[経団連] [意見書]

電気通信審議会IT競争政策特別部会第一次答申草案への意見

2000年11月30日
(社)経済団体連合会
情報通信委員会

電気通信審議会IT競争政策特別部会第一次答申草案への意見の公表について

 経団連情報通信委員会(委員長:岸 曉 東京三菱銀行会長)では、本年9月に「電気通信分野における競争促進法の早期実現に向けて」をとりまとめるなど、通信分野において利用者利益と自由かつ公正な競争の確保のための抜本的な立法措置を次期通常国会中に行なうよう、関係各方面に働きかけております。

 去る11月16日、郵政省の電気通信審議会IT競争政策特別部会は、通信分野の競争促進策関して第一次答申草案を公表するとともに、意見募集を実施いたしました。そこで、当委員会では、以下の通り、意見をとりまとめ、特別部会に提出しましたので、公表いたします。

【本件に関する連絡先】
(社)経済団体連合会 産業本部
〒100-8188 千代田区大手町1-9-4  担当:森島(内線3837)
電話:03-3279-1411 FAX:03-5255-6257
e-mail:joho@keidanren.or.jp

  1. 基本的考え方
  2. 国民や産業界が、急激に進展するIT革命の成果を十分に享受できるかどうかは、通信分野における自由かつ公正な競争環境の整備如何にかかっている。
    わが国産業ではグローバルなレベルでの競争が激化し、国民のインターネットへの関心も急速に盛り上がる中で、通信の利用者は低廉で多様なサービスの提供を強く求めている。また、わが国通信産業の国際競争力を強化するためには、国内の規制や政策面での保護でなく、自由かつ公正な競争の徹底を通じて、通信事業者自身が顧客ニーズや環境変化への対応力を更に磨く必要がある。
    経団連では、これまで、主として通信ユーザーの観点から、通信分野において利用者利益と自由かつ公正な競争の確保のための抜本的な立法措置を次期通常国会中に行なうよう関係各方面に働きかけてきた。
    その意味で、今般、電気通信審議会が、通信分野の競争促進策に関する第一次答申草案を公表したことを評価したい。草案は、競争促進に当たって現行の電気通信事業法を前提としているが、現行法は事業者の事業運営を適正かつ合理的なものとする「事業規制法」の体系となっており、国家が通信を管理する色彩を強く残している。
    通信分野の競争促進のための制度改革において、最も重要なのは、利用者利益の最大化に向けて、競争が機能する環境を整備し、利用者が自らのニーズに合ったサービスを選択できるようにすることである。そのためには、「事業規制法」から、IT時代に相応しい、利用者利益の最大化と自由かつ公正な競争の確保を図る「競争促進法」の体系へ転換すべきである。とくに、法の目的への「利用者利益の最大化」「自由かつ公正な競争の確保」の明記、事前規制の抜本的見直しと事後チェックの仕組みの整備、回線設備の調達方法を制約している一種・二種事業区分の廃止、市場支配力の有無に着目した規制体系の導入、行政の透明性の確保等を早急に実現する必要がある。

  3. 競争促進法の整備に向けて〜電気通信審議会第一次答申草案へのコメント〜
    1. 法目的と行政の競争促進義務の明記
    2. 現行の電気通信事業法は、「電気通信事業の運営を適正かつ合理的なものとすること」を直接の目的として、それにより「電気通信の健全な発達及び国民の利便の確保を図り、公共の福祉を増進する」こととされている。これに対して、草案では、電気通信事業法の目的に「事業者間の公正競争の促進」を盛り込むべきとしているが、さらに一歩進んで、諸外国と同様、「利用者利益の最大化」「自由かつ公正な競争の確保」の2点を法の第一の目的として掲げ、「事業の適切・合理的な運営」については、市場での競争、利用者の選択に委ねるべきである。
      また、諸外国では、有効競争の維持・促進を行政の責務としているケースもある。わが国においても、同様の規定を設けるとともに、行政に対して、透明な手続きによる法令の運用・紛争裁定などを義務づけるべきである。

