税制第３次提言
「税制抜本改革の断行を求める」

２００２年６月１０日
（社）日本経済団体連合会

はじめに

経団連では、さる２月19日「税制抜本改革のあり方について」(第1次提言)を示し、税制を経済活力再生のための政策手段として大胆に活用することを求めるとともに、税制改革の具体的課題について指摘した。
また、５月13日には「経済活力再生に向けた税制改革について」(第２次緊急提言)を示し、デフレ経済脱却のために早急に取り組むべき住宅・土地税制の見直し等とともに、企業経営革新を進めるために不可欠な研究開発税制、ＩＴ投資促進税制等の実現を求めた。
これらの提言は、経済財政諮問会議、政府税制調査会をはじめとする政府・与党における税制改革の検討に反映されつつあるが、経済財政諮問会議、政府税制調査会において税制改革の基本方針がとりまとめられるに当たって、改めて、税制改革全体にわたり具体的な提言を行なうこととしたい。

税制改革は国のあり方を定めるとともに、国民経済の活力、産業の国際競争力の基盤を形作るものである。かかる観点から、欧米・アジア諸国いずれも、税制改革を国家の最重要課題として明確に位置付け、戦略的な改革に取り組んでいる。
21世紀の劈頭において、わが国が税制抜本改革に取り組むにあたっては、魅力と活力に溢れ、諸外国からも羨望される「魅力ある日本」を実現するために、従来の経緯にとらわれることなく、真に必要な骨太の改革を断行しなければならない。また、単なる財政収支の辻褄合わせであってはならないとしても、わが国財政の危機的現状に鑑みれば、国家債務のこれ以上の増大を抑制し、少なくともプライマリー・バランスを早期に回復できるよう、国民、企業が負担を分かち合うものとしなければならない。
そのためには、経済財政諮問会議において示された「構造改革と経済財政の中期展望（平成14年１月25日閣議決定）」の全体期間（2002年度～2006年度）を通じて、前半の集中調整期間においては、経済活力再生のために戦略的な減税を先行して実施し、後半の経済基盤強化期間（2004年度～2006年度）においては、21世紀前半において持続可能な税制を構築するために、抜本的な税制改革を行なうべきである。
この両期間を通じて、少なくとも税収は中立的になるようにし、改革を達成した2007年度以降（持続的成長期間）においては、歳出削減による効果、経済活力再生による税収の増大、制度改革による増収策を併せて、2010年代初頭においてプライマリー・バランスの回復が可能となるようにすべきである。
そこで、全国的な基盤を得て新たに発足した日本経済団体連合会として、改めて、税制抜本改革の全体像について経済界の意見を集約し、以下の通り提言する。

１．個人所得課税の抜本改革

現在の個人所得課税制度は、各種控除をはじめとする種々の負担調整等の仕組みにより、非常に複雑になっている。特に、単身・核家族世帯の増加等のような家族構成の変化、少子高齢化の進展、就業形態の変化等の社会の移り変わりに必ずしも対応出来ておらず、経済の実態に合致していない部分が多い。また、急激な累進税率構造により、中堅から高所得者層においては諸外国に比べて重い所得税負担が求められている。
国民一人一人が広く薄く税負担を分かち合うという基本理念に立ち、所得課税について課税ベースを適正化するとともに税率構造の緩和を進めることによって、活力を引き出すことが喫緊の課題である。
同時に、個々の納税者にとって分かり易い簡素な制度にすることによって、納税に対する意識と納得性を高め、より多くの国民が納税を通じた社会への参加意識を向上できる制度としていくことが重要である。

(1) 所得税の課税最低限、各種控除の見直し

わが国の所得税の課税最低限（夫婦子２人の標準モデル世帯で384.2万円）は、国際的に見て相当に高い水準であり、それぞれの所得水準に応じ、広く税負担を分かち合う所得税制に再構築する必要がある。また、所得税体系を複雑にしている各種控除制度について、その制度の意義や役割が現在の社会環境に合致しているかどうかを検証し直し、税の公正性を阻害するものや制度としての意義の薄れたもの等については、既得権益にとらわれずに見直していかねばならない。

