[トップ] [意見書] [ 目次 ]

PFIの推進に関する第二次提言

2002年6月17日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

日本経団連では、イギリスにおいて行財政構造改革の一環で導入されたPFI(Private Finance Initiative)が、1. 社会資本の効率的な整備と公共サービスの質の向上や、2. 民間の事業領域の拡大と経済活性化、3. 小さな政府の実現などに資する政策であることから、わが国においてもPFIを導入すべきことを提言してきた #1 。その際、わが国の第三セクターによる民活事業の失敗の轍を踏まないことが肝要であり、イギリスで行われているような、官民の適切なリスク分担の下に、民間の能力・創意工夫を最大限に活用し、効率的な社会資本整備に実効性のあるPFI事業を推進することが重要であると主張してきた。1999年3月には、イギリスをはじめとした欧州諸国にPFI海外調査団を派遣し、その実態を調査した #2 。こうした活動も実って、1999年7月にPFI法の成立をみた。
その後、わが国では、地方公共団体が先行してPFI事業に取り組んできており、「実施方針」が策定された地方公共団体のPFI事業は、現在約50件に及ぶ。国や他の地方公共団体に先駆けて、新しい社会資本整備の手法であるPFI事業に積極的に取り組んできた先進的な地方公共団体に対し、パイオニアとしての努力を大いに評価したい。
また、国においても、小泉内閣が掲げる財政構造改革の下で、PFI事業の推進に関心が高まっており、2001年6月には、内閣総理大臣が本部長を務める都市再生本部が、「文部省・科学技術庁の建替え事業」等のPFI事業を「都市再生プロジェクト」として選定したほか、2002年5月末には、国のPFI第一号案件となる「衆議院赤坂議員宿舎整備事業」が特定事業として選定された。
このようにわが国でも、数多くのPFI事業が企画・実施されるようになってきているものの、その事業内容を具体的にみると、単なる建設費の繰延べに過ぎないものなど、民間事業者の創意工夫を活かせる範囲が限定的で、PFI本来の趣旨に則った事業内容に必ずしもなっていないと指摘されるものも多い。また、PFIの特性を活かすためには、制度上あるいは運用上、解決すべき課題も多い。
そこで、日本経団連では、PFI法成立後約3年が経過しようとする今、PFI事業を実際に検討した企業約60社を対象としたアンケート調査等を実施し、具体化されたPFI事業の検証作業を行ったうえで、解決すべき課題等を整理し、改めて、PFI事業の推進に向けた、以下の提言を行うこととした。

I.PFI推進のための基本的な考え方

1.PFI事業の推進の意義

PFIは、民間の資金、経営能力及び技術的能力、創意工夫等を活用して、公共施設の建設・維持管理・運営等を行う、社会資本整備の新しい手法である。PFIは、公共施設の維持管理・運営も含めたライフサイクル・コスト #3 の現在価値で比較して、PFIで実施した方が、国や地方公共団体等が直接実施するよりも効率的かつ効果的に公共サービスを提供できる場合、つまりVFM(Value for Money) #4 が生じる場合に適用される。
わが国では、現在、長引く景気低迷から脱却するため、構造改革の断行が不可欠となっている。PFI事業は、1. 財政構造改革、2. 新産業・新事業の育成による経済活性化、3. 「民間でできることは、できるだけ民間に委ねる」という行政改革、4. 公共事業改革といった、わが国経済社会が直面している課題を解決するための糸口となることが期待できる。引き続き、わが国においても、PFI事業の一層の推進を図るべきである。

《参考》【PFIの重要概念とその実現に必要な重要な手続き】

2.より質の高いPFI事業の推進

公共側が行ってきた公共サービスを民間に委ねる手法として、民営化、PFI、公設民営、業務委託、独立行政法人化など様々な手法がある。また、PFI事業においても、その事業形態には、サービス購入型 #5 、独立採算型 #6 、ジョイント・ベンチャー型 #7 といった類型がある。さらに、わが国では、その事業方式として、BOT方式 #8 、BTO方式 #9 、BOO方式 #10 がある。「民間でできることは、できるだけ民間に委ねる」という行政改革の流れのなかで、公共サービスを民間に委ねる場合、個々の公共サービスの内容・属性に適した手法を選択することが望ましく、多様な選択肢があってよい。
しかしながら、既に検討・実施されているPFI事業に対して、PFIの特性を十分に活かした事業内容になっていないのではないかとの指摘がある。前述したアンケート調査結果においても、回答社数の8割の企業が、「事業内容などについては必ずしも満足できる状況ではなく、環境整備を図る必要がある」と回答した。また、既に実施されたPFI事業について、「PFIの趣旨に沿った事業内容となっているか」を質問したところ、回答社数の3割を超える企業から、「あまり適当ではない」との回答があった事業も複数あった。さらに、「PFI事業推進のために必要な施策」として、「公共側の理解促進、啓蒙活動」を挙げた企業が約7割あった。
したがって、PFI事業を推進するにあたっては、民間の能力や創意工夫の発揮を促し、効率的な公共サービスの提供を実現するため、より質の高いPFI事業の導入を目指すことが必要である。
「民間の能力、創意工夫が大いに発揮できる、より質の高いPFI事業」とは、例えば、下記のような事業であると考える。

(1) 財政負担の繰延べのみを目的とせず、ライフサイクル・コストの縮減を実現する事業
PFI事業の主な目的はVFMの最大化である。例えば、財政負担の平準化・繰延べのみを目的とする割賦方式の事業は、後年度に負担を繰延べるだけで、それだけでは財政負担縮減効果は生まれず、本格的なPFI事業とは言えないであろう。実際、イギリスでは、リスク移転が行われない延払割賦方式(ファイナンス・リース方式)は通常VFMが生じないことから、PFI事業に該当しないと定義付けられており、行われていない。

(2) 性能発注を基本として、施設の設計・建設・維持管理・運営までを一括して発注する事業
ライフサイクル・コストの低減を図るためには、維持管理・運営のコストパフォーマンスを十分に考慮した施設の設計・建設が行われることが重要であり、公共側は、施設の設計から運営までを含めて、一括して発注すべきである。このために制度的な障害がある場合には、規制緩和や制度改正を行う必要がある。また、民間の最新技術や創意工夫等を最大限発揮できるようにするためには、公共側が発注に際して、施設の仕様について詳細に規定(仕様発注 #11 )するのではなく、性能発注 #12 を行うことが重要である。

