日本経団連タイムス No.3032 (2011年2月24日)
シリーズ記事

昼食講演会シリーズ<第9回>

−「変化する国際情勢と日本外交」/外務省顧問、野村総合研究所顧問 藪中三十二氏


日本経団連は3日、東京・大手町の経団連会館で第9回昼食講演会を開催し、188名の参加のもと、外務省顧問、野村総合研究所顧問の藪中三十二氏から「変化する国際情勢と日本外交」と題した講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。

■ 東アジアの情勢

ワシントン・ポスト紙では、中国は2年前にはアメリカにとって大きなチャンスであったが、現在は失望であると評されている。ゼーリック世界銀行総裁がアメリカ国務副長官であった時に中国をステークホルダーと呼び、大国らしい責任ある行動を求めたが、中国はこうした期待を裏切り続けた。トウ小平氏の指導下では、周辺国との摩擦を避けて国際協調路線を取っていたが、2008年のリーマン・ショックでアメリカ経済が不調に陥ってから、中国には大国意識が芽生えているようだ。米中経済戦略対話で、中国は南シナ海を台湾やチベットと同様に核心的利益であると主張し、反発を買った。

アメリカはこれまで東アジアの安全保障をさほど重視していなかったが、中国の台頭によって態度が変化した。従来は重要視していなかったASEAN地域フォーラムにも参加している。

日本は、日米同盟を確固たるものとする一方で他の周辺国とも協力しなければならない。そして、中国とも信頼関係を構築する必要がある。

■ 日本の成長戦略

新興国の多くがアジアにあることは日本にとって大きなチャンスである。

新興国ではインフラの需要が高いが、政府の力が強いので、民間だけではなく官民一体で出て行く必要がある。

また、これまでアメリカやヨーロッパが主導してきたシステムや規格づくりに日本も取り組まなければならない。例えば、地上デジタルテレビの放送方式に関して、ブラジルでは日本とヨーロッパが争い、日本方式にブラジルの意見も取り入れた日伯方式が採用された。これをきっかけに中南米では日本方式が主流となり、アフリカにも広がる可能性がある。

経団連が求めているTPP(環太平洋経済連携協定)も重要である。交渉事には初めから参加して、まず自分たちにとって重要なものを取らなければならない。大枠が決まってから参加するのでは遅い。

TPPと並んで、EUとのFTAも重要である。EUでは家電に14%、自動車に10%の関税がある。韓国は昨年EUとFTAを締結したので、これが発効すれば日本企業には大きなハンディが課されることになる。首脳会議で交渉開始について合意し、可能な限り早期にFTAを締結すべきだ。

EPAやFTAの交渉には10以上の省庁が関係するため、日本では外務審議官が交渉役となり、関係省庁の局長クラスが参加するかたちで交渉を進めてきた。しかし、経済連携を強力に進めるためには、現在の体制では不十分だ。韓国は農業・製造業・サービス業に関する交渉権限を一人の大臣に集中させ、大統領が全面的にバックアップしている。こうした体制を取らないと、本当に難しい交渉を進めることはできない。

日本には大きなチャンスがあり、チャンスをつかむカギとなるのが教育である。若者たちには世界に向かって育ってほしい。企業から派遣される留学生も減っているようだが、企業には、留学から戻ってくる若者にインセンティブを与えてほしい。

【総務本部】
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