経団連タイムス No.3058 (2011年10月6日)

事業競争力に資する知財戦略のあり方を聞く

−知的財産委員会企画部会


経団連の知的財産委員会企画部会(広崎膨太郎部会長)は9月14日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、東京大学の妹尾堅一郎特任教授から、商品形態(商品アーキテクチャー=基本設計思想)、事業業態(ビジネスモデル)、産業生態(産業エコシステム)の関係を踏まえた事業競争力に資する知財戦略構築のあり方について説明を受けた。 概要は次のとおり。

1.「知」の活用による事業競争力の強化

従来、ビジネスは「業種」で語られてきたが、今や業種の壁を越えた「業態」で考える時代となっている。日本企業が特に重視している「技術」という価値も、今や事業競争力にとって万能でない。技術は重要だが、技術だけでは勝てず、「技術で勝って事業で負ける」ことも頻発する時代になった。

わが国企業にとって今、こうした潮流変化を踏まえたビジネスモデルの再考が不可避となっている。その際に必要なのは、技術を磨きつつ、それを事業競争力の強化につなげるという視点であり、「『技術』という『知』」を活かすための「『ビジネスモデル』という『知』」を開発することが急務だ。国際標準化もこうした文脈でとらえ、戦略的に手を打つべきである。

2.価値体系の転換・再編を体現するビジネスモデルの構築

事業競争力あるビジネスモデルとしては、基幹部品を押さえることによって完成品を従属化させるインテルの「インサイドモデル」や、商品全体を複層レイヤーで押さえるアップルの「アウトサイドモデル」など、さまざまな例が挙げられる。これらの共通項は、商品特性や業態特性を踏まえた産業生態系を形成する戦略を取っていることであり、その背後には、既存の価値体系を覆す新規価値システムを創発しようとの意志がある。ワープロからパソコン、ガラパゴス携帯からスマートホン、あるいはLPレコードからカセット、CD、MDを経てiPodといった変遷を見れば、単に「ものづくり」や「知財権の取得」やデザイン力だけで価値体系や業界秩序が大きく変化しているわけではないことが理解できよう。今後、デジタルデバイスの融合化の一層の進展に伴い、パソコンと携帯とが競争し合う時代に入る。成功例とされているビジネスモデル同士の競争がさらに激化するものと予想される。

3.わが国企業が今後取るべき知財戦略

ICTの領域でわが国企業が優位性を持てる可能性は極めて低い。しかしながら、特許庁の「特許技術出願技術動向調査報告」を見ると、電力制御系(注1)の組み込み装置である「グリーンパワーIC」(注2)等の分野でわが国企業が主導権を獲得する余地が残されている。

また今後、自動車から医療機器まで幅広い分野で「機械のロボット化」が進展する。わが国企業は、「ロボット機械」時代になった際に、どの部分で主導権を握ることが事業競争力上有利であるか、真剣に考えるべきだ。現在、わが国企業は具体的な性能をつかさどる「作業系」の向上の部分に焦点を当てる傾向にあるが、実際には「制御系」と呼ばれる上位レイヤー(層)を押さえることが戦略的に重要だ。新興国の「そこそこ品質、そこそこバラツキ」製品であっても制御系で押さえることが可能であり、かつ新興国の安価な製品を普及できれば、市場の加速的拡大に伴って収益が制御系に入るからである。さらに稼働のログの蓄積がサービスレイヤーを押さえ、優位性を確保することになるからである。欧米企業はそちらに注力している。

事業競争力の強化を実現するためには、産業モデルやビジネスモデルからの発想が不可欠であり、そのうえで、特許等の知財権を取得してクローズにすべきところ、標準化してオープンにすべきところを間違えず、オープンとクローズを組み合わせた総合的な知財戦略として構築することが必要である。わが国企業はその事実を、あらためて強く認識すべきである。

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経団連では今後とも、競争力強化の観点から知財戦略のあり方についてさらに議論を深めていく。

【産業技術本部】
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