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インターナショナルスクール問題についての提言

−グローバル化時代に対応した教育基盤の整備に向けて−

2002年6月14日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

市場経済の拡大、IT革命などによってグローバル化が急速に進展し、世界各国が浮沈をかけて厳しい競争を行なっている中で、日本の国際化の遅れが懸念されている。国際化が遅れている原因の一つとして、わが国は国際化に対する国家戦略が欠如しており、国際標準、デファクトスタンダードを後追いしてきたことが挙げられる。わが国が魅力ある国際国家として世界から認知されるとともに、日本人が国際的な価値観を備えた優秀な国際人として高く評価されるための戦略を早急に確立する必要がある。
近年、国内では、将来、国際社会で活躍したい、あるいは子女に国際社会で活躍するための教育を受けさせたいと希望する声が高まり、初等中等教育の段階からそのような教育を受けることへのニーズが高まっているが、こうしたニーズに応える教育を拡充することは、わが国の教育の国際化、教育水準の向上にもつながるものと考えられる。
経団連では、2000年3月に「グローバル化時代の人材育成について」と題する意見書を取りまとめ、この中で、わが国が全地球規模の経済社会のグローバル化、国際化の急速な進展に対応するために、英語力の強化や国際理解力の増進、さらには複眼的で複線的な多様な教育・人材育成システムを実現することが重要であるとの見解を示した。
以下に於いて、これらの目的に合致する教育機関の一つとして、インターナショナルスクールに着目し、それをとりまく問題点と改善策について提言する。

1.インターナショナルスクールの現状

わが国において、いわゆる外国人学校として、(1)民族系学校、(2)母国教育のための学校、(3)インターナショナルスクールが位置付けられてきた。「複数の国籍の生徒が席を並べ、国際水準の教育を英語等によって実施する教育機関」であるところのインターナショナルスクールは約30校あり、その内の約20校が英語で授業を行なっている。インターナショナルスクールには、各校によって異なるが、幼稚園から高等学校までの課程がある。近年は、海外からわが国に赴任する外国人の増加に伴って入学希望者が急増しており、その受け入れ能力は限界に達している。一部、日本人も受け入れており、希望も年々増えてきている。
ところが、わが国の制度では、英会話学校などと同じ、各種学校と位置付けられており、(1)公的補助や寄付金に対する免税措置がないために授業料が高額である、(2)高等学校や大学の受験に際して、インターナショナルスクールを卒業しただけでは受験資格がない、等の問題がある。

2.インターナショナルスクールの意義

(1) 国際的に通用する人材の育成

国際的に通用する英語力と異なる文化や価値観を理解する能力を身につけた人材を育成することは、国家戦略の一つとして取り組むべき大きな課題である。
多様な国籍の人々と一緒に働く環境の中においては、「自分の考えを伝える能力」、「異文化を理解する能力」、「説得力のある論理構成を組み立てる能力」、の3つの能力が必要であるが、こうした能力を培う上で、現在の日本の学校教育は十分とは言えない。勿論、改善の努力はなされているが、例えば国際経営開発研究所(IMD)が毎年発表している『世界競争力白書2001年版』によれば、わが国の大学教育の評価は、世界の49位であり、改革の道のりは遠いと言わざるを得ない。
そうした中で、日本国内において、初等中等教育段階からインターナショナルスクールや諸外国の教育過程を導入した学校で学ぶことを通じて、国際能力(語学力、異文化への対応力を含めた上述の3つの能力)の育成に取り組みたいと希望する声が増えている。また、人材面での国際競争力の欠如は、企業が国際競争を勝ち抜く上で大きな足かせになることから、わが国企業においてもそうした人材に対するニーズが高まっている。グローバル化社会に対応する意味で、インターナショナルスクールを教育の選択肢の一つとして位置付けることは、個人のニーズ、企業のニーズに応えるとともに、ひいては国力を維持するという点においても非常に重要である。

(2) 国際教育の拠点としての機能

現在、公立学校においても外国人指導員の増員などの各種の施策が講じられているが、限られた時間、外国語や外国の文化などを学ぶだけの国際教育では限界がある。この点、インターナショナルスクールは、生徒の交流の場あるいは英語教員への教授方法の再教育の場としても期待され、国際教育の拠点となりうるものと考える。

(3) 帰国子女の国際能力の維持

海外における日本人子女教育の充実とともに、帰国後の教育との連続性が課題となっている。帰国後、インターナショナルスクールに入学すれば、海外で培った貴重な国際能力をそのまま維持できることはもとより、海外においても帰国後の学校やその後の進学について懸念することなく国際的な経験・学業を充実させることが可能となる。

