国家公務員倫理法・倫理規程の運用について

2002年9月
日本経団連社会本部

2000年4月1日施行の国家公務員倫理法については、その解釈・運用に誤解や過度な反応が見られ、企業関係者と公務員との意思疎通に支障をきたすケースもありました。人事院は、こうした誤解や過剰な反応をなくすため広報活動に力を入れており、日本経団連としてもこれに協力することとしています。
以下は、日本経団連企業行動委員会主催「国家公務員倫理法・倫理規程に関する説明会(2002年7月12日)」における国家公務員倫理審査会事務局の川村卓雄首席参事官の説明をまとめたものです。
上記倫理法をご理解いただく上で、ご参考としていただければ幸いです。
≪内 容≫
【国家公務員倫理法・倫理規程について】
【利害関係者とは】
【利害関係者との間で行ってはならないこと】
【利害関係者との間で行う場合に、公務員の側で手続が必要なこと】
【質疑応答】

【国家公務員倫理法・倫理規程について】

  1. 国家公務員倫理法は、議員立法で全党一致で可決された法律で、2000年4月1日より施行されている。同法の目的は、国家公務員の職務に係る倫理の確保であり、そのために倫理規程において (1)国家公務員の行動ルール、(2)贈与等が行われた際の報告ルールを定めている。

  2. 行動ルールでは、割り勘でも利害関係者とはゴルフはできないなど、厳しい面もあるが、一方で、行政が円滑に運営されるよう、民間企業関係者との意見交換などへの配慮もしている。

  3. 国民の目から見て、疑惑または不信を招く行為は止めようというもので、「問題なし」というものまで禁止するものではない。しかし、施行当初は、利害関係者との間では全てが禁止されるという誤解や過剰な反応があった。国民が疑惑や不信を抱かないようにするとともに、そのような誤解や過剰な反応をなくすために、広報活動にも力を入れながら国家公務員倫理法を運用している。

【利害関係者とは】

  1. 国家公務員にとって民間企業等が利害関係者となる場合は7つある。第1は、許認可等を受けて事業を行っている事業者等、許認可等の申請をしている事業者等・個人、許認可等の申請をしようとしていることが明らかな事業者等・個人である。「事業者等」には、法人のみならず、法人格のない団体も該当する。「許認可等を受けて事業を行っている」という場合の許認可とは、銀行免許等、事業を行う上で必須のものを意味する。

  2. 第2は、補助金等の交付対象となったり、交付の申請をしている、もしくは交付申請をすることが明らかな事業者等・個人である。補助金には、国から直接受ける直接補助金と、地方公共団体や特殊法人などを経由する間接補助金があるが、間接補助金を受ける場合でも、国から補助金を交付された者から直接に受ける場合は利害関係者となる。

  3. 第3は、立入検査、監査または監察を受ける事業者等・個人である。一般的には、法令の規定で立入検査等を受け得る状態にあれば、利害関係者となる。

  4. 第4は、不利益処分の名あて人となるべき事業者等・個人、第5は行政指導で現に一定の作為・不作為を求められている事業者等・個人である。第6は、事業の発達、改善及び調整に関する事務の対象となる事業を行っている事業者等である。各省が所掌する事業を行う企業等がこれに当たる。第7は、省庁と契約している企業等である。ちなみに、国家公務員同士でも、予算要求する側と査定する側には利害関係がある。

  5. 企業が省庁と契約しているからといって、企業の社員全員が省庁の職員全員と利害関係があるわけではない。企業サイドでは役員と担当者に、省庁サイドでは担当の課長等契約事務に携わる職員に限定される。また、企業そのものが利害関係者となる場合でも、当該企業の利益のために公務員と接触していると見られる役員、従業員のみが利害関係者となる。

  6. 利害関係者に該当する場合でも、利害関係が潜在的なものに留まる場合や公務員の裁量の余地が少ない場合には、各省庁の訓令で、利害関係者から除外している(訓令の内容は倫理審査会のホームページ http://www.jinji.go.jp/rinri/ に掲載している)。

  7. 公務員にとっては、過去3年間就いていた官職の利害関係者も現在の利害関係者と見なされる。また、本省庁の内部部局に勤務する審議官以上の職員については、所属省庁の他の公務員が現在携わっている事務の相手方のうち、許認可等を受けて事業を行っている企業等、上記4〜6に当たる者は利害関係者となる。