(3) 必要性・緊急性の高い公共施設で、かつ運営部分までを民間に委ねる事業
財政構造改革の必要性が切迫しているなかで、民間資金を活用するPFI事業といえども、必要性の高い公共事業を優先的に実施していくべきである。現在、PFI事業で数多く行われている、いわゆるハコモノ施設の維持管理(建築・設備の保守管理、清掃、保安、大規模修繕等)にとどまることなく、公共施設の運営部分、国民への公共サービスの提供に深く係る部分にも、民間の創意工夫が発揮できるようにすべきである。

(4) 官民の英知を結集し、最適なリスク分担を実現する事業
PFI事業は、民間資金を活用して公共事業を行うものである。効率的かつ効果的な社会資本整備を行えるよう、官民が対等な立場にたち、官民の英知の結集を図って、最適なリスク分担を実現することが重要である。具体的なPFI事業の選定・実施にあたっては、官側がこの点を十分踏まえて、適切な事業スキームを設定することが必須の要件である。
例えば、過度なマーケットリスクを民間に負わせることのないよう配慮すべきである。PFI事業は施設の内容、立地が公共側の条件で限定されることから、民間事業者が負担しえない非合理なリスク分担は避けるべきであり、また、公共施設の整備と併せて収益施設の整備をPFI事業で行う場合、その収益施設の収益でPFI事業の相当部分を賄おうとする発想は望ましくない。公共施設のリスクと収益施設のリスクは分離すべきである。

(5) 運営に民間事業者の創意工夫が一層発揮できるBOT方式を採用した事業
事業期間中に限って民間PFI事業者が所有権を持つことにより、運営の裁量性や自由度が増し、創意工夫を一層発揮しやすくなる。イギリスで行なわれているPFI事業は原則的にBOT方式を前提としている。

(6) 事業の集約化等の工夫により、一定の事業規模を確保した事業
PFI事業は長期にわたる事業内容について詳細にリスク分担を行うことから、民間事業者のみならず、公共側にとっても、事業の具体化に向けた作業量が膨大になる。このことから、事業規模が小さい公共施設をPFIで個別に整備することは、VFMが出にくいことが予想され、また、事業性評価とその安定性担保に直接・間接に寄与するプロジェクト・ファイナンス #13 の組成が難しくなることにもつながる。イギリスでは、小学校や病院といった事業規模の小さい公共施設をPFIで整備する場合、同種・同様の施設を複数併せて一つのPFI事業に統合する等の工夫をしている。わが国においても、個別事業の立ち上がりも見極めつつ、同種・同様の事業を集約化することも視野に入れて、より効率的な整備を目指すといった点も官・民双方で検討していく必要がある。

現在では、公共側の意識あるいは制度上の制約等から、上記のようなより質の高いPFI事業が組成・選択されにくい環境にある。公共側に対し、PFIに対する本質的な理解の促進を図るとともに、より質の高いPFI事業が行われやすい環境を早急に整備することが重要であり、「II.法制度や手続き等の面で解決すべき課題」に掲げる問題の解決を急ぐべきである。

3.その他PFI推進にあたっての重要な考え方

PFI事業は、わが国公共事業改革の突破口になりうることが期待できることから、従来型の公共事業に増して公平性・透明性の確保に努めることが極めて重要である。また、より効率的な公共サービスの提供を促すなどVFMの最大化を図るため、多数の民間事業者の参入を促すような環境整備を行うことも求められる。
同時に、現在行われている事業は、環境整備が不十分な面もあって、必ずしもPFIの特性が発揮されている事業スキームとなっていない事例も多い。従って、国・地方公共団体が、今後新たなPFI事業を企画・実施するにあたっては、安易に前例を踏襲することのないようにすべきである。
さらに、国・地方公共団体における意識改革を促すことが重要である。官尊民卑の意識が潜在的であれ根底に存在すると、PFI事業は成功しない。官と民は対等であるとの前提にたって事業を進めることが、PFI事業を成功に導く鍵の一つである。

II.法制度や手続き等の面で解決すべき課題等

民間の能力や創意工夫等を十分に発揮し、効率的な公共サービスの提供に資する、より質の高いPFI事業を推進していくため、下記の課題の解決を図ることが必要である。アンケート調査においても、PFI事業推進のために必要な事項として、「PFI事業に対する公共側の理解促進」のほか、「入札手続の改善」、「税制措置等に係る官民イコールフッティングの確保」、「公物管理法等の規制緩和の推進」等の施策が、回答社数の過半数を超える企業から指摘された。

