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地方行財政改革の推進は、臨調・行革審以来、政府の行政改革への取組みの中で常に重要な課題として取り上げられてきた。特に、地方分権推進委員会の第二次勧告(1997年7月)に於いて、市町村合併の推進を含む地方自治体の行政体制の整備・確立の必要性が指摘されて以来、自治省を中心に各種の改革方針が示されてきた。
すなわち、「地方自治・新時代に対応した地方公共団体の行政改革推進のための指針の策定について」により、地方自治体に対し地方行革大綱の早期見直し、定員適正化計画等における数値目標の設定等、一層の行革推進が要請され、更に「市町村の合併の推進についての指針の策定について」では、都道府県に対して本年12月末までに、合併パターン等を内容とする市町村合併推進要綱の策定も要請されている。
一方、地方自治体に於いても地方行革大綱の見直し、数値目標の設定・公表を含む定員削減、事務・事業、組織・機構の見直し、外部委託の推進、外郭団体の見直し等の取組みがなされている。同時に、行政手続条例や情報公開条例等の制定、更にパブリック・コメント制度の導入等、地方行政の公正確保と透明性向上のための取組みも徐々に進みつつある。
例えば三重県、宮城県、静岡県や福岡市等では、国にさきがけた行政評価制度の導入やバランスシートの作成等、知事・市長のリーダーシップにより先進的な改革が進められつつある。
また市町村合併についても、徳島県、熊本県を先発として合併要綱の策定・検討が進められているほか、合併協議会の設置も全国的に広がりつつある。
しかしながら、現状の地方自治体の行革への取組みには地域差が見られ、全体として十分なものとなっていない。例えば、行革大綱で定員管理の数値目標を設定・公表している自治体は、都道府県では100%であるのに対し、市レベル(政令市を除く)では6割強、町村レベルに至っては4割弱に留まっている。更に、定員削減の数値目標自体についても、1年間で1%程度とされている等、国の行政機関におけるスリム化の方向(内容的には問題もあるものの10年間で25%削減)や、厳しいリストラ策を講じる民間企業の取組みと比べても経費削減運動の域にとどまっている。市町村合併については、政府から様々な合併支援策が示される一方、住民発議等により住民の合併への意欲が示されているにも拘らず、議会の反対等で合併協議会設置に至らなかった地域が数多く存在するなど、市町村合併も遅々として進んでいないのが実情である。
こうした状況の下で、地方自治体が現在直面している主要な問題点や課題は、以下のものが考えられる。
環境変化と住民ニーズの質的変化への対応遅れ
現在急速に進行している少子・高齢化やIT革命の進展等、社会経済情勢の変化と厳しい財政事情の中で、地方自治体が医療・福祉、教育、環境等の分野を含め、多様化・高度化する住民ニーズに機動的・弾力的に対応していくためには、規模の適正化により行財政能力の向上を図ることが喫緊の課題となっている。同時に、これらの変化に即応出来るよう、行政組織・運営等についても抜本的な見直しを行い、人材の育成・確保を図りつつ、簡素で効率的な地方行政体制を確立する必要がある。
また、地方分権一括法が2000年4月に施行され、各種の行政サービスが住民に身近な行政主体によって供給されるようになったことにより、住民のニーズを迅速かつ的確に反映しうる行政体制への転換が求められている。しかしながら、一部の先進的自治体における住民密着型の新たな取組みが見られる他は、全体的に地域住民や企業のニーズに合致した行政サービスが十分に展開されているとは言いがたい。例えば、中小規模の自治体における電子化への取組みの遅れとともに、地方自治体毎の煩瑣な許認可等の申請手続きや庁内の縦割り行政等が、効率的・合理的な企業活動の展開を阻害し、事業コストを押し上げ、グローバルな市場競争面での障害となっている。
巨額の財政赤字と債務の急増
一方、経済の長期停滞や減税措置による税収減や、利用度の低いハコモノの建設等を通じた景気対策により、大都市自治体を中心に著しく財政事情が悪化している。その結果、2000年度の地方債発行額は11兆円、2000年度末の地方借入金残高は184兆円(2000年度補正後ベース)に達すると見込まれており、更に、過去に発行した地方債の償還や高齢化の進行により、歳出圧力は今後ますます増大することが懸念されている。
