経団連タイムス No.3071 (2012年1月26日)

2012年版経労委報告を公表

−危機を乗り越え、労使で成長の道を切り拓く


会見する宮原副会長・経営労働政策委員長

経団連(米倉弘昌会長)は24日、2012年版経営労働政策委員会報告(経労委報告) 【目次のみ掲載】 を公表した。経労委報告は春季労使交渉・協議に臨む経営側の指針をまとめたもので、2012年版では、副題を「危機を乗り越え、労使で成長の道を切り拓く」とし、第1章「重大な岐路に立つ日本経済」、第2章「危機を乗り越えるための人材強化策」、第3章「今次労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢」の3章構成としている。同報告の主なポイントは次のとおり。

主なポイント

■ 一段と厳しさを増す経営環境と国内での企業活動の維持に向けた政策課題

東日本大震災を経て、世界経済における日本企業の存在感の大きさはあらためて認識された。しかし、長年にわたって国内の事業環境が劣化してきたところに、歴史的な円高と震災後のエネルギー制約が生じていることによって、国内の事業環境は一層悪化している。

国内での事業活動を維持していくためには、企業の成長を通じた経済成長を目指す方向へ、一刻も早く政策運営の舵を切るべきである。そのため、円高の是正や法人実効税率の引き下げ、エネルギー・環境政策の転換、強化の方向にある労働規制の見直しなど国内事業環境の早期改善を図る必要がある。

■ グローバル経営に対応した人材戦略

グローバル展開に果敢に挑戦する企業は、これまで以上に国内外の従業員が一丸となって、個々人の持てる力を最大限に引き出す戦略が必要である。

組織の一体感と求心力を高めていくため、企業理念の徹底した浸透が求められる。また、海外現地法人の経営を担う候補人材の発掘・育成に向けた基盤整備として、人材の見える化、ポスト・ジョブの見える化、人材育成の体系化を基本とした世界共通の人事ルールを構築することも重要である。

■ 総額人件費に対する基本的考え方

総額人件費を適切に管理するうえでは、(1)営業利益に占める海外比率の高まりによる収益構造の変化(2)社会保険料や高齢者雇用の増大に伴うコスト増、積極投資の必要性――などが考慮要素となる。

所定内給与は、総額人件費管理の要となるものであり、多くの企業で定期昇給の扱いが春季労使交渉・協議の大きなテーマとなっている。定期昇給は安定的な運用が望まれるものの、企業を取り巻く経営環境が激変しているなかでは、制度の持続可能性について絶えず確認する必要があり、定期昇給の実施を当然視できなくなっている。労使は、企業の置かれている厳しい状況を直視し、定期昇給の今日的意義やそのあり方について、多角的に議論することが求められる。

■ 2012年交渉・協議における経営側のスタンス

賃金の決定にあたっては、自社の支払能力に即して判断することが重要である。厳しい経営環境や収益の状況を踏まえれば、恒常的な総額人件費の増大を招くベースアップの実施は論外であり、雇用を優先した真摯な交渉・協議の結果、賃金改善の実施には至らない企業が大多数を占めると見込まれる。

さらに、大震災で被災し甚大な影響を受けた企業や、円高の影響などによって付加価値の下落が著しく定期昇給の負担がとりわけ重い企業では、定期昇給の延期・凍結も含め、厳しい交渉を行わざるを得ない可能性もある。

また、一時的な業績変動があった場合には、恒常的な総額人件費増をもたらさない賞与・一時金に反映させることが基本であり、業績が厳しい企業では従来の妥結経緯にとらわれることなく自社の実績に即した判断が求められる。

■ 労働側の「賃金復元論」について

労働側は、1997年の現金給与総額の水準に戻すべく、昨年に引き続き、1%を目安とした賃金改善を求めている。しかし、労働側がベンチマークとしている97年と直近の日本経済では、経済状況は大きく変化していることに加え、現金給与総額は特別給与を含むため、経済全体の動向や企業業績による変動が大きい。2010年の所定内給与および所定外給与を含めた定期給与など、特別給与を除いた賃金は上昇しており、労働側の要求根拠は薄弱である。

■ 「労使パートナーシップ対話」の深化

企業労使が逆境を跳ね返しグローバル企業と伍して戦っていくため、今次労使交渉・協議では、課題解決型の話し合いである「労使パートナーシップ対話」をさらに深め、競争力の強化策など今後の事業展開について議論を尽くす姿勢が求められる。

2012年は企業にとって生き残りをかけた正念場の年となる。労使は新たな成長の礎を築くため、従来の慣行にとらわれない話し合いを行うことが期待される。

【労働政策本部】
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