経団連タイムス No.3070 (2012年1月19日)

米倉チーフアドバイザー講演「私の経営哲学」

−閉塞感が広がる今こそ、攻めの経営を/フォーラム21拡大講座


自らの経営哲学を語った
米倉フォーラム21チーフ
アドバイザー

事業を通じて地域社会に貢献

私が会長を務める住友化学が近年、最重要プロジェクトとして取り組んできたのがサウジアラビアにおける「ラービグ・プロジェクト」である。このプロジェクトでは、住友化学と世界最大の石油会社であるサウジ・アラムコが共同でサウジアラビア西岸のラービグに石油精製と石油化学の統合コンプレックスを建設、運営している。

このコンプレックスは強力なコスト競争力を有し、住友化学にとって重要な戦略上の意義を持つものだが、当社の事業の成長を追求するだけでなく、このプロジェクトを通じて日本とサウジアラビア両国の産業や社会の発展にも貢献していかなければならない、そうしたことがこのプロジェクトの成功にもつながる、と私は考えてきた。現地の産業の多角化・高度化を意図した隣接地での工業団地の建設や、若い世代の技術・職業訓練を支援するための研修所の建設を進めているのも、そのような考え方に基づいている。

住友化学が誕生したのは1913年である。銅の精錬から発生する亜硫酸ガスを使って肥料を生産することにより、煙害という環境問題を解決すると同時に農業生産性を上げるという取り組みから住友化学は生まれた。こうした成り立ちを持つ当社には、住友が行う事業は自らを利するだけでなく、パートナーや社会の発展に貢献し得る事業でなくてはならないという、住友グループに400年以上前から伝わる「自利利他公私一如」という信念がDNAとして根付いている。

その事業精神を具現化したのが、マラリア防除用の蚊帳「オリセットネット」の事業である。オリセットネットはアフリカを中心に、マラリアに苦しむ世界の国や地域で広く使用され、マラリア防圧に大きく貢献している。現在ではタンザニア、中国・大連、ベトナムに生産拠点を置き、安定的な収益が上がる事業に育っている。また、当社では、事業の収益の一部を還元するため、NGOと連携してアフリカで学校建設を進めている。社会貢献活動はめぐり合わせという面もあるが、民間企業各社が地道に継続していくことが大切だ。

攻めの経営で国際競争力強化を

近年、安価で潤沢な労働力を持つ新興国が労働集約的な産業で存在感を増している。さらに、グローバル化の進展や情報ネットワークの発達によって、新しい技術が短期間のうちに国を超えて普及するようになり、先進国企業の競争力の優位性が揺らぎ始めている。こうしたなか、日本企業が持続的な成長を実現するためには、新しい発想、斬新な技術によって、他の国の企業が容易にまねできないような事業をつくり出していかなければならない。

閉塞感が広がっている今こそ、攻めの経営に転じていかなければならないとの思いから、経団連は昨年、民主導の競争力強化のためのアクションプランとして「サンライズ・レポート」を取りまとめた。そのなかで中核的な取り組みとして打ち出した「未来都市モデルプロジェクト」では、環境、医療・介護等の分野で民間企業が持っている最先端の技術を一つの街に持ち寄って実証実験を行い、新しいシステムやインフラの開発と、安心で安全な街づくりに取り組んでいる。さらに、成果をパッケージ化し、国内外に展開することで、新しい内需を創出し、中長期的に新しい産業を育てていくことを目指している。こうした取り組みが、起業家精神を呼び覚まし、新技術の開発や事業の創出の加速につながることを切に願っている。

国際競争に勝つために必要なのは人材

グローバルな競争が激しさを増すなかで、われわれが世界のトップを走っていくためには、世界を舞台に活躍できる優れた人材が必要不可欠である。特に、広い視野で世界を見つめ、世の中で今何が起きているのか、世界の人々は何を感じ、何を考えているのか、これからどんな変化が起きようとしているのかを敏感に感じ取る高い感受性を持った人材が必要になっているのではないか。

現地の人とのコミュニケーションを深め、信頼関係をつくっていくことも重要である。若い世代には、積極的に自分の日常の世界を飛び出してさまざまな経験を重ね、自分の幅を広げ、人間としての逞しさを身につけてほしい。経営者も守りの姿勢を捨て去り、全く新しい発想で新しい技術や価値をつくり出すことを目指して挑戦を続けていく、企業自らがイニシアティブを取って動いていく、そういった気概を持つことが大切だ。

日本の産業界の将来を担う皆さんも、自信を持って積極果敢に新しい事業に挑戦し、企業の持続的な成長の実現に向けて大いに力を発揮されるよう、心から願っている。

◇◇◇

同講演は、産業界を担う次世代リーダーの育成を目的とする「日本経団連フォーラム21」(チーフアドバイザー=米倉弘昌経団連会長)の拡大講座(12月13日)における講演を要約したもの。拡大講座には、同フォーラムの今期メンバーと修了生、若手中心の講座である「日本経団連グリーンフォーラム」のメンバーと修了生など約100名が参加した。当日は、米倉チーフアドバイザーが経営者としての自らの経験に基づき、「私の経営哲学」について講演した後、宇宙航空研究開発機構の川口淳一郎教授が「『はやぶさ』が挑んだ人類初の往復の宇宙飛行、その7年間の歩み」と題して講演。また、フォーラム21修了論文優秀者の表彰なども行われた。

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