[経団連] [意見書] [ 目次 ]
自由貿易協定の積極的な推進を望む
〜通商政策の新たな展開に向けて〜


【参考資料】

モデル自由貿易協定


本モデル協定は、わが国が諸外国との自由貿易協定を検討する際の参考に供すべく、北米自由貿易協定(NAFTA)、EUメキシコ自由貿易協定、昨年5月の提言「次期WTO交渉への期待と今後のわが国通商政策の課題」等を参照しつつ作成したものである。

  1. 域内貿易の自由化
    1. 物品の関税撤廃
    2. 締約国間の貿易関税を、協定発効から10年間以内に段階的に撤廃する。関税撤廃までの自由化スケジュールは、別途定める。

    3. 非関税措置
    4. [内国民待遇]
      締約国は、GATT第3条(内国の課税及び規則に関する内国民待遇)に沿って、他の締約国の産品に内国民待遇を付与する。ただし、一部の産品に関しては、例外措置を認める(留保リストを作成)。
      [数量制限の禁止]
      締約国間の貿易に関わる数量制限は撤廃する。現行の数量制限は、原則として関税化した後で、自由化スケジュールに沿って段階的に関税を撤廃することができる。
      締約国は、他の締約国向け産品の輸出に関して、禁止及び制限措置を維持あるいは採用してはならない。
      [輸出補助金の禁止]
      締約国間の貿易に関わる輸出補助金は撤廃する。
      [税関協力]
      締約国間の貿易に関わる税関手続の簡素化に向けて、
      1. 税関システムに関する情報の交換、
      2. 原産地証明書を含む関連書類の共通化、
      3. 検疫の簡易化、
      4. 税関手続の透明性・効率性・説明責任の確保、
      5. 税関手続に関する技術的援助、
      6. 締約国の税関当局による定期的会合の開催、
      等を行なう。
      締約国間の貿易に関し、現行の税関手数料は廃止する。

    5. サービス貿易の自由化
    6. [原則]
      各締約国は漸進的かつ互恵的にサービス貿易自由化を推進する。
      [適用範囲]
      サービス貿易とは、次の態様のサービス提供を指す。
      1. いずれかの締約国の領域から他の締約国の領域へのサービス提供。
      2. いずれかの締約国の領域内におけるサービスの提供であって他の締約国のサービス消費者に対して行われるもの。
      3. いずれかの締約国の領域内におけるサービスの提供であって他の締約国の領域内の業務上の拠点を通じて行われるもの。
      4. いずれかの締約国の領域内におけるサービスの提供であって他の締約国の領域内の締約国の自然人を通じて行われるもの。
      [内国民待遇、市場アクセス]
      1. 締約国は他の締約国のサービス提供者に対し、最恵国待遇または内国民待遇のうち有利な方を付与する。(又は、いずれかの締約国がGATS5条に基づき他の第三国と締結した協定により与えている待遇を最恵国待遇の例外とすることができる。ただし、こうした協定を締結している締約国は、他の締約国に対し、当該協定で第三国に認めている待遇に関して交渉する十分な機会を与える。)
      2. 締約国は市場アクセスの制限をしてはならない。
      3. 留保リストに掲げた現行措置については、1. 及び 2. の例外とすることができる。
      [自由化スケジュール]
      締約国は本協定発効より一定期間内に、留保リストに掲げた措置を廃止、縮小すべく、予定表を作成の上協議する。

  2. 域内貿易に関するルール
    1. 原産地規則
    2. [域内産品の認定]
      1. 締約国の産品であると認められるための条件は以下のいずれかである。
        1. 完全生産基準:完全に締約国の域内で生産された産品(農産物、鉱物、動植物等)、あるいは完全生産品のみから域内で加工された産品。
        2. 実質的変更基準:産品に本質的な性質を与えるために十分であると認められる最後の実質的加工を、締約国の域内で行なった産品。
      2. 実質的変更の判定方式は、「関税番号変更基準」とし、すべての域外産品が域内の加工工程により関税分類が変更されていることとする。
      3. ただし、現在の関税分類(HS分類)は、必ずしも原産地規則を目的とした制度ではないので、以下の例外及び補足を設ける。
        1. 関税番号が変更した場合でも、実質的変更と認めるべきケースについての除外ルールを設ける。
        2. 関税分類は変更しなくても、実質的変更と認めるべきケースについては、関税番号を分割することにより、こうした分割番号同士の変更によって関税分類変更と認める。
      4. 以上のルールでも原産地が判定できない場合、総則レベルまたは章レベルでの補助ルールに従う。

