[経団連] [意見書]

エネルギー政策の重点課題に関する見解

―安定供給の確保と環境・経済との調和―

2001年5月22日
(社)経済団体連合会

エネルギー政策の重点課題に関する見解のポイント
(PDFファイル)


I. 基本的な考え方

エネルギーの基本政策における3Eの課題(Energy Security , Environment Protection , Economic Growth)については、これまで達成に向けた様々な政策議論がなされており、現在も関係各省の審議会等で検討が進められている。しかしながら、互いに矛盾する側面を有する3Eの課題について、それぞれの観点から個別に議論されることが多く、必ずしも総合的な議論がなされてこなかったきらいがある。そこで資源・エネルギー対策委員会では、昨年7月よりエネルギー政策のあり方について総合的な観点から検討を行ってきたが、今般、下記の通り、エネルギー政策の重点課題を取りまとめた。エネルギーの安定供給、環境保全、経済合理性の確保を一体的に実現することを政策の基本とし、中長期的な国家戦略に基づき、その推進を図ることを政府に求めるものである。

1.エネルギーの安定供給の確保

わが国の資源制約、地理的条件の特殊性に照らせば、エネルギー資源の安定的な供給の確保は安全保障上の最重要課題であり、積極的な外交活動の展開と国際協調の増進を図る一方で、エネルギー自給率の向上を図り、供給者間の連携を強化するなどの供給構造の強靭化に取り組んでいくことが重要である。
併せて安定供給の確保には、資源制約(枯渇性)、セキュリティ(安全保障)、量(供給能力)、品質(安定性)の4つの側面から個々のエネルギーを評価し、国際情勢や経済状況の変化を踏まえつつ安定供給に資するエネルギーを柔軟に選択していくことが必要である。
エネルギーの供給量に不足が生じた場合、その影響は経済活動全体に及ぶとともに、大きな社会問題にまで発展する可能性がある。IT革命が進む中、特にエネルギーの品質(安定性)に対する要求は一層高まっている。普段意識せずに享受しているエネルギーの安定供給の意義や重要性について改めて認識する必要がある。

2.地球温暖化問題への対応

地球温暖化問題への対応はわが国にとっても重要な課題である。当面、供給面においてはCO2を排出しないエネルギーの拡大、およびCO2排出量の少ないエネルギーへの転換を図り、需要面では化石燃料のさらなる効率利用を基本とすべきである。特に民生・運輸部門の需要増大への対策は急務の課題である。産業界としては引き続き自主行動計画の着実な実行による産業部門のエネルギー消費の抑制を目指すとともに、エネルギー高効率製品の自主的な開発を通じて、民生・運輸部門への積極的な貢献を図っていく方針である。既に自動車に関しては、トップランナー方式による燃費向上が軌道に乗っており、その成果が期待できる。住宅・ビルの省エネルギーについては、実効があがるよう官民一体となった推進体制を構築すべきである。規制改革、技術導入への支援、省庁間連携のさらなる強化など、国として果たすべき役割を明確にし、着実な進展をめざし、対策に取り組むことが求められる。
さらに中長期的な課題として、新しいエネルギーの開発など革新的な技術開発に取り組んでいくことが重要である。
なお温暖化問題に対する経団連の基本的見解は別紙の通りである。

3.経済合理性の追求

わが国産業の競争力を強化し経済の活性化に資するためには、産業活動の制約やコストアップの要因となっている制度を見直し、規制改革の推進を通じた高コスト構造の是正を図っていくことが必要である。その一環として自由化・競争促進を通じたエネルギー供給の一層の効率化が求められており、競争環境を一層整備していくことが重要である。

3Eの課題については互いに矛盾する側面があるが、相互のバランスをとることが肝要である。
緊急時対応はもとより、経済・社会の持続可能な発展にはエネルギーの安定供給が大前提となる。米国カリフォルニア州の経験、わが国の置かれた資源制約などの状況を踏まえつつ、エネルギーの供給量と品質(安定性)を満たすための投資が長期的に確保される仕組み(供給責任)を十分に検討しつつ、高コスト構造の是正や競争環境の整備を進める必要がある。
また地球温暖化への対応については、エネルギー消費の大半を化石燃料に引き続き依存せざるを得ない実態を踏まえ、不断の取組みが求められる。その際、中長期の時間軸で技術の進展等を踏まえ、コスト負担と効果の両面から議論すべきであり、結果的に過大なコスト負担を企業や国民に強いることにならぬよう十分な配慮が必要である。


II. エネルギー別に見た評価と今後の課題

1.化石燃料について

1999年度のわが国の一次エネルギー総供給に占める化石燃料の比率は82%であり、今世紀においてもなお主要な役割を担うものであるが、化石燃料起源のCO2排出量のシェア増大を防止すべく、必要な技術開発を遅滞なく重点的に進めることが重要な課題である。具体的には以下のような需給両面からの対策の推進が求められる。
なお、わが国の有する省エネルギー技術、環境技術の移転を通じて、世界のエネルギー資源の効率的利用に役立てることが重要である。さらに、需要増大が顕著なアジアを視野に入れた協力の拡大や環境問題への積極的な対応を図る必要があることを指摘しておきたい。

(1) 供給面
  1. バランスの取れた供給の確保
    石油ほど偏在性がなく、また賦存量も石油より多いとされている天然ガスは、環境面での高い評価および利用技術の飛躍的な進展が見られることから、パイプライン敷設の評価も進めつつ利用拡大を図っていくべきである。
    当面は最大のエネルギー供給源である石油をはじめ全ての化石燃料について需要サイドの高効率利用技術の開発動向を踏まえ、引き続き供給源の分散を図り、バランスの取れた供給体制を整備していく必要がある。

