日本経団連タイムス No.3033 (2011年3月3日)

シンポジウム「会社法改正への提言」開催

−ドイツでの会社法制運用実態調査報告と日本におけるあるべき姿で議論/21世紀政策研究所


日本経団連の21世紀政策研究所(米倉弘昌会長、森田富治郎理事長)は2月21日、東京・大手町の経団連会館で、第79回シンポジウム「会社法改正への提言−ドイツ実地調査を踏まえて」を開催し、同研究所の研究プロジェクト「会社法制のあり方」において昨年11月に実施したドイツでの会社法制運用実態調査の概要を報告するとともに、日本における会社法制のあるべき姿について議論を行った。

調査報告では、まず21世紀政策研究所研究主幹・TMI総合法律事務所パートナー弁護士の葉玉匡美氏が、ドイツにおける株式会社の基本的な統治構造について説明を行った。そのうえで、葉玉氏は、ドイツで採用されている従業員選任監査役制度について、「従業員から選ばれた監査役は、法律上会社に対する善管注意義務を負っているが、実態は従業員や労働組合の利益のために行動することが多い。コンプライアンス等の知識や経験が乏しい従業員が監査役となった場合には的確な判断を期待しづらい」など、従業員選任監査役制度に対するさまざまな問題意識を紹介した。

続いて立教大学法学部法務研究科教授の松井秀征氏が報告に立ち、結合企業に適用されるドイツの法制度を概説したうえで、「ドイツではほとんどの子会社が株式会社ではなく有限会社であり、また企業は税務上の恩恵を目的に結合企業を形成する」などと、ドイツにおけるグループ経営の実態を述べた。そして松井氏は、日本での議論に関し、「ドイツでは、企業グループに適用される法規制を免れようとする運用がなされている。ドイツ法をそのまま日本に導入する場合、日本でも企業側にはそのような規制を回避しようとする意図が働かざるを得ないので、このような制度の導入は慎重に考えるべきだ」との問題意識を示した。

パネルディスカッションでは、アーキス法律事務所ドイツ法弁護士のトーマス・ヴィッティ氏、中央大学法科大学院教授の大杉謙一氏、東芝法務部長の島岡聖也氏およびトヨタ自動車法務部東京グループ主査の三輪哲仁氏をパネリストとし、葉玉氏がモデレーターとなって会社法制のあるべき姿について議論を行った。

社外取締役の義務付けの是非について、大杉氏は、「東京証券取引所の上位数百社程度は数年以内に独立取締役の設置義務を免れない」との見方を示したうえで、「特別取締役制度の活用により、伝統的な日本企業の経営方法を維持しつつ、外国投資家に安心感を与えられるような法改正も検討されるべきだ」と述べた。これに対し、三輪氏からは、「社外取締役に対しどのような役割と権限が想定されているのかが現状の議論では不明瞭である」との意見があった。ヴィッティ氏は、ドイツの会社法制度と比較しつつ、「社外取締役の設置を法律で義務付けるべきではなく、会社のオプションとして位置付けるべきだ」との見解を示した。

また、法制審議会で提案されている監査監督委員会設置会社制度について、島岡氏は「監査監督委員会設置会社が多くの企業にとって使いやすい制度設計となるよう、今後の議論に期待したい」と語った。

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今回の研究成果は今春にも報告書として公表される予定である。

【21世紀政策研究所】
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