経団連タイムス No.3069 (2012年1月12日)

日本企業に求められる対中戦略のあり方議論

−21世紀政策研究所が第84回シンポジウム開催


経団連の21世紀政策研究所(米倉弘昌会長、森田富治郎理事長)は12月9日、東京・大手町の経団連会館で第84回シンポジウム「変貌を遂げる中国の経済構造−日本企業に求められる対中戦略のあり方」を開催した。同研究所では4年前から日中双方のエコノミストが参加して中国研究を続けてきた。今回のシンポジウムは今年度の研究成果を踏まえ、中国の労働・産業構造の変化の実態と日本企業への影響について分析し、日本企業の対中戦略のあり方について議論することをねらいとしたものである。

まず、渡辺利夫・拓殖大学総長・学長(21世紀政策研究所研究諮問委員)が開会あいさつで、同研究所でのこれまでの中国研究の検討状況を総括すると同時に、「賃金の上昇に見られる中国労働市場の変化が、産業・貿易・消費構造および日本企業のありように大きな影響を及ぼしつつあることに注目すべきだ」と述べ、今回のシンポジウム開催の背景を紹介した。

続いて、厳善平・同志社大学グローバルスタディーズ研究科教授、丸川知雄・東京大学社会科学研究所教授、朱炎・拓殖大学政経学部教授による報告が行われた。

厳氏は、中国における労働需給について、「近年の人手不足の背景には、少子化の急速な進行による労働供給の減少、戸籍・雇用制度などによる農村出身者の都市定住の困難さ、内陸部の経済開発に伴う労働需要の増加、大学進学率の上昇などがある」とし、「当面は賃金上昇が持続するが、徐々に資本による労働代替や産業構造の高度化が進行していくだろう」との展望を示した。

丸川氏は、中国での所得水準の上昇がもたらす影響について報告を行い、「中国の消費の波は富裕層から下の階層に広がり始め、いわゆるボリュームゾーンが急速に拡大している」として、「日本企業がボリュームゾーンを攻略するためには、安い価格、経営や開発の現地化、流通ルートの主体的な整備が必要である」と述べた。

朱氏は、中国における日系企業が採るべき経営戦略として、「輸出偏重から中国国内販売への転換、日系企業同士の納入から現地企業の開拓、沿海部大都市から中小都市や内陸都市への拡大などが必要」「本社から現地法人への権限移譲や現地化、研究開発の現地化、労働集約的産業の高度化・オートメーション化の導入など、組織調整と事業の再編が必要」などの提言を行った。

また、大橋英夫・専修大学経済学部教授がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、3名の報告者に加えて北村豊・住友商事総合研究所シニアアナリストおよび金堅敏・富士通総研主席研究員が新たに参加し、「日本企業同士のサプライチェーンにみられる強固な相互依存関係には良い面もあるが、災害などの危機や激しい価格競争になると弱点ともなり得る」「企業の対中進出や大規模プロジェクトに対して日本政府はもっと積極支援すべき」「日系企業は中国政府との関係を緊密化して、その産業政策の動向にあわせた戦略を立てるべき」「国有企業との間でもっと信頼関係を築き、技術移転やその後の市場シェアなどで成果を共有すべき」など、多岐にわたる議論が展開された。

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シンポジウムでの議論の詳細は、21世紀政策研究所新書として刊行予定である。

【21世紀政策研究所】
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