1.PFI事業の特性に則した事業者選定手続の確立

(1) 多段階選抜と契約交渉・協議を可能とする事業者選定手続の導入
現行規定では #14 、PFI事業の事業者選定方法について、「公募の方法等による」とのPFI法の条文を受けて、「基本方針」により、「一般競争入札 #15 によることが原則」とされ、地方公共団体においても2000年3月の自治事務次官通知により、総合評価方式を採用した一般競争入札(総合評価一般競争入札 #16 )の活用を図るべき旨示されているが、この方法では、PFIの特性を十分に活かしたPFI事業を行うことはできない。
PFI事業は、従来型の公共事業とは異なる新しい発想・枠組みで行われる公共サービスの調達手法である。その事業範囲は、建設のみならず設計・維持管理・運営・資金調達に及び、事業期間も20年、30年と長期間に及ぶ。また、性能発注を基本とし、プロジェクト・ファイナンス手法を駆使した官民の適切なリスク分担を契約書に具体的に明記することで、事業の安定性・継続性を確保する必要がある。したがって、PFI事業の契約書で明らかにすべき事項は複雑多岐かつ長期にわたる。また、プロジェクト・ファイナンスを活用するにあたって、金融機関等からは、安定した事業遂行のために適切なリスク分担が求められ、それらのリスク分担等の条件を契約書等に盛り込む必要が生じる。
そもそもPFI事業は、民間の資金・ノウハウ・創意工夫等を活用して公共サービスの提供を行うものであり、その実施にあたっては、官民が対等な立場に立ち、英知を結集してVFMを最大化できる諸方策を考えることが重要である。その結果として、より、大きなVFMの実現が可能となり、公共側ひいては国民にメリットを与えるものとなる。
このように、従来の法制度の枠組みを超えた新しい公共サービスの調達手法である、PFIの特性を最大限発揮させるとともに、官民双方の入札手続に係る負担を軽減するため、競争上の公平性と透明性の担保を前提として、公共側があらかじめ一定の審査基準等を明確化し、段階的に事業者を絞り込む(多段階選抜)とともに、交渉・協議によって契約内容を詰める手続き(契約交渉・協議)が明確に行えるようにする必要がある。
これは、わが国法令上明確な法規定のない「公募型プロポーザル方式 #17 」と実質的に同じ手続きであり、多段階選抜と契約交渉の手続は、欧州公共調達規定では公平性、透明性、競争性を担保する慎重な手続きを採ることにより認められており、また、WTO政府調達協定に違反しないものと考える。したがって、競争性・公平性の観点からも問題はないと考えるが、わが国の法体系の中では必ずしも明確な手法として法的に位置付けられているわけではない。現行規定では、公共側が片務的な契約内容を民間事業者に強いることにより、適切な官民のリスク分担が実現されない可能性や事業の安定性が担保されない可能性、契約により明確なリスク分担に合意せずリスクを先送りにする可能性、さらには民間の参入意欲を削ぐおそれもある。これらの問題は、単に民間事業者側にとって不適切であるだけではなく、不適切なリスク分担は最終的には、納税者即ち国民の不利益につながるものである。
従って、多段階選抜ならびに契約交渉・協議の手続きを可能とするため、WTO政府調達規定に準拠しつつも、公募型プロポーザル方式と類似的な手続きを新たな公共調達の一類型として明確にこれを法律上位置付け、PFI事業に限って適用すべきである。
当面、法改正には時間を要することに鑑み、ガイドラインで対応することも検討すべきである。現行法令解釈の下で最大限許容される範囲内で、リスク分担の明確化・詳細化などについて契約協議を行い、契約書案の変更を行うことが可能なこと、さらには事業提案の内容に係る審査を複数段階に分けて行う多段階選抜の適用が可能なことを明確にすべきである。
これまで行われてきたPFI事業では、評価の基準など根幹に係らない部分の契約書案の軽微な変更、例えば当初契約書案に明記されていなかった詳細なリスク分担等を明確化するために、契約書案の変更をすることさえ、認められないケースが多い。

*《詳論》多段階選抜と契約交渉(協議)の必要性
※契約交渉・協議の必要性
PFI事業の契約締結事項は複雑多岐にわたることから、公募公告の段階で、公共側が予定価格やサービス条件、リスク分担等について合理的な判断を行えない可能性がある。また、より大きなVFMを実現するためには、性能発注方式の採用をはじめ、民間事業者の創意工夫を活かす余地を大きく残した公募要件の設定が望まれる。また、プロジェクト・ファイナンス手法の導入が事業の安定性・継続性に大きく寄与することに鑑み、契約を通じた適切なリスク配分に関わる実務に精通している金融機関の意見を早い段階から取り入れつつ、官・民共同で契約骨子を作り上げていくプロセスが必要不可欠である。
※多段階選抜の必要性
PFI事業の契約内容は広範囲かつ複雑であり、入札コストが非常に嵩む。具体的かつ詳細なリスク分担等の議論を全ての入札希望者と行うよりも、数次にわけて入札希望者を絞り込む方が、官民双方にとって合理的である。また、落札できなかった企業の入札コストの損失は膨大であることから、現状のままでは、次第にPFI事業への参入希望者が少なくなっていく懸念もある。

(2) その他事業者選定手続きに係る課題
 1. 公募から事業者選定までの十分な期間の確保
PFI事業の事業範囲は、設計から建設、維持管理、運営等を広く含み、また、通常コンソーシアム #18 を組んで事業を実施することから、民間事業者が事業提案を作成するにあたって多大な作業と時間を要する。このことに十分配慮して、公共サービスの質の向上がより実現できるPFI事業とするため、公募から事業者選定までゆとりあるスケジュールを設定すべきである。
ちなみに、アンケート調査結果では、公募から事業提案の提出締切まで、適当と考えられる募集期間について、案件の内容によって当然異なるとしながらも、3〜6ヶ月程度は必要であるとの回答が多かった。

 2. 審査手続の公平性・透明性の確保
PFI事業の事業者選定手続において、公平性・透明性の確保を図ることは極めて重要であり、情報公開の徹底を図るべきである。具体的には、定性的な基準も含めて評価基準を事前に明確化し、公表すべきである。特に、総合評価を行う際の評価基準のあり方については、より質的な面を評価する方向で、今後さらに検討する必要がある。また、学識経験者等からなる審査委員会のあり方やアドバイザーの活用方策等についても検討すべきである。さらに、応募事業者名の公表はもちろん、選定結果や選定理由の公表に際して、公共側はアカウンタビリティ(説明責任)を十分に果たすことが必要である。

 3. 事業公募時点での税務処理の明確化
PFI事業に対する税務処理について、その取扱い・解釈が事業の公募時点において必ずしも明確化されていない場合が多い。民間事業者間の公平・公正な競争条件の確保を図るとともに、税務処理に関して民間事業者に過度なリスクを負わすことなく、事業の安定性を確保するためにも、事業の公募にあたって、公共側は前提となる税務処理を明確化しておく必要がある。

2.PFI事業の特性に適合した税制措置の導入

PFI事業は公共事業の整備手法の一つであり、従来型の公共事業方式で整備される公共施設とのイコールフッティングの確保を基本とすべきである。税制上の措置についても、この官民イコールフッティングや事業方式の選択にあたっての中立性を確保する必要がある。これは、単に、民間事業者の税負担の軽減を求めるものではない。
とりわけ、PFI事業の特性に則した税制措置の未整備により、対象となる公共サービスの内容・属性にふさわしい事業方式の選択を歪め、VFMの最大化を妨げることのないよう、税制上の措置を講じる必要がある。
PFI事業の税制措置については、PFI法第16条 #19 のほか、平成14年度税制改正大綱において、PFI事業に係る税制について検討する旨明記された #20 ところであり、下記の改善を図るべく、早急に結論を出すべきである。