同時に地方財政の悪化は、国の財政にも深刻な影響を及ぼしている。ここ数年、法定交付税総額を大幅に上回る交付税交付金の支出を余儀なくされ、その財源不足を補うための、交付税特別会計による多額の借入が行われている。その結果、交付税特別会計の借入残高は、1994年度末には約8兆円であったものが、6年間で30兆円も増加し、2000年度末には38兆円にも達する見込みであり、現状のままでは、今後もこの借入残高累増は避け難い。ちなみに国と地方の長期債務残高合計は、2000年度末で642兆円、対GDP比128.7%にも達しており(2000年度補正後ベース)、わが国財政は国・地方共に極めて危機的状況に直面していると言わざるを得ない。
そもそも、現在の地方財政に於ける最大の問題は、行政サービスに関する受益と負担の関係が断ち切れているところにある。このため、自治体の財政責任が不明確化し、歳出の構造的な膨張を招いている。従って、受益と負担の関係を明確にし、歳出面のスリム化と効率化、財政の自立化を中心とする地方行財政改革の強化と促進を図ることが今強く求められている。かかる改革を放置し、住民の痛みを伴わない対症療法的な財源対策を今後も継続するのであれば、やがては各地方自治体が財政破綻に追い込まれ、行政サービスの悪化等地方行政が崩壊する惧れがある。特に、法人課税を中心に安易な増税策が講じられれば、経済活力及び、企業の国際競争力の低下をもたらすことが懸念される。
こうした現状認識を踏まえ、地方分権の受け皿である地方自治体の行財政能力の向上を図ると共に、行政運営に於いて新たな視点や手法も取り入れ、「自立・自助」と「参加」を踏まえた「行政サービスと住民満足度の向上」を目指すことが重要である。特に、地方自治体の役割を、従来以上に行政サービスの供給者として捉え、住民満足度の高い行政サービスが、住民参加により的確に選択される仕組みが必要である。
21世紀のわが国を築くためのバックボーンは地方分権である。更なる地方分権改革を進めるとともに、これまでの分権改革の成果を生かすためにも、分権の受け皿としての地方自治体の行財政能力の向上を図る必要がある。また、交通・通信網の整備により拡大した住民・企業の生活圏・経済圏と地方行政圏との乖離を解消し、住民による地方自治体に対するチェックとコントロールの機能を強化する必要がある。同時に、地方自治体の自治・統治能力の向上のためには、革新性と使命感溢れる首長及び基幹職員等の人材の確保が不可欠である。
そのため、体制を整備して市町村を大括りに再編し、経済社会の変化に対応した自立可能かつ効率的な地方行政体制の実現を図る必要がある。また、首長のリーダーシップを補佐する企画スタッフを、政治任用等を通じて充実・強化すると共に、法務能力等専門分野に於いて行政内外の優秀な人材を適材適所で活用できるよう、地方公務員制度を見直す必要がある。合わせて、監視・監査機能の充実を図るため、議会機能の見直しと強化等についても新たな検討を行う必要がある。
第2には、国の財政構造改革との密接な連携の下で、国と地方の財政的関係を見直すとともに、体力に見合った歳出構造への転換と安定的な歳入確保を可能とする財政的枠組みの確立により、破綻に瀕した自治体財政の早期再建を図るとともに、地方自治体の財政的自立を目指すことが重要である。そもそも、租税総額に占める地方税収の割合が僅か4割弱に過ぎず、財源の多くを補助金や交付税交付金等で国に依存しており、殆どの自治体が交付税の交付対象であるという現状は、決して看過し得るものではない。
また、各自治体は足下の財政事情を分かりやすく正確に住民に伝える必要がある。すでに検討が進みつつあるバランスシートの開示だけでなく、特に個別行政サービス毎のコスト分析などをありのまま公開し、受益と負担の明確化を図りつつ、住民参加の下で歳出内容の取捨選択による費用削減と効率化を進める必要がある。
第3に、現在推進中の国の施策とも十分連携の取れた地方自治体の電子政府実現を目指し、最新の情報通信技術を活用した行政サービスのスリム化・効率化を図ることである。この電子化に対応した行政組織・運営の見直しや情報の共有化により、意思決定の迅速化と事務の簡素・効率化を徹底し、これからピークを迎える団塊世代の定年等に伴う欠員補充を極力抑制せねばならない。
また、官民の役割分担を新たな視点も加えて見直す必要がある。即ち、既存の行政サービスの中で、企業やNPO、更には地域ボランティアなどに代替できる部分は外部化を目指すべきであり、第三セクターの見直しやPFIの有効活用、地域住民によるNPOなどの活動基盤の整備等も促進する必要がある。
