経団連タイムス No.3075 (2012年2月23日)

イノベーション創出人材の育成方法聞く

−堀井東京大学大学院教授に/産業技術委員会産学官連携推進部会


経団連の産業技術委員会産学官連携推進部会(永里善彦部会長)は6日、東京大学大学院工学系研究科教授で、同大学i.schoolエグゼクティブ・ディレクターである堀井秀之氏から、「イノベーション創出人材の育成に向けた東京大学の取り組み」と題し、説明を聞いた。概要は次のとおり。

1.東京大学 i.school

東京大学 i.schoolはイノベーター育成を目的に2009年9月に設立された、東京大学知の構造化センターが主宰する教育プロジェクトである。i.schoolでは、イノベーションを技術革新にとどまらず、これまでにない新しい価値の創出につながる画期的な変化ととらえたうえで、そうしたイノベーションを生み出す力を有する学生を養成するため、ワークショップ(WS)形式で教育を行っている。

WSの参加者は、院生を中心に毎回30人程度で、5〜6人のチーム編成で進める。期間は週1回3時間を10週や、終日で9日間などさまざまで、発足以来通算17回開催している。

WSでは、現実社会において解決が期待される国内外の幅広い課題をテーマとして設定。世界的に著名なイノベーション教育者も講師として招き、諸外国の先進的な大学・企業の手法も参考にしている。具体的には、チームごとに活発な議論を戦わせつつ、協働作業でアイデアを練り、実現可能な事業や戦略計画を策定させる。革新的な計画も多数できており、実績が出ている。今や「イノベーション創出人材を育てる方法はわかった」と言える。

2.育成方法

イノベーションは、一連のプロセスを体得することによって、天賦の才能がなくとも創出が可能となる。ポイントとなるのは、(1)理解(2)創出(3)実現――の3段階を一連の枠組みとして理解し、構想を練りあげていくという方法論である。特に、(2)の段階で革新的で有効なアイデアを出すためには、(1)の段階においてさまざまな角度からあらゆる情報を収集して知識化し、十分に理解を深めておくことがカギである。

i.schoolの学生は、WSを通じてこうしたプロセスを幾度か経験するなかで、イノベーション創出の「型」を体得する。

3.今後の課題

今後は、i.school卒業生自らが、教養課程の学生や学外のコミュニティーにおいてWSを開催することで、こうした教育手法が広まることを目指す。

あわせて、イノベーション創出人材を「活かす」人材の育成も重要であることから、企業の中間層を対象としたWSも検討中である。「イノベーション人材を活用する方法を身に付けた人材」や「企業戦略の立案、新規事業の提案・実現のためにイノベーションWSを実施し、成果を活かすことのできる人材」の育成が産業競争力につながるものと確信している。

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産学官連携推進部会では、今後も産業競争力強化へ向けた人材育成方法について検討を深めていく予定である。

【産業技術本部】
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