経団連タイムス No.3051 (2011年7月28日)

第106回労働法フォーラム


経団連・日本経団連事業サービス主催、経営法曹会議協賛による「第106回日本経団連労働法フォーラム」が14、15の両日、都内のホテルで開催され(前号既報)、(1)震災時の人事労務管理と労働法(2)高年齢者の雇用をめぐる問題と今後の課題――について検討が行われた。弁護士報告の概要は次のとおり。

報告I 弁護士・中井智子氏「震災時の人事労務管理と労働法」

中井弁護士

■ ピーク時の電力使用量の削減に向けた勤務体制の見直し

節電対応として勤務体制を見直す際には、フレックスタイム制、1カ月単位・1年単位の変形労働時間制、在宅勤務制度のメリット、デメリットを勘案しながら各企業の事情に応じて導入の可否を判断する必要がある。その際、就業規則の変更手続きや労使協定の締結等にも留意すべきである。例えば、1年単位の変形労働時間制を採り休日振替を行う場合、連続労働日数は6日以内としなければならない。また、土日を休日とする企業がこれに加えて隔週で平日の1日を休日とする場合、休日増加により給与を引き下げると不利益変更に当たるため、賃金引き下げは慎重にすべきであり、特に日給月給制、時給制の労働者については注意を払う必要がある。

■ 災害を原因とする休業と賃金

災害を原因として休業をした場合、不可抗力に該当すれば民法536条1項により、使用者は賃金を支払う必要はない。しかし、不可抗力に該当しない場合は、民法536条2項と労働基準法(労基法)26条の適用が問題となる。民法536条2項が適用される場合、債務者(労働者)は反対給付(賃金)を受ける権利を失わないため、使用者は全額を労働者に支払う必要がある。一方、労基法26条が適用される場合、使用者は6割以上の休業手当を支払わなければならない。労基法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」は民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広く解されている。裁判例では、民法536条2項の適用にあたり、労働者の賃金請求権が消滅するという一方的不利益を労働者に課すためには、これを正当化するための合理性の要件が必要であるとし、労働者が被る不利益の程度、使用者側の休業実施の必要性の内容・程度、労働組合等との交渉の経緯等を総合考慮して、合理性の有無により使用者の帰責性を判断している。

■ 災害を原因とする事業の縮小

災害を原因として事業を縮小する場合、阪神・淡路大震災による業績悪化を背景に従業員を解雇した事案につき、震災による業績悪化のみをもって解雇は正当化されないとした裁判例があり、災害を原因とした場合であっても整理解雇の法理に照らした検討が必要である。また、天災事変その他やむを得ない事由による解雇(労基法20条)に当たるとして行政認定を受けた場合であっても、整理解雇となる以上、整理解雇の法理に照らした検討が必要となることにも注意すべきである。

報告II 弁護士・延増拓郎氏「高年齢者の雇用をめぐる問題と今後の課題」

延増弁護士

■ 高年齢者雇用安定法(高齢法)の私法的効力

高齢法は、努力義務規定が多く、同法に違反した場合の私法上の効力に関する定めもないことから、労働基準法とは異なり私法的効力は有しないと考えられる。したがって高齢法違反に対して高齢法を根拠として具体的な請求権が生じるものではない。もっとも、労使協定で定めた再雇用基準が就業規則に定められて、再雇用基準を満たしているにもかかわらず再雇用を拒否したような場合、就業規則を根拠として私法的効力が認められる。このような場合には、解雇権濫用法理の類推適用により、再雇用契約の成立を認める裁判例がある。

また、再雇用の申し込みおよびこれに対する承諾とは別にさらに賃金額等の労働条件につき協議を必要とする場合、再雇用契約は新たに締結する雇用契約であるから、雇用契約の本質的要素である賃金額について合意が成立していない時点においては、再雇用契約は法律上成立し得ないとして再雇用契約の成立を否定した裁判例もある。

実務上の留意点は、(1)雇用延長型ではなく再雇用型にすること(2)想定される再雇用拒否事由は基準に入れておくこと――などである。

■ 継続雇用制度の運用上の問題点

継続雇用制度は、定年を60歳に据え置いたまま、再度の雇用契約によって雇用関係を継続すればよく、さらに労使協定によって対象者の基準を定めた場合には、その基準に該当する者のみを継続雇用すればよいとされたところに実務対応上のポイントがある(なお、労使協議が不調に終わった場合に対象者の基準を労使協定ではなく就業規則等で定めることができるとの特例の適用は今年3月31日で終了した)。企業としてはまず、自社の経営を長期的に見て、人員構成や今後の採用計画などを踏まえたうえで、継続雇用の枠を決め、その枠の範囲内で高年齢者の雇用を確保する措置を策定していくことが重要である。再雇用の際の賃金については、最低賃金額を上回っていれば契約自由の原則が働く。定年前と定年後の雇用契約は別個の契約であるから、定年後の労働条件について昇給の有無や賞与の支給も契約の自由の範疇であるが、時間外労働の対象としないなど正社員と明確に区別した労務管理をすることが重要である。

【労働法制本部】
Copyright © Keidanren