配偶者控除、配偶者特別控除の見直し
労働を通じた女性の社会進出が進む中、配偶者控除、配偶者特別控除が女性の就業行動に与える影響が増大している。男女共同参画社会の実現を展望する上で、少子・高齢化社会での労働力の担い手として大きな期待が寄せられている女性のライフスタイルの選択を歪めてはならない。就労形態に関する税制の中立性を確保するために、配偶者控除、配偶者特別控除は段階的に廃止すべきである。
さらに、現行の所得税の課税単位は、個人単位を原則としながらも、実際には各種の人的控除制度によって世帯ごとの事情を色濃く反映するものとなっている。課税単位のあり方に関し、個人単位課税の徹底を図るか、夫婦合算方式、二分二乗（合算分割）方式とするか等、様々な選択肢を含めた幅広い視点からの再検討が必要である。
給与所得控除の見直し
給与所得控除制度については、給与所得者の必要経費の概算控除であるとの性格、また、実質的に累進税率構造を緩和している性格がある等の観点を総合的に勘案して、そのあり方を慎重に検討することが必要である。
一方、給与所得控除は、自営業者、農業者等との負担格差を緩和する効果をもたらしていることから、給与所得控除のあり方を見直すならば、同時に、自営業者などに対する所得捕捉を厳格に行ない、税負担の格差や不公平感の解消を行なわねばならない。
公的年金等控除の縮減・廃止
公的年金等控除により、高齢者世代と現役世代との間に税負担の不公平が拡大している。年金税制については、拠出時・運用時非課税、受給時課税の原則の下で、公的年金等控除は原則として廃止すべきである。
同時に、運用時非課税の原則に鑑みて、現在停止されている特別法人税は、即時廃止すべきである。
また、国民一人ひとりの自己責任・自助努力による老後の生活保障の確保を支援するとともに、資本市場の活性化の観点からも、市場の主要な担い手としての期待が大きい確定拠出年金の活用を促すことが重要であり、確定拠出年金における拠出限度額を大幅に引き上げるべきである。
その他
少子・高齢化の進行に対応し、負担と給付の観点から社会保障制度の見直しが進められる中で、老後の生活や万一の場合に備えて自助努力を行なうことが不可欠であり、税制面からもこれを支援していく必要がある。生損保険料控除については、貯蓄優遇税制是正などの観点から見直すべきとの指摘もあるが、このような自助努力への支援の必要性も含め、それぞれの政策目的に照らした検証が必要である。

(2) 税率構造の見直し

各種控除の見直しを進めることによる課税最低限の引き下げに伴う税負担増を軽減するため、恒久的減税として措置されている定率減税を制度化するとともに、一層の税率の軽減を行なう必要がある。
また、わが国の所得税は、急激な累進税率構造を特徴としている。所得再分配機能は所得課税の要素の一つであるが、累進課税に過度に依存することによってさらなる勤労意欲が損なわれ、ひいては経済活力が削がれる惧れがあることは否めない。終身雇用制度や年功序列などの旧来の日本型労働慣行が徐々に形を変え、年俸制度やストックオプション等のより成果主義的な報酬制度を採用する企業が増えていく中で、個々の労働者が勤労意欲を高め、その努力が実際に労働者自身が手にする報酬に結びつくような所得税にしていかなければならない。そのためにも、所得税・個人住民税を併せた最高税率を法人税実効税率の水準にまで引き下げることをはじめ、現行所得税制の急激な累進税率構造を改める必要がある。

(3) 公平かつ効率的な徴税システム

納税者間の公平性を担保し、納税者が納得して納税できるようにするためには、確実に所得を捕捉していくことが不可欠であり、そのための手段として、納税者番号制の導入が必要である。
簡素かつ簡便な納税申告が可能になれば、納税者自身による申告の慣行が広がり、納税を通じた社会参加の意識を一層高揚させ、税金の使途や行政への関心をより高めていくことが期待される。経済社会の電子化・情報化の進展と歩調を合わせ、簡易な電子申告制度を確立・普及させていくべきである。
また、納税者番号制の導入と併せて電子申告制度が普及すれば、納税者にとって納税コストの削減などのメリットが大きいばかりでなく、徴税者側の徴税コストを大幅に削減する期待が大きい。早急に導入に向けた検討に着手すべきである。

(4) 二元的所得税

資本市場を活性化するために、近年次々と採られた様々な税制措置により、金融証券税制は極めて複雑になっている。金融商品の高度化や市場のグローバル化に対応するために、資本から得られる金融所得を一括して認識し、商品間の損益通算や損失の繰越を可能とした上で、勤労所得とは別途に低率で課税する仕組みを導入すべきである。
当面、申告不要制度に係る特定の口座や信託勘定など一定の口座を選択した場合には、配当、株式・株式投信譲渡損益、債券償還益等の金融所得を合算の上、一律20％の源泉徴収により課税を行なう簡易な制度を創設する。また、これらの整備ができるまでの間の時限的な措置として、有価証券譲渡益について非課税とすることも検討すべきである。
さらに、納税者番号制度の導入等、インフラの整備とともに、全ての金融所得を一括する二元的所得課税の導入を検討すべきである。