第4に、地方行政に企業経営の視点と手法(業績管理等)を導入し、行政評価と情報公開の整備・拡充を目指す必要がある。また、住民参加を通じて自らの選択に基づく効率的で質の高い行政を実現するとともに、その透明度と信頼性の向上を図っていく必要がある。例えば、各種申請手続等の電子化を促進するとともに、ホームページを通じた行政情報の提供及び意見提出手続等により、住民や企業の利便性向上と行政への参画機会を拡充することも重要である。
また、地方メディアを介して、監視機能の強化や、コストと給付に関わる首長や議会の説明責任の履行、また住民意識の向上を行うべきである。
改革への取組みにあたっては、これまでのような総花的でボトムアップ型の、地方自治体の規模の拡大、組織・機構、事務・事業の見直し等による経費節減手法では限界がある。現行の改革手法や行政機構・事務システムを抜本的に見直すとともに、地方公務員制度を含め、その改革に取組む必要がある。そのためには、国・地方における体制整備を強化するとともに、最近進歩が顕著な情報技術を有効に活かすことや、既に欧米の行政改革で顕著な成果を挙げている民間企業の経営管理手法を用いた、いわゆる「新行政管理手法(New Public Management)」を、それぞれの実態に合わせて適用し活用して行くことが効果的と考えられる。
基礎的自治体の広域化イメージ
国と地方を取り巻く急激な環境変化の中で、分権の受け皿としての基礎的自治体たる市町村の機能強化を図るため、地域の教育、医療・福祉、経済、文化活動等における適正な人口規模に加え、地理的条件や人口集積度等も勘案しながら、行政単位の広域化を図る必要がある。具体的には、「合併後の人口規模に着目した市町村合併の類型」(自治省市町村合併研究会報告書)にもあるように、大都市圏、地方中核市圏、地方圏毎に、以下の類型によりそれぞれ望ましい再編・統合を目指すべきである。
市町村合併の推進方策強化
市町村合併を強力に推進するためには、国が明確なビジョンと目標を設定すべきであり、閣議決定等による合併推進本部の設置、合併推進計画の策定、集中推進期間の設定(遅くとも市町村合併特例法の期限である2005年3月まで)等、国としての市町村合併の推進体制を整備する必要がある。
同時に、地域の事情にも精通し、中立的な立場から市町村の合併推進を支援出来るという意味で、都道府県の果たすべき役割は極めて重要である。都道府県知事は、地方自治法・市町村合併特例法に規定されている勧告制度なども活用し、今年中に作成が予定されている域内市町村の合併パターンを絞り込み、望ましい方向を示しつつ合併への検討を関係市町村に強く要請すべきである。また、合併特例法に住民投票制度なども導入し、住民発議制度を補完する制度として活用することも考えられる。
また、従来、市町村合併に係るインセンティブ措置は、市町村合併特例法が改定される度に手厚いものになってきているとの指摘があり、これらのインセンティブ措置は、中央依存型の意識や体質を改めるためにも、段階的・計画的に縮小・廃止すべきである。むしろ、現状の厳しい財政実態を住民にもありのまま開示し、その具体的解決方法として、地域住民が自らの問題として合併に取組んでいくことが求められる。
そのような意味からも、地方マスコミなどのメディアが合併等の促進に果たす役割と責任は大きい。合併の促進ニーズや財政問題などについての報道や住民対話の場の提供などを通じ、住民の理解と認識を深めると共に、市町村の合併機運醸成にも寄与することが期待される。
なお、経済界も国民各層との連携を図りつつ、国民運動として市町村合併への支援を図っていきたい。
都道府県の統合など更なる広域化の検討
当面の緊急課題は、市町村合併等による行財政能力の強化であるが、次なるステップとして都道府県の役割やあり方についても検討し、都道府県合併の制度化や道州制も含め、更なる広域化の検討を中長期的な視野から進めるべきである。同時に、中央省庁別の出先機関である地方支分部局の統合を含めた管轄地域の統合により、各地域の行政サービスの拠点として位置付けていくことも重要な課題である。
国と地方間の財政制度見直しとその方向
巨額の財政赤字を抱える地方自治体に於いては、財政構造改革が喫緊の課題である。国と地方間の財政構造改革を通じ、以下のような歳出入面での改革を進め、地方行革の促進につなげる必要がある。
