[経団連] [意見書] [ 目次 ]

「わが国公開会社におけるコーポレート・ガバナンスに関する
論点整理(中間報告)」参考資料

コーポレート・ガバナンスに関する各社の取り組み


(日立製作所)
株主総会における議決権行使促進に向けた取り組み

株主総会で過半数の定足数を確保するために、どの企業も努力しているが、その努力の在りようも様変わりしてきた。かつては、総会前に手分けして金融機関などに行使を頼む程度で事足りていた。しかし、最近、当社では、金も人手も知恵も投入しての定型業務として定着した感がある。平成12年3月末日現在の当社の株主構成は、機関投資家(外国人と国内生保・信託の合計)は57%であり、他に個人株主が25%となっている。この状況で、仮に昔のようなやり方をやっていたとしたら、極めて危険な状態になるであろう。
当社では、この2年間、約63%の行使率という好成績を達成しているが、そのための具体策をご紹介したい。
ポイントは、やはり外国人株主対策である。外国人の場合、ノミニー名義が通常なので、名簿上の株主から如何に議決権行使担当者を割り出していくかにノーハウがある。そのために、手を抜かず地道に、何回も行使促進を呼びかける組織力のある専門業者と契約している。
ただ、注意を要するのは、業者に任せたら終わりということではなく、企業の準備・協力体制とが相まって効果が上がるということである。例年2月に株主名簿を業者に提供することから作業が始まる。その後、招集通知の英訳やホームページの掲載もするが、何といっても効果的なのは招集通知発送の大幅な前倒しである。総会日との間隔があくことで、何度もコンタクトする機会が増えるからである。この観点から、今年は株主総会の27日前の6月1日に発送し、ちなみに決算発表も4月28日に前倒しした。
このほか、当社が力を入れたのは、国内の約300社程度の投資顧問会社に対する行使促進の呼びかけである。議決権行使担当者の調査、招集通知や決算短信の送付、総会日の連絡など、きめ細かく実施した。ただ、国内の機関投資家の行使率は高いので、IRの観点を別にすれば、これは必須ということでもないだろう。
今年は、外国人の行使率が、原因不明であるが10%弱低下したように、努力しても来年は大丈夫という保証はない。株主構成が変われば手の打ちようがないことも想定されるので、定足数緩和の早期実現を期待している。


(東京海上火災保険)
株主総会の議決権行使の促進、参加向上に向けた取り組み

まず、当社は「議決権行使促進の目的」について、当社は次の二つであると整理している。第一の目的は定足数の確保である。この観点からは、定款変更等の特別決議における定足数である「発行済株式総数の過半数」を常に獲得することを目指している。第二の目的は、資本コストの削減である。株式の持合いは、いわば収益を生まない資本の使用であり、議決権行使の促進を限界まで押し進めることにより、資本コストを削減することが必要である。
議決権行使の促進策を検討するにあたっては、株主構成の変化を踏まえる必要があるが、当社においても (1)外国人持株比率の増加、(2)信託名義(信託財産)の増加、および(3)個人株主の増加(今年度)という、世間同様の傾向がある。いずれも議決権行使率の低い株主グループの増加であるが、それが故に改善余地も大きく、議決権行使促進の主要ターゲットとすべきと考えている。
具体的な取り組み等は以下の通り。

  1. 対外国人株主:議決権行使に関する外国人株主からの最も多い要望は、招集通知の早期発送による情報の早期提供であると言われている。当社は、数年前より招集通知の早期発送に取り組み、印刷業者・証券代行・当社の3者がギリギリの努力をすることにより、今年度6月1日の発送を可能とした。(総会日は6月29日。)また、当社は、ADRホルダー向けに招集通知の全文英訳を作成しており、これを他の外国人株主にも提供している。
  2. 対信託銀行(信託財産)等:従来、議決権行使の個別依頼を信託銀行に対し行っていたが、その効果は極めて小さく、個別社の努力としては手詰まりの感があった。しかし、昨年あたりから、生命保険会社の一般勘定・特別勘定、あるいは信託銀行の年金信託勘定での保有株式について議決権を行使するという動きが出てきた。「受託者責任」の観点から、議決権行使を通じて投資先の経営をチェックする趣旨ではあるが、遵法経営を推進する限りにおいては、議決権行使率の上昇要因として望ましいものと考える。(当社の促進策ではないが、影響が大きいので記載した。)
  3. 対個人株主:個人株主が招集通知の封筒の開封すらしないことが多いという実態に鑑み、今年度から封筒の外側に「議決権行使のお願い」を記載することとした。
以上の議決権行使促進に向けた取り組み等により、安定株主比率の減少傾向にもかかわらず、ここ数年で当社の議決権行使率は若干アップし、現在70%を少し超える状況にある。