(5) 住宅税制

住宅は、国民の最も重要かつ基盤となる不可欠な資産であり、その取得のための費用である住宅ローン利子は課税所得から控除されるべきである。また、住宅金融公庫が廃止されること、民間金融機関が住宅ローンに本格的に乗り出してきたことも踏まえて、金利の変動による影響を低減させるような恒久税制が必要である。
第２次ベビーブーマー世代が住宅取得期に入るこれからの10年間こそ、良質な住宅ストック形成の最後のチャンス（世帯数のピークは2013年）であり、住宅ローン利子の所得控除制度（利子額に連動する恒久制度）を創設し、当面は現行住宅ローン税額控除制度との選択適用を認めるべきである。
新制度（住宅ローン利子所得控除制度）は、制度導入後入居（取得）した住宅からの適用とするが、現行住宅ローン税額控除制度で課題となっているセカンドハウスへの適用、転勤時の中断・復帰措置などへの適用も検討すべきである(当面、選択適用される現行住宅ローン税額控除制度へも同様に適用)。
民間賃貸住宅を支援するため、賃貸住宅投資減税（税額控除あるいは割増償却）や、持家を賃貸住宅に振り替えた場合の割増償却制度を導入すべきである。

２．法人所得課税の抜本改革

企業は、限られた資本の効率的な運用を通じ、一国の経済活性化を図っていくための最も重要な主体である。わが国企業が熾烈な国際競争に打ち勝ち、高い潜在力を開花させ日本経済活性化の礎となるためには、個々の企業の付加価値増大への努力に支障を及ぼさない税制の構築が重要である。
税制抜本改革においては、企業活動の発展こそがわが国経済再生の最重要課題であるとの認識の下、企業が国を選ぶ時代にふさわしい、国際的に通用する法人税制の再構築を図るべきである。そして、国・地方を通じ、税収の２割以上に及んでいる法人課税への偏重を是正していく道筋を明確にすることが必要である。
具体的には、(1) 創造的科学技術立国の実現、(2) 国際的な整合性の確保、(3) 新たな法人形態への対応、(4) 企業と地方の関係の４点に焦点を当てた包括的な改革が不可欠である。

(1) 創造的科学技術立国の実現のための税制措置

日本経済が中長期的に安定成長していくためには、創造的科学技術立国としての道を目指し、予算の重点的配分や産官学連携、知的財産戦略などを国家戦略として総合的に実施するとともに、次世代を担う新産業・新事業の起業を支援していくことが必要である。税制においても、その基軸として相応しい研究開発税制と創業・ベンチャー支援税制の抜本的拡充を図るべきである。

研究開発税制の抜本的拡充
研究開発をわが国経済の構造改革の根幹として位置付け、特別措置でなく、法人税制の恒久的措置として拡充を図る。
1. 業種分野を限定しない試験研究費の一定額の税額控除
2. 大学等との共同研究開発のための支出や寄附の優遇
3. 新規取得研究開発用資産の即時償却
ＩＴ投資促進税制
わが国経済を再生する上で、経済・社会全般にわたるＩＴ化を推進することが不可欠であり、ＩＴ関連投資に係る税制措置を講ずる。
1. ＩＴ投資の一定額の税額控除あるいは加速度償却制度
2. ソフトウエアの即時償却
創業・ベンチャー支援税制
世界的に高い水準にあるわが国知的財産を新ビジネスに活かし、企業の新陳代謝を促進する観点から、創業・ベンチャー支援税制を拡充する。
1. 創業後5年間に生じた欠損金の無期限の繰越控除制度
2. 創業直後の企業に対する出資の一定割合の税額控除
3. エンジェル税制の拡充（上場前株式譲渡損失の他所得との通算、繰越控除期間の延長（3年→5年）、対象業種の拡大）

(2) 真の国際的整合性の確保

先進諸外国では、国地方を通じた税収に対する法人課税の割合は10％前後であるのに比し、わが国では未だ20％を超える高い水準にある。法人課税への安易な偏重について、税率、課税ベース、諸制度の適正化の各々の面で見直しが必要である。こうした見直しにより、わが国企業の国際競争力を向上させるとともに、海外からの投資をも積極的に呼び込み、経済活力の強化を図るべきである。