(1) 固定資産税、都市計画税、不動産取得税の軽減措置の導入
現行では、BTO方式のPFI事業では固定資産税、都市計画税が非課税とされているが、BOT方式ではいずれの税も課税される。また、不動産取得税について、BTO方式の場合に必ずしも税務処理が明確になっていない。
このように、現行では、PFIの事業方式の選択に関して、税制が中立的ではない。既に、特別土地保有税については非課税措置が講じられているほか、中枢中核国際港湾に係る公共荷さばき施設等については固定資産税・都市計画税についての軽減措置が講じられている #21 。事業終了後に所有権が公共側に移転されることを前提として、PFIの事業方式・事業内容を区別することなく、固定資産税、都市計画税、不動産取得税について非課税等の措置を講じるべきである。

(2) PFI事業の契約期間に応じた減価償却制度の導入
サービス購入型かつBOT方式のPFI事業で、事業期間終了後に公共施設を公共側に無償譲渡する場合、通常、税法上の減価償却期間よりもPFI事業の契約期間の方が短い事業が多く、また、毎年のサービス料の支払いは均等化されているのが通常であることから、民間事業者は事業期間終了時の残存簿価相当分を回収するため、毎年、税法上の減価償却額を越えたサービス料を公共から受け取る必要がある。この結果、その部分は見かけ上の利益として法人税の課税対象となることから、公共側は課税分をサービス料に上乗せして支払う必要が生じ、結果として公共側の負担増となる。このように、現行税制を前提としたBOT方式の下ではVFMの最大化が実現できない。
従って、PFI事業に係る有形固定資産について、PFI事業期間内に全額減価償却できるよう、加速度償却など特別な償却制度を導入すべきである。

(3) 大規模修繕費等に係る税務上の取扱い(積立準備金制度の創設等)
(2)と同様、サービス購入型PFI事業では、公共側からのサービス料支払額の均等化・平準化の要求が強いことから、数年または10数年ごとに発生する大規模修繕費や更新費についても、毎年のサービス料に分割・前倒しされて支払われるケースが多い。現行制度では、PFI事業に係る修繕積立金が認められていないため、前倒しで受け取るサービス料部分が見かけ上の利益となり、法人税の課税対象となる。この結果、公共側はこの課税分について負担増を強いられる。
VFMの最大化を妨げないよう、PFI事業に係る修繕積立準備金制度を創設するなど、税制上の措置を講じるべきである。

3.公物管理に係る規制緩和ならびに法令上の整備

PFI事業の遂行にあたっては、民間事業者の自主性・創意工夫の発揮が重要なことから、民間が相当のリスクを負う一方で、官の関与ならびに公的規制は最小限にすることが必要である。現状、必ずしも全ての公共施設分野においてPFIの展開が見られないのは、個別事業法や管理法等において、PFI事業者の法的地位が不明確であったり、あるいは様々な諸規制が個別事業法に存在していることによると考えられる。より多くの事業分野にPFIを導入するためにも、PFI法第17条 #22 で規定されている通り、PFIの推進に障害となりうる様々な規制の撤廃または緩和を速やかに行うべきである。その際、PFI法成立以前に制定された法令は基本的にPFI事業を想定していないことから、より多くの公共サービスの運営を民間事業者に委ねるとともに、安定的なPFI事業の遂行を担保する観点から、法令解釈に止まらず、法令上明記することが重要である。

(1) 地方自治法第244条の「公の施設」に係る規制緩和
地方公共団体は、地方自治法第244条 #23 により、住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための「公の施設」(公園、病院、学校、図書館等)を設けるものとされ、その「公の施設」の設置及び管理は条例で定めることとし、その管理委託 #24 は、地方公共団体が出資している法人などに限定されている。従って、現行規定では、純粋民間PFI事業者は、地方自治法上の「公の施設の管理委託者」にはなりえず、また、公の施設の利用料金を自らの収入として収受することができないほか、利用料金を自ら定めることはできない。
2000年3月の自治事務次官通知により、施設のメンテナンス・警備・清掃等の業務や、私人の公金取扱いの規定に基づく使用料金等の収入の徴収等の業務について、民間事業者に行わせることは可能である旨示された。このため、現在実施されているPFI事業では、民間事業者は、地方自治体からの受託というかたちで収入の徴収又は収納の事務を行っているのが実情である。
「公の施設」に係る運営を広く民間PFI事業者に開放し、民間事業者の創意工夫を最大限発揮できるよう、「公の施設の管理委託者」の範囲を民間PFI事業者にも拡大し、民間PFI事業者の法的位置付けを法令上明確にすべきである。むしろ昭和30年代に制定された「公の施設」の概念そのものを、経済の実態や社会の進展にあわせて変えていくことも考えられる。

(2) 公物管理法等で規定される事業分野に係るPFI事業者の法的位置付けの明確化等
公物管理法や業法で規定される事業分野について、所管省庁より、法改正を行わずともPFI事業を行うことは可能であるとの説明が示されているが、どのようなPFI事業が行えるのか、明らかになっていない。特に、民間PFI事業者が行い得る維持管理・運営の範囲、公物管理法が規定する管理委託期間とPFI事業期間との関係、占用許可の問題など、既存の法規定がPFI事業の実施に支障とならないか疑問が多い。これらの問題について事業分野ごとに検討を行い、運営部分においても民間事業者の創意工夫が一層発揮できる事業を実施可能にすべきである。より安定的なPFI事業の遂行のためには、法令解釈に止まらず、PFI事業の法的位置付け等を明確化することが重要である。