    3. アンチ・ダンピング(AD)
    4. アンチ・ダンピングに関しては、WTO協定上の最恵国待遇義務との関係についてさらに詳細な検討が必要になるが、当面は以下の二つの案が考えられる。

      《第一案》
      [原則]
      締約国は、他の締約国から輸入された製品に対して、当該締約国のアンチ・ダンピング関連法規を適用することができる。締約国が適用するアンチ・ダンピング関連法規は、「1994年の関税および貿易に関する一般協定第6条」、「1994年の関税および貿易に関する一般協定第6条の実施に関する協定」(以下「ダンピング防止協定」)に整合的なものでなければならない。
      [ダンピング防止協定の適用に関する了解]
      1. 締約国はアンチ・ダンピング措置の保護主義的な発動を排除し、公正かつ客観的なダンピング決定を行うべく、「ダンピング防止協定」を以下の通り運用する。
        1. 第2・4条について:締約国政府の当局は、輸出取引の価格と正常の価額との比較に際して、輸出取引の価格から控除される費目については正常の価額からも控除する。
        2. 第2・4・2条について:締約国政府の当局は、「比較可能な全ての輸出取引の価格の加重平均」を算出する際、アンチ・ダンピング調査対象製品のうち輸出取引の価格が正常の価額を上回る製品(すなわちマイナスのダンピングマージンを生じている製品)も計算の対象とする。
        3. 第2・2条ならびに同2・2・1条について:輸出国本国において「正常の価額」が算出困難なため、「構成価額」(単位あたりの生産費、管理費、販売経費、一般経費に利潤を加えた額)を用いてダンピングマージンを算出する際、コスト割れ販売に伴うマイナスの利益率をも計算の対象として、利潤を計算する。
      2. 「ダンピング防止協定」第3・3条について:二以上の国からの産品の輸入が同時にアンチ・ダンピング防止のための調査対象となる場合、締約国政府の当局は輸入の及ぼす影響を累積的に評価しない。
      3. 締約国は、アンチ・ダンピング調査に際して公正かつ客観的な証拠収集がなされるよう、「ダンピング防止協定」の当該部分に関し、以下の措置を講じる。
        1. 第6・2条について:各締約国は、アンチ・ダンピングに関する調査に際して、利害関係者の意見を反映し、また被提訴側の反論の機会を確保すべく国内法を整備する。
        2. 第6・8条について:締約国政府当局は、被調査企業が調査に対する回答義務を全うできない場合、「利用し得る事実」の適用を慎重に行うよう留意する。
      4. 「ダンピング防止協定」第9・1条について:締約国政府の当局による調査の結果、ダンピング価格差に相当する額よりも少ない額のアンチ・ダンピング課税賦課で国内産業に対する損害を十分防止し得る場合、アンチ・ダンピング課税はその少ない額とする。
      5. 「ダンピング防止協定」第11・3条について:アンチ・ダンピング税賦課命令にその有効期間(5年以内)をあらかじめ定めること及び延長はアンチ・ダンピング税賦課命令の終結がダンピングと被害の継続又は再発をもたらすであろうことを政府当局が国内産業が提出した優越的な証拠に基づき決定した場合に限ることを明確にする。
      6. 「ダンピング防止協定」第5・5条について:正式調査開始前に、被提訴者が調査対象製品の範囲等に関し反論できる機会を与えるため、輸出国政府だけではなく被提訴者にも提訴があったことを通知する。
      [協議の推進]
      締約国政府の当局は、いずれかの締約国政府当局の要請に応じて、本章に関連して生じ得るいかなる事項についても協議する。