  2. 燃料のクリーン化の推進
    今後も主要な役割を担う石油、石炭の最大の課題は、温暖化を含む環境問題への対応であり、燃料のクリーン化技術の高度化、高効率化を推進することが重要である。
    石炭は温暖化以外の環境問題への課題も多いが、豊富な賦存と廉価のメリットを活かし、ガス化、液化などの利用技術を含めたクリーンコールテクノロジーの開発・実用化を推進すべきである。

(2) 需要面
  1. 省エネ型の都市づくりと交通システムの整備
    わが国の住環境は欧米に比べ劣っており、都市のエネルギー効率も低いと言われている。民生部門の省エネを進めるべく、各種法制度、インセンティブ、技術等を総動員し、高断熱仕様などの質の高い住宅・ビルへの建て替え需要を創出することが必要である。
    さらに地域冷暖房や高効率の熱電供給システムと組み合わせた省エネ型の都市づくりが求められる。渋滞の解消に向けた環状道路の整備を含め、ITSの促進等、交通システムの改善も必要である。省庁間のさらなる連携の強化ならびに総合的かつ一元的な取組みにより、こうした省エネ型の都市づくりを推進すべきである。

  2. エネルギーの効率利用の促進
    産業部門はもとより民生業務においても幅広く利用できるコジェネレーションは、分散型電源として送配電ロスの削減と廃熱利用により、エネルギーの高効率利用が期待される。とりわけ民生部門においてエネルギー効率と環境面で優位性のあるマイクロガスタービンの導入促進を図ることが重要である。そのためにはコストダウン、既存配電ネットワークとの連系技術の確立および導入促進のための規制緩和等の課題に積極的に取り組むべきである。
    また現在多くの企業や研究機関により開発が進められている燃料電池は、運輸部門(自動車)および民生部門(家庭用定置型)における最終需要者に直結した革新的技術であり、一段の開発努力による早期実用化が期待される。

(3) CO2回収処分技術の開発・実用化の推進

CO2回収処分技術を燃料のクリーン化と組み合わせることにより、環境問題への対応が一層進むこととなり、将来においても化石燃料を利用する選択肢を残すことにつながる。CO2回収処分技術はわが国にとって期待の大きい技術であり、生態系への影響評価技術の確立と処理コストの低減などを目指し、その開発・実用化に積極的に取り組むべきである。

2.原子力エネルギーについて

原子力エネルギーは安定供給の要請に応える貴重な準国産エネルギーであり、また発電段階ではNOx、SOxのみならず、CO2を排出しないクリーンなエネルギーである。安全の確保を大前提として、温暖化問題にも対応する最も現実的なオプションといえる原子力の着実な推進に最大限の努力を払うべきである。
またプルサーマルや高速増殖炉の開発を通した核燃料サイクルについても、長期的なエネルギー資源の確保の観点から、技術の確立を進め段階的にその推進を図るべきである。
現在、地域住民の十分な信頼が得られず新規立地は長期化の傾向にあるが、原子力利用を進めるにあたっては地域住民、首長、自治体や国民全般の理解、協力、支持が不可欠である。安全確保・防災の一層の強化、積極的な情報公開に努めるのは無論のこと、今後とも、微量放射線の影響度をはじめ、原子力に対する種々の国民の疑問に応えていく努力が必要である。
また新規立地と併せて、当面、既存の原子力発電所の高度利用による設備利用率の向上を急ぐ必要があり、安全確保を前提としつつ段階的に実現していくことも重要である。
さらに放射性廃棄物の短寿命化・減容化を可能とする核変換技術の研究等、処理・処分に関わる研究開発を進めていくことも重要である。

3.新エネルギー、革新的エネルギー、革新的技術について

新エネルギー、とりわけ太陽光・風力はエネルギー密度が低いものの、枯渇することのない未利用の国産エネルギーであり、また環境面では発電時にCO2を排出しないクリーンなエネルギーであることから普及拡大を推進すべきである。普及支援に当っては、市場原理を損なう硬直的なスキームにならないよう、対象、方法、期間等に十分留意することが肝要である。出力が不安定なこと、設備利用率が低いことなどの問題があることから、例えば蓄電技術などの開発が今後の課題である。バイオマス、リサイクル型エネルギー、地熱等についても、基礎研究や実用化技術の開発に弾力的な政策支援を図っていくことが必要である。
ナノテクノロジーは物質をナノサイズでコントロールすることでエネルギー使用の大幅削減を実現できる技術であり、有望視される。
さらに未来のエネルギーの選択肢を大きく広げる可能性のある宇宙太陽光発電、核融合等の革新的エネルギーの研究開発も長期的観点から着実に進める必要がある。
エネルギー分野の研究開発にあたっては、産官学連携の下に着実に進めることが大切である。


III. まとめ

1.供給量と品質を加味した安定供給の確保と環境・経済との調和

3Eの課題の同時達成に向けたエネルギー政策を基本とすべきである。供給量と品質を加味した安定供給の確保に最大限に配慮しつつ、環境・経済との調和をめざした長期的な総合戦略を策定していくことが求められる。

2.長期的視点での政策理念の策定

上記基本原則は安易に揺れ動いてはならず、そのためには国、地方自治体、企業、国民各主体の責任を明確化し、長期的視点で政策理念を策定することが必要である。これに関連して現在、国をはじめ各主体の責任のあり方をも包含するエネルギー基本法の制定に向けた動きがあるが、さらに掘り下げた検討を期待したい。

3.省エネ型社会の推進

国民の快適な生活、効率的な経済活動を確保しつつ、省エネが確実に進む社会の確立を図っていく必要がある。省エネを取り込んだ地域づくりの推進に向け、省庁横断的な施策の策定と総合的な取組みが求められる。

以 上

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