4.PFI事業の特性に適合した補助金制度の確立

行財政改革の施策の一つであるPFIの推進のために、従来型の公共事業以上の補助金を期待することは、言うまでもなく、不適切である。しかしながら、地方公共団体のPFI事業に対するインセンティブを確保し、また、多くの民間事業者の参入により競争を促す観点から、国は、必要な社会資本整備に対しては、PFI事業といえども、従来型の公共事業と同等水準の補助金・地方交付税等を交付することを基本とすべきである。本来的にPFI事業で実施した方がVFMが向上する事業であったとしても、補助金の有無によってVFMが出ず、PFI事業として採択されない可能性があることに留意すべきである。
特に、現行の予算措置は、必ずしもPFI事業の特性に則した内容となっておらず、補助金交付要綱等を全般的に見直すべきである。
具体的には、公共施設等の建設に対して一括交付されている現行の補助金制度を見直し、公共側からのサービス料支払い方式に対応した分割交付も可能とすべきである。
また、本来、公共施設の運営に民間事業者の創意工夫をより発揮させることが期待できるBOT方式に対して、補助金の給付が認められていないことが多い。とりわけ、介護・教育サービス事業等については、慈善・教育・博愛の事業であるとして、憲法89条 #25 の解釈問題から、民間事業者が行う事業のみならず、BOT方式のPFI事業に対しても、施設整備費等の補助金給付は認められないとされている。実際に、もともとBOT方式によるPFI事業を検討していたにもかかわらず、補助金給付の有無によりBTO方式に変更した事業がある。公共事業ならびに公共サービスの提供をより効率的に行えるよう、BOT方式・BTO方式にかかわらず、補助金の給付を可能とすべきである。
2001年9月のPFI関係省庁連絡会議資料の「PFI事業における補助金等の交付の取扱いについて」において、分割交付やBTO方式のPFI事業に対する補助金交付等の問題について、「今後、関係省庁において、必要に応じて財政当局との協議を行いつつ、個別の事業分野ごとに補助金交付要項等の見直し等必要な措置を講ずる」とされたが、対象事業にかかわらず、全事業分野において対応可能となるよう、補助金交付要綱の見直し等を行うべきである。
さらに、補助金の有無はVFMに大きな影響を与えることから、地方自治体におけるPFI事業の検討スケジュールと国による補助金給付の決定のタイミングが合致するように配慮することが必要である。

5.その他、今後改善を図るべき課題

(1) PFI事業の選定ならびに事業の組成に係る課題
 1. 「実施方針 #26 」から「特定事業の選定 #27 」までの十分な期間の確保と対話の促進
PFI事業は民間の資金や技術・ノウハウ等を活用して行う公共事業であり、民間事業者の創意工夫やノウハウが発揮しやすいような事業スキームにするとともに、事業としての採算性につき民間事業者や金融機関の意見を聴取するなど事業の実現可能性を検証するため、実施方針の策定段階において、事業スキームやリスク分担等について民間からの意見を十分に取り入れ、適宜詳細化するなど実施方針を段階的に改訂すべきである。そのため、実施方針の策定から、特定事業の選定までの間、十分にゆとりのあるスケジュールを組むことが重要である。

 2. VFMの算定方法の改善ならびにPSC #28 ・VFMの算出根拠の開示、従来型公共事業の費用データの蓄積等
VFMの算定にあたっては、当該事業の公共施設の管理者等にとってのライフサイクル・コストのみで評価すべきでなく、国民の税金が効率的に活用されるかどうかという観点から、国および地方財政を通じた国民経済的な観点からの算定方法に改善すべきである。特に、税制措置の取扱いが問題となるところであり、前述「II.2」に記述した税制措置の改善が必要となる。場合によっては、官民イコールフッティングを図る観点から、PFI事業により徴収された税源について、国・都道府県・市町村間で再配分する財政調整の仕組み作りについて検討することも一案と考えられる。
また、PFI事業の透明性を向上させる観点から、PSCならびにVFMに関する算出根拠・算定方法を開示すべきである。
さらに、PFI事業の推進ならびに公共事業のアカウンタビリティの向上を図るため、公共側は、PSC算出にあたって基礎となる、従来型の公共事業方式による公共施設等の建設・維持管理・運営に係る費用のデータ(遅延等のリスクも含む)の整理、蓄積、公表に努めるべきである。

 3. PFI事業の事業期間の柔軟な設定
事業期間が30年というPFI事業が多く見られるが、アンケートの調査結果をみると、30年間という事業期間は「長い」という回答が5割以上を占めた。超長期のPFI事業は、民間事業者としてもリスクを見通すことが困難なことや、わが国では官民双方がPFI事業に習熟していないこと、また、現在のわが国金融市場の実態から20年以上の超長期の資金調達が難しいことなどが、回答の背景にあると思われる。今後、PFI事業の期間設定にあたっては、金融を含めた民間市場の実態にも留意しつつ、対象となる公共サービスの内容に則して柔軟に期間を設定することが求められる。ちなみに、アンケート調査結果では、適切な事業期間は対象となる公共サービスの内容によって異なるものの、おおむね15〜20年間が適当であるとの回答が多かった。

(2) 適切なリスク分担の明確化に向けた関係者の努力等
官民のリスク分担を適切に行い、それを契約によって明確化することは、PFI事業を成功させるために必要不可欠である。しかしながら、これまでの事例をみると、PFI事業を実施するにあたって、公共側と民間事業者が「事業」を行うパートナーとして対等な立場にあるとの認識がともすると薄いことや、PFI事業者の選定手続きにおいて契約交渉・協議が認められていないことなどもあって、民間側に過度なリスク負担を強いるケースが多い。あるいは、官民間でリスク分担の詳細について折り合いがつかず、契約締結後に多くの協議事項が持ち越されるケースも生じている。
第三セクター方式による民活事業の失敗の轍を踏むことのないよう、前述のとおり、PFI事業者の選定手続きにおいて契約交渉・協議を認めるとともに、契約によるリスク分担の適正化・明確化に向けた関係者の努力が求められる。

(3) PFI事業における契約保証金等の見直し
公共事業を請け負う民間事業者は、国・地方自治体と契約を締結するにあたって、会計法ならびに地方自治法の規定 #29 に基づき、通常、契約金額の10%以上の契約保証金を納付しなければならない。この規定によって、建設のみならず維持管理・運営等も含むPFI事業では、その契約金額が通常の公共事業の場合よりも大きくなるため、多額の契約保証金が求められることになる。このことは、多数の民間事業者にとって、応募する際の障害となる可能性が大きい。従って、長期にわたる広範囲な事業を担い、契約によってリスク分担の明確化等が図られているPFI事業については、契約保証金を減免するなどの措置を講じるべきである。
また、SPCの親会社に対して、PFI事業の履行について連帯保証を求める事業が散見されるが、そもそも、PFI事業は事業の安定性・継続性を確保するために、官民の明確なリスク分担とそれに基づくプロジェクト・ファイナンスを基本としている。従って、親会社に対して、合理的な範囲を超えて保証を求めるべきではない。