      《第二案》
      締約国はアンチ・ダンピング措置を相互に発動しない。なお、締約国は、略奪的意図に基づく不当廉売については、反競争的行為として規制する余地を残すこととする。

    5. セーフガード
    6. [域内セーフガード]
      締約国は、本協定発効後の一定期間に限り、本協定による関税撤廃及び削減の結果、他の締約国の原産品の輸入が急増し、同種の又は直接に競合する産品を生産する国内産業に重大な損害を与え又は与えるおそれがあると認めた場合に、当該産品に対してセーフガード措置を取ることができる。
      [一般的セーフガード]
      一般的なセーフガード措置の発動については、WTO協定に従うものとする。ただし、ある産品の輸入が急増し、同種の又は直接に競合する産品を生産する国内産業に重大な損害を与え又は与えるおそれがあると認められる場合であっても、域内からの輸入増が主たる原因である場合には、一般的セーフガード措置は発動しない。
      また締約国は、域内国へのセーフガード措置の適用を除外するような選択的なセーフガード措置の適用を行なってはならない。

  3. 投資の保護・自由化
  4. 締約国は、締約国間における投資の保護・促進を図る。

    [投資家及び投資の定義]
    本協定における「投資家」とは、締約国の国籍又は永住権を持つ自然人及び締約国の法律に基づいて設立された法人あるいは団体を指す。
    本協定における「投資」とは、投資家が直接又は間接に支配するあらゆる資産(企業、株式、債券、知的財産権、動産、不動産等)を指す。
    [適用範囲]
    あらゆる分野の投資を対象とする。ただし、GATT第21条(安全保障のための例外)の規定を準用することができる。
    [投資家及び投資の待遇]
    締約国の中央政府及び地方政府は、他の締約国の投資家及び投資に対し、投資に関する設立、取得、拡大、運営・管理、利用、売却等関して、内国民待遇または最恵国待遇のいずれか有利な待遇を付与する。
    締約国は、他の締約国の投資家及び投資に対して、公正で正当な待遇及び完全で一定の保護及び安全を与える。
    [透明性]
    締約国は、投資に関連して適用される法律、行政手続、司法判決等を速やかに公表し、又は公に利用可能とする。
    [パフォーマンス要求の禁止]
    締約国は、他の締約国の投資家及び投資に対し、
    1. 輸出要求、
    2. 一定水準のローカル・コンテンツ達成要求、
    3. 国産品・サービス調達要求、
    4. 輸出入均衡要求、
    5. 輸出・外貨獲得に応じた国内販売制限、
    6. 技術移転要求、
    7. 供給地域指定、
    8. 雇用要求、
    等のパフォーマンス要求を課してはならない。
    [投資家及びキー・パーソネルの一時的入国、滞在及び労働]
    締約国は、他の締約国の投資に必要な投資家及びキー・パーソネルの自国への一時的入国、滞在及び労働に関して、速やかに許可を与える。
    [国籍要求の禁止]
    締約国は、他の締約国の投資家が自国に設立する企業に関して、幹部職、支配人及び取締役会メンバーの国籍に関する規定を設けてはならない。
    [送金の自由]
    締約国は、他の締約国の投資家に対して、投資利潤等の送金が自由に遅滞なく国際的に交換可能な貨幣で行なわれるよう保証する。また、締約国は、他の締約国の投資家に対して、いかなる通貨への換金も自由に行なえるように保証する。
    [収用・補償]
    締約国は、以下の条件を満たさない限り、他の締約国の投資家による投資を収用してはならない。
    1. 公共の利益を目的とする。
    2. 無差別原則に基づく。
    3. 適正な法の執行と国際法の原則に従う。
    4. 収用直前の投資の公正市場価格に等しい補償を遅滞なく国際的に交換可能な貨幣で完全に支払う。
    [紛争処理]
    本協定の投資に関する規定をめぐり、締約国間、または締約国と投資家との間に紛争が生じた場合は、当事者間によって協議及び交渉を行なう。当事者間の協議及び交渉によって解決できない場合には、仲裁機関を設置し、裁定を行なう。
    [投資自由化の例外]
    締約国は、合理的な理由がある場合に限って自由化の例外措置を設けることができる。その場合、締約国は、自由化を留保した分野に関するリストを作成しなければならない。