(日産自動車)
株主総会活性化のための取り組み

当社では、株主総会は株主との大切な対話の場であるとの認識の下、株主総会活性化のための取り組みを積極的に行っております。
まず、開催日でありますが、株主が出席しやすいように一昨年(平成10年)から一斉開催日をはずして開催しておりますが、さらに本年は開催日を大幅に早めました(6月20日(火)に開催)。このように大手企業の先頭を切る開催に踏み切ったこともあり、本年はさらに多くの株主の出席を得ることができました。(出席株主数;平成9年...204名、10年...431名、11年467名、12年606名)
次に、株主への説明でありますが、株主により理解を深めてもらう目的で、従来から営業報告はマルチスライドにより行っておりましたが、株主の視覚により訴えるべく、昨年よりビデオを採用し、さらに今年からはパワーポイントによる説明を加えるなど、株主サービスの一層の向上を図ってまいりました。
さらに、株主が発言しやすい会場の雰囲気作りにも取り組み、「議事進行」や「了解、異議なし」等の発声を行わず、また事務局のニーズによる座席の指定もやめております。
また、本年より日〜英の同時通訳を行い、株主と外国人取締役の質疑応答や外国人株主からの質問に備えました。
なお、マスコミの皆様には、会場が狭いため、別室を用意し、TVモニターにより総会を傍聴できるようにいたしました。
そして、上記のような事務局側の準備に加え、株主総会当日は、挙手した株主全員を指名するとともに、最後まで発言を打ち切らず、株主と辛抱強く対話をする経営者の姿勢を示しました。
しかしながら一方で、これに乗じて、プロ株主などが長時間発言し続けるなどの弊害も起こっており、より一層、オープンかつフェアな株主総会とするためにも、1人1回当たりの質問時間・質問数や発言順の決定方法などのルールを作るなど、質疑方法に工夫を凝らす必要性を感じております。


(小松製作所)
株主懇談会の取り組み

当社では、平成9年から株主懇談会を開催している。開催する目的は「IRの一環として、直接のコミュニケーションを通じて株主に最新の情報を提供し、当社への理解をより深めて頂く」ことにある。株主が数万人を超え、地方在住者も多い会社においては、年一回の株主総会では株主とのコミュニケーションを図ることは中々困難であろう。この原因の一つに、株主総会開催場所については商法の制約があることも確かである。
このため当社では、主要事業所の所在地を中心として周辺4〜5府県の株主を対象に、株主懇談会を開催するととしたが、準備の都合もあり当初は年2か所での開催となった。主要事業所所在地であれば、株主も自ずと多く、事業所見学を組み合わせることなどによって、多数の来訪者が期待できるからである。
初めての試みでもあり、来訪者数が少ないことも懸念されたため、地元の自社取引先やOBに積極的に勧誘をしたこともあったが、実際には多数の一般株主の参加を得てかなり盛況で、来訪者の評判も良かった。
当日は、当社のPRビデオの上映、役員による経営状況報告、質疑応答等で約2時間程度をかけている。その後、昼食をとりながらの懇談や、工場見学等(希望者のみ)を行って解散というのが標準的なスケジュールである。
株主懇談会を開催するにあたって、当社が注意したのは「株主平等の原則」との齟齬を来さないことであった。これには、二つのポイントがあって、第一は、情報開示の問題である。当日は、会社概要やアニュアル・レポートといった、通常は株主には配布しない資料(勿論、一般に要望があれば無料で配布している)を配るとともに、役員が説明するので、インサイダー情報等にも注意しなければならない。次に、来訪者に提供する昼食や手土産の問題であるが、こちらについては、株主総会来場者に対し、各社が提供するお土産(当社では一切提供していない)の金額等を勘案し、社会的儀礼の範囲内で提供することとしている。これらの問題については、事前に顧問弁護士にも相談し、慎重に準備した。
今後は、開催地を増やす等、開催頻度を高め、一層、株主とのコミュニケーションを充実させるよう努めて行きたい。