  8. 国立大学の教官が企業と共同研究を行っている場合、その教官が共同研究の契約に関与する場合は、企業の役員や担当部門の社員は、その教官にとっての利害関係者となる。また、国立の病院や大学に物品を納める企業の場合、物品購入の契約に関与する医師や教官にとってその企業は利害関係者に該当する。

【利害関係者との間で行ってはならないこと】

  1. 国家公務員が利害関係者から金銭・物品・不動産の贈与を受けることは禁止されている。香典まで禁止するのは厳しすぎると言われるが、これはかつて公務員の家族に不幸があると、かなりの額の香典が贈られたこともあったという経緯から禁止されている。ただし、例外的に、

    1. 広く一般に配布するための宣伝用の物品・記念品を受け取ることは可能である(ある企業の創業者の没後50周年記念品を作成し、官公庁、企業、学校等に多数配布する場合など)。
    2. 公務員自身の結婚披露宴で、親や配偶者の関係で招待された利害関係者から祝儀をもらうことは認められる(公務員自身の関係で、招待された利害関係者から祝儀をもらうことは禁止。ただし実費相当の祝儀は可)。
    3. 葬儀の場合、亡くなった親との関係に基づいて、利害関係者が持参した香典を受け取ることは認められる。
    4. その省庁が資料提供等の協力を行って、利害関係者に該当する財団法人等が出版した書籍等を、執務参考資料とするために所定の手続をとって組織として受け取ることは可能。
    5. 親族や学生時代の友人等、私的な関係がある利害関係者から金銭等の贈与を受け取ることは一般的には認められる。ただし、入省後、仕事上知り合った人との関係は、私的な関係とは認められない。

  2. 利害関係者から酒食等のもてなしを受けることは禁止されている。過去の不祥事の経緯等から、ゴルフなどによるもてなしも禁止されている。ただし、これにも例外がある。例えば、

    1. 多数の者が出席する立食パーティーであれば、国家公務員が自分の分の費用を負担しなくても、利害関係者と飲食できる。着席でも、例えば大広間で行うような大きな会合で、予め席が決められていない場合については、立食パーティーと同様に解釈される。
    2. 職務として出席した会議における食事で、弁当など華美でないものであれば、公務員は自分の分を負担しなくとも、利害関係者との飲食が可能である。
    3. 倫理監督官(各省庁事務次官)の承認を得て講演を行う際、講演の前後に簡素な飲食を取ることは可能。
    4. 利害関係者以外の者が主催する公的な性格を有する儀礼的な会合(駐日大使主催のレセプションなど)で、たまたま利害関係者と一緒になった場合の飲食は可能。
    5. 親族、学生時代からの友人など、私的な関係がある場合には、一般的には公務員が自分の分の費用を負担しなくても食事を一緒にできる。

  3. 利害関係者から、金銭の貸し付け、無償での物品・不動産の貸し付けを受けたり、未公開株式を譲り受けたりすることは禁止されている。これにも例外があり、例えば、

    1. 金融機関が利害関係者に該当する場合でも、一顧客として貸し付けを受けることは可能。
    2. 職務として利害関係者を訪問した際、利害関係者から提供される物品を使用することは可能(検査のための訪問先で、電話を借りる等)。
    3. 親族、学生時代の友人など、私的な関係がある利害関係者から、金銭・物品等の贈与を受け取ることは一般的には可能。

  4. 利害関係者から無償でサービスの提供を受けることは禁止されている。例えば、職務で利害関係者を訪問し、仕事が深夜まで及んだ場合でも、利害関係者が用意したタクシーを利用することは禁止されている。ただし、

    1. 職務として利害関係者を訪問した際、交通の便が悪く、タクシーがつかまらないような時に利害関係者の社用車を使用することは可能である(利害関係者にわざわざハイヤーを用意させることは禁止)。
    2. 利害関係者が利用するタクシーが、公務員と同じ目的地に行く場合などで、利害関係者の追加的な負担がない時には、タクシーに便乗することは可能。
    3. 親族、学生時代の友人など、私的な関係がある利害関係者から、無償でサービスの提供を受けることは一般的には可能。

  5. ゴルフ、旅行、マージャンは、割り勘でも利害関係者と一緒に行ってはならない。「ソフトボールなどは禁止されていないのに、なぜ割り勘でもゴルフはダメなのか」という意見もある。しかし、ゴルフは、過去の不祥事でゴルフ接待が多々あったために禁止している。ただし、これにも例外があり、