税率
法人税の法定実効税率は40.87％となり、ほぼ米国並み（カリフォルニア州の場合40.75％）の水準となっているが、英国が30％であるのをはじめとして、ドイツ、フランス、オランダ等の欧州諸国における法人税率の引き下げ、シンガポール、オーストラリア等の引き下げなど、諸外国では引き続き法人税率軽減のトレンドが明らかである。
さらに、中国をはじめとするアジア諸国のみならず、多くの国々が外国からの投資を促進するための経済特区を設け、大胆な税制優遇措置を講じている。わが国でも、このような国際的な流れを考慮し、少なくとも欧州主要国並みの水準まで軽減を図るべきである。
課税ベース
1. 不良債権の整理を迅速に行ない、また、「選択と集中」を徹底し、不採算事業を整理し、大胆な企業再生を進めるために、国際的な整合性を踏まえ欠損金の繰越期間と繰戻し還付期間を延長すべきである（現行の５年繰越、１年還付（停止中）を10年繰越、２年還付へ）。
2. 減価償却制度について、損金経理要件を撤廃し、法定耐用年数の短縮、残存価額の引き下げ、償却可能限度額の引き上げを行なう。さらに、加速度償却の導入について検討する。
3. 法人関係の租税特別措置について、重点分野への限定的な政策措置としての有効性を検証しつつ一層の整理を進める。研究開発税制など、国家的戦略として進めるべき措置に関しては租税特別措置法ではなく、恒久的な制度として本法において規定する。
法人税制の適正化
1. 連結納税制度の活用を著しく阻害している連結付加税の即時撤廃
2. タックスヘイブン対策税制の見直し（諸外国の税率引き下げの動向等を踏まえた適用除外要件の見直し等）
3. 外国税額控除の拡充（控除限度超過額・余裕額の繰越期間の延長（３年→５年）、間接税額控除対象会社の拡大等）
4. 受取配当金の二重課税の排除
5. 非営利法人課税や寄附金税制の見直し

(3) 新たな法人形態への対応

ＳＰＣ・投資法人に対する課税や連結納税制度の導入など、経済的な実態に着目した法人税制の整備が進められており、その一環として、新たな法人形態への課税について対応する必要がある。

ＬＬＣ、ＬＬＰ
規制改革推進３ヶ年計画（14年３月29日閣議決定）に示された通り、多様なリスク負担形態に対応できる税制上の仕組みとして、米国におけるＬＬＣ、ＬＬＰと同様な制度を創設する。
中小・零細法人課税
一定の小規模法人については、出資比率に応じて法人の損益を出資者の個人所得に合算して選択的に個人所得課税を行なう、米国のＳ法人と同様な制度の創設を検討すべきである。

(4) 企業と地方の関係

地方の受益は選挙を通じた住民の意思により選択されることが原則であり、選挙権のない法人への安易な課税強化は、却って、住民の社会への参加意識を低下させ、地方分権の本旨に逆行するものである。
各地方自治体が地域経済活性化のために内外からの企業進出を促進する上で、創意工夫の上、地方税制を有効な政策手段として活用可能とするよう、地方法人課税を抜本的に改革すべきである。

赤字法人課税
約250万法人の約7割が赤字であり、税負担を免れているとの指摘があるが、その95％以上は資本金が５千万円に満たない企業である。赤字法人の割合も資本金５千万円以上の企業では５割以下にすぎない。本来、企業が継続的な赤字を計上することはありえず、実態は個人事業に過ぎない中小同族法人にまで、一律に法人課税を行なう制度自体の見直しが必要である。
事業税の外形標準課税
地方の行政サービスの受益に応じた適正な負担は必要であるが、既に、地方税では、固定資産税、都市計画税、事業所税、住民税均等割等の外形的な応益負担が存在する。これらの整理なしに、新たに法人事業税に外形標準課税を導入することは、いたずらに地方税体系を複雑にし、税制簡素化の観点に反することとなる。特に、給与や資本金を主たる課税標準とする旧自治省、総務省案は、企業活動の活性化を目的とした税制抜本改革の目的に合致しない。外形標準課税は、これらの税目の整理統合の一環として検討すべきである。
一方で、法人の受益に対する応益負担としての法人事業税が、景気変動により地方財政の変動要因となっている現状を解決するために、税収を平準化する手段として、欠損金の繰越期間を延長した上で、欠損金による控除額の一部を制限することで、利益計上事業年度に一定の事業税を課すことも考えられる。

３．資産課税の抜本改革

(1) 資産課税と所得課税との公平－相続税・贈与税の基礎控除、税率の見直し

相続や贈与による所得に高率の税負担を求める（日本の相続税の最高税率は70％、所得税・個人住民税の最高税率50％）ことの意義は、自己の努力によらない資産の集中を防ぎ、富の分配を果たすことにある。
一方で、過度な税負担は、資産の取得に対するインセンティブを減殺し、富の海外流出を招く要因ともなる。カナダやオーストラリアなどには既に相続税はないが、米国でも2010年に向けて、段階的に相続税を廃止することとした。
相続税・贈与税の基礎控除と税率について、負担軽減に向けた見直しを進め、特に、最高税率の引下げをはじめとする累進税率の緩和を行なうべきである。