  5. 貿易、投資円滑化のためのルール
    1. 基準・認証の統一化、相互承認等
    2. 締約国は、締約国の法令によって一定の基準及び規格(強制規格及び任意規格)への適合を義務付けられている産品に関して、適合性評価手続が、恣意的あるいは差別的に適用されることによって、締約国間の貿易に不必要な障害をもたらすことのないよう確保する。
      締約国は、両国が合意した産品の基準及び規格に関して、他の締約国の適合性評価を承認する。また締約国は、規格及び適合性評価手続の調和に向けた協力を行なう。

    3. 知的財産権
    4. [知的財産権の保護]
      締約国は、WTOの知的財産権の貿易関連側面に関する協定(TRIPS協定)及び知的財産権の保護に関する国際条約を発効させ、遵守する。また、締約国は、著作権、商標登録、意匠、特許、等の保護に関する協力を行なう。
      [待遇]
      締約国は、知的財産権の保護及び実施に関して、他の締約国に対して内国民待遇を供与する。
      [特許制度の調和]
      締約国は、締約国間において特許制度の調和を図る。

    5. 政府調達
    6. [適用範囲]
      本協定の政府調達とは、中央政府、政府系機関及び地方政府のいずれかの主体による、一定の金額以上の財・サービス及び建設に関する調達を指す。
      [調達手続]
      締約国は、政府調達に関する条件を他の締約国の企業に対して国内企業と無差別に公開する。
      締約国は、透明性を確保した上で、他の締約国の企業が国内企業と無差別な条件で調達に参加できるように調達規則・手続を適用する。
      [オフセットの禁止]
      締約国は、ローカル・コンテンツ要求、技術供与及び投資要求等を通じて、地域振興や国際収支改善のための措置(オフセット)を行なってはならない。
      [入札への異議申し立て]
      いずれかの締約国における調達手続に参加した企業が、本協定に違反した入札が行なわれたと見なし異議を申し立てた場合、当該締約国は解決に向けて努力する。
      [協力]
      締約国は、政府調達に関して、情報交換や技術的支援等の協力を推進する。

    7. ビジネス関連の人の移動の円滑化
    8. 締約国は、域内の貿易・投資関係を活発化するため、ビジネス関係者の業務上の一時的な入国等、締約国間の人の移動を容易にするための協力を行なう。

    9. 競争政策
    10. 締約国は、競争法・政策の適用に関して、情報の交換等の協力を行なう。

    11. 電子商取引
    12. 締約国は、締約国間で行なわれる電子商取引に関して協力を行なう。特に、電子署名、プライバシー、消費者保護といった諸制度に関する締約国間の相互承認、調和化に向けた協力等を行なう。

  6. 紛争処理
  7. [紛争定義]
    紛争とは、以下のいずれかを指す。
    1. 本協定の解釈・適用等に関する、締約国間の見解の相違
    2. いずれかの締約国による本協定に反するとみなされる措置
    3. 本協定で保証されるべき便益の無効化または侵害
    [紛争処理手続]
    締約国は、本協定に関する紛争について、以下の手続に従い解決を図る。
    1. 当事国間による協議
    2. 1. によっても解決することができない場合、仲裁機関の設置
    3. 仲裁機関による斡旋、調整及び調停
    4. 3. によっても解決することができない場合、仲裁機関による裁定
    5. 裁定の実施
    6. いずれかの当事国が裁定を履行しない場合、その他の当事国は報復措置等をとることができる。
    [WTOによる紛争処理手続との関係]
    本協定による紛争処理手続は、締約国がWTOの紛争処理手続に関して有する権利を損なうものではない。ただし締約国は、いずれかの紛争処理手続を選択する必要がある。
以 上

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