日本経団連タイムス No.3033 (2011年3月3日)

グローバル法務戦略セミナー開催

−中国企業との交渉術テーマに


経団連会館で開催したグローバル法務戦略セミナー

日本経団連事業サービスは日本経団連と連携して、2月14日、東京・大手町の経団連会館で、「グローバル法務戦略セミナー(第2回)」を開催した。同セミナーは、森・濱田松本法律事務所の協力のもとに実施しており、今回のテーマは「中国企業との交渉術」。
講師の射手矢好雄弁護士の説明は次のとおり。

◇◇◇

中国で交渉を有利に進めるためには、人脈や人間関係が最も大事との意見や、宴会や贈り物の重要性を説く意見がある。こうした意見は、経験に裏打ちされているものの、中国の特殊性を強調しすぎている感がある。

これまでの実務経験を踏まえ、中国ビジネスにおける交渉の体系化を考えたところ、交渉術の基本をマスターし、それに中国特有の味付けをするアプローチが適切であるとの結論に達した。

■ ハーバード流交渉術

交渉術の基本となるのは、「ハーバード流交渉術」である。同交渉術のポイントは、お互いの利益を見いだし、それを実現する方法を考えることである。

こうしたWin‐Winの関係を目指す交渉には、7つのカギがある。中核となるのは、(1)互いの利益を把握し(2)それを満足させる複数のオプション(選択肢)を用意し(3)これらの客観的な根拠を議論する――ことである。そのうえで、(4)BATNA(Best Alternative To a Negotiated Agreement、合意が成立しない場合の代替案)を準備し(5)相手との人間関係を考慮しつつ(6)コミュニケーションを図りながら、交渉を進めていく。そして最後に、(7)オプションがBATNAより望ましい場合にのみ、合意に至ることになる。

■ 中国ビジネスへの応用

ハーバード流交渉術は、中国ビジネスにも応用できる。ただし、これら7つのカギのそれぞれにおいて、中国の特色を踏まえる必要がある。

  1. (1)利益=中国側は、国益を求めて交渉に臨む場合もある。まずは互いに求める利益を述べ、その利益を確保するオプションを考えることが効率的である。
  2. (2)オプション=具体案を提示した議論が重要であるが、中国側から突拍子もない提案が出ることもある。場合によっては、適法性等の検討が必要となる。
  3. (3)根拠=「中国ではこうなっている」との主張に対しては、その具体的根拠を確認すべきである。また、中国側に有利な法律については、その及ぶ範囲等の検討が求められる。
  4. (4)BATNA=人間関係が強くなりすぎ、合意するしかないという錯覚に陥ることもある。しかし、他企業との交渉や、他国でのプロジェクトの可能性も念頭に、交渉決裂も覚悟のもと、BATNAを準備すべきである。
  5. (5)人間関係=良好な人間関係は、スムーズな交渉につながる。他方、人脈に依存しすぎて、ビジネスの成否を深く検討せずに合意に至ることは避けねばならない。
  6. (6)コミュニケーション=日本語には曖昧な表現が多く、中国側には総論的な発言が多い。明確な表現の使用や、中国側の意向の確認が肝要である。また、優秀な通訳の確保や議事録の作成も有効である。
  7. (7)合意=中国側から至急の合意を求められた場合は、BATNAを持ち、時間切れならば無理に合意すべきでない。また、合意内容は、文書に明確に残す必要がある。
【経済基盤本部】
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