(2) 資産課税間の公平－生前贈与と相続を通算する新たな課税の仕組み

贈与税は相続税の補完税としての役割を担うものである。しかし、贈与税の非課税枠（年間110万円、住宅贈与特例の５分５乗方式で550万円）と相続税の非課税枠（基礎控除5,000万円に加え、法定相続人一人につき1,000万円）とを比べると相続税のほうが有利なため、生前贈与が起こりにくい構造になっている。
日本人の寿命が延び、相続が発生する年齢が高齢化したため、資産需要の旺盛な世代に相続（資産の移転）がなされず、資産の有効活用につながらない。
日本と同じ相続税の相続人課税方式（遺産取得課税方式）をとるフランス、ドイツでは、相続税・贈与税の基礎控除、税率を基本的に共通化した上で10年間累積課税方式をとっている。
日本においても生前贈与と相続を通算する累積課税方式（10年間程度）を導入し、世代間の資産移転が円滑に進むようにすべきである。
また、現下のデフレからの脱却のために、まずは、住宅取得に係る贈与税特例（現行５分５乗方式、非課税枠550万円）を10分10乗方式、非課税枠1,100万円まで引き上げること、時限的に贈与税の基礎控除の引き上げを実施することにより、贈与税の不利性を軽減することが必要である。
さらに、相続・贈与時における株式・株式投信の評価額について、軽減措置等を講ずることにより、他の資産と負担の均衡を図るべきである。

４．地方税制の抜本改革－個人を基盤とする税制の拡充

(1) 住民の受益と負担の選択による地方財源の充実

地方行財政改革の徹底
真の意味における地方分権を実現するためには、国から地方への権限移譲にとどまらず、財政面においても地方公共団体が自立できる基盤を構築していかなければならない。そのためには、国の財政構造改革との密接な連携の下で地方行財政改革を加速させ、徹底した歳出削減を行なう必要がある。同時に、経済社会の変化に対応しうる効率的で自立可能な組織を作るために、市町村合併を加速するとともに、道州制を視野に入れて地方自治体の大胆な統合・再編を進めることが急務である。
こうした取り組みと並行して、国と地方の財政的関係を見直すとともに、自立可能な歳入の確保を可能にする地方の財政的枠組みを確立していく必要がある。
自立した地方税財政の確立
地域における公的サービスの水準とそれに必要な負担のあり方は、地域住民の自己責任と自主的な判断によって決められるべきである。そうした観点から、地方の公的サービスの財源は、原則として地方税によりみずから賄うことが望ましい。しかし、現在の地方歳出総額のうち地方税によって賄うことができる割合は４割以下に過ぎず（平成14年度地方財政計画）、地方財政は自立とはほど遠い状況にある。
これを国・地方間の財政的関係から見ると、歳出における国・地方間の比率は概ね２：３でありながら、税収では３：２に逆転しており、大きなねじれが存在している。この差額は、地方財政に対する「不足払い」の形をとる地方交付税や国庫支出金など、国からの財政移転で埋め合わされているが、このことが、地方における受益と負担の関係を不明確にし、地方の行財政改革、自主財源の調達に向けた努力を著しく阻害している。
地方財源の充実
地方税財政改革の基本的方向として、国から地方への財政移転は、極端に財源の乏しい地方公共団体に限定するなど最小限にとどめ、地方交付税については、国から地方への財政移転ではなく、地方公共団体間において、その財政力格差を調整する制度として抜本的に改めるべきである。また、国庫支出金等については、国による法定委託事業については全額国庫負担とした上で、残余については縮小・廃止すべきである。
当面の措置としては、地方単独補助金の廃止・合理化、地方交付税の算定方式の抜本的見直し、国庫支出金の縮減・廃止が必要である。
その上で、地方自治に要する費用を地方が自ら賄うこととすべきであり、その財源は、普遍性・安定性を有し、住民個々人が主たる担税者である税を基本としなければならない。
こうした観点に立ち、まずは、地方の自助努力による税収確保を目指すべきである。併せて、国から地方への財源移譲を進め、もって地方財政の自立を図るべきである。

(2) 個人住民税の充実

受益に見合った負担の実現
地方税は、教育や福祉・衛生、消防・警察、ごみ処理など、地域の住民が直接受益する公的サービスに要する費用を賄う税金であり、地域の住民一人ひとりが負担する個人住民税を、地方税の基幹的税目に据えるべきである。
個人住民税は、一応の標準税率は設定されているが、現行地方税法上も地方公共団体の自主判断により独自に税率を設定することができ、上限となる制限税率もない。しかし、地域住民に超過課税を課している自治体は20団体と、約1,400の市町村、46の都道府県が法人住民税への超過課税を実施しているのに対し、ごく僅かにとどまっている。
地方公共団体が、地域住民の理解を得つつ超過課税を活用し、個人住民税の大胆な拡充、とりわけ、住民税均等割を大幅に引き上げることにより、地域住民が受益に見合った負担を行なうことこそ、地方財政の自立に向けた第一歩である。
自主財源の拡充
併せて、国税である所得税からその基礎的税率部分について個人住民税への税源移譲を進め、地方財政基盤の強化を図るべきである。

