経団連タイムス No.3045 (2011年6月16日)

「社会保障協定に関する要望」公表

−アジア諸国を中心とした協定締結推進を


経団連は14日、日本在外企業協会、日本貿易会とともに「社会保障協定に関する要望」を取りまとめ、公表した。経済のグローバル化の進展に伴い、わが国の対外直接投資は拡大しており、海外在留邦人数もアジアを中心に増加している。このような状況のなか、企業の国際的な事業活動を支える法的基盤整備の一環として、経済連携協定等と並んで社会保障協定の締結を一層推進し、社会保険料の二重払いや掛け捨ての問題を解消していくことが人的交流や経済交流のさらなる促進という観点から重要である。

わが国は従来、欧米先進国を中心に協定整備を進めてきたが、今後は多くの企業を惹き付けるアジアを中心とする新興国との協定締結が重要な課題である。これら諸国の多くでは社会保障制度が未成熟であったり、外国人については社会保険料の支払い義務が免除されてきたが、経済の発展に伴い制度整備が進んだ結果、わが国と派遣先の双方で保険料を支払わなければならないという二重負担等の問題が生じつつある。このような状況変化に鑑み、今般取りまとめた要望は次のとおり。

■ アジア諸国を中心とする協定締結の推進

現在、政府間交渉・協議中の欧州5カ国との協定締結を着実に進めるとともに、協議・交渉入りを視野に意見交換等を進めているフィリピン、インド、中国のアジア3カ国、さらにはすでに先方から申し入れ等が寄せられている新興国などとの間で速やかに交渉を開始し、早期締結を目指すべきである。

とりわけ中国については、外国人への適用が明記された社会保険法が7月1日に施行される予定であり、日系企業の駐在員等に新たに社会保険料の負担が生じることになる。中国は米国に次いで長期滞在者が多く、わが国企業の負担もかなりの金額に及ぶものと想定される。適用猶予等の十分な経過措置が講じられるよう、中国側に働きかけるとともに、速やかに協定交渉を開始し、早期締結を目指すべきである。

■ 厚生年金任意加入制度の対象拡大

社会保障協定の下では、当初から5年を超えて派遣が見込まれる者や原則5年の一時派遣期間を超えた者等については、わが国の厚生年金保険の被保険者資格を失って、相手国の年金制度にのみ加入することになっており、長期の海外勤務者にとっては、日本の厚生年金保険に継続加入した場合と同水準の保障が受けられないおそれがある。特に今後協定を締結することになる新興国や途上国においては、社会保障制度がいまだ発展途上にあり、為替相場の変動等のリスクも欧米先進国に比べて一般的に高いと考えられることから、適材適所の人員配置等、企業の経営戦略に支障が及ぶことも懸念される。

そこで、相手国の年金制度に加入しながら、同時に日本の厚生年金保険制度にも加入できる制度であり、現在、英国との協定のみが対象となっている厚生年金任意加入制度の対象を既存の他の協定や今後締結する協定にも拡大すべきである。あわせて、厚生年金保険からの脱退に伴い、海外勤務前に加入していた制度から脱退を余儀なくされている企業年金についても、同制度の下で、海外勤務者の加入資格を継続できるようにする必要がある。

【国際経済本部】
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