日本経団連タイムス No.3033 (2011年3月3日)

イノベーションの本質について議論

−起業創造委員会


日本経団連の起業創造委員会(大久保尚武委員長)は2月18日、都内のホテルで会合を開催し、東京大学産学連携本部事業化推進部長の各務茂夫教授から、「イノベーションの本質と大学発ベンチャー−我が国の課題」と題して説明を聞くとともに意見交換を行った。
概要は次のとおり。

■ イノベーション創出のエコシステム

イノベーションを大局的にとらえると、日米では「エコシステム」の有無に違いがある。Google(グーグル)などの米国の多くのベンチャーは大学で生まれた成果を活かしている。大学は帰属する技術等の知的財産のライセンス使用をベンチャー企業に認める一方、年金や大学基金等の我慢強い長期的リスクマネーがベンチャーキャピタルを通じて供給されている。大学はロイヤリティーとして得るベンチャー企業のエクイティー(株式)や過去に成功した卒業生からの巨額の寄付で基金を設け、それを優秀な研究者や学生を獲得するための研究資金や奨学金に回すことができるので、ますますイノベーションが盛んになるという良い循環(エコシステム)が生まれている。これがイノベーションの本質であり、米国で実施許諾された特許権の約15%が起業に結び付いている。

■ わが国の現状

わが国では、2004年の国立大学の法人化が大きな意味を持つ。大学研究者による発明等の知的財産が原則大学帰属になり、また大学運営交付金の継続的削減に伴い外部資金へのアクセスの重要性が増した。東京大学で「起業による発明の事業化も積極的に活用する」とのポリシーを定めたのも法人化の年である。組織としては、研究成果の普及・活用促進のために総長直轄の産学連携本部が設置されており、年間約650件の発明について市場性・特許性の有無をチェックし、また技術移転の業務を行う東京大学TLOや起業資金を供給する東京大学エッジキャピタル、教育・人材育成を担う東京大学アントレプレナー道場などの支援体制を構築している。学生にとって将来のキャリアの選択肢に起業が含まれるよう取り組んでいる。

■ わが国の課題

東大の発明の届出数は質・量ともに世界でトップクラスにある。しかし、ロイヤリティー収入は過去のストックに依存するため、今後ストックが蓄積されるなかで、米国有力大学のようにロイヤリティー収入を拡大できるかが課題である。また、英米のようなギャップファンド(注)がないために数百万円の特許技術のプロトタイプ(試作品やデモ等)費用が出せず、実用性を証明できずに事業化に結び付かないケースも多い。さらに、ベンチャー企業のExit(出口戦略)は米国ではIPO(新規株式公開)よりM&Aの方が圧倒的に多いが、わが国においてどうやって大企業との接点を設けるかが重要である。インキュベーション(起業支援)機能の集積や、若い世代の起業家の良いロールモデルづくりも必要である。

(注)ギャップファンド=大学の基礎研究と事業化の間に存在するギャップを埋めることにより、大学先端技術の技術移転や大学発ベンチャー創出を促していく基金

〈意見交換〉

出席者からは「リスクマネーへのアクセスはグローバルな発信が必要」「インキュベーション機能の集積は業種的シナジーがあると参加しやすい」といった発言があった。これに対し、各務教授からは「日本ではまだ技術やビジネスのグローバルな目利きが十分でない」「ボストンにあるMITやハーバードの関連ベンチャーが集積する『ケンブリッジ・イノベーションセンター』や光産業に特化したボストン大学の『フォトニックセンター』が産業別のベンチャー集積拠点として参考になる」といったコメントがあった。

【産業政策本部】
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