(東京ガス)
株主意思の吸い上げに向けた取り組み

株式発行会社では、通常、株主総会の招集ご通知や配当金支払通知書など、年に数回、株主様あてに文書を郵送している。法定事項を過誤なく実施することはもちろんだが、多数の株主様に支えられている会社にとっては、会社からのメッセージをくまなく伝達する貴重なチャンスでもある。
当社では、平成4年度から「株主通信」を発行してきたが、平成11年度から中間および期末の配当金支払通知書の郵送に併せて、「東京ガス通信」というB5変形版24ページ(二つ折りで定型郵便封筒に入るサイズ)の小冊子を、年2回株主様あてにお送りしている。内容は、貸借対照表や損益計算書等の決算情報の他、社長インタビューや会社のトピックス、くらし情報などで、巻末にこの小冊子に関するアンケートハガキ(料金受取人払)をつけている。
アンケートハガキは、毎回、発送数の約3%が返送されてくる。質問項目の最後に、その他ご意見ご感想欄を設け、自由に書いていただいているが、株価の動向、株主への利益還元、技術開発状況、トップへの期待など、前向きなご質問、ご意見が多く寄せられている。株主総会直後の夏号では、株主総会にご出席されていた株主様数名から、総会の運営方法についてのご意見も寄せられた。ご質問については、できる限り封書で回答をしており、数の多い質問については、次号の「東京ガス通信」で回答を掲載している。
当社では、3年前からIRグループを設置し、選任の担当者を置いている。前述の活動の他に、アナリスト、ファンドマネージャー向けの中間・期末決算説明会や、スモールミーティング、施設見学会などを適宜開催し、経営トップが直接、株主の声を聞き、コミュニケーションを図れる場を設けるなど、IR活動に力を入れている。
また、今年の株主総会では、休憩コーナーに「株主様ご相談所」を設置してみた。聞きたいことがあっても株主総会の中で発言するのは、なかなか難しいと思われるので、気軽に質問できる場を用意しようという趣旨である。日常の業務上のトラブルなどが多くよせられるのではないかと想定していたが、実際には、利益処分案の個別項目についてや株価の動向、新製品の開発状況など専門的な質問が相次ぎ、来年は、経理、商品開発の専門家も配置しようと考えている。


(東京電力)
監査役機能の充実に向けた取り組み

当社の監査役監査は、昭和49年の商法改正により監査役に業務監査権が認められる以前から、取締役とともに会社の健全な発展に貢献するという基本姿勢のもとに、適法・的確性、効率性、社会性の視点から業務監査、会計監査を実施してきている。
昭和49年の商法改正を受けて、当社では、昭和50年にいち早く「監査役会」を設置するとともに、上記スタンスに沿って、監査実施のよりどころとして「監査の基本要綱」を監査役会において決定している。また、常勤の監査役による「常任監査役会」を週1回開催し、情報の共有に努めている。社外監査役を含む監査役会の議長(監査役会長)は、監査役の互選で決定されるが、歴代、副社長経験者がその職に就き、これが結果的に監査役の経営監視機能の強化に寄与してきている。監査役会では、重要会議の審議内容、主要な調査結果等について報告と意見交換が行われる。社外監査役は、監査役会等で社外の視点からの指摘を行うのみならず、自ら必要と思われる箇所への往査を実施し、年1回調査所見として取りまとめたものをを監査役会で報告している。当社の監査役は現在7名、うち常任監査役(常勤)5名、社外監査役(非常勤)2名である。
具体的な監査は、「監査実施準則」(監査役会決定)に基づき、取締役会はもとより、常務会等の重要会議への出席、重要書類(承認書等)の閲覧、本店各部門からのヒアリング(各部年1回)、事業所への往査等による。監査に際し、各部門の出身者からなる監査役業務部員14名が、監査役の専属スタッフとして監査役を補佐している。監査結果については、上記常任監査役会、監査役会等を通じて随時情報交換を行っており、法定の監査報告書に反映されることとなる。これに加え、年2回(12月、6月)、経営トップとの懇談会を実施し、監査の結果・所感に基づいて、必要な意見交換・提言を行っている。また、その内容については、各主管部門において検討のうえ、監査役に対し、対応状況の報告を行うこととなっている。
グループ経営の重要性が増すなかで、グループ経営に関する効率的・効果的監査のあり方の検討が現在の主要な課題となっている。


