[経団連] [意見書]

日本シンガポール自由貿易協定への期待

2000年10月2日
(社)経済団体連合会

はじめに

日本シンガポール両国は、昨年12月の首脳会議における合意を受けて、産官学からなる合同検討会を設置し、「新時代の自由貿易協定」を締結する可能性を検討してきた。これに対し、経団連としてもアジア大洋州地域委員会の中にタスク・フォースを設置し、シンガポールと自由貿易協定を結ぶことの経済界にとっての意義について検討を加えてきた。その成果として、日本シンガポール自由貿易協定に関する要望事項を、既に二度にわたり我が国政府に申し入れてきたところである。
また、経団連では、本年7月、「自由貿易協定の積極的な推進を望む〜通商政策の新たな展開に向けて〜」との提言を発表し、我が国としては、引き続きWTO体制の強化にコミットしていくとともに、通商政策の新たな柱として、自由貿易協定を積極的に活用すべきことを訴えた。
企業活動のグローバル化が進む中で、各国制度の自由化及びハーモナイゼーションを通じてビジネス環境を改善していくことがアジアにおいても急務となっている。このような状況の下、我が国が、規制緩和などを通じた市場開放の決意を新たに、まず、アジアにおける貿易・金融センターを目指すシンガポールとの自由貿易協定の交渉に入り、これを通じて経済統合の可能性を追求していくことは極めて重要である。これが、まさに「新時代の自由貿易協定」の主眼と考える。
かかる観点から、我が国経済界としては、日本シンガポール自由貿易協定の締結に向けた交渉の開始を強く支持するとともに、協定のあり方に関し以下の通り提言する。

1. ビジネス環境の改善

日本シンガポール両国とも、貿易・投資の自由化はかなり進んではいるが、ビジネス環境をさらに改善する観点から取り組むべき課題は依然として多い。シンガポールにおいては、外国企業向け不動産所有制限の緩和や工事請負契約の標準化、さらには税務処理の簡素化・迅速化、金融取引に関する一層の規制緩和などが必要となっている。我が国においても、人、モノ、資金、さらに情報などの面でビジネス環境の改善に向けた制度改革を速やかに進める必要がある。また、通関手続きの簡素化・迅速化や人の移動に関する一層の自由化、人的交流の活発化など、日本シンガポール両国が協力して取り組むべき課題も少なくない。
我々は、日本シンガポール自由貿易協定を通じて、こうした幅広い問題が取り上げられ、グローバル展開を進める企業活動の実態を踏まえ、かつその活発化を促すようなビジネス環境が整備されることを大いに期待する。

2. 産業の競争力強化

自由貿易協定による貿易・投資の更なる自由化、およびこれに伴う国内の構造改革により、両国産業は一層厳しい競争に直面するため、競争力の強化が不可避である。これに関連して、IT、物流、金融において優位性を有すると言われるシンガポールとの自由貿易協定により、情報通信、金融などのサービス産業における制度のグローバル化に向けたハーモナイゼーション、技術・ノウハウの移転に関する協力が促進され、両国産業の競争力が強化されることを期待する。
また、自由貿易協定を通じてシンガポールとの経済関係をより緊密化することにより、関係業界間の相互啓発と戦略的提携を進め、新たな産業分野の共同開発や第三国との通商拡大などに発展させていくことも視野に入れる必要がある。
そのためにも、シンガポールとの自由貿易協定が、財及びサービス貿易の関税・非関税障壁の撤廃を中心とするこれまでの自由貿易協定の枠を超え、基準認証の相互承認、貿易関連手続の電子化、電子商取引、知的財産権、競争政策、紛争解決、科学技術、環境、人材育成など、経済全般にわたる広範囲の問題を含むことが肝要である。

3. アジア域内の経済関係緊密化

通商政策においては、多国間のアプローチと二国間あるいは地域ベースのアプローチの両方を活用し自由化を進めることが世界の潮流になっている。このような情勢において、日本シンガポール自由貿易協定についても、WTOによる自由化を補完し、併せて、AFTAやAPECなどの地域的自由化アプローチを促進することが期待される。
こうした重層的自由化アプローチにより、アジア域内で経済合理性に基づく分業を進め、経済関係をより緊密にしていくことがアジアの持続的発展のために極めて重要である。これにより、まずアジアにおいて企業が国境を意識せず事業活動を自由に展開できることが望まれる。
日本シンガポール自由貿易協定が良き先例となって、アジアはもとよりその他の地域の国々との自由貿易協定の締結に弾みがつくことが求められる。それゆえ、日本シンガポール自由貿易協定を締結するに当たっては、WTOとの整合性を維持し、今後の協定作りのモデルとなるよう、包括的かつハイレベルの協定とすることが重要である。

4. 我が国の市場開放と通商政策のあり方

我が国が、シンガポールとの二国間自由貿易協定の交渉に臨むにあたっては、まず、自らが自由化による市場開放および輸入拡大をさらに進めるとの決意を新たにする必要がある。その上で、規制の撤廃・緩和や高コスト要因の是正などの構造改革を強力に推進することを特に期待する。これは、我が国の国内産業の活性化、効率化、消費者の利益に結びつくものと確信する。
市場開放による競争の激化には、産業の競争力強化の自助努力で対応すべきである。急激な輸入自由化などにより国内産業が深刻な被害を蒙る場合には、セーフガードの機動的な発動も含め、WTO協定で認められる範囲内の現実的な対策を講じて行くことも重要である。
こうした点も含め、二国間自由貿易協定の交渉を契機に、通商政策のグランド・デザインを明確にしていくべきである。

以 上

日本語のホームページへ