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循環型社会の着実な進展に向けて

2002年7月16日
(社)日本経済団体連合会

1.基本的考え方

  1. 21世紀を迎え、循環型社会の実現はますます重要な課題となっている。産業界は「豊かさ」について自らの役割を認識し、持続的成長を可能とする健全な環境と社会の構築に取り組んでいく必要性を強く認識している。日本経団連は1991年4月に「経団連地球環境憲章」を公表して以来、こうした理念に基づいて循環型社会の実現に取り組んできた。

  2. 産業界が省エネ、省資源型の経済構造の確立に長年努力してきた結果、わが国の国民所得あたりエネルギー使用量は世界最小になっている。特に近年は、経済のグローバル化が急速に進展し、製品輸入が急増するなかにあっても、省エネ・省資源を含むリデュース、リユース、リサイクルの3Rの達成による循環型社会の形成を目指しており、埋め立て処分に出来る限り依存しない、ごみゼロの取組みを続けている。現在38業種が参加している「経団連環境自主行動計画(廃棄物対策編)」では、1990年度の産業廃棄物の最終処分量(約6100万トン)を2005年度には約3分の1に、2010年度には4分の1にする目標を立てて取り組んでいるが、昨年度において2005年度の削減目標を既に超過達成した。産業界の努力は、さらに世界一のISO14000シリーズ取得件数や急増している環境報告書、ホームページ、環境活動紹介パンフレット等への記載によっても確認される。

  3. 一方で、豊島事件に代表される不法投棄・不適正処理の防止は、産業廃棄物に対する国民の不信感を払拭するためにも重要な課題であり、法律に基づき厳格に対応することが必要である。環境省調査によると、不法投棄の量は産業廃棄物全体の0.1%強にすぎないが、地域の環境問題としては深刻である。平成12年度の廃棄物処理法の改正を経て、排出事業者責任が強化され、処理委託業者の選択も厳しく行われるようになった結果、大規模な不法投棄は新たに発生せず、産業廃棄物問題の8割は解決の方向に向かったと言われている。

  4. 適正な廃棄物処理とリサイクルを推進する上で今必要なのは、単なる規制の強化ではなく規制改革である。不法投棄は厳しく罰し、リサイクルは規制を緩和して推進することが必要になっている。循環型社会の一層の推進に取り組むことが至上命題になっている現在、国・地方公共団体においては、リサイクルの促進と廃棄物の適正処理を両立させる観点から抜本的な制度改革をすべきである。

2.制度問題に関する提言

(1) 法制度のあり方

循環型社会の形成推進のためには、本来、循環型社会形成推進基本法を廃棄物処理法や資源有効利用促進法、各種リサイクル法の上位法として明確に位置付けるべきである。循環型社会における廃棄物処理法の位置付けは、資源循環を目指し3Rに取り組んだ結果、最終処分する必要がある物を適用対象とする法律とすべきである。適正なリサイクルを担保するためには、たとえば資源有効利用促進法ならびに各種リサイクル法等を拡充し、主務大臣認定や、産業界が自己責任原則のもと、自主的に、再利用率基準、情報開示義務、監査制度等、適正管理に必要な措置をとったうえで廃棄物処理法の規制対象外とすることが考えられる。

(2) 廃棄物の定義について

中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会は、本年3月に「廃棄物・リサイクル制度の基本問題に関する中間取りまとめ」(以下、「中間取りまとめ」)を公表したが、この「中間取りまとめ」に示された「不要物以外のリサイクル可能物」を廃棄物処理法の適用対象とすべきではない。
廃棄物処理法の規制は、不要物を適正に処理するために収集運搬、積替保管、処分のそれぞれが許認可事項となっており、その手続きに要する時間の長さや費用の大きさ等がリサイクルに携わる者にとって障害となっている。
循環型社会の形成推進に向け必要な施策は、資源循環促進の観点からの規制の見直しおよび手続きの簡素化を行なうことである。
見直しの方向性については、

  1. 有価物および適用除外物(土砂等)は従来通り廃棄物処理法の規制対象外とする、
  2. 無価であってもリサイクルできるものについては、資源有効利用促進法および各種リサイクル法等を拡充し、廃棄物処理法の規制対象外とする、
  3. 土砂(建設発生土)、建設汚泥(泥土)等は、新たな法制化等により同じ括りのなかで品質、安全性をコントロールする仕組みをつくり、有効利活用の道を図る、
といった措置を講ずることが必要である(別紙)。

(3) 廃棄物の区分について

現在、廃棄物は一般廃棄物と産業廃棄物に区分されているが、この区分についてはさまざまな意見があり、今後十分議論をする必要がある。
しかし、当面、事業所から排出される事業系一般廃棄物は、地方公共団体による処理が望ましい。
ただし、現在、地方公共団体が処理を引受けないものについては、リサイクル・適正処理を確保するために、広域的な処理が必要である。
事業者は、住民同様、地方公共団体に対する納税義務を果しており、地方公共団体が処理を行なう場合は、事業系一般廃棄物の処理費用を安易に事業者に求めるのは不合理である。

