[経団連] [意見書]

郵便事業への民間参入の速やかな実現を求める

2000年3月28日
(社)経済団体連合会

はじめに

海外では、既にイギリス、ドイツ、オランダ、スウェーデン、フィンランド、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド等十カ国以上が郵便事業への民間参入を進めており、総合物流企業を目指す郵便事業体(郵便公社、郵便会社)と新規参入した民間事業者が競争し、郵便事業体の体質強化とともに郵便サービス水準が大幅に向上するという二重の成果をあげている。
こうした動きを受け、わが国においても、中央省庁等改革基本法において2001年1月1日に総務省の外局として郵政事業庁を設置し、その2年後には国営の公社に移行させるとともに、政府は郵便事業への民間事業者の参入についてその具体的条件の検討に入ることが規定されている。
海外における郵便事業自由化の取り組みと比べ、わが国の取り組みは10年程度遅れているが、わが国としても、郵便サービス水準の一層の向上と、郵便事業の国際競争の時代への対応の視点から、中央省庁等改革基本法に沿って早急に民間参入を実現する必要がある。
既に郵政省が学者で構成する研究会を設置し、独占分野への民間参入のあり方を検討しているが、われわれは、政府に対して速やかに中立的な検討の場を設置するよう求めるとともに、以下において、郵便事業への民間参入のあり方を提言する。
なお、郵便は小包と信書から成るが、わが国では既に小包は完全競争下にあり、以下において郵便事業の自由化という場合は、信書送達の自由化を指す。

1.わが国の郵便事業の現状

わが国の郵便市場は、郵便需要は景気との連関性が高いことから近年は低い伸び率となっているものの、趨勢的には経済の発展につれ着実に拡大し、郵便物数は88年から97年までに約25%増加している。長期的にはファクシミリ、電子メール、携帯電話など通信手段の多様化に伴う需要減少の可能性も指摘されてはいるが、これまでのところはむしろ電気通信との相乗効果が生じており、今後も郵便事業が的確な対応をすればマイナスの影響はそれほど大きくないと予想されている。
しかし、それにも拘わらず、国営の郵便事業は、構造的な高コスト、赤字体質に陥ろうとしている。郵便事業損益をみると、1998年度は当初300億円の黒字が見込まれていたのが一転して625億円の赤字となり、99年度も742億円、2000年度も596億円の赤字が見込まれている。郵政省は97年6月に2005年まで郵便料金は値上げしないと宣言したが、このペースで赤字が拡大すればそれ以前にも料金値上げは不可避となる。
高コスト体質の大きな原因のひとつが人件費である。郵便事業のコストの6割は人件費である。臨時雇い等の経費を加えると、人件費の比率はさらに高まる。職員は国家公務員であることから、労働力や賃金水準の柔軟な調整が困難であり、人件費の大幅な削減が期待できないだけでなく、職員の高齢化に伴って人件費が上昇せざるを得ない構造となっている。郵政公社移行後も国家公務員の身分が特別に付与されることからこの構造は変わらない。
また、競争のない独占事業ではコスト削減、料金引き下げのインセンティブも弱い。
このように、国営の郵便事業は構造的にコスト上昇、郵便料金値上げという悪循環の要素をはらんでいるが、わが国の郵便料金は既に世界で最も高い水準にある。わが国の郵便料金は封書の最低重量のものが80円であるが、ドイツが1.1マルク(約60円)、フランスが3フラン(約49円)、アメリカは33セント(約36円)、イギリスが26ペンス(約46円)、オーストラリアが45セント(約31円)、ニュージーランドが40セント(約22円)となっている(注:3月1日の為替レートにより換算)。葉書が封書と同一料金の国もあり、為替の変動の問題もあるが、これ以上値上げできるような料金水準でないことだけは明らかである。
このままでは、郵便事業は、近い将来において、コスト増と赤字を料金値上げで補填することになろうが、結局は国民の負担増となる。

