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知的財産戦略についての考え方

2002年6月18日
(社)日本経済団体連合会

わが国の産業が国際競争に打ち勝っていくためには、企業自らが戦略的な研究開発を進め、その事業化により収益をあげるべく、ライセンスによる活用を含め、知的財産権を最大限に活用していくことが不可欠である。また、国家としての知的財産戦略は、これらの企業の真摯な努力をさらに引き出すものであるべきと考える。
知的財産戦略会議、総合科学技術会議知的財産戦略専門調査会、経済産業省産業競争力と知的財産を考える研究会をはじめ、政府与党において、これまで国家としての知的財産戦略についての検討が真剣に行われていることを高く評価するところである。今後は、企業の真摯な努力をさらに引き出し、産業競争力を強化するために、知的財産に相応しい制度を構築すべく、知的財産戦略の具体化を強力に進めることを期待するところである。
日本経団連では、本年1月に、「知的財産を核にした産業競争力の強化に関する考え方」をとりまとめるとともに、産業界の立場から様々な見解を表明してきたところである。その概要を改めて、以下に整理した。今後の知的財産戦略の具体的推進にあたって、より深い検討を期待するところである。

1.知的財産の創造の推進について

  1. 知的財産が生み出されるようにしていくために、産学官連携が活発になるような仕組みが不可欠である。特に、国立大学および国立研究機関の研究成果は、権利の承継に基づく機関の帰属とするとともに、企業が国立大学などに委託を行った場合、企業への権利の包括譲渡の契約が可能となるようにすべきである。
    また、産学官の連携を促進する観点から、日本版バイドール条項の適用を全ての委託研究開発制度に拡大するとともに、民間へのソフトウェアの委託開発によって生じたプログラムの著作権の帰属についても、日本版バイドール法と同様の扱いとし、民間への権利帰属を認め、その活用を促進すべきである。

  2. 企業自らがより良い人材を集めるべく、研究者などへのインセンティブを高めるよう努めるとともに、職務発明の扱いについては、従業者が弱者という認識のもとに、発明の対価の額を法律で保証する方式から、企業が発明報償金の扱いを含めた処遇を提示し、研究者などとの間で合意を得ることを前提に、両者の取り決めを尊重する方式に、考え方を改めていくべきである。

2.知的財産の保護の強化について

  1. 産業競争力の強化のためには、基本特許をベースにした特許網の形成が不可欠であるが、一日でも早く出願をしなければ競争相手が先に出願してしまうという先願主義のもとでは、基本特許となる発明であればあるほど、最初の段階から、完成度の高い出願明細書を作成するのは困難である。現行の補正の制限を緩和するなど、先行者優位の制度設計を行い、基本特許がとりやすいようにしていくべきである。

  2. 特許を取得していく上で、最も重要なことは、質の高い特許を数多く取得することである。代替技術を含めて特許網を形成することが、最も収益に貢献し、このことは、むしろ日本企業の強みとするところである。出願や審査請求構造の見直しにあたっては、かえって、競争力をそぐことのないようにすべきである。

  3. わが国企業のグローバルな事業の展開を支援する観点から、米国に対して、公開制度の全面導入を強力に働きかけるなど、先発明主義の見直しを含め、国際的なハーモナイゼーションを推進すべきである。また、多数国における特許の取得・維持費用の軽減に向けて、翻訳提出義務の緩和や相互承認の推進など、具体策を講じるべきである。その際、審査の質においても、国際的に調和のとれたものを目指していくべきである。

  4. 知的財産関連訴訟については、近年、迅速化がはかられているところであるが、こうした取り組みをより一層強化していくとともに、制度面の環境整備も行う必要がある。
    裁判所における侵害訴訟の場で特許の有効性を争うことにより、特許の有効性と抵触可能性という一連の問題を同一の場で争うことが可能になり、紛争処理のさらなる効率化が期待できる。裁判所の人的基盤や専門性の強化を図りつつ、裁判所において、侵害訴訟における特許の有効性を判断できるような改革を行うべきである。
    また、東京地裁・大阪地裁さらには東京高裁の専属管轄化(判決の統一を含む)、営業秘密の保持者に対する保護のもとでの知的財産権侵害に関する証拠収集手続きの拡充、弁護士・弁理士の秘匿特権の認容を進め、アジアの中心となる知的財産権裁判所を目指すべきである。

  5. 国内に流入する知的財産権侵害品の水際措置については、侵害がきわめて容易に立証できる商標権、著作権などの侵害品に比べ、特許権等の侵害品については、実効性が必ずしもあがっていない。今後、アジア地域からの知的財産権侵害品の流入が増大すると懸念されることから、水際措置のあり方に関し、法制面を含め、抜本的な改善策の検討を早急に行うべきである。

  6. 企業活動における営業秘密の重要性が一層高まっている中、企業の営業秘密が流出し、競争力を損なうことが懸念されている。このため、企業の競争力を強化する観点から、営業秘密の不正開示漏洩に関し、不正競争防止法の民事上の救済措置を強化するとともに、営業秘密の侵害行為に対する刑事罰についても、保護強化に伴なって生ずる問題点を考慮しながら、対象を限定しつつ、導入を図るべきである。

3.知的財産の活用の促進について

  1. 会社更生法を含むわが国の倒産法制においては、ライセンサーの破産時に、破産管財人が一方的にライセンス契約を終了することができることになっており、ライセンシーがきわめて不安定な立場におかれている。ライセンス契約を安定的に行うためには、ライセンサーの破産時のライセンス契約の保護のための方策を講じるべきである。

  2. 連結経営が進む中で、親会社などがグループ会社の知的財産権を一括管理し、戦略的かつ効率的な活用を図ったり、TLOが大学の有する知的財産権を活用したりする上で、信託の活用が考えられる。また、信託は、ベンチャーなどが資金調達を行う観点からも重要な手段の一つと考えられる。知的財産を活用するため、信託の導入によって生ずる問題点も考慮しながら、信託制度の活用について積極的な検討を行うべきである。

  3. 知的財産の保護にあたっては、競争政策や公的な利益の観点から、独占により弊害が生じているか否かについての検討も求められる。特に、科学技術基本計画で重点四分野のひとつとされているライフサイエンス分野においては、その根幹にかかる遺伝子の特許などの権利が、わが国のライフサイエンス分野の研究開発投資から得られる成果や競争力にどのような影響を与えていくかについて、検討を行う必要がある。

4.知的財産関連人材の養成について

知的財産関連専門家としては、特に、技術と法律の双方がわかる人材が求められる。こうした人材の育成のために、法律の専門家が技術の素養を身につけるための方策とともに、技術の専門家が法曹の資格を得やすくする方策についても検討を行うべきである。

以  上

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