経団連タイムス No.3055 (2011年9月15日)

「大震災後の経済政策の方向性」

−一橋大学・小林教授に聞く/経済政策委員会


経団連の経済政策委員会(岡本圀衞委員長)は6日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、小林慶一郎・一橋大学教授から「大震災後の経済政策の方向性」をテーマに講演を聞いた。
講演の概要は次のとおり。

■ 財政健全化と復興財源

東日本大震災はわが国経済に甚大な被害をもたらしたが、震災直後に落ち込んだ生産は足元で回復しつつあり、実質GDP成長率も年度後半には復興需要が顕在化することによってプラスに転じると予測されている。こうした災害復興期には、過度な財政刺激策が必要とは考えにくい。むしろ、震災復興のための資金を国債発行で円滑に調達するために、財政再建路線を堅持する必要がある。

復興財源については、課税平準化理論に基づいて、一時的に国債を増発し、小幅な恒久増税で長期的に償還すれば、社会的コストを最小化できる。増税すべき税目については、効率性の観点から、所得税や法人税よりも消費税が望ましい。朝鮮戦争における米国の財源調達に関する研究によると、国債償還を史実のとおり所得税の増税で賄うよりも、消費税の恒久増税で賄った方が米国の経済厚生は改善したとしている。

■ デフレへの対応としての金融政策

1990年代からのマクロ経済政策は、財政健全化と金融緩和を組み合わせることによって、長短金利を同時に引き下げ、実体経済を活性化させるというものである。

また理論上、財政健全化と金融緩和は、金利低下に加え円安を招来するため、外国の需要を取り込み、成長を増幅させることもできる。

日銀による金融緩和策は、現時点ではかなり限られているが、国債買い入れの増額やリスク性資産の買い増し、外貨建て債券の購入などが考えられる。

■ 日本経済の長期的課題

長期的な成長戦略としては、内需主導による成長が望ましいが、高齢化や震災の影響を踏まえれば、当面はグローバルな需要、特に新興国マーケットを取り込むことが戦略の中心的課題となる。

一方、財政は1990年代以降のバランスシート調整と、2000年代からの社会保障費の趨勢的増加により、破綻のリスクが高まっている。一刻も早く、社会保障・税財政一体改革を行わなければならない。しかし、現行の政府案に従い、2010年代前半に消費税率を10%に引き上げたとしても、財政リスクが顕在化する公算が高い。最新の研究では、消費税率を30%以上まで引き上げなければ、政府債務残高は安定化しないとしている。ただし、インフレ率の上昇や出生率の回復、高齢者医療費の自己負担割合引き上げによって、必要とされる消費税率の引き上げ幅は抑制できる。消費税の増税とともに、金融緩和、少子化対策、医療費削減を進める必要がある。

足元では円高とデフレが深刻化し、財政再建は困難な状況にあるが、将来的に財政悪化は円安とインフレをもたらし、国内経済に多大な影響を与える。将来の財政破綻のダメージを緩和させるために、円高のうちに政府が円建て債務で資金調達し、外貨建て資産の保有を増やす政策が考えられる。

財政悪化に伴う円安局面では、外貨建て資産は為替差益を生むため、政府の財政を改善させる効果を持つ。具体的な政策スキームとしては、円建て債務によって調達した資本を原資として公的なファンドを設立し、外貨建て証券や対外直接投資プロジェクトに投資することが考えられる。

【経済政策本部】
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