問題協議を境に、「経済的利害関係の調整」から、「社会的問題への対応」へと発想の大転換が行われ、従来の大型店問題が、商業にかかわるまちづくりの政策に大きく変わった。同時に、経済産業省が打ち出す流通政策に、皆が一斉に取り組むという「ビジョン型行政」が収縮していったと振り返った。そのうえで、現在の流通政策は、政府内においても迷いが生じている状態で、(1)政策のパッチワーク化により、各制度・政策が全体としてシナジー効果を生んでいない(2)政府の政策ドメインが不明確(3)地方分権化の進展による政策的な整合性の低下――といった問題が生じているとの評価を示した。

■ これからの流通政策

今後の流通政策のあり方としては、(1)少子高齢化など社会構造の大転換を見据えた、包括的なビジョンの策定と民間との共有(2)パッチワーク化した制度・政策の見直し、ICT化の進展による行政コストの引き下げ(3)地方分権と広域行政のバランス確保(4)中国、アジアとの関係強化――の4点を踏まえていく必要性を指摘した。

<意見交換>

出席した委員からは、インターネットやテレビなどを通じた通信販売チャネルの今後に関し質問が出された。これに対して渡辺教授からは、「通信販売の進展は、店舗に行くことの意味を従来と変える。したがって、店舗でなければ味わえないような付加価値を提供できない店舗は淘汰されていく」と指摘した。加えて、企業のプロモーションの仕方も大きく変化していくと指摘。とりわけ新聞の到達部数が減少していくなかにあって、小売業のチラシ依存型広告のあり方を見直していくことが必要であると述べた。また、中国を中心とするアジア地域への進出に際しての問題点に関し、渡辺教授から、今後の中国の内資スーパーの進展を見据え、そこに日本の流通産業が持つ、製配販連携の高度な仕組みを武器に関わっていくことが大切とした。

◇◇◇

流通部会のワーキング・グループでは現在、流通産業が直面する事業展開上の課題を中心に論点の洗い出しを行っている。今年5月を目途に、流通産業が将来にわたって、わが国の国民生活を支えるライフラインとしての役割を発揮できるよう、中長期的な視点から政策提言を取りまとめる予定。

【産業政策本部】
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