(3) 地方にふさわしい資産課税の構築－固定資産税の改革

土地に係る固定資産税・都市計画税は、平成12年度評価替えにおいて、商業地等の宅地について、税負担の上限が若干見直されたものの、依然として都市部の商業地等では過重な税負担となっており、大都市部の商業地、工場用地は、税負担が平均の実効税率（全国商業地で0.58％[2000年度]）を大きく超えているものも少なくなく、景気の低迷により収益力が悪化している中で、税負担が重くのしかかっており、競争力にマイナスの影響を与えている。都市の活性化や企業立地を促進するために負担軽減を図るべきである。
固定資産税を市町村税の基幹税と位置付けていく以上、地価公示価格に対する７割評価の是非も含め、収益力に対して過重な負担とならないような評価のあり方とともに、あるべき税負担の水準（2000年度は全国商業地宅地平均で評価額に対する課税標準額の57.6％[94年度は14.9％]）についての議論を尽くすべきである。
東京都では域内の中小企業が極めて厳しい経済状況下にあるとの認識から、小規模非住宅用地に係る2002年度分の固定資産税・都市計画税の税額を２割減免することとしており、その取り組みは評価できるが、そもそも全体の水準の引き下げが必要である。小規模住宅用地の特例見直しについても、そうした水準の適正化が図られることが大前提である。
また、収益還元価格など一定の根拠をつけた自己査定による評価額を申告すれば、公示地価を基準とした固定資産税評価額とは別に審査を受けて課税をうけることができるような仕組みの導入を検討すべきである。
建物については、現状の経年減点補正が十分でない(補正率および残存価格)ため、評価が実勢よりも高くなり、固定資産税評価額が時価を上回るケースも多い。時価を上回る評価額を課税標準とすることは、地方税法の規定に明らかに反しており、建物の評価を見直すべきである。耐用年数の整合性を図る観点からも、家屋に対する課税標準の見直しなどについて取り組む必要がある。
事業用の償却資産に対する課税は、特定の設備型産業に偏重しており、業種に対する課税の中立性に問題があることから、その課税のあり方について検討する必要がある。

５．都市再生と土地流動化

(1) 都市を再生させるための税制措置

都市の競争力は国の競争力に直結する。政府は、都市再生を強力に推進するため、「都市再生特別措置法」を制定し、現在、都市再生本部において、都市再生緊急整備地域の指定に向けた検討を進めている。しかし、同法では税制上の手当てがなされていないため、同法に基づき国土交通大臣の認定を受けた都市再生事業に対して、事業区域からの転出者、事業区域内で新たに土地や建物を取得する法人、都市再生事業を行なう者、開発後の入居企業、施設所有者それぞれにわたる税制上の特例措置を講ずるべきである。
また、民間のノウハウや創意工夫により公共施設の整備を行なうＰＦＩ事業について、公共事業として実施する場合との課税のイコール・フッティングを図るべきである。税制がＰＦＩの事業方式の選択を歪めたり、事業の効率的な運営を妨げたりしないよう、税制措置を講じるべきである。具体的には、①ＢＴＯ方式(民間事業者が施設を建設し、完成後に公共に所有権を移転し、民間事業者が管理・運営をする方式)のみならずＢＯＴ方式(民間が施設を建設・管理・運営をし、事業終了後に公共に所有権を移転する)の場合においても固定資産税・都市計画税等を非課税とすべきである。②ＰＦＩ事業の契約期間に応じた償却や大規模修繕費等の積立を可能とする税制上の措置を講ずるべきである。

(2) 土地流動化促進のための税制措置

不動産には、その流通・建設段階において、多重に流通税が課されている。課税の根拠である不動産取引の背後の担税力が乏しい現状において、他の資産と比較しても過大な課税を多重に負担させられており、これらの課税を整理・合理化し、不動産の流動化を促進することが必要である。
具体的には、(1)登録免許税の低額定額化、(2)不動産取得税の撤廃、(3)特別土地保有税、事業所税（新増設分）の廃止が必要である。
加えて、不動産の証券化を推進し、不動産投資市場へ内外の資金を呼び込むために、投資法人、ＳＰＣ、不動産特定共同事業者が取得する不動産の流通税を非課税とすること、少額配当申告不要制度の限度額の引き上げをすることとすべきである。
なお、既にその役割を終えている地価税、法人の土地譲渡益重課を廃止し、個人の土地譲渡益課税は26％を20％に引き下げるべきである。個人の不動産取得に係る損失のうち、土地を取得するために要した借入金の利子相当額を損益通算の対象から除外する措置を廃止すべきである。