2.民間参入の意義

郵便事業を国が行なう根拠としては、かつては「秘密の保持」が主張されたが、電気通信事業が自由化された今日では説得力を失っている。そこで最近は、「規模の経済性」などを論拠とした「自然独占」を根拠として、民間事業者の参入を否定し、国家独占の維持を主張する意見がある。しかしながら、郵便事業が資本集約的というよりは労働集約的産業であること、長期的には経済の成長に対応して郵便市場も拡大していること、通信手段の多様化、技術革新など郵便を取り巻く環境が劇的に変化しつつあることなどから、その論拠も弱まっている。むしろ、諸外国の状況をみると、郵便事業のネットワーク産業としての特質に着目して、電気通信と同様の考え方で競争導入を進めようという考え方が強まってきているといえよう。
現に、従来、自然独占とされてきた電信電話事業は、規制緩和と民営化の結果、飛躍的に成長し、国民に安価で多様なサービスが提供されている。また、郵便についても、競争を導入した諸外国では、同時に国営の郵便事業体を公社化あるいは民営化し、そのほとんどが国営時代には展開できなかった多様なサービスを展開して黒字転換しており、ユニバーサル・サービスを維持しつつ、料金を抑制することに成功している。
これらに鑑みれば、わが国の郵便事業についても、郵政事業庁およびその後の郵政公社の一層の合理化・効率化を図るとともに、それを加速するためにも民間事業者の参入を早急に実現すべきである。

3.わが国における郵便事業への民間参入のあり方

  1. 自由化の範囲
  2. 既に郵便事業への民間参入を進めている海外の事例を見ると、非常に緊急な手紙等の自由化から着手した国もあるが、多くの国は、独占の範囲を手紙の重量、料金で定め、これをスケジュールに従って次第に縮小するという方式を採用している。われわれも、ユニバーサル・サービスを維持する視点から、段階的に自由化することが適当と考える。
    また、現在の独占範囲である「信書」という基準をめぐっては、民間の宅配業者がクレジット・カードや地域振興券の送達を扱おうとしたところ、郵政省からこれらは信書にあたるという解釈が示され、未だもって法的な決着はみていない。しかも、郵便法では、民間業者が配達したものが「信書」とされた場合、配達した者だけでなく差出人まで「三年以下の懲役又は百万円以下の罰金」に処せられる可能性があるため、配達物が「信書」に当たるとの郵政省の見解が示されただけで、業者だけでなく、差出人まで自己規制してしまう結果になっている。したがって、民間参入を認めるにあたっては、できるだけ、数値等による明確な基準でなければならない。
    以上を勘案し、われわれは、2003年の郵政公社移行と同時に以下の第一段階の自由化を行なうこととし、3年後に競争状態等をレビューしてさらなる自由化範囲の拡大を検討することを提案する。

    【第一段階の自由化の範囲】

    1. 民間の智恵を発揮させる見地から、即日配達郵便やバーコードによる管理(差出人が自分のパソコンで郵便物を追跡できる)等の付加価値郵便サービスを自由化する。
    2. 通常の郵便物については、私人が利用することが多いと思われるところの「50グラム以下かつ料金90円以下の手紙および郵便葉書(ダイレクト・メールを除く)」の送達は郵政公社の独占分野として残し、それを超える部分を自由化する。

    なお、自由化に際して、郵便事業を営む総務省が競争相手である民間事業者を監督することは公正競争上問題があり、中立的な監督機関を設置すべきである。

  3. ユニバーサルサービスの維持
  4. 郵便事業への競争導入にあたっては全国津々浦々にまで配達するという意味でのユニバーサルサービスの維持が大前提である。民間参入を進めた諸外国では、段階的な自由化によって影響を見極める一方で、ネットワーク産業は全国ネットワークを保有するものが競争力を有するとの考えに立ち、従来からの郵便事業体にのみユニバーサルサービスの義務を課している。一方、郵便事業体の多くも「ユニバーサルサービスの提供はネットワーク産業にとっての戦略的な武器」と位置づけている。そして、これまでのところ、いずれの国においても、ユニバーサル・サービスを維持するための特別のファンド等を設けることなしに、ユニバーサルサービスは維持されている。わが国においては、実質的にユニバーサル・サービスを提供する民間事業者も現れるとは思われるが、民間参入を促進する見地から、当面、郵政公社にユニバーサルサービスを義務づけ、競争の進展に応じてファンドの設置や民間事業者による代替等を検討することとすべきである。

  5. 郵便事業の一層の合理化・効率化
  6. 郵政公社は、中央省庁等改革基本法において、自律的かつ弾力的な経営を可能とするとされているが、民業圧迫とならない範囲で経営の自由度を付与し、一層の合理化・効率化を進めることが求められる。

終わりに

既にヨーロッパでは、郵便公社や郵便会社が総合物流企業を目指して内外の物流業者を買収するケースが相次いでおり、将来は合併や連携が相次ぐ電気通信事業と同様の事態が予想される。わが国においても、国内事情だけでなく、国際的な動向を踏まえた戦略的な郵便政策の展開が望まれる。
国内外にわたる自由な事業展開を可能とするため、郵便市場に大胆に競争を導入し、新規参入者も含めて強い郵便事業者の育成を図る必要があることを重ねて指摘したい。

以 上

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