具体的には国と地方の事務区分に対応し、地方自治体の会計においてもそれぞれの歳出入を別勘定に分計し、両勘定間の相互内部補助は原則として禁止する。この場合、自治事務の経費は地方自治体が負担するものとし、その税源は、市民の負担を伴った課税強化策として個人住民税、及び居住用資産に係る固定資産税を基本としつつ、地方消費税の拡充により、その安定化を図る。一方、法定受託事務の経費は新たな国庫委託金により国が負担するものとし、地方交付税交付金や現行の国庫支出金等は最終的には廃止する。なお、財源調整は極端に税源に乏しい地方自治体等、特に必要な場合に限定する。
また、地方自治体への国の財政的関与は最小限とすべきとの観点から、中長期的には郵便貯金、簡易生命保険積立金についても、市場を通じた地方債への運用を図るべきである。なお、地方財政の早期健全化を促すとともに、破綻した場合に首長の責任を厳格に追求できるような新たな仕組みを導入することも、今後の課題として検討すべきである。
行財政改革等のグランドデザイン策定
今後の少子高齢化進行に伴う経済成長率の鈍化や財政事情の悪化、また社会保障負担の増加等も懸念されており、政治の主導による税制改革や社会保障制度改革をはじめとした総合的な経済構造改革への取組みが求められている。そのような中で、地方行財政改革はその重要な一環として、国・地方連携のもとで中長期的な改革のグランドデザインを描き、他の構造改革と整合性をとりながら着実に進めて行く必要がある。
当面の緊急課題
地方交付税交付金は、自治体間の財政力の格差を是正すると共に、一定水準の行政の計画的運営を保障するための制度として使われてきた。しかしながら、現状では全国で約98%の自治体が交付団体になっており(2000年度補正後ベース)、また、地方債の元利償還金が基準財政需要に参入されるなど、交付額算定の仕組みにも、自治体の財政規律を弛緩させモラルハザードを引き起こす要因を内在しており、地方公共団体自らの地域振興等を通じた財源涵養意欲を減殺している。
財政構造改革を進める上での当面の緊急課題は、基準財政需要の算定方式を抜本的に見直すことにより、地方交付税交付金を抑制し、交付税特別会計における歳入額(法定交付税総額)とのバランスを図り、借入金を圧縮する必要がある。
第2に、収支状況が悪化している、或いは懸念されている公営企業や、地方公社、第三セクター等については、連結財務情報の公開や、政策評価・業績評価の制度化等を通じ、整理・縮小又は民営化、独立行政法人化等への移行を図るなど、直ちに改革に着手することが肝要である。
IT化による行政組織のスリム化とその基盤整備の促進
情報公開の拡充による住民参加の促進
地方メディアとの連携や地方自治体のホームページ等の拡充により、一層の情報公開を推進するとともに、住民・企業との情報交流の強化と参加機会の拡充を図るべきである。例えば、各種政策・方針・統計、第3セクターを含む財務情報・行政評価結果、及び議会・審議会の議事録等を住民に分かりやすい形で情報提供する一方、パブリック・コメント制度の導入等により住民の意見を受け付け、寄せられた意見に対する回答や説明などを放送・掲載する等により、住民との行政対話を深めることが考えられる。
行政評価システムの整備・拡充
地方自治体に企業の経営管理手法を取り入れ、「計画・実行・検証」のサイクルにより、定期的に個別政策の成果や事務・事業毎の有効性と効率性を測定・検証して、行政サービスの改善と効率化を図る必要がある。この場合、政策評価と執行評価(業績測定)の使い分けが重要であり、特に政策評価については、第三者機関や住民による中立的・客観的評価を加える制度の確立に向け、検討がなされるべきである。
そのため、これらを内容とする行政評価条例等を制定し、評価目的を明確化しつつ制度の確立・定着を図ることが必要である。同時に、当該分野における専門家の育成・確保等も望まれる。
的確な評価を通じた行革の促進
行政評価制度を通じて行政のスリム化・効率化を促進するためには、行政コスト分析の正確な実施を図るべく公会計制度を整備したうえで、公正・的確な評価を行い、その結果を次年度予算や人事・給与査定等に反映させる必要がある。特に、自主管理による事務・事業評価に於いて、地方自治体職員のモラルアップを図りつつ、業務の効率化につなげるためにも、成果主義に基づく公務員の評価制度の見直しが必要である。