(ソニー)
執行役員制、社外取締役制の取り組み
取締役会機能の強化を目指して

ソニーは、1997年6月、取締役会の改革を行い、以来、様々なコーポレートガバナンスの強化施策を実行してきた。執行役員制と社外取締役制は取締役会の改革を進める上での主要施策に位置付けられる。
取締役会改革の目的は、多様な事業群がグローバルに展開するソニーグループの経営を束ねる中枢機構(グループ本社)を確立し、株主企業価値創造を目指したコーポレートガバナンスの機能を強化することにある。取締役会はグループ本社の中核に位置付けられ、その役割は、商法が要請する責任に加え「グループとしての経営方針の決定と、各事業主体の経営の監督」と定められた。
取締役会の新たな役割に照らし、構成メンバーも見直され、従来の取締役のうち、主に個々の事業の執行の任にある者(各組織の長である使用人兼務取締役)は、新たに設けた「執行役員」に任命され、グループ全体の経営に専心できる立場にある者のみが取締役として選任された。その結果、当時38名であった取締役は10名となり、取締役会の規模の適正化も実現した。また、従来2名であった社外取締役を増員し3名とした。なお、2000年9月時点での取締役数は12名(内社外取締役は3名)である。

● 社外取締役の役割
ソニーが社外取締役制を導入したのは1970年であるが、97年の改革に際して改めて社外取締役の役割が見直された。社外取締役への期待は、ソニーグループの事業領域がますます多様化する中で、社内取締役にはない経験・知識・専門性を持った人材が取締役会に加わることで、議論・経営判断の質を高め、監督機能を充実させることである。
● 執行役員制
ソニーにおける執行役員の定義は、取締役会によって選任され、代表取締役の指揮のもと、業務執行をそれぞれ分担しておこなう責任者(上級使用人)とされる。その役割は、事業主体、専門サービス部門、研究所等の業務執行など、個々の担当業務の推進である。選任は、個々の事業主体、専門機能領域の執行責任者で、その職責を十分満たす業務執行能力と実績を有する者の中から 、候補を指名委員会が推薦し、取締役会が選任する。現在の執行役員数は42名である(内6名は取締役と兼務)。
ソニーは従来、社内分社制(カンパニー制)など各事業主体への権限委譲を進めてきたが、執行役員制を自律・分権的な経営モデルと組み合わせることで、事業競争力強化を図ることができるものと考える。


(日本精工)
報酬委員会、社外取締役等の取り組み

当社では、経営環境の変化の中で効率的でスピーデイなグローバル経営を目指して、昨年「経営の意思決定」と「業務執行機能」とを分離し、取締役会のあり方を見直すと共に執行役員制を導入した。
執行役員制の導入と同時に「意思決定方法」の見直しを進めて、グループ経営力の強化を目指して来たが、取締役会についてはスリム化を図りながら、コーポレートガバナンスの強化という視点から社外取締役を招聘し、また社外取締役を委員長とした報酬委員会を新設して、執行役員の目標管理や新しい報酬制度を導入して来た。

  1. 社外取締役によるコ−ポレ−トガバナンスの強化
    昨年より当社では経営に関して豊富な経験を持つ社外取締役を招聘したが、まず取締役会における議案の提案方法や審議方法が一変し、さらに、外部の全く別の視点からの問題提起や指摘によって議論が活発化して、最終的な意思決定に至るまでの経営の透明性を高めるという面から取締役会の改革を大きく前進させて来ている。
    一般的に、社内情報が少ない社外取締役は、複雑な背景を持つ個別案件では、その議論に全面的に参加することは難しいと言われているが、例えば地域社会や環境問題、カントリーリスクや危機管理など、社内取締役だけでの同質性の高い議論の中では、ともすれば見逃し勝ちな視点から貴重な問題提起を受けることが多い。
    当社が今回招聘した社外取締役は、取締役就任前に顧問として既に二年間執務しており、この二年間に蓄積された社内知識を活用しながら、また自らの豊富な経験と社外人脈を活用しながら、現在では報酬委員会の委員長をはじめ、NSK経営塾(シニア・ボード)、次代委員会(ジュニア・ボード)の世話人等、人材育成の面でも大きな役割を果たしつつある。社内取締役にはない経験、知識、専門性を持った人材が取締役会に加わることで議論の質を高め、コーポレートガバナンス機能の面からも、社外取締役の導入は取締役会改革の重要なポイントとなっている。

  2. 報酬委員会の新設
    報酬委員会は、取締役会をサポ−トする専門委員会として、取締役及び執行役員の報酬制度と報酬総額について、社長に諮問しさらに取締役会に答申する機能を持つ。
    そのメンバ−は社外取締役を委員長とし、管理部門総括専務と人事担当専務及び人事部長で構成し、外部コンサルタントをアドバイザーとして毎月一回開催してきた。
    初年度は、報酬体系の全面見直し、業績にリンクしたメリハリある賞与と業績評価制度の確立、また株価を意識した経営を目指して長期インセンテイブとしてのストック・オプションの実施に取組んで来た。
    役員報酬制度の見直しは、執行役員会と取締役会の改革に大きなインパクトを与えているが、さらに、中期的な組織のあり方や人材育成、連結経営力の向上など、事業基盤の強化そのものに直結した課題が多く、今後も引続きこの委員会を充実させることが連結経営力の強化に繋がると考えている。