    1. 会員となっているゴルフクラブでプレーする場合、クラブ側の指定でたまたま一緒の組になる場合は、利害関係者とプレー可能である。
    2. OB会や県人会のゴルフコンペで、たまたま利害関係者と一緒になる場合(全体30〜40人で利害関係者数人の割合)も、プレー可能である。
    3. 親族、学生時代の友人など、私的な関係がある利害関係者とともにゴルフをすることは一般的には可能。

【利害関係者との間で行う場合に、公務員の側で手続が必要なこと】

  1. 公務員が自分の分を負担して(割り勘で)行う利害関係者との食事は、朝・昼については自由であり、夜の場合でも、職務として出席した会議や打合せなどの会合に伴う簡素な食事であれば自由にできるが、それ以外は、原則として倫理監督官の許可が必要になる。簡素の基準は、一般的には3000〜4000円程度だが、役職に応じて、例えば局長級の場合には10000円程度までは「簡素」に当たると解している。

  2. 倫理監督官は各省庁の事務次官だが、一般的に各局の総務課長まで権限が委任されている。倫理審査会としては、必要がある場合には、許可をとった上で、どんどん民間企業と意見交換をして欲しいと言っている。2000年度には全省庁で約36000件の許可が出ている。

  3. 利害関係者の依頼を受けて講演等を行う場合で、報酬を得る際には、事前に倫理監督官の承認が必要である。倫理審査会では、行政にとっても情報発信が重要であり、必要があれば、どんどん講演等をして欲しいと呼びかけている。2000年度には約10000件の承認が行われている。

  4. 国家公務員倫理法・倫理規程は、一般職の国家公務員を対象にしているが、特別職の国家公務員に関しても、「自衛隊員倫理法」などによって、同様の規定がおかれている場合がある。また、地方公務員についても、条例で定めている地方自治体があり、昨年4月段階では都道府県及び政令指定都市のうち8道府県2政令指定都市だったが、順次増えていく見通しである。

【質疑応答】

Q1
利害関係者とは、コーヒー一杯もダメなのか。
A1
そんなことはない。職務として出席した会議その他の会合において、利害関係者から茶菓の提供を受けることは認められているので、職務として利害関係者と会った際にコーヒー、ケーキ程度の提供を受けることは問題ない。また、自己の費用を負担すれば(割り勘であれば)、職務であるか否かにかかわらず朝・昼の飲食は自由であり、コーヒー程度であれば時間帯を問わず自由にできる。

Q2
「広く一般に配布する記念品は贈答可能」とあるが「広く」の概念と、「記念品」の価格について、基準を教えて欲しい。例えば10〜20人で構成(官民合同)する意見交換会が○○周年を迎えたので「記念品」を配る場合はどうか。
A2
「広く一般に」とは、典型的には誰でも入手できるようなものを想定している。「記念品」の価格については、特段の基準はない。10〜20人程度の構成員だけに配るような記念品は、一般的には「広く一般に配布するための」記念品には当たらないと思われるが、具体的な事例があれば御照会いただきたい。なお、記念品を配ろうとする企業が職員にとって利害関係者でない場合は当然倫理規程上の問題はない。

Q3
利害関係者からの贈与は禁止されているが、一方で5千円以上の贈与を受けた場合には贈与等報告書の提出が義務付けられているとあり、両規定は矛盾しているのでは?
A3
贈与等報告書制度の趣旨は、倫理規程によって禁止されていない贈与等(立食パーティーにおける飲食の提供や、講演・原稿執筆等に対する報酬、利害関係者以外の者からの贈与など)についても、「事業者等」から受けた1件5千円を超える贈与等に当たる場合には報告させ、問題がないかどうかチェックしようというものだ(職員が相手方を利害関係者ではないと思って贈与等報告書を提出したところ、審査中にその相手方が利害関係者であることが判明して、倫理規程違反を問われることもあります)。

Q4
国家公務員が職務上行う講演の場合、報酬を受け取ってはならないと理解していたが。
A4
倫理法で定められているわけではないが、職務上行う講演の場合には、報酬を受け取らないということで、各省庁が対応している。ただ、職務としてではなく休日等に講演を行う場合には、報酬を受け取ることもあろう。利害関係者から報酬を受け取る場合には、倫理法の対象となる。

Q5
「自分の分の費用を負担すれば」、国家公務員は利害関係者と飲食できるというが、公務員が自腹を切るケースは殆どないのではないか。
A5
そんなことはない。一般に公務員には交際費がないので、自己費用負担の場合にはほとんど自腹を切ることになる。自己の費用を負担して行う飲食は、倫理監督官の許可を得たものだけでも平成12年度で約36,000件あり、許可が不要な飲食まで含めれば相当数に上ると考えられる。

