経団連タイムス No.3048 (2011年7月7日)

大震災からの復興と成長に向けたICTの役割聞く

−高齢化社会ではICT利活用した医療介護連携が重要/情報通信委員会


経団連は6月27日、東京・大手町の経団連会館で情報通信委員会(渡辺捷昭委員長、清田瞭共同委員長)を開催し、東京大学政策ビジョン研究センターの秋山昌範教授から「高齢化社会を迎えた保険医療福祉分野におけるICT利活用−大震災からの復興と成長に向けたICTの役割」と題する説明を聞き、意見交換した。秋山氏の説明概要は次のとおり。

日本は平均寿命が長く、医療水準が高いため、複数の病気を持つ高齢者が多い世界一の超高齢化社会になった。現状では、年金、介護、医療のIDがそれぞれ異なり名寄せができないため、高齢者が年金、医療、介護をどれだけ受けているのか正確に把握できず、社会保障資源の最適化の議論ができていない。

20世紀の医療モデルでは、病院での治療の後、元気になってから退院していたが、2007年の第5次医療法改正等で、完全に回復していない患者も在宅通院するよう制度改正され、在宅医療や介護の重要性が高まった。しかし、健康保険を含む医療保険と介護保険はそれぞれ独立した制度であるため、制度間のはざまが生じている。病院のみならず、在宅介護データも極めて重要な医療データであるが、現在では、現場での看護・介護情報を記録した手書きの「ノート」が活用されているのが実態である。

21世紀の医療福祉モデルにおいては、在宅の介護情報も含め、複数の事業者間でのデータの共有や連携ならびに複数の保険制度の組み合わせが重要になる。今後は、番号制度を導入するとともに、ノートのICT化を進め、さらに入力の必要がないセンサーの開発・活用等が求められる。センサーは、医療スタッフのいない被災地の医療にも役立つであろう。

米国とEUは、2010年12月にヘルスケアに関する情報およびアーキテクチャーの共有を目的としたe‐Health協力協定を締結し、WHOも途上国にこの枠組みを提供しようとしているが、日本はこの枠組みに入っていない。欧米の「医療クラウド」モデルは、PHR(Personal Health Record)といわれるもので、病院や診療所、患者の居宅、製薬会社などを一気通貫でとらえようとするものである。この連携を従来のICTシステムで行うと莫大な費用がかかるため、プライバシー、セキュリティー、課金等の課題を解決し、クラウドで仮想化・可視化していく必要がある。産業界には、旗振り役を期待したい。

端末を使用の体調管理など

<意見交換>

続く意見交換では、「高齢者にとってスマートフォンなどの端末を使い体調管理をするのは困難だが、どう解決していけばよいか」との質問に対し、「写真か音声で対応できる仕組みが望ましい。この仕組みを支援してくれる事業者が出てくるとありがたい」といった見解が示された。

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また、当日は、提言案「復旧・復興と成長に向けたICTの利活用のあり方」が審議され、了承された。

【産業技術本部】
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