(4) 資金調達にあたっての課題
PFI事業は、民間資金を活用して社会資本整備を行うものであり、その推進にあたって、プロジェクト・ファイナンス #30 によって民間資金を提供する金融機関の果たす役割は極めて重要である。PFI事業を最も効率的に行うために、官民で適切なリスク分担を行い、さらに、民間に移転されたリスクについて、コンソーシアムの中で合理的にリスクの再配分が行われることになる。この全体のリスクアロケーションが、合理的であり事業の長期安定性が担保されているかどうかについて、厳格なチェックを行い、適正化を図っていくことが、PFIにおける金融機関の最大の役割となる。また、プロジェクトのキャッシュフローに依存したプロジェクト・ファイナンス手法を採用する以上、当該キャッシュフローを実現させるために手当てした各種契約の遂行状況が厳守されているかどうかにつき、モニタリング #31 を通じて検証し、必要に応じて事業の軌道修正を図ることも、金融機関の大きな役割の一つである。
しかしながら、わが国においてはプロジェクト・ファイナンスの経験が必ずしも深くないことから、PFI事業にプロジェクト・ファイナンスを活用する際の課題は多い。
通常プロジェクト・ファイナンスを検討する際、最も適切なリスク分担がなされるよう、様々なプロジェクト関連諸契約について同時並行的に検討することが望ましいが、PFIにおいては入札等の過程を踏むことから事業権契約 #32 がほぼ固められたところから、詳細なプロジェクト・ファイナンス組成を行わざるを得ない。事業権契約において「官民の適切なリスク分担」が行われておらず、民間には担えないリスクが残っている場合には、プロジェクト・ファイナンスを供与する金融機関から、事業の安定性・継続性に不確実性ありと判断され、円滑な資金調達も期待し得ないことになる。
公共側はこうした点を認識したうえで、実施方針の検討段階から、選定事業者決定、事業権契約締結に至るまで、余裕のあるスケジュールを設定するとともに、その間の十分な対話プロセスを確保するといったことが、ファイナンス面からも必要不可欠になる点について十分に認識すべきである。
今後、運営面を重視した一層本格的なPFI事業が実施された場合、より精緻なリスク分担が官民関係者全員の利益のために求められることから、こうした配慮は更に強く求められるものと考える。
公共側による基準金利決定時期と、民間事業者に実際に金利負担が発生する時期に相当な開きがあることが散見されるが、この間の金利変動リスクを民間事業者が全て負うことは、民間側にとって大きな負担となっている。金利の設定基準日について、事業特性、プロジェクト・ファイナンス組成に要する期間等を充分に勘案するとともに、適切なリスク分担の観点から、さらに望ましい設定の仕方について検討する必要がある。
また、事業開始後、PFI事業を長期にわたって継続させるためには、事業に支障が生じた際の治癒規定が必要不可欠であり、関係者による充分な協議プロセス、円滑なステップイン #33 ・プロセスの必要性に関し、十分な理解が必要である。特に、適切なステップイン・プロセスの確立は、PFIをプロジェクト・ファイナンスで実施することの意義に深く関わる点である。公共側は民間側からの継続的な公共サービスの調達に関心を置くべきであり、金融機関のステップイン・ライトに制限を加える考え方を排除することが、結果的に公共側の利益にかなうものと考える。

III.PFI事業の推進体制の整備

国・地方を通じた財政構造改革の必要性に迫られているなかで、単に財政の平準化を目的としたものではない、ライフサイクル・コストの縮減を図ることを目的としたPFI事業は、わが国においても有用な社会資本整備の手法として、政府・地方公共団体を挙げて推進すべきである。わが国におけるPFI事業の普及とそのための理解の促進に向けて、PFI事業に関する推進体制を整備すべきである。

1.財務省のリーダーシップの発揮

イギリスでPFI事業が推進・普及した最大の推進力は、首相自らリーダーシップを採ったことに加えて、イギリス大蔵省が、ユニバーサル・テスティング #34 を実施したり、タスクフォース #35 を立ち上げるなど、数々の強力な諸施策を講じたことにあったといえる。その結果、イギリスでは現在、PFIは公的資本支出の20%近くまで普及しており、PFIによって平均17%程度のVFMが達成されていると言われる。この意味で、わが国財務省に対する期待は大きい。
特に、財政構造改革の必要性に迫られているわが国として、PFIの推進に関し、内閣総理大臣の陣頭指揮のもと、財務省が、「PFI推進委員会」と連繋しながら、より質の高いPFI事業の推進に向けて積極的にリーダーシップをとって、諸施策を講じるべきである。
「II.解決すべき課題・政策要望等」で指摘したように、事業者選定方法、税制、補助金などに関連する法令の多くは、財務省が所管するものであり、改正に向けた積極的な対応が望まれるところである。

2.PFI推進組織の強化

わが国では、PFI法に基づき、PFI推進のための第三者機関として、民間資金等活用事業推進委員会(PFI推進委員会 #36 )が設置され、法により、国のPFI事業について内閣総理大臣等への意見具申の権限が与えられているほか、国の事業の実施状況等を調査審議することになっている。国のPFI事業案件が動きだしたばかりのこともあり、同委員会の活動は、今のところ、各種ガイドラインの策定等にとどまっている。今後、国のPFI事業案件について、事業スキームの検討段階から積極的に関与し、PFIの特性を最大限に活かした事業となるよう、適宜意見を述べていくべきである。また、各種規制緩和の推進や税制措置の実現などについても意見具申を行うなど、PFI推進のための環境整備に積極的に取り組むことが望まれる。
また、PFI推進委員会は、地方公共団体のPFI事業に対しては、地方分権の観点から、意見具申や調査権限をもてないとされているが、今後、地方公共団体のPFI事業に対する意見具申ならびに調査審議等のあり方について、行政改革の視点に留意しつつ、実効力ある方策を検討する必要がある。

3.PFI推進特別措置法(仮称)の制定

本格的なPFI事業の実施に向けて、事業者選定手続や税制措置、補助金制度、その他公物管理法等におけるPFI事業者の法的位置付けの明確化など、PFI事業が適用可能な全ての事業分野について、円滑なPFI事業の遂行に障害となる既存の法制度等の問題を一括的に処理するため、束ね法として、PFI特別措置法(仮称)の制定を検討すべきである。