    3. 事前規制の抜本的見直しと事後チェックの充実
    4. 現行の電気通信事業法においては、第一種電気通信事業者は、事業許可を受けなければならず、その際、役務種類、業務区域、電気通信設備の概要等を記載した申請書や事業計画書、事業開始から5年内の事業収支見積書等を提出し、経理的基礎・技術的能力の有無、事業計画の合理性などがチェックされることになっている。また、事業参入後に、新サービス提供等のため、設備、業務区域、役務種類を変更する場合には、基本的に変更許可が必要であり、許可申請には事業開始から5年内の事業収支見積書等を提出しなければならない。技術的条件の認可も必要とされる。そのため、新たなサービス提供に関する許認可の取得時期が予測しにくいことから、新サービスの宣伝活動、事業者間の協定・提携等に支障が出るなど、事業者の柔軟かつ機動的な事業展開の足かせとなり、利用者ニーズは十分に充足されない。草案で、非支配的事業者に対する契約約款、接続協定の認可制を届出制としているが、依然として多くの事前規制が手つかずであり、IT有効利用の障害となる
      情報通信は技術革新や市場の変化が激しく、1年先の状況を誰も見通せない分野である。このような分野では、事前規制は原則撤廃し、公正・透明なルールの整備により事業者の予見可能性を高め、事業者が自由に創意工夫を発揮できるようにする一方、問題が生じた場合には事後的に対応するとともに、必要に応じて新たな競争ルールを整備すべきである。事後チェックとルール型行政とは矛盾するものではなく、先般、IT戦略会議でまとめられた「IT基本戦略」にもあるように、「事前規制を透明なルールに基づく事後チェック型行政に改める」ことが強く求められる
      今、必要なのは、利用者が幅広くサービスの選択肢を持てるよう、多様な通信事業者が、公正競争条件の下で自由に創意工夫を発揮できる枠組みを整備することである。事業者の適正な事業運営を図るための事前規制は支配的・非支配的事業者に拘わらず基本的に撤廃し、利用者の利益や公正競争を阻害する問題が生じた場合、業務改善命令をはじめとする事後チェックの仕組みを充実させるべきである。

    5. 支配的事業者規制の導入
    6. 今般、草案が市場支配力に着目した規制の導入を示したことは評価できる。しかしながら、草案のように、設備保有の有無に着目した一種・二種事業区分に基づく事前規制を抜本的に見直さないままでは、実質的な規制強化となる。支配的事業者規制の導入に際しては、事前規制を基本的に撤廃するとともに、市場の範囲、支配的事業者の定義、支配的事業者への規制などについて、市場の競争実態を十分に考慮して検討すべきである。

    7. 事業区分の撤廃とキャリアズ・キャリア制度導入反対
    8. 現行の電気通信事業法では、設備保有の有無に着目して一種と二種とに事業を区分するとともに、電気通信事業者の回線調達方法を制約するなど、主要諸国に例を見ない規制が行なわれている。とくに、一種事業は回線設備を設置して電気通信役務を提供する事業として、回線設備と通信サービスの一体化が原則とされてきた。また、IRU(indefeasible right of user:破棄し得ない使用権)による回線調達の場合、光ファイバーなどの「芯線貸し(10年以上)」の形態は設備設置、「帯域貸し」は電気通信役務と位置付けられ、一種事業者には電気通信事業者以外からの「10年未満の芯線貸し」と「帯域貸し」は認められていない。また、二種事業者(第一種電気通信事業者以外の電気通信事業者)については、運用上、電気通信事業者から役務提供を受ける事業者と解釈され、「芯線貸し」ならびに、電気通信事業者以外からの「10年未満の芯線貸し」、「帯域貸し」を利用できないとされている。一種・二種事業区分により事業者の柔軟なネットワーク構築が阻害されるため、過去、パッチワーク的に改善措置が講じられてきた。

