日本経団連タイムス No.3034 (2011年3月10日)

シンポジウム「日・EU経済関係の強化・統合に向けて」開催

−日・EU EIA交渉開始目指し


パネル討議では日・EU EIAをめぐり議論した

日本経団連は2月23日、東京・大手町の経団連会館でシンポジウム「日・EU経済関係の強化・統合に向けて」を開催した。会員企業や在京大使館などから約180名が参加し、日・EU経済統合協定(EIA)の実現に向けた課題や方策について討議した。なお、今春開催予定の定期協議において、日・EU首脳がEIA交渉開始に合意するためには、欧州委員会・EU加盟各国政府・産業界への一層の働きかけが不可欠である。会員各社・団体におかれても、格段のご協力をこの機会にお願いしたい。

180名参加

開会あいさつで経団連の横山進一ヨーロッパ地域委員会共同委員長は、EIAに関する三次にわたる提言など日・EU経済関係の強化に向けた経団連の取り組みを紹介し、5月の日・EU定期首脳協議でぜひともEIA交渉開始に合意すべきと述べた。また、日・EUは経済関係の包括的な強化・統合という方向性では一致しており、問題はその方法論であると強調した。

続く基調講演では、EUの通商政策の決定に重要な役割を果たす欧州議会のヴィタール・モレイラ委員長が、交渉開始の条件として、(1)野心的でバランスのとれた互恵的な協定になる余地があると双方が確信していること(2)強力で一貫性のある持続的な政治的意志があり、協定締結に必要な譲歩や妥協の用意があること――の2点を挙げ、これらが満たされることに期待を示した。

「政府の共同検討作業の現状」を報告した西宮伸一外務審議官は、EU側要望の非関税4案件(いわゆるパイロット・プロジェクト)に合意するなど一定の成果を挙げていることを紹介したうえで、他の非関税措置についても交渉が開始されれば、法改正も含め対処していくと述べた。一方、ハンス・ディートマール・シュヴァイスグート駐日EU代表部大使は、日・EU関係を考えるうえでは、貿易経済面だけでなく、幅広い枠組みが必要と主張するとともに、欧州製自動車の日本市場でのシェア、直接投資額の対GDP比率などが低水準にとどまっている点を指摘。共同検討作業によって双方に利益をもたらす決定がなされることを期待すると述べた。

パネル討議に先立ち、慶應義塾大学の渡邊頼純総合政策学部教授から、(1)EIAの定義を確定する必要がある(2)いかなる協定もWTOルールと整合的でなければならない(3)すべての交渉事項に合意しない限り妥結しないとの原則(一括受諾方式)を確認すべき――との問題提起があった。

パネル討議

パネル討議では、日・EU経済関係の強化・統合に向け、定期首脳協議で決定される「次のステップ」をめぐり、欧州ビジネス協会のトミー・クルバーグ会長が、日本市場における規制を含めた非関税問題を解決するには、法的に拘束力のある交渉を行うことが唯一の道であると指摘するとともに、保護主義は停滞をもたらし、競争こそが発展をもたらすと強調した。日本自動車工業会常任委員長の川口均日産自動車常務執行役員ならびに日本経団連ヨーロッパ地域委員会企画部会長の谷垣勝秀日立製作所執行役常務は、欧州市場における公平な競争条件の確保や対等なパートナーシップの構築の観点から、来るべき定期首脳協議においてEIA交渉開始に合意すべきと政府側の対応を促した。

経済産業省通商政策局の糟谷敏秀通商機構部長は、EIA交渉開始に向けて政府として努力すると表明。EIAを通じて高水準のルールづくりを進めることで、ポスト・ドーハのWTOにおけるルールづくりにも貢献できると指摘した。非関税案件については、高いレベルの政治的コミットメントの下でバランスのとれた合意を目指したいと述べた。

シュヴァイスグート氏は、日本側の関心が関税の撤廃にある一方、EU側の関心は非関税障壁の撤廃にあると述べたうえで、非関税障壁は複雑な問題であることから、交渉を開始するには、日本側からロードマップが示される必要があると指摘した。モレイラ氏は、日本への輸出にはさまざまな困難が伴うという欧州企業の認識を変えることが重要であり、非関税障壁について日本側が適切に対応し、十分交渉の余地があると確信できなければ交渉を開始しても望ましい結果を得られないとの認識を示した。

EU側の発言に対し川口氏は、日墨EPAを例に完成車・部品関税が撤廃された結果、日本の自動車メーカーがメキシコでの生産を拡充したことを紹介。協定の締結が経済関係や産業協力の拡大につながるとの視点が必要と指摘した。谷垣氏も、公平な競争条件が確保されれば、日・EU企業間には研究開発等の面で協力関係をさらに深化させる素地があると強調した。

最後にモデレーターを務めた渡邊氏が、(1)関税のみならず非関税措置も含め包括的に取り上げ、日・EU経済関係の強化・統合を進めていくというシグナルを双方が発信することが重要(2)欧州統合の父、クーデンホフ・カレルギーの言にあるように、認識における悲観主義を意志における楽観主義で乗り越えることが重要(3)同シンポジウムが、楽観主義で困難を乗り越えるためのスタートになることを期待――とコメントし、シンポジウムを締めくくった。

【国際経済本部】
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