[経団連] [意見書]

「情報通信新時代のビジネスモデルと競争環境整備の在り方に関する研究会」中間報告書草案への意見

2002年1月17日
(社)経済団体連合会
 情報通信委員会
  通信・放送政策部会
  情報通信ワーキング・グループ

 経団連では、2000年3月、「IT革命推進に向けた情報通信法制の再構築に関する第一次提言」をとりまとめ、「事業(者)規制法」ともいうべき現行法を利用者本位の「競争促進法」の体系へと早急に転換するよう求めた。さらに、昨年12月には、第二次提言として、「IT分野の競争政策と『新通信法(競争促進法)』の骨子」をとりまとめ、現行制度を手直しするというアプローチではなく、競争促進的な制度を新たに構築するとした場合の基本的な要素を「新通信法」の骨子として提示したところである。昨年12月13日に公表された標記研究会中間報告書草案が論じている電気通信事業分野における競争環境整備のあり方に関する経団連の考え方については、同提言を参照されたい。
 具体的に、研究会中間報告書草案に関連する同提言のポイントは下記の通りである。
 なお、研究会は、昨年3月の規制改革推進3か年計画で、「電気通信事業における事業区分について、(中略) 制度の簡素化等の観点等を含め、見直しに向けた検討に着手する」とされたことを受けて設置されたと認識しており、6月の最終報告書では、現行の事業区分とそれに基づく事前規制の撤廃という方向が打ち出されることが期待される。その際、いかなる事業区分も新たに設けられるべきでない。

1.競争ルール整備における基本的考え方について(PP.10〜13 1-3 )

 通信分野のルール整備にあたって、利用者利益の最大化を最も重要な基本的考え方の一つとして盛り込むべきである。利用者利益の最大化に向けて、公正な競争が機能する環境を整備し、利用者が自らのニーズに応じて多様で低廉なサービスを選択できるようにすることが重要である。そのためには、競争の促進を妨げている規制を撤廃し、原則自由な市場を確立するとともに、市場支配力に着目した必要最小限のルールを設けることが不可欠である。
 「競争ルールを確立するための手法」としては、技術革新や市場の変化に柔軟に対応して競争ルールを見直していくことはもちろんのこと、申立(ペティション)制度やパブリックコメント制度等によって利用者の意見を吸い上げ、公正・透明な手続の下でルールを構築していくことが重要である。また、技術、サービス、市場の変化が激しいこの分野においては、「競争ガイドライン等の策定」もさることながら、それらの変化に柔軟に対応できるよう、簡素な制度とすることが重要である。さらに、「ユーザの保護」については、事業者の自己責任を前提に考えるべきである。

2.市場支配的な事業者による垂直統合型のビジネス展開について(PP.18〜22 2-2-1〜2-2-2 )

 草案では、「東西NTTが上位レイヤーに進出する場合の公正競争条件の確保」、「東西NTTの子会社等による上位レイヤーへの進出」について、現行制度に基づいて考え方を整理するとともに、「少なくともNTT持株及び東西NTTの100%出資の子会社等については、(中略) 特定関係事業者の対象たり得る者の適用範囲の拡大を含む新たな是正措置を講じることについて検討する必要が出てくるものと考えられる」とされている。
 これに対し、経団連の第二次提言では、現行制度を前提とせずに、「通信市場において市場支配力を有する事業者がその支配力を梃子に隣接・関連市場に進出する場合、当該市場における公正な競争を歪めるとともに、通信市場における支配力を強めることになる惧れがあり、この観点からも市場支配力を有する事業者に対する競争ルールの策定が求められている」として、改革の方向性を示している。その上で、支配的事業者が不可欠な機能を他事業者に提供する部門と利用者に通信サービスを提供する部門を併せ持つ場合には、

  1. 両部門を機能的に分離すること、
  2. 機能分離を行なわない場合は、支配的事業者の支配力が進出先市場に及ばないよう、完全分離子会社による進出を要件とすること、さらには、
  3. 情報コンテンツ等の市場における公正な競争の確保にあたっては、独禁法による事後規制を厳正に執行すること、
を求めているところである。

3.電気通信事業における競争の枠組みのあり方について(PP.43〜52)

(1) 基本的考え方について(PP.44〜46 4-1 )

 草案では、「現行の事業区分についても必要な見直しを行う方向で検討する必要がある」として、現行事業区分の見直しの必要性を指摘しつつも、4-2の「具体的な検討の方向性」を見る限り、現行制度を前提とした議論の域を大きく出ていない。
 「情報通信新時代」の競争の枠組みのあり方を論じるのであれば、現行制度に手直しを加えるのではなく、競争促進的な制度を新たに構築するというアプローチが求められる。その場合、既に1.で述べた通り、競争の促進につながらない、むしろそれを妨げているような、参入・退出・料金等に関する規制を緩和・撤廃し、原則自由な市場を確立するとともに、競争促進のための必要最小限のルールを設け、市場支配力を有する事業者とそれ以外の事業者との間に公正な競争を有効に機能させる必要がある。
 また、草案では、現行の事業区分を廃止した場合、事業撤退にあたって、「ユーザ保護が十分に確保されなくなること」への懸念が示されているが、現在は、通信事業が独占もしくは事業者の数が極めて限られていた場合と異なり、数多くの事業者が参入しており、そのような状況下において、ある事業者が事業を休止・廃止したとしても、他の事業者が代替できるものと考える。

(2) 具体的な検討の方向性について(PP.48〜52 4-2 )

 通信分野において、何よりも重要なことは、事業区分を設けて事前規制を課すことにより事業運営の適正化・合理化を図るのではなく、利用者利益の最大化に向けて競争が機能する環境を整備し、利用者が自らのニーズに応じて、多様で低廉なサービスを選択できるようにすることである。そのためには、現行の事業区分を早急に撤廃する必要がある。
 草案では、この事業区分の見直しに関して、「現行の事業区分を前提としつつ、その適用範囲を見直す」場合と、「ネットワーク部門とサービス部門という新たな事業区分を導入する」という2つのアプローチが示されているが、既に支配的事業者規制が導入されている状況下において、現行の事業区分を存続させること、または新たな事業区分を設けることは、結局、競争促進的な法体系への転換を妨げ、事前規制が維持されることとなる。
 なお、草案は、EUの新たな規制の枠組みに言及しているが、同枠組みにおいて、事業者が、"electronic communications networks" と "electronic communications services" に制度上区分されていることはない。また、"general authorization" において事業者に必要とされるのは、事業開始を宣言するための "notification" と最小限の基本的な情報のみである(事業者を証明するもの、連絡先、住所、事業の簡単な説明など)。

以 上

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