６．特定財源制度の見直し

ある税目から得られる税収を特定の事業・公的サービスに要する費用に充てることは、その受益と負担の間に密接な対応関係が認められる場合には一定の合理性をもつものであるが、それが資源の適正な配分を歪め、財政の硬直化を招いていることも事実であり、特定財源の妥当性については常に吟味していく必要がある。
その見直しにあたっては、道路整備等の特定財源の受益と負担が明確であるという特質を活かしつつ、公共事業の長期計画の見直しや、事業の重点化・効率化と連動させて、制度の簡素化・縮小を図るべきである。また、使途のあり方とともに、現行目的税が道路建設等に充当することを前提に成り立っていることから、併せて負担水準を見直すべきである。
特に、特定財源税目とされている自動車・石油関係諸税は、それぞれの中でも車種間、油種間での格差があるなど複雑な制度となっており、かつ全体としては、諸外国に比べて過重な負担となっていることから、簡素化・国際的整合性の観点からも見直す必要がある。

７．持続可能な社会保障制度の構築と企業・個人の自助努力支援の促進

わが国では、かつてどの国も経験したことのない、急速な少子・高齢化が進行しつつある。このままでは、現行の社会保障制度を中長期的に持続させることは不可能であり、このことが国民の将来不安を増大させ、足元の景気回復さえ覚束ないものとしている。
少子・高齢化のもとでも持続可能な社会保障制度を構築し、国民の安心を確保していくためには、世代間の公平を図る観点から現行制度を抜本的に見直し、現役世代の負担を一定の範囲に抑えていくことが急務である。
その際、財源方式のあり方については、経済や社会の活力の維持・向上という観点から、現役世代および企業に対する、社会保険料などの直接的な負担の増加を極力回避するとともに、国民が広く薄く負担する消費税によって賄うことが不可欠である。

(1) 公正・公平な負担による公的年金制度の再構築

公的年金については、負担と給付のバランスを適正化し、世代間の公平を図ることが重要であり、まず、基礎年金と報酬比例部分を峻別した上で、それぞれの給付と負担のあり方について早急に適正化を図る必要がある。
基礎年金は、全ての高齢者に対して基礎的生活の一部を保障するものとし、給付水準もシビルミニマムの観点から必要な見直しを行なう必要がある。財源のあり方としては、国民全体で広く負担を分かち合う仕組みとするため、間接税方式に移行させていくべきであり、所得捕捉の問題等を勘案すれば消費税率の引き上げを行なうことが不可欠である。国庫負担割合の２分の１への引き上げを行なうにあたっては、給付水準と財源のあり方について十分な検討を行なう必要がある。
また、報酬比例部分については、長寿化、生産年齢人口の減少に加えて、低成長への移行に伴う報酬の伸びの鈍化などにより、現在の給付水準を今後も維持していくことは困難である。制度に対する国民の不安・不信を払拭し、安心と信頼を回復するためには、現役世代への過度な負担を求めることなく長期的に持続可能な給付水準について国民にわかりやすく示した上で、その実現を早期に図る必要がある。

(2) 企業年金の機能強化につながる年金税制の整備（一部再掲）

上記のように、中長期的には公的年金のスリム化が不可避であることから、国民の自助努力を促すため、以下のような企業年金に対する税制上の支援策を積極的に講じていくべきである。
第１に、拠出時・運用時非課税、受給時課税を徹底するために、現在停止されている特別法人税を即時撤廃するとともに、所得税の公的年金等控除については、大幅な縮減を図り、所得税累進税率を緩和する際には廃止すべきである。
第２に、確定拠出年金制度について、既存の退職給付制度からの移行を進めるために、拠出限度額の撤廃ないし大幅な引き上げを行なうとともに、マッチング拠出を容認すべきである。また、一定の要件のもとに中途引出しを可能とし、脱退一時金の受給要件を緩和すべきである。
第３に、確定給付企業年金制度についても、自助努力支援の観点から本人拠出分の取扱いの改善を図るべきである。

(3) 高齢者医療制度の改革

医療制度の改革の焦点は高齢者医療制度の抜本的な見直しである。現行高齢者医療制度における最大の問題である老人保健拠出金は、現役世代の保険者に対して、老人医療費の負担を自動的に求める仕組みであり、拠出金の増加を抑制する仕組みが存在せず、現役世代の保険制度としての本来の趣旨を歪め、幾多の健康保険組合の破綻を招いている。その撤廃なくして医療保険制度の安定はない。
新しい高齢者医療制度の創設にあたっては、その対象者のあり方について抜本的な見直しを行なうとともに、高齢者の受益と能力に応じて負担の程度を高めつつ、医療の効率化や自助努力等では賄いきれない分については、公費によって国民全体で広く支え合う財源の仕組みを構築する必要がある。この観点から、消費税率の引き上げによって老人保健拠出金を廃止する方針を早期に示すべきである。