以 上

  1. 経団連提言「PFIの推進に向けて」(1998年9月)
  2. 「経団連PFI海外調査団報告書」(1999年3月)
  3. ライフサイクルコスト (Life Cycle Cost):プロジェクトの誕生から終了まで、つまり、計画、施設の設計、建設に始まり維持管理、運営、事業終了までのトータルにわたり必要なコストのこと。略してLCC。
  4. VFM (Value for Money):租税(=財政負担)の対価として最も価値あるサービスを提供する考え方。PFIを採用するか否かは、VFMの評価により行う。具体的には、公共が直接サービスを提供する場合に公共が負担するコスト(PSC)と、PFIを実施した場合に公共が負担するコストとを現在価値ベースで比較し、リスク等を加味したうえで、PFIを実施した場合の方が有利であると見込まれる場合にPFIが採用される。
  5. サービス購入型:PFIにおける基本的な事業類型の一つ。民間事業者が公共の要求水準に合うサービスを提供し、公共がサービスの提供に対して対価(サービス料)を支払うタイプ。イギリスではPFI事業の9割方がサービス購入型と言われている。
  6. 独立採算型:PFIにおける基本的な事業類型の一つ。民間事業者が施設の設計、建設、運営を行い、最終利用者からの料金収入によってその費用を回収するタイプ。
  7. ジョイント・ベンチャー型:PFIにおける基本的な事業形態の一つ。公共が出資はするが経営には関与しない事業。補助金・政府融資・施設移転など公的支援を受けながら民間が運営する事業等が挙げられる。
  8. BOT (Build,Operate and Transfer):事業方式の一つ。民間事業者が施設を建設し(Build)、維持管理及び運営し(Operate)、事業終了後に公共に施設所有権を移転する(Transfer)方式。
  9. BTO (Build,Transfer and Operate):事業方式の一つ。民間事業者が施設を建設し(Build)、施設完了直後に公共に所有権を移転し(Transfer)、民間事業者が維持管理及び運営を行う(Operate)方式。
  10. BOO (Build,Operate and Own):事業方式の一つ。民間事業者が施設を建設し(Build)、維持管理及び運営し(Operate)、公共への所有権移転は行わない(Own)方式。
  11. 仕様発注:施設の構造、建設、施工方法、資材等について発注の段階において発注者から詳細な指示のある発注のこと。
  12. 性能発注:発注者が求めるサービス水準を明らかにし、満たすべき水準の詳細を規定した発注のこと。「○○という条件を満たす施設」という規定の仕方になるので、民間事業者が構造や材料、維持管理の方法等について要求水準を満たす枠内で自由に提案することが可能。
  13. プロジェクト・ファイナンス (Project Finance):あるプロジェクトの資金調達において、返済原資をその事業から生み出されるキャッシュフローのみに依存するファイナンスのこと。担保は当該事業に関連する資産(含む契約上の権利)に限定し、プロジェクトを行う親会社の保証、担保提供等は原則として求めない。(詳細については後述30の脚注を参照)
  14. PFI事業の事業者選定方法に係る現行規定
    ・PFI法第7条:「公共施設等の管理者等は、前述の規定により特定事業を選定したときは、当該特定事業を実施する民間事業者を公募の方法等により選定するものとする」
    ・基本方針「民間事業者の募集及び選定に関する基本的な事項」:「・・・会計法令の適用を受ける契約に基づいて行われる事業は、・・・会計法令に基づき、一般競争入札によることを原則
    ・自治事務次官通達「地方公共団体におけるPFI事業について」:「PFI契約においては、価格のみならず、維持管理又は運営の水準、PFI事業者とのリスク分担のあり方・・・等を総合的に勘案する必要があることに鑑み、総合評価一般競争入札の活用を図る
  15. 一般競争入札:国・地方自治体の締結する契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約(せり売り<地方自治体のみ>)の方法によるが、原則は一般競争入札である(会計法29条3、地方自治法234条II)。一般競争入札は、競争に加わる者を限定せず、競争に加わった者のうち国・地方自治体に最も有利な価格を提示する者と契約を締結する入札方法。
  16. 総合評価一般競争入札:会計法29条の62項「・・・契約その他その性質又は目的から前項の規定により難い契約については、価格及びその他の条件が国にとって最も有利なものをもって申込みをした者を契約の相手方とすることができる」(地方自治法施行令第167条の10の2においても同様に、「価格その他の条件が当該普通地方公共団体にとって最も有利なものをもって申込みをした者を落札者とすることができる」旨規定されている)
  17. 公募型プロポーザル方式:公募により提案書を募集し、予め示された評価基準に従って最優秀提案書を特定した後、その提案書の提出者との間で契約を締結する方式。形式としては随意契約に該当するため、採用にあたっては調達内容が随意契約の要件を満たしていることが必要となる。要件が満たされていれば、発注者たる公共と最優秀提案書の提出者との間で予定価格の範囲内で契約の交渉を行い、その価格以下で交渉がまとまれば契約が締結される。
  18. コンソーシアム (Consortium):共同体。PFI事業においては一般に、業務が設計、建設、修繕、清掃、警備等多岐にわたるため、複数の企業がコンソーシアムを形成し、事業を遂行することが多い。
  19. PFI法第16条:「・・・国及び地方公共団体は、特定事業の実施を促進するため、基本方針及び実施方針に照らして、必要な法制上及び税制上の措置を講ずるとともに、選定事業者に対し、必要な税制上及び金融上の支援を行うものとする」
  20. 平成14年度税制改正大綱(平成13年12月14日):『第三 検討事項』
    「PFI事業を促進し、社会資本の効率的かつ効果的な整備を図っていくため、PFI事業に係る税制について、従来の手法による公共施設等の建設、維持管理等とのバランスやPFI事業の形態、進展等を踏まえ、必要に応じて、検討する」
  21. 現行のPFI事業に係る税制上の措置
    1. PFI事業の用に供する土地について、特別土地保有税の非課税
    2. PFI法に基づき、中枢中核国際港湾で民間事業者が整備する公共荷裁き施設及び一体的に整備される家屋で、港湾整備特別会計からの無利子融資を受けるものについて、固定資産税及び年計画税の課税標準を1/2(適用期限2年間)
  22. PFI法第17条:「国及び地方公共団体は、特定事業の実施を促進するため、民間事業者の技術の活用及び創意工夫の十分な発揮を妨げるような規制の撤廃又は緩和を速やかに推進するものとする。」
  23. 公の施設:地方自治法第244条:「普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(これを公の施設という。)を設けるものとする。/2.普通地方公共団体は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。/3.普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。」