      1. 事業区分の撤廃

        草案では、一種事業者を許可制の下で規律する一方、二種事業者について自由で多彩なサービス展開が可能となるよう、簡素な規制としていることが適当とされているが、一種・二種事業区分を廃止した場合、どのような問題が生じるのかという視点が欠けている
        本来、設備をどの程度設置するか借りるかは、事業者が自己責任に基づく経営判断として行なうものであり、行政が制約を課すべきではない。
        利用者からみても、一種事業と二種事業のサービス内容や事業特性にほとんど大差はなく、また、二種事業者同様、一種事業者にも自由に多彩なサービスを展開することが期待される。したがって、事業者を区分して回線調達方法を制約する必要性は見当たらない。
        回線調達方法の制約という、時代に合わず、主要国に例のない制度を作り、一種・二種いずれの規制を受け入れるかの選択を事業者に強いるのは、IT革命を牽引する政府のスタンスとして合理的とは言い難い。一種・二種事業区分について、経団連が行なった緊急意見募集においても、「重要なのは、利用者へのサービス提供が適切に行なわれるかどうかであり、設備とサービスとの一体的提供を前提とした事業の位置付けや回線調達方法を制約することは合理的でない。主要国には存在せず、廃止すべき」との意見が大半である。事業者が自由に創意工夫を凝らしたサービスを展開でき、利用者による自由なサービスの選択が可能となるよう、一種・二種事業区分を早期に撤廃すべきである
        事業区分の問題について、答申案では、「通信・放送の融合化の進展や欧米におけるハード・ソフトの分離規制の動向等を見据えつつ、今後検討していく必要がある」とされているが、事業者の回線調達方法を自由化する観点から、結論を得る時期を明確にした上で、早急に検討する場を設けるべきである

      2. キャリアズ・キャリア制度導入の反対

        草案では、自治体、公益事業者などが所有する回線設備の公平な利用の促進を図るため、キャリアズ・キャリア(卸電気通信役務)制度を新たに導入する方針を打ち出しているが、光ファイバーの利用形態が多様化していく中で、芯線貸しと帯域貸し、ならびに10年以上の芯線貸しと10年未満の芯線貸しとを区分するのは時代にそぐわない。国際的には「芯線貸し」と「帯域貸し」とは区分されていない。また、設備を貸すだけの芯線貸しについて、貸し出し期間の長短により、設備設置と電気通信役務とに区分する合理的な理由はない。設備はサービス提供のための1つの手段であり、手段提供者を電気通信事業として法律に取り込み新たな規制を課すのは、過剰規制となる。
        問題の本質は、通信事業者の回線調達方法を制約している現行制度にある。一種・二種事業区分により生じた問題に対応するため、海外に例を見ないキャリアズ・キャリア制度を新たに導入して、規制を更に複雑化するのは、好ましい制度改革からはほど遠いと言わざるをえない。
        むしろ、利用者利益の最大化やネットワークの柔軟性確保の観点から、現行制度や法運用を見直し、電気通信事業者以外からの「芯線貸し」や「帯域貸し」の形での回線調達も含め、電気通信事業者の回線調達方法を自由化すべきである。これにより、キャリアズ・キャリア制度の導入は不要となる

    9. 線路敷設の円滑化
    10. 利用者がニーズに即応したサービスを享受できるようにするためには、通信事業者の円滑な線路敷設のための環境整備を省庁横断的に推進する必要がある。その際、公益事業者が所有する電柱・管路などの空き情報や回線提供状況の開示に関する取り組み、公正かつ迅速な提供など、自主的な努力を促すべきである。また、道路占用規制の緩和、共同溝・情報BOX等の一層の整備、下水道等の公共空間の開放など、公有地を積極的に利用できるようにすべきであり、政府全体として、公有地の活用に向けたアクションプランを策定することが期待される。また、電気通信事業法上の裁定基準として、NTTや電力会社などが保有する電柱・管路等の提供に関するガイドラインを策定する場合、これまでの公益事業者の自主的取り組みの実態も考慮する必要がある。

