1.産学連携の現状
米国における産学連携は、1980年代以降、大幅に増加した。具体的にはMIT(マサチューセッツ工科大学)周辺地域での半導体、ノースカロライナ州でのバイオ・医療、シリコンバレーでのバイオ・通信・ITの拠点が有名。これらの地域で中核となっている大学は、ビジネスマインドを有する「企業家的」な性格により産学連携を成功させている。
2.「企業家的大学」の出現
- (1)バイ・ドール法制定
- 米国における大学の理念は80年代に大きな転換が起こり、「企業家的大学」が出現することになった。その要因の一つは80年制定のバイ・ドール法である。同法は、大学研究が特許化された場合、その研究資金が政府からの公的資金であっても、大学がその権利を保有することを認めるものであり、生命科学分野において遺伝子組み換え特許で多額の収入を得るなどの成功例も出現したことから、大学が「商業化」に目覚めることとなった。
- (2)基金運用の積極化
- 大学の基金運営に関する制度も緩和され、大学は基金の積極運用へ転換。資金を飛躍的に増加させることに成功した。
- (3)ベンチャー投資の活発化
- 大学は、自身に知識の根源としてのシーズが多数眠っていることに目覚め、大学技術発のベンチャー企業の育成をはじめ、ベンチャーキャピタルへの投資を活発化させるようになった。
3.日本の大学の課題
- (1)経営的視点の重視
- 米国の「企業家的大学」は、そのあり方に賛否両論はあるが、自らの有する知識の社会還元を意識しつつ、経営体としての変革に努力してきた。収入構造を見ると、米国研究大学の収入構造は、政府資金以外にも事業収入・寄付金など多様であるが、日本の大学は、国立大は運営交付金に、私立大は学生からの納付金に大きく依存している。日本の大学には収入源の多様化をはじめ、企業に近い経営努力が必要である。
- (2)機能の分化
- 日本の大学は今後、研究重視の「知識創造型」の大学と、教育重視の「知識伝達型」の大学に機能分化していくであろう。前者については、限られた数になろうが、グローバルレベルで競争していく、米国に近いモデルを追求することになろう。
■ 意見交換
意見交換において、上山教授からは、米国においても他の拠点との競合で見劣りしたり、必要な投資規模が確保できなかったりした拠点は成功していないことや、日本において先端技術とビジネスをつなぐ人材を増やすため、米国同様に文系・理系双方の資質を伸ばす教育体系が必要であることなどの説明があった。また、社会の目が大学に届くことの重要性についても指摘があった。
◇◇◇
産学官連携推進部会では、今後も産業競争力強化へ向けた産学連携のあり方について検討を深めていく。