(4) 廃棄物処理業・施設に対する規制について

廃棄物を資源として再利用・リサイクルする生産施設や、使用済み製品のリサイクル施設に対しては、廃棄物処理施設の許可は不要とすべきである。
生産施設や工場には、大気汚染防止法や水質汚濁防止法、保安規制等、さまざまな法に基づく規制が課されているため、資源を有効利用している生産施設や工場に廃棄物処理法の規制(廃棄物処理施設に係る技術基準等)を重複的に課すべきではない。
事業者がリサイクルを行なう場合、業許可が必要となるが、煩雑な手続きが求められ、事業者にとって過重な負担となっている。工場内で既存の生産プロセスを活用し資源循環に取り組む場合には、事業者の運営責任を尊重する形で規制を撤廃すべきである。たとえば、JISマーク表示認定工場やISO14000シリーズを取得している事業者については、業許可を不要とすべきである。

(5) 拡大生産者責任について

拡大生産者責任について検討を行なう場合には、循環型社会形成推進基本法でも謳われているように、何よりも社会の各ステークホルダーが適切な役割を担うことを基本とすべきである。
生産者が果すべき最大の責務は、リサイクルしやすい製品設計や材料選択等、企業の有する技術開発力を活用すること、引き取った製品の資源化努力と適正処理、さらには生産活動や製品の情報公開をすることである。たとえば、家電製品のリサイクルに関しては法律に基づいた企業の取組みが既に行なわれており、その情報も積極的に公開されている。
消費者の理解を得るためにも、既にリサイクルを進めている分野における自治体の負担減少分と国民への適切な還元に関して情報公開を行なうことが不可欠である。

(6) 不法投棄への対応について

不法投棄・不適正処理への対応は、不法投棄は違法行為であることを周知徹底させるとともに、地方公共団体が監視・摘発体制を強化して早期発見に努めること、ならびに不法投棄実行者への厳罰の適用を徹底することが基本である。他方、循環型社会の形成推進に向け、優良な処理業者が報われる制度作りを進めることが急務である。
これまでも、日本経団連では、産業廃棄物処理事業振興財団ならびに不法投棄原状回復基金への協力を通じて、処理施設の整備ならびに不法投棄・不適正処理の防止、地方公共団体による原状回復事業への支援に努めてきた。 しかしながら不法投棄の原状回復費用は、本来、不法投棄実行者が負担すべきものであり、因果連関のない第三者が負担することは不合理である。基金制度が不法投棄実行者の「捨て得」につながることのないよう、国・地方公共団体は不法投棄を根絶させるべきである。今後、原状回復基金への対応については、上記の観点をふまえて、見直しを検討していく。

(7) 地方公共団体の産業廃棄物行政について

産業廃棄物の適正かつ効率的な処理やリサイクルの促進のためには、都道府県を越えた広域的な処理が必要である。
地方公共団体が行なっている流入規制は、必要な広域処理を妨げており、コスト低減および適正処理の観点から見直しが必要である。無許可業者の不法投棄は流入規制で到底防止できないため、不法投棄対策と流入規制は分けて検討すべきであり、安易な流入規制はすべきではない。

(8) 循環物流システムの構築と静脈産業の育成

合理的な循環システムの構築のためには、循環資源を収集・運搬する循環物流システムをいかに効率的なものにするかが重要である。今後、広域的流動や規模の効果を発揮し、輸送費負担を極力抑える物流体系の構築が求められるが、このためには、広域流通を阻む許可手続きの見直しを図るとともに、収集・運搬に係る積替え保管等の各種規制についても、相応の対策を講じた場合には大幅な簡素化が必要である。
産業界は、優良な処理業者との連携の下、循環型社会の形成推進に努めていくが、そのためには、リサイクルが産業として自律的・持続的に発展する基盤を整備する観点から、優良処理業者認定制度(たとえば「マル適マーク」)の創設や、業許可要件の見直し(資金力・技術力の審査等)等の措置を講ずる必要がある。

(9) 技術開発ならびに普及促進

持続的な経済成長と環境負荷の低減を両立させるには、革新的な技術開発の促進が不可欠である。資源循環・リサイクル分野では、わが国の多くの企業が世界レベルの技術開発を行なっているが、それらの新技術を採用した施設・設備に対し、一旦廃棄物処理法上の規制が課されると、技術の普及が進まなくなる。国としての循環型社会形成のビジョンに基づいた総合的技術開発に官民をあげて取り組むとともに、最新の技術開発の早期普及のための公的支援、たとえば税制上の優遇措置等を行なう必要がある。

(10) 廃棄物処理施設ならびに最終処分場の確保

残余年数が全国で3.7年、首都圏で1.2年と厳しい状況が続いている最終処分場の整備は、最優先の緊急課題である。国・地方公共団体においては、最終処分場や廃棄物処理施設は社会・経済の重要インフラの一つであり、何よりも重要な問題と位置付け、公共関与により、すみやかにその整備に着手し、実効をあげるべきである。その際、処理施設、処分場の整備・運営等については、民間活力を最大限に発揮させることが重要である。

3.おわりに

日本経団連は、循環型社会の推進を重要な課題と位置付け、(1)エネルギーを含む資源投入量の可能な限りの抑制、(2)資源の再利用促進による環境負荷の低減、(3)適正処理の推進が実現するよう、不断の努力を重ねてきた。その基本は、3R、とりわけリサイクルを積極的に進め、最終処分場に依存しない構造をつくりあげることにある。
今後とも、「経団連地球環境憲章」の精神に則り、創意工夫を活かして廃棄物・リサイクル対策に積極的に取組み、引き続き、循環型社会の形成に貢献していく所存である。国・地方公共団体においては、こうした産業界の自主的取組みを最大限尊重しつつ、必要な制度改革を行なうよう要望する。

以 上

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