  24. 公の施設の管理委託:第244条の2(公の施設の設置、管理及び廃止):「普通地方公共団体は、・・・特別の定めがあるものを除くほか、公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない。/3.普通地方公共団体は、公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるときは、条例の定めるところにより、その管理を普通地方公共団体が(※1)出資している法人で政令で定めるもの又は公共団体若しくは公共的団体(※2)に委託することができる。」(※1:1/2以上の出資、※2:出資、職員派遣が要件)
  25. 憲法89条:「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利益に供してはならない」
  26. 実施方針:PFI法が規定するPFI事業の実施プロセスの一つ。特定事業の選定や民間事業者の選定、公共施設等の立地・規模・配置、支援措置等に関する方針を示すもので、PFI法5条により、公共施設の管理者等はPFI事業を行うにあたって定め、公表することが規定されている。
  27. 特定事業の選定:PFI法が規定するPFI事業の実施プロセスの一つ。特定事業は、PFIとして実施する方針であることを公共施設の管理者等が決定した事業。実施方針公表後、当該事業の実施可能性を検討し、民間の資金、経営能力及び技術能力を活用することにより効率的に実施されると検証された場合に、当外事業を特定事業として選定することができる(PFI法6条)。
  28. PSC (Public Sector Comparator):VFMの評価を行う際に算出される、公共が当該事業を直接実施した場合における公共のコスト負担。具体的には、公共における従来の技術、基準、運営手法等に基づき、設計、建設、維持管理、運営を行った場合のコストを算出する。これに民間事業者に移転したリスクを定量化したものやその他定性的評価を加味し、PFIを実施した際の公共の負担と現在価値ベースで比較し、PFIを実施するか否かを判断する。
  29. 契約保証金:契約を締結する場合における相手方の債務の履行の確保を目的とする担保として契約の相手方から納付される保証金をいい、債務不履行等の場合に受ける損害の賠償に充当される。(会計法第29条の9、地方自治法施行令第167条の16)
  30. プロジェクト・ファイナンス (Project Finance)<一部再掲>:あるプロジェクトの資金調達において、返済原資をその事業から生み出されるキャッシュフローのみに依存するファイナンスのこと。また、担保は当該事業に関連する資産(含む契約上の権利)に限定し、プロジェクトを行う親会社の保証、担保提供等は原則として求めない。
    プロジェクト・ファイナンスの機能の一つは、従来、事業主が全面的に負っていた事業に関する様々なリスクを、金融機関を含めた複数の関係者のうち最も適切にリスクコントロールできる者が分担することでリスクの分散が可能になるところにある。
    PFIにおいては、基本的に当該PFI事業のみを行うSPC(特別目的会社)が設立されること、収入は当該PFI事業により生み出されるキャッシュフローに限られること、公共と民間事業者とのリスク分担が契約上の権利義務として取り決められていることなどから、プロジェクト・ファイナンスによる資金調達になじみやすいものとなっている。
  31. モニタリング:PFI事業において、事業開始後における民間事業者のサービス提供の水準が公共の要求水準を満たしているか否かについて公共がチェックを行うこと。モニタリングの結果、要求水準を満たしていないということになれば、サービス対価の減額等が行われることとなる。
  32. 事業権契約:公共が民間事業者に事業権を付与するための契約をいうが、日本におけるPFI契約は実質的に事業権契約となる。事業期間中における公共、民間事業者それぞれの権利、義務について定めることとなる。コンセッション(Concession)契約とも呼ばれる。日本においては行政法上コンセッションという概念はないが、実態面ではPFI契約はコンセッション契約でもあろう。PFI事業における事業権契約の主な内容としては、事業内容、事業権付与期間、民間事業者への支払いに関する規定、事業破綻時の対応、契約終了時の規定、介入権等が挙げられる。
  33. ステップ・イン・ライト (Step-in Right、介入権):融資契約上、民間事業者にデフォルト事由が発生しても、その事実をもってプロジェクト関連契約(事業契約等)の終了事由とはせず、民間事業者に融資する金融機関が、当該プロジェクトを遂行するうえで必要な一切の契約上の権利、プロジェクト資産を一時的に譲受し、金融機関が指名する第三者に一切を譲渡することで、事業の継続を図ることができる権利。介入権というよりは、むしろ事業再生プロセスに必要な措置を講じられるよう、事業修復のためにあらかじめ金融機関が保持する権利。
  34. ユニバーサル・テスティング (Universal Testing):1994年11月に英国大蔵省が導入した施策。英国においては1992年にPFIが導入されたが、初期においては案件の成立が進まなかったため、1994年11月、英国大蔵省はほぼ全ての公共事業についてPFI方式の検討(導入ではない点につき留意)を強制、検討がなされてない事業に対しては一切公共事業として認可しない(ユニバーサル・テスティング方式)とした。これを契機にPFIが急速に普及したとされる。その後、1997年5月には、この方式に要する作業量にも鑑み、経験の蓄積によりPFI事業として行うべき公共事業の目安ができたとして、廃止された。
  35. タスクフォース (Treasury Taskforce):1997年から2年間、英国においてPFI推進を目的として英国大蔵省内に設けられた組織。プロジェクト・チームと政策チームとに分かれ、プロジェクト・チームでは、民間から職員を起用し、VFM達成の見通し、条件交渉などを注視し、実務面からの支援にあたった。政策チームでは、契約書類の標準化、各種ガイダンスを作成するなど、PFI手続きにかかる時間や費用の削減を目指すとともに、各省庁と連繋をとりながら、法制度の改正を積極的に進めた。その後、プロジェクト・チームの機能はPartnership UKに、政策チームの機能はOGC(Office of Government Commerce)に発展的に、引き継がれた。
  36. PFI推進委員会 (民間資金等活用事業推進委員会):PFI法21条に基づき設定された委員会(国家行政組織法第8条に基づく8条委員会)。国のPFIの実施状況の調査審議、内外のPFIに関する情報収集、民間事業者からの意見、提言等の受付、PFIに関し政府が行う広報への協力を行うとともに、必要に応じて、内閣総理大臣又は関係行政機関の長に意見を述べ、国のPFI事業の促進及び総合調整を図ることを役割としている。

日本語のトップページへ