経団連タイムス No.3066 (2011年12月1日)

「社会保障と税・財政一体改革の実現」

−岩本・東京大学大学院教授が常任理事会で講演


経団連が11月2日に開催した常任理事会で、東京大学大学院経済学研究科の岩本康志教授が、「社会保障と税・財政一体改革の実現」をテーマに講演した。講演の概要は次のとおり。

■ 経済政策と財政政策の司令塔

民主党政権では、経済政策の司令塔が不在であり、数々の政策がバラバラに打ち出されている。

2009年の政権奪取後、民主党は経済財政諮問会議を開催しなくなった。10年6月には新成長戦略と財政運営戦略を策定したが、この結果、かつては経済財政諮問会議が毎年策定していた「骨太の方針」で一体であった経済の運営方針と財政・予算の方針が、二つに分かれてしまった。この二つが車の両輪となってうまく機能すればよいが、新成長戦略は経済産業省が主導し、財政運営戦略や中期財政フレームは財務省が主導しており、ちぐはぐになっている。

野田首相が設置した国家戦略会議を機能させるためには関係者の多大な努力が必要だろう。

■ 社会保障の安定財源の確保

「社会保障・税一体改革成案」では、2010年代半ばまでに段階的に消費税率を10%まで引き上げ、当面の社会保障改革にかかる安定財源を確保するとされている。これが実現すれば、財政運営戦略に比べ、消費税率3%分の収支が改善される。しかし、10年時点で基礎的財政収支赤字の対国内総生産(GDP)比は6.4%であり、財政運営戦略にあるように、20年までに黒字化するためには、さらに3%分の上積みが必要となる。また、社会保障の公費負担はGDP比で3%分増加すると考えられる。さらに、債務残高の対GDP比を低下させるためには、対GDP比1%分の黒字を確保する必要がある。合計では、対GDP比7%の収支改善が必要であり、消費税率に換算すると15%近くの財源が必要となる。こうしたことを考えると、現在一部で検討されているように、社会保障給付を拡大する財政的な余裕はないはずだ。

例えば、子ども・子育て分野では7千億円が必要とされているが、これはサービス需要を過大評価した非現実的な計画ではないか。医療・介護分野は、今後減少する現役世代が高齢者の費用を多く賄う構造のままである。診療報酬や介護報酬の改定にあたっては、デフレで現役世代の所得が伸びていないことを踏まえるべきだ。年金分野では、将来世代の負担を緩和するために、今すぐに年金受給額の削減に向けて取り組む必要がある。

■ ねじれ国会のもとでの課題の解決

政府が政策をまとめても、ねじれ国会のもとで法律を成立させることが困難である。しかし、いずれにせよ財政健全化は必要であり、複数の政権交代を経ても長期で取り組まなければならない課題である。野党も、いたずらに与党の方針に反発するのではなく、「自分たちが政権を引き継いだら渡されるバトンだ」と意識すべきだ。

「増税よりも無駄の削減が先」という指摘があるが、自民党も民主党も無駄の削減には取り組んできている。また、「景気が悪いので増税は見送るべきだ」という指摘があり、これは一理あるが、景気は判断すべきものであり、総選挙の争点に据えるべきものではない。

選挙では複数の争点は問えない。消費税増税は言うまでもなく必要なので、消費税増税の是非は総選挙で問うのではなく、歳出の規模や歳出の構成を争点とすべきだ。

【総務本部】
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