(三菱化学)
経営体制改革について

企業の実力が連結業績で評価される時代を迎えて、わが社では、グループ経営に合致した経営システムの構築を図るため、平成11年6月末に執行役員制度の導入等経営体制の改革を実施した。この改革は、取締役会がグループ全体の経営戦略の決定と業務執行の監督を担い、執行役員が各担当分野における業務執行を担うという位置付けをはっきりさせることにより、意思決定や業務執行の迅速化、経営戦略の明確化を図るためのものであり、将来の持株会社制への移行も視野にいれたものである。
執行役員制度導入前には、わが社には36名の取締役がおり、その多くは各部門を代表する取締役であったため、担当部門の利害を優先しがちで、他部門のことには遠慮してあまり口を出さない、また、取締役の員数が多すぎるため実質的な議論を行うことが困難であり、ややもすると取締役会は形骸化しがちであった。化学業界においても、世界的な再編が進み、国際競争が一層激化している中、わが社も「選択と集中」の基本方針の下、少人数で徹底的に議論して確固としたグループとしての経営戦略を打ち出すことが必要であった。そのため、取締役のメンバーを8名(現在は9名)に絞る一方、執行役員が各自の担当部門の業務執行に専念する体制とした。
また、わが社は、平成6年から事業部制を発展させた形でカンパニー制を導入しているが、昨年の経営体制の改革に合わせて、グループ経営強化のために主要グループ会社を社内の各カンパニーと同列に置いた経営を行うこととし、グループ各社のわが社グループにおける事業の戦略上の位置付けを明確化し、それを踏まえた事業展開方針を策定するとともに、グループ各社のミッションを決め、その達成に責任を負わせるようにしたが、本年はさらにそれを進め、グループ会社それぞれの目標達成度を幹部の処遇に一層反映していくこととした。
このような経営体制の改革は、少なからずコーポレート・ガバナンスの強化につながっているものと確信しているが、今後とも、企業の透明性をより高めていくための諸施策を検討し、適宜実施していくことが必要であると考えている。


(トヨタ自動車)
アドバイザリー・ボード

わが社では、1996年より、世界トップレベルの有識者・実務家の方々から当社が抱えている経営課題等についてご意見、ご提案をいただく場として、「インターナショナル・アドバイザリー・ボード」(IAB)を設置しており、2000年9月までに計7回の会議を開催した。
IABは、アジア・欧州・米州の政府あるいは企業経営にかかわる総勢10名のメンバーで構成される。その出身国は9ケ国(アメリカ、ベルギー、カナダ、シンガポール、イギリス、インド、ペルー、中国、ドイツ)に跨り、元米国FRB議長のP.ヴォルカー氏をはじめ、国際経済・政治・ビジネス分野の著名で多彩な顔ぶれである。
年1〜2回開催する会議では、地球規模から地域固有の問題に至る様々な経営課題について、当社経営陣(副社長以上が全員出席)と議論を交わしている。これまでの開催場所は、日本国内が5回、海外(米国)が1回となっている。
会議には2日をかけ、各地域毎あるいは特定の分野に関するテーマを扱うセッション(分科会)、ならびに、より包括的なテーマを扱うセッション(全体会議)を適宜組み合わせて実施している。
過去のテーマ例をご紹介すると、分科会では「EU/EU主要国の産業政策の現状と将来」「地球環境問題の今後の見通しと産業・企業経営への影響」などであり、全体会議では「今後10年におけるグローバル企業の機会と責任(Opportunities and Responsibilities)」「日本企業(及び当社)のコーポレートガバナンスの姿」といったテーマを採り上げている。
進め方としては、当社からプレゼンテーションを行った後に、アドバイザーの方からご意見をいただくという形を取る場合もあるし、アドバイザーの方から地域の現状の報告、当社へのアドバイスをお話ししていただいてから議論するなど、テーマに応じた工夫をしている。
なお、会議の前後を利用して、当社工場・研究所の見学を行い、アドバイザーの方々に事業活動への理解を深めていただくとともに、できるだけ自由闊達な議論ができる雰囲気作りに努めている。