(4) 介護保険制度の改革

介護保険制度については、「競争と選択」を徹底し、質の高い介護サービスの効率的な提供を実現することによって、社会的入院の解消を図りつつ、要介護者の増加に備えて、安定的で公平な財源を確保する必要がある。
現役世代（第２号被保険者）および企業の保険料負担への依存は、世代間の給付と負担の不公平の観点から既に限界であり、高齢者からの適切な自己負担・保険料を求めた上でなお不足する財源については、公費の増加によって対応すべきである。

８．循環型社会の構築

限りある資源の有効活用、さらには、地球温暖化への対応のためには、企業活動のみならず国民生活の隅々において循環型社会の構築が求められている。循環型社会構築を支援するために、省エネルギー・省資源、廃棄物の適正処理、低公害化対策をはじめとする様々な分野において有効な手法を、税制を含めて検討すべきである。
また、現在の環境問題はかつての公害問題と異なり、被害者、加害者が区別できず、国民一人ひとりの日常生活や経済活動に深く関わる問題であり、国民全体の主体的な参加と協力が不可欠である。産業界は、既に自らの創意工夫が活かせる自主的取り組みを中心に据えて、温暖化対策や廃棄物削減対策に積極的に取り組み、成果を挙げている。こうした取り組みは、健全な経営基盤の上にこそ成り立つものであることから、規制的措置、環境税の議論に際しては、官民あげての取り組みの成果を十分に見極める必要があり、とりわけ企業の競争力低下につながる措置の検討は慎重を要する。
特に、CO2排出抑制の手段として、環境税を導入すべきとの考え方があるが、はじめに税の導入ありきでの検討は本末転倒であり、まずは、環境税導入による効果と経済への影響について既存税制との調整等も含め、中長期的な視点に立った幅広い調査・研究が行なわれる必要があり、それらの結果が産業界や国民が十分納得できるだけの説得力をもって示されるべきである。

９．少子高齢化社会における活力の維持

(1) 歳出構造の抜本的見直しの必要性

「構造改革と経済財政の中期展望（平成14年１月25日閣議決定）」が示すように2010年代初頭にプライマリー・バランスの回復を図るためには、社会保障給付の削減、公共投資の見直しをはじめとする、国・地方を通じた抜本的な歳出削減を進め、小さな政府の実現を図ることが、まず、大前提である。
これとともに、集中調整期間、経済基盤強化期間において経済活力の着実な回復に向けて、税制抜本改革、規制改革をはじめとする有効な施策が進められるならば、経済は自律的成長軌道に戻り、企業収益の増大、雇用の増加を通じて税収の回復さらには増大が期待できる。
しかし、それでもなお、プライマリー・バランスを回復し、さらには2010年度には800兆円を超えると推計されている累積債務を解消していくためには、別途、大規模な歳入確保策が不可欠である。

(2) 将来における国民負担のあり方

わが国の国民負担率は、平成14度予算ベースで38.3％（租税負担率22.9％、社会保障負担率15.5％）とアメリカを除き主要先進国中最も低い水準にあるが、将来に先送りされた国民負担である財政赤字を加えて考えれば、既にその水準は46.9％と40％台の半ばにまで達している。
今後とも、少子・高齢化の進展により、国民負担率の増加は不可避であるとしても、経済社会の活力を維持していくためには、将来においても国民負担率が50％を超えない範囲に止めることが必要である。
また、その内訳も、個人・法人の所得に係る所得課税（平成14年度11.8％）や、社会保険料は、できる限り現状の程度に止め、増加分については、経済成長に対する影響が相対的に少ない間接税（同7.1％）、とりわけ消費税のウェイトを高めていくことで対応することが不可欠である。
具体的には、消費税率を、少なくとも、現在の欧州主要国の付加価値税率並みの水準にまで引き上げていくことが不可避である。
そのためには、まず、消費税に対する国民の信頼を高めていくことが必要であり、インボイス方式の導入や免税点・簡易課税制度の見直しによる「益税」の解消が急務である。
さらに、高齢化に伴う社会保障支出の増加に対応していくためには、消費税における複数税率化、内税化などの制度整備を進めると同時に、個別間接税の整理を図りつつ、消費税率を引き上げていくことが基本であると考える。
政府は、基礎年金の国庫負担割合の引き上げをはじめ、持続可能な社会保障制度を速やかに構築していくには、消費税率の引き上げが不可避であること、また、早期に消費税率の引き上げを行なうならば、財政赤字や長期債務の増嵩を止め、最終的な消費税率の水準をより低い水準に収めることができることを、国民に明らかにし、早急にコンセンサスを醸成すべきである。

以　上

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税制第３次提言「税制抜本改革の断行を求める」