2000年4月1日施行の国家公務員倫理法については、その解釈・運用に誤解や過度な反応が見られ、企業関係者と公務員との意思疎通に支障をきたすケースもありました。人事院は、こうした誤解や過剰な反応をなくすため広報活動に力を入れており、日本経団連としてもこれに協力することとしています。 以下は、日本経団連企業行動委員会主催「国家公務員倫理法・倫理規程に関する説明会(2002年7月12日)」における国家公務員倫理審査会事務局の川村卓雄首席参事官の説明をまとめたものです。 上記倫理法をご理解いただく上で、ご参考としていただければ幸いです。 |
国家公務員倫理法は、議員立法で全党一致で可決された法律で、2000年4月1日より施行されている。同法の目的は、国家公務員の職務に係る倫理の確保であり、そのために倫理規程において (1)国家公務員の行動ルール、(2)贈与等が行われた際の報告ルールを定めている。
行動ルールでは、割り勘でも利害関係者とはゴルフはできないなど、厳しい面もあるが、一方で、行政が円滑に運営されるよう、民間企業関係者との意見交換などへの配慮もしている。
国民の目から見て、疑惑または不信を招く行為は止めようというもので、「問題なし」というものまで禁止するものではない。しかし、施行当初は、利害関係者との間では全てが禁止されるという誤解や過剰な反応があった。国民が疑惑や不信を抱かないようにするとともに、そのような誤解や過剰な反応をなくすために、広報活動にも力を入れながら国家公務員倫理法を運用している。
国家公務員にとって民間企業等が利害関係者となる場合は7つある。第1は、許認可等を受けて事業を行っている事業者等、許認可等の申請をしている事業者等・個人、許認可等の申請をしようとしていることが明らかな事業者等・個人である。「事業者等」には、法人のみならず、法人格のない団体も該当する。「許認可等を受けて事業を行っている」という場合の許認可とは、銀行免許等、事業を行う上で必須のものを意味する。
第2は、補助金等の交付対象となったり、交付の申請をしている、もしくは交付申請をすることが明らかな事業者等・個人である。補助金には、国から直接受ける直接補助金と、地方公共団体や特殊法人などを経由する間接補助金があるが、間接補助金を受ける場合でも、国から補助金を交付された者から直接に受ける場合は利害関係者となる。
第3は、立入検査、監査または監察を受ける事業者等・個人である。一般的には、法令の規定で立入検査等を受け得る状態にあれば、利害関係者となる。
第4は、不利益処分の名あて人となるべき事業者等・個人、第5は行政指導で現に一定の作為・不作為を求められている事業者等・個人である。第6は、事業の発達、改善及び調整に関する事務の対象となる事業を行っている事業者等である。各省が所掌する事業を行う企業等がこれに当たる。第7は、省庁と契約している企業等である。ちなみに、国家公務員同士でも、予算要求する側と査定する側には利害関係がある。
企業が省庁と契約しているからといって、企業の社員全員が省庁の職員全員と利害関係があるわけではない。企業サイドでは役員と担当者に、省庁サイドでは担当の課長等契約事務に携わる職員に限定される。また、企業そのものが利害関係者となる場合でも、当該企業の利益のために公務員と接触していると見られる役員、従業員のみが利害関係者となる。
利害関係者に該当する場合でも、利害関係が潜在的なものに留まる場合や公務員の裁量の余地が少ない場合には、各省庁の訓令で、利害関係者から除外している(訓令の内容は倫理審査会のホームページ http://www.jinji.go.jp/rinri/ に掲載している)。
公務員にとっては、過去3年間就いていた官職の利害関係者も現在の利害関係者と見なされる。また、本省庁の内部部局に勤務する審議官以上の職員については、所属省庁の他の公務員が現在携わっている事務の相手方のうち、許認可等を受けて事業を行っている企業等、上記4〜6に当たる者は利害関係者となる。
国立大学の教官が企業と共同研究を行っている場合、その教官が共同研究の契約に関与する場合は、企業の役員や担当部門の社員は、その教官にとっての利害関係者となる。また、国立の病院や大学に物品を納める企業の場合、物品購入の契約に関与する医師や教官にとってその企業は利害関係者に該当する。
国家公務員が利害関係者から金銭・物品・不動産の贈与を受けることは禁止されている。香典まで禁止するのは厳しすぎると言われるが、これはかつて公務員の家族に不幸があると、かなりの額の香典が贈られたこともあったという経緯から禁止されている。ただし、例外的に、
利害関係者から酒食等のもてなしを受けることは禁止されている。過去の不祥事の経緯等から、ゴルフなどによるもてなしも禁止されている。ただし、これにも例外がある。例えば、
利害関係者から、金銭の貸し付け、無償での物品・不動産の貸し付けを受けたり、未公開株式を譲り受けたりすることは禁止されている。これにも例外があり、例えば、
利害関係者から無償でサービスの提供を受けることは禁止されている。例えば、職務で利害関係者を訪問し、仕事が深夜まで及んだ場合でも、利害関係者が用意したタクシーを利用することは禁止されている。ただし、
ゴルフ、旅行、マージャンは、割り勘でも利害関係者と一緒に行ってはならない。「ソフトボールなどは禁止されていないのに、なぜ割り勘でもゴルフはダメなのか」という意見もある。しかし、ゴルフは、過去の不祥事でゴルフ接待が多々あったために禁止している。ただし、これにも例外があり、
公務員が自分の分を負担して(割り勘で)行う利害関係者との食事は、朝・昼については自由であり、夜の場合でも、職務として出席した会議や打合せなどの会合に伴う簡素な食事であれば自由にできるが、それ以外は、原則として倫理監督官の許可が必要になる。簡素の基準は、一般的には3000〜4000円程度だが、役職に応じて、例えば局長級の場合には10000円程度までは「簡素」に当たると解している。
倫理監督官は各省庁の事務次官だが、一般的に各局の総務課長まで権限が委任されている。倫理審査会としては、必要がある場合には、許可をとった上で、どんどん民間企業と意見交換をして欲しいと言っている。2000年度には全省庁で約36000件の許可が出ている。
利害関係者の依頼を受けて講演等を行う場合で、報酬を得る際には、事前に倫理監督官の承認が必要である。倫理審査会では、行政にとっても情報発信が重要であり、必要があれば、どんどん講演等をして欲しいと呼びかけている。2000年度には約10000件の承認が行われている。
国家公務員倫理法・倫理規程は、一般職の国家公務員を対象にしているが、特別職の国家公務員に関しても、「自衛隊員倫理法」などによって、同様の規定がおかれている場合がある。また、地方公務員についても、条例で定めている地方自治体があり、昨年4月段階では都道府県及び政令指定都市のうち8道府県2政令指定都市だったが、順次増えていく見通しである。