(三菱商事)
IR活動の取り組み

わが社は市場に評価される経営を目指しており、この一環としてIR活動に注力している。経営トップが積極的にIR活動を推進することによって、株主に対するアカウンタビリティーを果たし、結果的にコーポレート・ガバナンスの推進にもつながっている。
わが社におけるIR担当部局は、本年4月に全社経営組織として設立された戦略本社の中で、経営戦略の企画・立案等の経営中枢機能を担う経営企画部内に設置した。これは、IR担当部局が経営に近いところにいることが重要であると認識の下に組織作りを行ったものである。会社情報の適時開示と、それに対する投資家など社外の意見を迅速に取りいれることが、質の高い経営を進めていくためには不可欠と考えている。
尚、昨年6月から本年3月末までのIR活動の内容について紹介すると以下のとおり。

  1. 国内外における決算説明会等 国内外の決算説明会/会社説明会/スモール・ミーティングに経営トップが率先して出席し、経営内容等の開示に努めている。具体的には以下のとおり。

    (1) 国内における決算説明会等(アナリスト・機関投資家等対象)
    1. 決算説明会:2回開催(昨年6・11月)
    2. スモールミーティング(わが社主催):2回開催(昨年6月、本年3月)
    3. スモールミーティング(証券会社主催):6回開催(昨年6・7・11・12月、本年3月(2回))
    4. 会社説明会(証券会社主催):3回開催(昨年7月(3回))
    (2)海外(欧州・米国)における会社説明会
    海外機関投資家を対象とした会社説明会を、欧州(昨年9月)、米国(昨年10月)において開催。(欧州においては、1989年に総合商社としては初めて、ロンドンとパリに株式を上場している。)

  2. その他の主な活動

    1. ホームページにおける投資家情報の一層の充実
    2. 機関投資家からの個別の会社訪問(年間約120社)への対応
    3. 「株主通信MC-IN」の発行:年2回(昨年8月と本年3月)

上記の取り組みの成果として、日本証券アナリスト協会が選定するディスクロージャー優秀企業の商社部門において、わが社は5年連続1位となっているほか、外国人持株比率についても本年3月末で昨年同期からさらに4.2%アップして、18.1%となった。


(東レ)
IRの取り組みについて

当社のIRの狙いは、(1)適正な株価,格付けの維持、(2)当社経営に対する株主・投資家の理解促進、そして(3)市場の声を経営行動に反映させることなどである。資金調達が直接金融にシフトし、持ち合い構造も変質する中で、新たな安定株主を確保して行くための活動は必須であり、それをより強化して行く必要がある。当社は1998年、決算短信、事業報告書における財務諸表の連単比較、セグメント情報などの工夫開示により、東京証券取引所の「第3回ディスクロージャー表彰」を受賞したが、株主・投資家に対する適時適切な自主的な情報開示活動を先取りして実施してきたことが評価を得たものと考えている。当社の具体的なIR活動としては、半期毎に100人を越えるアナリストを対象に実施している決算説明会に加え、証券会社、投資顧問会社、機関投資家との経営方針・業績見通しなどに関するIRミーティング、工場見学会、特定テーマの説明会などを実施しており、さらに海外では1974年以来欧米の主要金融都市で投資家向けのインフォメーションミーティング、有力投資先などへの個別訪問を実施し、社長自ら説明を行っている。
また、当社では、IR活動の経営における重要性からIR統括役員を発令するとともに、1999年3月、社長直轄の広報室にIR専任組織としてIR課を発足し、併せて総合企画室、財務部、経理部、総務部の部課長を兼務発令した。それまでも関連する部署が連携して株主ならびに投資家対策を行っていたが、社長(CEO)が、率先してのIR活動を行っており、社内の関心が高まったことは、大いなる前進であった。
株主重視の経営が強く言われているが、同様に取引先、社員、地域社会も極めて重要なステークホルダーであり、企業が社会的存在としての役割期待を果たしていくことも重要であることを忘れてはならないと考えている。また、企業価値が時価総額のみで評価されかねない風潮に対し、株主や投資家が惑わされることなく的確に企業価値を評価できるように、より一層適時適切な情報開示に努めていきたい。さらに、安全、環境、衛生、倫理などの経営の根幹的な部分での監視を強化し、巨大化しつつある企業リスクをマネジメントすることが益々重要になってきた。
IRの成果は、企業へのリスクをいかにコントロールすることが出来るかによって、大きく左右される。企業リスクをコントロールするとともに、時代に即して企業実態を変革し続けること、フォローアップに耐え得る経営計画を策定・実行すること、タイムリーかつ公平・公正な情報開示を行うことなど、IRの強化に向けて取り組むべき課題は多いが、経営の最重要事項としてグローバルな観点から前向きに取り組んでいく所存である。