(4) 外国人子女の受け入れ

日本企業の国際的ビジネス提携や統合・合弁が進展する中、家族を伴って来日する外国人の数が増加している。公立学校における外国人子女受け入れ体制の整備を図ることは望ましいが、現実には、スムーズに学校生活に適応できるなどの理由から、インターナショナルスクールを選択する傾向が強い。来日する外国人にとって、子女の教育環境は極めて重要な要素であり、インターナショナルスクールの整備は、投資環境の整備の視点からも重要である。わが国の産業の空洞化対策の一つとして、外国人が子女の教育に不安なく来日できるよう、早急にインターナショナルスクールの環境整備を図る必要がある。

(5) 大学・高等学校の国際化の促進

大学改革の中で、大学の国際化は一つの大きな柱である。国際能力を身につけたインターナショナルスクール卒業生を受け入れることは、大学にとって大きなメリットになる。また、高等学校においても、インターナショナルスクールの卒業生と一般の生徒との相互啓発を通じて国際理解力が高まることが期待できる。
また、世界の青少年の教育、異文化理解のための教育において、わが国が拠点の一つとなれるよう、インターナショナルスクールの誘致や創設を促進する必要がある。

3.インターナショナルスクール問題の改善策

(1) 一条校に準ずる教育機会として認めること

インターナショナルスクールは、学校教育法において英会話学校などと同じ各種学校として位置付けられているが、前述したその果たし得る役割に照らし、特例措置として、一条校(学校教育法第一条の規定する学校)に準ずる教育機会として認めるべきである。

(2) 卒業生に対し上級学校(大学・高等学校)入学資格を付与すること

日本国内にあるインターナショナルスクールの卒業生については、国際バカロレア等の国際資格に合格していることあるいは大学入学資格検定試験に合格することが大学入学資格となっている。一方、外国にあるインターナショナルスクール卒業生については、当該国で正規の学校として位置付けられている場合には、国際資格を有しなくとも我が国での大学入学資格が付与される。このような矛盾を解消するためにも、認定機関による評価認定(アクレディテーション)を受けている学校の卒業生については、国際資格の取得あるいは検定試験の合格なしでも大学入学資格を取得できるようにするなどの措置を講じるべきである。また、高等学校への入学資格についても、同様の措置が求められる。
この点、規制改革推進3ヵ年計画(改定)(平成14年3月29日閣議決定)において、平成14年度中に措置する項目として、「インターナショナルスクール卒業者の進学機会の拡大」が盛り込まれているが、インターナショナルスクールの意義を反映させた形で、すみやかな実施を求める。
なお、現実には、国際バカロレアなどの国際資格を有している生徒にも門を閉ざしている大学があり、その改善が望まれる。

(3) 国際教育への取り組みに対する助成を行なうこと

一部の自治体ではインターナショナルスクールへの助成を行なっているが、その規模は小さい。日本の国際化を推進し、国際交流や英語教育のセンターとして貢献するインターナショナルスクールに対しては、その運営に対し一層の助成を行なうべきである。なお、インターナショナルスクール側においても、ディスクロージャーに努め、自らの教育方法に対する信頼を高めるよう努力することが求められる。

(4) 税制上の優遇措置を導入すること

インターナショナルスクールの設置を主な目的とする法人を特定公益増進法人に追加し、企業や個人からの寄付金を受けやすくすることで、インターナショナルスクールの新設・増設を促進すべきである。

(5) 施設整備の弾力化を図ること

正規の学校では、教育施設は基本的に自己所有とされているが、借用でも可能とするよう弾力化を図るべきである。例えば、廃校となった公立学校の施設をインターナショナルスクールなどに転用する場合には、国庫補助金の返納が免除されることが99年から認められているが、少子化によって学校施設が余ってきていることでもあり、こうした制度の活用を推進すべきである。

4.将来的な課題

(1) 教育機会の多様化

義務教育過程において、いわゆる一条校(学校教育法第一条の規定する学校)での教育のみを認知するという現在の制度は、国民に一律の教育を施すことを国策としていた時代の考え方である。将来的には、自己責任において多様な教育サービスから自由に選択できるという新しい発想に基づく教育制度を導入することを検討すべきである。

(2) アジア諸国の学生が共に学ぶ学校構想の実現

わが国経済のアジア依存度は非常に高まっており、例えば、貿易は4割を超える状況になっている。アジア圏における経済交流の進展を支える人材の育成を図るため、アジア諸国の初等中等教育レベルの子供達がともに学ぶことができる学校(各国の伝統文化を教える個別カリキュラムと共通カリキュラムを有し、意思疎通のツールとして英語教育を実施する学校)の創設を検討すべきである。

以 上

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