    11. 競争ルール策定と監視機能の強化
    12. 草案では、政策立案と規制実施の一層の連携を進める必要があるとしているが、グローバルな流れに逆行するものである。自由かつ公正な競争を実効あるものとするためには、中立的な立場から競争ルールの策定や競争の監視・維持、各種紛争に関する公正・透明な裁定等を行なうことが不可欠である。主要国では、こうした機能は、政治や事業者、政策立案部門、産業振興部門から独立した機関が果たしており、わが国も同様の方向を目指すべきである。
      草案では、「事業者間紛争処理委員会(仮称)」を許認可を処理する組織から独立して設置するとしているが、重要なのは、独立性、公正性、ならびに透明性の確保のための措置であることを忘れてはならない。
      また、技術革新や市場の急激な変化に即応したルール作りを進めるため、事業者間の紛争のみならず、利用者・事業者が現行制度とその運用、競争ルール等の見直しを直接請求でき、当局が一定期間内で回答を公表することを義務付けた「申立(ペティション)制度」を早急に導入すべきである
      通信に関わる制度・政策は、国民生活、産業活動などに与える影響が極めて大きい。行政は、透明なプロセスにより意思決定を行なうとともに、利用者や事業者に対して説明責任を確実に果たす必要がある。あらゆる法令・マニュアルの運用・整備など、行政の意思決定にあたっては、実効ある意見聴取が行なわれるよう、原案を事前に公表し、十分な期間を設けたパブリックコメントの募集を義務づけるとともに、それに対する行政としての考え方を明らかにすべきである。

    13. NTT法の見直し
    14. 経団連では、従前より、国が経営に直接介入するような規制(役員選解任認可、事業計画認可、定款変更認可、新株発行認可、外資規制、政府保有株式に関する規定等)は撤廃し、政府保有のNTT株式の完全放出を急ぐべきと提言してきた。草案では、NTTに対する諸規制は、ユニバーサル・サービス確保、研究開発の推進普及等のあり方を含め、NTTのあり方全般についての検討を踏まえた上で措置すべきとされているが、民間事業体であるNTTに関しても、公正競争条件の下で、自己責任原則に則った経営が可能となるよう、経営に直接介入するような規制は早急に撤廃し、政府保有のNTT株式の完全放出を急ぐべきである。政府保有のNTT株式の完全放出や外資規制の撤廃に併せて、通信主権の問題を議論する場合、天災・事変などの非常時における重要通信の優先的な確保を新たな競争促進法で担保することも検討すべきである。
      また、草案では、ユニバーサル・サービスに関して、その範囲を加入電話、公衆電話、緊急電話とするとともに、具体的な確保のための方策として、事業者が拠出金を中立的機関に納入し、配分する「基金方式」が妥当としている。新たな方策については、ユニバーサル・サービス提供に要する費用など適切な情報が開示された上で、基金方式や社会政策としての財政負担の是非、コスト算定方式のあり方、地域間料金格差の是非など、最終的な負担者である利用者を含む国民的なコンセンサスを得て、実施する必要がある。その際、競争中立的な仕組みを前提とすべきである

    15. NTTへのインセンティブ規制
    16. 草案では、NTTへのインセンティブ規制の導入が提案されているが、行政の恣意的裁量に委ねられるおそれがあり、公正競争条件のあり方や透明性確保のための方策を含め、掘り下げた検討が必要である。

    17. 法令や競争ルールの毎年見直し
    18. 技術革新や市場の変化が激しい情報通信分野では、将来を完全に予測して対応することは困難である。したがって、今後の技術革新等に柔軟に対応できるよう、毎年、新たな競争促進法における法令やその運用ならびに競争ルール等をレビューすべきである。その際、利用者利益の最大化と自由かつ公正な競争の確保という観点から、パブリックコメントの形で国民から広く意見を聴取し、それに対する行政の考え方を示した上で行なわれる必要がある。

    19. 実効ある競争促進策の実現に向けたスケジュール等の明示
    20. 今回の制度改革論議を実効あるものとするためには、今後の通信分野における競争のビジョン、望ましい競争促進策を明確にするとともに、競争促進策の実現に向けたスケジュールを国民・ユーザーに具体的に示すべきである。

以 上

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