(オムロン)
カンパニー制の取り組み

  1. カンパニー制導入の目的 当社は、取締役・取締役会の改革、執行役員制の導入、グループ本社の構築等の経営システム改革の一環として、カンパニー制を1999年度に導入しました。その目的は、企業規模の拡大に伴い社内で生まれた「もたれあいの構造」の風土を払拭して事業運営の自立化を進めるとともに、意思決定を迅速化して組織の機動力を高めることにより「事業の最強化」を図ることにありました。このため、経営と事業執行を分離し、事業執行を担うカンパニー社長には大幅な権限委譲を行うとともに、経営に対して行ったコミットメントについての結果責任を明確にしました。また、当社におけるカンパニー制は将来の持株会社構想を視野に入れた擬似分社的運営とも位置付けています。

  2. 制度の概要

    1. 体制は、従来の事業本部体制を次のような「5カンパニーと1事業本部」に再編成しました。
      カンパニー名主な事業内容売上高
      (億円)
      従業員数
      (人)
      インダストリアルオートメーション
      ビジネスカンパニー
      制御機器、センサー、コントローラー24364400
      エレクトロニクスコンポーネンツ
      ビジネスカンパニー
      スイッチ、リレー、コネクタ、車載電装部品6832800
      ソーシアルシステムズビジネスカンパニー 電子決済システム、駅務システム、
      交通管理システム
      12854400
      ヘルスケアビジネスカンパニー 健康機器、医用機器426480
      クリエーティブサービスビジネスカンパニー 物流、広告宣伝、人材派遣723560
      事業開発本部 カードリーダ、パソコン周辺機器1160
      *売上高は2000年3月期の連結実績値
      *従業員数は国内の連結対象会社の概算値

    2. 権限については、各カンパニー社長に付与するカンパニー内の人事権、組織改廃権、事業施策の決定権、投資案件の決定権限などを大幅に拡大しました。
    3. 本社機能の移管も行いました。具体的には、各カンパニーが事業の自立運営に必要な機能をすべて自前で保有することを基本に、人事、財務、監査、法務、知的財産権などの機能を(一部本社に残して)各カンパニーに移管しました。
    4. 意思決定に関しては、カンパニー社長の決裁権限範囲内であれば、事業運営上の意思決定はすべてカンパニー内で完結させる運営としました。

  3. 成果と課題
    「意思決定のスピードアップ」「収益・キャッシュフロー重視の意識の向上」等の効果が顕著に現れ始めています。今後の課題として、さらにカンパニーの自立運営を加速し、将来の持株会社構想の実現にむけて、企業価値の拡大にいっそう取り組むとともに、早期にカンパニーごとの業績評価制度を整備する必要があると考えています。


(キヤノン)
グループ経営の取り組み

わが社は、多角化とグローバリゼーションをポリシーとして掲げ成長してきたが、96年に中期5カ年計画「グローバル優良企業グループ構想」を打ち出し、グループ経営の強化に着手した。
まず、キヤノングループ全体を優良企業化するための経営戦略指標として、連結決算を重視し、連結事業本部制を採用した。従来の単体ベースの事業部制では、販売子会社に製品を売れば事業部の売上になったが、連結事業本部制では、販売子会社が第三者に製品を販売してはじめて事業本部の売上になるため、事業本部長は販売子会社と緊密なコミュニケーションを図るようになった。その結果、事業本部はより正確な市場情報を直接入手できるようになり、さらにそれが開発や生産に生かされるようになった。こうして、グループ全体で物事を見る連結思想が浸透した。
次に、変化の激しい時代に勝ち残るためには今後多くの投資が必要になってくるが、その資金を自己資本でまかなうため、キャッシュフロー経営を目標に掲げた。工場では、在庫になるような無駄なものを作らせず、連結ベースで年間1000億円ほどの削減効果が出た。また、生産現場をライン生産方式から、一人が多工程を受け持つセル生産方式に切り替えたことにより、状況に応じた生産調整が可能になり、棚卸資産の削減につながった。
さらに、キヤノングループが優良企業グループとなるためには、グループを構成する各社が優良企業にならなければならない。そこで、子会社の独立性を高めるべく、94年以降積極的に子会社の株式を公開するとともに、「親子から兄弟へ」とのスローガンの下、各グループ会社がキヤノン本社の下請け企業ではなく、独自の技術を持った独立会社として優良企業化するよう、その体質強化に努めている。
以上の成果を踏まえ、わが社では、2001年から「グローバル優良企業グループ構想」のフェーズIIをスタートさせる。このフェーズIIでは、欧州、米州、日本を含むアジアの三極に本社を設立して三極体制を敷くとともに、シナジー効果を高めるべくグループ企業の統廃合を進め、効率化や企業価値の極大化に向けてグループ経営のさらなる強化を目指していく所存である。