Q6
業界団体の主催する委員会、研究会等の委員として年間数回程度出席して頂く国立大学の教授等に、3〜5千円程度の中元・歳暮を贈ることは、許認可補助金などとは関係ない。このようなケースを対象外にできないか。
A6
大学教授等の場合、一般的には企業との間に利害関係がないので中元・歳暮を受け取ることは禁止されていない。ただし、当該教授等が大学において企業と大学との間の契約に関する事務に携わっている場合など、当該教授等と企業との間に倫理規程上の利害関係がある場合には、その企業から中元・歳暮を受け取ることは禁止されている。

Q7
警察・消防の関係で企業役員が交通安全委員会等の委員として登録し、この関係で企業側の担当者が企業側の費用負担で警察・消防の方と懇親をすることがある。その際に警察・消防の方が寸志をもってきた場合、(1)企業側は利害関係者の対象になるか、(2)実費と寸志との差が5000円以下であれば許可不要か。
A7
警察・消防関係の職員はほとんど地方公務員と思われるが、国家公務員の場合の取扱いについて説明する。(1)一般的には、委員として登録していること自体は利害関係には当たらないと思われる。ただ、委員会等そのものや企業が国の職員にとって利害関係者である場合(警察の許認可を受けている場合等)には、委員である企業役員も利害関係者に当たる場合がある。(2)出席者が利害関係者に当たらなければ倫理規程上の問題はない。仮に利害関係者に当たる場合は、国の職員は、職務として出席した会議での弁当等であれば寸志(会費)は不要だが、それ以外は原則として自己の費用を負担する必要がある。その場合、夜間であれば、職務として出席した際の簡素な飲食以外は倫理監督官の許可が必要(朝・昼であれば許可不要)。なお、寸志(会費)が実費より少なければ自己費用負担にはならない。

Q8
当社事業に属する技術的分野で高い能力を有するとされる国立大学教授がいる(共同研究契約の関係等はない)。彼に当社製品について開発面等色々な技術的相談を持ちかけ、助言を得ている(但し報酬は0)。その彼と夕食(4,000〜5,000円程)を共にしご馳走することは問題となるか。上記教授と当社との関係は倫理規程上の利害関係に当るか。
A8
お尋ねのように、貴社と大学の間に契約の関係等がなく、当該教授が報酬を受けずに技術的事項について助言をしているという関係のみであれば、倫理規程上の利害関係はないと思われる。したがって、当該教授が貴社から4,000〜5,000円程度の夕食の提供を受けることも、倫理規程上の禁止行為には該当しない。

Q9
国立大学と共同研究といっても、大学が企業に委託する場合、企業が大学に委託する場合、更には企業・大学がそれぞれ研究領域を分担する場合がある。これらのケースごとに、倫理法上の規制は異なるのか?
A9
今のところは、特に区別はない。

Q10
地方公務員に関して倫理法を制定する予定があるか。
A10
地方自治体については、倫理法で、国の施策に準じて地方公務員の職務に係る倫理の保持のために必要な施策を講ずるよう努めなければならないとされている。この規定に基づき、倫理に関する条例を定めている地方自治体もあり、徐々に増えるのではないかと思われる。

Q11
現状で、地方公務員が利害関係者との間でできないことは法律上あるか。
A11
法律では特に定められていないが、上記のとおり地方自治体によっては倫理に関する条例を定めて、禁止行為などを規定しているところもある。

Q12
倫理監督官の許可申請が否認される場合はあるか。実際には否認されることが多いのか。実態として、申請しにくいということはあるか。
A12
自己費用負担での利害関係者との飲食に関する倫理監督官の許可件数は、平成12年度で約36,000件であり、これは申請件数の99%以上に当たる。「許可を得てまで行いたくない」という声が一部にあるようだが、倫理審査会としては、必要な場合には積極的に許可の仕組みを活用してもらいたいと考えている。

Q13
割り勘での会食が認められているとは言え、それはほとんど自腹になるのはあまりにも気の毒である。もう少し何とかならないか。
A13
利害関係者との飲食は、接待されるのではなく、自己の費用を負担して行うのが原則だ。職務上必要又は有益な会合に参加する際の自己の費用の予算化は、今後国民の理解を得つつ、政府全体で検討されるべき課題と考えている。

Q14
民間から倫理審査会に細かな点につき、問い合わせることは可能か。
A14
倫理審査会に対する問い合わせは、電話でも電子メールでも受け付けている(電話03-3581-5344、メール rinrimail@jinji.go.jp )。

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