[経団連] [意見書]

東南アジアにおける文化交流の一層の深化に向けて

2000年3月28日
(社)経済団体連合会

  1. 総論
  2. 国際協力において文化交流の役割を明確に位置づける必要がある。文化交流において眼に見える効果を示すことはむずかしい。こうした性格から文化交流を軽視する向きが一部にあるが、これは誤まりである。もし諸外国との間でお互いの文化に起因する問題、たとえば宗教や歴史などの問題で摩擦が起こったならば、それは政治摩擦や経済摩擦以上に国民の感情を刺激することになり、解決が困難となる。常日頃から文化における国際交流を効果的に実施していくことが重要である。
    こうした観点から、地理的に近く政治・経済的に関係の緊密な地域でありながら、東南アジアとの文化における相互理解は十分とは言えない。わが国政府はもちろんのこと、経済界としても、今後一層、東南アジアとの文化交流に取り組むべきである。
    文化交流の成否の鍵は継続性にある。継続性を確保するためには、短期で担当者が入れ替わる体制から、文化交流を担う人材を育て、こうした人たちの活躍を支援する体制に転換することが重要である。

  3. 企業と文化交流
  4. 企業は経済の担い手であるが、同時に、企業そのものが文明の一つの担い手である。東南アジアにおいて日本企業の経済活動を円滑に進めていくには、こうした文明の担い手としての機能と役割を再認識していくことが大きな意味を持つ。
    日本の企業文化には、日本人のものづくりに見られる「巧みさ」が大企業のみならず中小企業に未だ根強く生き続けている。東南アジアとの文化交流を考える際、こうした「巧みさ」の移転が新たな絆となる可能性を持っている。大田区の中小企業のような日本企業が大切にしている技術の根幹に対する理解を東南アジアの人々に共有してもらう機会を今まで以上に増やしていくことも重要である。
    今日企業が多国籍化しており、異なる文化を持つ人々が企業と関わりをもつようになってきている。企業にとって国際的な文化交流は日常の問題になっている。言い換えると、文化の相互理解こそ円滑な企業活動をもたらし、異文化交流が企業を強くすると言っても過言ではない。

  5. 文化交流を深化させるために
  6. 文化交流を深化させるためには、現地の日本人が東南アジア各国の社会に溶け込む「現地主義」が重要である。
    そこで問題なのが現地日本人社会のあり方である。東南アジア各国の現地日本人社会は地元に溶け込むために努力を重ねてきたものの、現地における日本人ピラミッド社会に対する評判や評価には依然として厳しいものがある。現地日本人社会には文化交流の第一歩として、現地社会における自らのあり方や果すべき役割を再検討、再認識するよう求めたい。
    単にお金を文化交流につぎ込む自己満足型の「文化直流」では交流は成果を発揮しえない。一人ひとりが地元に根を張るような相互交流に努めることが大切である。その際、地元の人たちが大切にしている文化を尊重し、さらに一歩踏み込んで率先してその保護に力を尽くす姿勢を示すことも大切である。こうして得たネットワークの広がりと深さが日本企業批判の芽を未然に摘み取り、さらには積極的評価を得る礎となる。
    現地において魅力ある人たちの活躍を可能とすることが肝要である。わが国政府や企業はこうした魅力ある人々の創造性や立場を大切にして、文化交流に取り組む必要がある。こうした人々への支援の一環として、現地において政府、企業、NGOなどの関係者が常時情報交換できる場やネットワークを創設することを提案したい。
    根源的には現地に進出した企業と企業人だけでなく、日本社会そのものが 「内なる国際化」を実現する必要がある。アジア各国の文化への理解と親しみを増進させ、もっと東南アジアの人達に開かれた日本社会を構築することが重要である。
    昨今の日本と東南アジアとの産業関係は水平分業の方向へと変化している。経済・産業関係において日本と東南アジアは今やイコール・パートナーであり、強い相互依存関係を有している。こうした関係が文化交流の上にも反映され、文化の水平方向での相互交流を深め、イコール・パートナーとしての意識をお互いの社会の中に醸成していくことが特に重要である。

  7. 留学生−未来に向けた文化交流として
  8. 東南アジアとの文化交流を将来にわたり進めていく上で、日本への若い留学生に対する我々の期待は大きい。日本で身につけた学問や経験を卒業後の活躍へとつなげていくことは本人にとってはもちろんのこと、わが国にとっても重要である。
    優秀な教育者、研究者の獲得をめぐっての競争に加えて、今では優秀な学生を確保するための国際競争も激しさを増してきている。語学環境、学位取得、就職への展望など国際水準に合致した、留学生にとって魅力ある大学をめざす革新的な動きが一部に起こりつつあるが、こうした変革が一層加速されることを期待する。
    『21世紀日本の構想報告書』が、卒業時に永住権を取得できるように提言している。日本の大学等を卒業した留学生が短期、長期にかかわらず、各自の希望に沿って日本国内で働けるよう、さらにビザのあり方などを見直していく必要がある。
    さらに、彼らの活躍できる場をいかに日本国内に創造し確保していくべきか、これをわが国政府が真剣に検討していかないことには彼らの権利も意味を持たない。企業としても、アジアの優秀な人材に対して雇用機会を徐々に増やしていくべきである。こうしたアジアの人々の活躍が企業のみならず、わが国全体にとって一つの意識改革につながるものと期待する。
    日本から東南アジアへ優秀な留学生が着実に増加していくことが併せて重要である。

以 上

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