[経団連] [意見書] [ 目次 ]

アジア経済再構築のための提言

2000年3月13日
(社)経済団体連合会

我が国をはじめアジア諸国の経済は、概ね好転の兆しを見せている。これを本格的かつ持続的な発展に結びつけるためには、各国が、経済構造改革に一層取り組むとともに、貿易・投資の自由化、金融・為替の安定さらには産業競争力の強化などに関し、より緊密に協力することが重要である。かかる観点から、我が国経済界としての考え方をとりまとめ提言する。

  1. 我が国の役割
  2. アジアの経済発展における我が国の役割の大きさを考えれば、まず、我が国が、法制・税制のグローバル・スタンダード化、戦略的な産業技術政策の展開、及び社会保障制度の抜本的改革などの構造改革を進め、経済活力を維持するための基盤構築を急がねばならない。併せて、政府による景気対策の着実な実行により、内需拡大を通じた輸入拡大に努めるべきである。
    我が国企業としては、体質を強化するとともに、透明性の向上、企業統治の徹底、説明責任の履行などに一層努め、その経験を、各国の文化、経営風土を尊重しながら、アジア諸国の企業と共有していきたい。

  3. 自由化への対応
    1. 通商問題
    2. アジア諸国の経済が好転の兆しを見せた今こそ、アジアの実情を踏まえた貿易・投資のさらなる自由化を進める好機である。自由化に遅れた業界もしくは自由化により被害を被る業界は、自助努力により競争力強化に努めるべきである。その間、必要に応じて、緊急的なセーフ・ガードなどの措置で対応しつつも、自由化の基本姿勢は堅持すべきである。
      先般のWTO第3回閣僚会議において、新ラウンドがスタートをしなかったことは誠に遺憾である。我が国は、包括的な新ラウンドの早期開始に向け、アジア諸国との対話を進めるべきである。また、AFTA構想の実現を促すとともに、韓国やシンガポール等との自由貿易協定についても積極的に検討すべきである。

    3. 金融・為替問題
    4. アジア諸国の金融当局は、危機の反省に立って、情報開示、金融関連法規の整備、金融機関の監督強化など国内金融制度の改善に積極的に取り組むことによって、健全な自由化体制を確立する必要がある。我が国としても、人材育成や技術移転などの面で、官民による支援を強化する必要がある。その上で、各国のファンダメンタルズから大きく乖離するような市場の動きに関しては、マニラ・フレームワーク(注1)を強化すべきである。
      また、今ほど円の国際化が求められている時はない。我が国政府は、引き続き金融資本市場における円の調達・運用の利便性の向上を図るとともに、新宮澤構想の第2ステージ(注2)も活用し、投融資など実体経済面での取引を通じて、アジア各国の旺盛な資金需要に積極的に応えていくべきである。また、貿易決済、投融資、アジア支援策の実施など多分野の活動において、官民のコンセンサスのもとで円の利用促進を積極的に図ることが重要である。さらに、これらに対応して、アジア各国の政府並びに企業が、円の利用促進に前向きに取り組むことを期待する。

  4. アジアにおける産業競争力強化
    1. 民間債務問題の解決
    2. 我が国企業は、アジア各地における事業活動の拡大を通じて産業競争力強化に貢献できる。その際、各国が民間債務問題の解決に向けて誠意を持って取り組むことを強く求める。また、アジアの企業が過度な借入依存体質から脱却し、資本蓄積を増強していくことも重要である。

    3. インフラ整備
    4. 産業競争力強化の観点からも、我が国は、危機に見舞われた国々を優先するとともに、各国の発展状況を勘案しつつ、情報通信、環境・エネルギーなどの次世代インフラ整備の支援にも重点を置く必要がある。その際、民間プロジェクトへの波及効果の高い支援を効率的に実施することが重要であり、そのためには相手国との対話を深めつつ、ODA事業の企画・立案から実施・評価の各段階で、我が国民間部門の経験・知識、人材をより一層活用する必要がある。

    5. 人材育成協力への民間参加の拡大
    6. 産業競争力の強化には、人材育成がますます重要となっており、製造技術に加え、経営管理や金融、物流などの分野で、我が国企業の知識と経験が大いに生かし得る。まずは、JICAをはじめ様々な政府機関や民間団体が実施している人材育成協力プログラムの把握、整理及び評価を行なうことが重要である。その上で、各国の実情に合った人材育成に協力するため、我が国企業関係者の参加を促すようプログラムを見直し、手続の簡素化や期間・人数枠の拡大などを求めて行く。また、民間のイニシアティブによって、ニーズに合った機動的な対応を行なう「民間セクターアドバイザー専門家派遣」(注3)などのスキームも拡充すべきである。併せて、我が国企業も、現地の経営人材の育成及び登用に努める。

以 上

(注1) マニラ・フレームワーク

1997年11月のマニラ14ヶ国蔵相・中銀総裁代理会議において合意された「金融・通貨の安定に向けたアジア地域協力強化のための新フレームワーク」のこと。

  1. IMFのグローバル・サーベイランスを補完するための域内サーベイランスのためのメカニズム設立、
  2. 国内金融システム及び規制に関する対応能力強化におけるさらなる経済・技術協力、
  3. 金融危機への対応のためのIMFの対応能力の強化のための方策、
  4. IMF資金を補完するアジア通貨安定のための協調支援アレンジメントの設立、
などを内容とする。域内サーベイランスについては、1998年3月から1999年8月までに4回開催されている。

(注2) 新宮澤構想の第2ステージ

日本政府は、アジア諸国の経済困難の克服を支援し、国際金融資本市場の安定化を図るため、1998年10月、アジア諸国に対する総額300億ドルの「アジア通貨危機支援に関する新構想(「新宮澤構想」)」を発表し、1999年5月には総額2兆円規模の「アジアの民間資金活用構想(「新宮澤構想」の第2ステージ)」を発表した。今後アジア諸国の経済回復を確実なものとするために、域内外の民間資金を活用すること、通貨危機に陥りにくい安定的かつ強靭な金融システムの構築に際して、日本の豊富な民間資金の本格的還流を図ることなどを目的としている。

(注3) 民間セクターアドバイザー専門家派遣

民間セクターアドバイザー専門家は、1997年度より外務省・JICAとの協力により発足したわが国ODAによる技術協力スキームの一つで、途上国にわが国民間企業の人材を派遣し、その経験・知識の移転を通じ、途上国の民間セクターの活性化に資することを目的としている。同スキームの発足は、1996年10月の経団連政策提言「官民連携による途上国への知的支援の推進を求める」が契機となっており、民間のイニシアティブによって派遣先の決定、人選等を行う。過去3年間に述べ50名程の専門家(長期、短期)がASEAN、中央アジア、中南米諸国へ派遣され、電力マスタープラン作成指導、空港運営をはじめ、卸売市場の整備、観光振興、貿易・投資促進、物流センター、鉱業団地構想の推進等、民間のノウハウが不可欠とされる分野に実績を残している。


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