(イトーヨーカ堂)
風通しのよい組織づくりについて

当社は歴史の浅いサービス業である。昭和30年代半ばから事実上の会社づくりが始まり、20年ほどで、ほぼ現在の形になった。
従って組織は仕事を進める必要に迫られて自然発生的にできてきたものであるし、ヒトも仕事中心で動かしている。必然的に、きわめてフラットな、本社機能の小さい組織になった。別の見方をすれば、いまだに会社の体をなしていない、と思われる面も多々あるのが現実である。それでいいと私は考えている。
組織がフラットで、本社が小さければ当然、風通しはよくなる。創業者社長の時から、何か問題があると社長は役員を通り越して担当部門の責任者に電話してきた。報告する時、その部門を統括する役員が一緒に行くと、注意されたものだ。二代目の現社長も(まだ二代目だが)同じようにしている。ただ現社長は、役員は担当部門のあらゆる課題を把握していなければならない、といっているから、役員を呼ぶこともある。
ただ、そんな当社も最近、風通しが悪くなったと感じることがある。従業員の平均年齢が年とともに高齢化し、悪平等、責任の不在も見られるようになっていると考えている。
フラットな組織で各セクションが肥大化した時、全体としての動きが遅くなる。
従って私たちが現在、留意しているのは、

  1. 法令・企業倫理、清潔、誠実、公正な行動、を基本とした社内ルールの遵守
  2. 顧客、株主などステークホルダーへの透明性を高めること、情報開示
  3. 社長のリーダーシップのもと、組織を超えた議論と協力、情報交換を密にし、セクショナリズムを排除すること
  4. 監査役、役員やスタッフ部門はもとより、全社員が社内のどんな問題にも口を出して注意しあい、改めること
  5. こうした社風の教育をすべてのセクションの長、店長に義務づける
などである。
パート、アルバイトを含め何万人もの従業員にこれらを徹底することは容易ではないが、しかし徹底すべきだ、と私たちは考えている。お客様から見た時、アルバイト社員であろうが役員であろうが、そんなことは関係ないのだから。


(松下電器産業)
労働組合の経営参加の取り組み

わが社は労使関係の基本を信頼関係においている。これを如実に表現するものとして「車の両輪」「対立と調和」という言葉が永らく語り継がれている。
この信頼関係を確立するため労働組合の結成当時より「経営懇談会」を設置し、また初の労働協約に「経営協議会」として明確に位置付けをするなど労働組合の要求する経営参加権の具現化に理解を示してきた。とりわけ1978年に事前協議を明確に協定した「経営参加制度」は大きな特徴といえる。
その内容は、わが社では、重要な経営政策課題について「経営上の重要政策の決定に際しては事前に労働組合の意見を聞く」というもので、その具体的な場が「経営委員会」「職場運営委員会」である。
経営委員会は中央(本社)・分社・事業場それぞれのレベルで原則として毎月開催される。構成メンバーは中央レベルであれば、会社は社長および社長が認めた者で組合は本部3役である。付議事項としては当該年度の経営方針・事業計画、事業の大規模な拡大・縮小、重要な組織変更、重要な経営施策などとしている。一方、職場運営委員会は生産販売計画、レイアウト、職場環境など日常の職場運営上の諸問題について労使が話し合うもので、原則として2ヵ月に1回程度開催し、構成メンバーは当該職場の責任者(部課長)と組合(支部委員および担当執行委員)である。
これに、会社が意思決定した事項の実現に当たり労使が具体的に検討・協議する場である、労使協議会の制度を合わせて経営参加のシステムをつくりあげている。(別紙参照
経営委員会においてはこれまで、数々の経営改革、各種制度の導入・改定他経営施策の実施に際して組合の意見を聞くとともに、組合からは節目において経営提言を受けてきた。また、この制度は企業運営の客観性や透明性を高めて企業の社会性を追求するという労使共通の目的からもコーポレートガバナンス推進の一翼を担っているといえる。
昨今の変化の激しい、また迅速な意志決定を迫られる局面においても、この経営参加制度を堅持し、事業運営について労使が共通の認識に立ち協同して諸課題に臨んでいく。

(別紙)わが社の経営参加制度・労使協議会の形態


日本語のホームページへ