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平成14年春季労使交渉に関する
トップ・マネジメントのアンケート調査結果概要

2002年8月21日
(社)日本経済団体連合会

I. 調査の概要

調査対象は、旧日経連常任・財務理事会社及び東京経営者協会会員会社の労務担当役員以上のトップ・マネジメント(1,966社)で、275社の回答があった(回収率:14.0%)。調査時期は平成14年5月24日〜6月28日。

II. 調査結果のポイント

<賃上げに対する評価>

  1. 賃上げ率は、全体として一段と水準が低下し、「2%未満」が7割を超えている。
    「ベアを実施」は1割に満たず、「定昇のみ」が約7割、「定昇の凍結」・「賃金額の据え置き」は約1割となっている。
  2. しかしながら、賃上げによる人件費の増加等を負担と感じるとする回答が63.9%にも及んでいる(前年比ほぼ横ばい)。
  1. 春季労使交渉による賃上げの妥結結果の水準は、前年に比べて一段と低下した(図表1)。賃上げ率の分布を前年と比較すると、分布のピークは前年が「2%台前半」であったが(45.2%)、今年は「1%台後半」となり(45.9%)、「2%未満」が7割を超えている。
    また今年の賃金決定の結果については、「ベアを実施」が9.2%と1割にも満たず、「定昇のみ」が最も多くて65.8%、「定昇の凍結」・「賃金額の据え置き」が合わせて8.8%、「降給を実施」も1.2%に及んでいる。

  2. 賃上げによる人件費増加等が企業経営に及ぼす影響については、ほとんどベアが実施されていないなか、「人件費負担は限界」と「重い」とを合わせた“影響が大きい”とする企業が依然として多く(63.9%)、前年とほぼ変わらない状況になっている(図表2)。
図表1 春季労使交渉における賃上げ妥結率の分布 図表2 賃上げによる人件費負担増加等の企業経営に及ぼす影響

<賃金決定で考慮した要素と今後の賃金決定のあり方>

  1. 今年の賃金決定にあたり「経営状態」を考慮したが最も多く、全体の91.1%を占める。特に今年は、「雇用の維持」(30.0%)が大幅に上昇し、前年(15.3%)の約2倍になっている。〔複数回答2つまで〕
  2. 今後の賃金決定のあり方については、「定昇制度を見直し、降給も導入すべき」(37.6%)が最も多く、次いで「定昇のみ」(33.2%)が増えている。べア方式を認める考え方はさらに減少する一方、定昇制度自体を見直すべきとする企業が急激に増加している。
  1. 今年の賃金決定にあたり考慮した要素は、「経営状態(生産性および支払能力の動向)」が91.1%と圧倒的に多く、3年ぶりに9割を超えている。続いて「雇用の維持」(30.0%)、「世間相場」(28.0%)、「労使関係の安定」(22.9%)、などである。特に今回「雇用の維持」が大幅に上昇し、前年(15.3%)の約2倍となり、前年の4位から一気に2位に上がった(図表3)。

  2. 低経済成長のなか、今後の賃金決定のあり方としては、「定昇制度を見直し、降給も導入すべき」が最も多く、37.6%となっている。当項目は2年前の調査から設けられた項目であるが、毎年約10ポイントずつ増加し、今回初めて1位になった。また「定昇のみとし、余裕があれば賞与に反映させていくべき」(33.2%)、「定昇を中心に行うべきで、ベアは毎年実施する必要はない」(10.2%)とする、“定昇中心”あるいは“定昇のみ”のいわゆる“ベア不要論”をとる企業も43.4%ある(図表4)。このようにベア方式をとるべきとする企業がごく少数になる一方、降給の導入など定昇制度自体を見直すべきとする企業が急激に増えている。
図表3 賃金決定にあたり最も考慮した要素 図表4 今後の賃金決定のあり方について

<雇用問題>

  1. 現在の雇用問題として、「雇用余剰と人手(人材)不足の両面がある」とする企業は、依然として7割近く(68.9%)に達し、「雇用余剰問題」のみとする企業も2割近く(17.8%)に増加している。
  2. 今次春季労使交渉で雇用問題がとりあげられた企業は39.1%で、前年(18.8%)の2倍以上になっている。そのうち「賃上げをある程度抑えて、雇用確保を優先させた」が45.2%(回答企業全体では17.7%)に及んでいる。
  1. 企業が自社の雇用の過不足状況についてどう判断しているかをみると、「雇用余剰と人手(人材)不足の両面がある」とする企業が68.9%と最も多く、前年(73.5%)に比べて4.6ポイント減少したが、依然として高い水準にある。次いで「雇用余剰」が17.8%あり、前年比で2.4ポイント増加している。雇用余剰だけを指摘する企業が再び増加に転ずるとともに、企業内の人材のミスマッチも、相変わらず深刻であることがうかがえる(図表5)。

  2. こうしたなか、今次春季労使交渉の場で「雇用問題がとりあげられた」とする企業は39.1%あり、前年(18.8%)と比べると、一気に2倍以上に増加している。その対応をみると、「賃上げをある程度抑えて、将来に向けて従業員の雇用確保を優先させた」が最も多く、雇用問題がとりあげられた企業の中で45.2%、回答企業全体でも17.7%に及んでいる(図表6)。また、今回新設の項目である「雇用維持に関する申し合わせ等を行った」も2番目に多く、雇用問題がとりあげられた企業の中で20.2%(回答企業全体で7.9%)となっている。
図表5 雇用の過不足状況別企業割合 図表6 労使交渉の場で雇用問題が取り上げられた企業の割合とその対処の仕方

<ワークシェアリング(参考調査)>

  1. 緊急対応型ワークシェアリングを、今次春季労使交渉でとりあげた企業は4.5%であるが、今後業績が悪化した場合に導入を検討する企業は1割を超え、さらに検討について前向きな企業も含めると、15%を超える。
  2. 中・長期的な施策である多様就業型ワークシェアリングを、今後検討する予定の企業は14.5%で、その他状況により検討を行うなどの回答を含めると、2割を超える企業が何らかの検討を考えている。
  3. 多様就業型ワークシェアリングを促進するために、自社にとって必要なものとしては、「賃金制度の抜本的見直し」が最も多く(71.9%)、次いで「多様な勤務形態の提供」(61.2%)となっている。〔複数回答〕
    また制度面で見直しが必要なものについては、「労働市場規制(派遣等)、その他法規制(労基法等)の緩和・撤廃」(68.9%)が最も多い。〔複数回答〕
  1. 今次春季労使交渉で緊急対応型ワークシェアリング(注1)が「とりあげられた」企業は4.5%で、実際に「その実施を決めた」が1.1%、「検討中」は0.7%、「検討の結果、実施しなかった」が1.9%であった。しかし、今後業績が悪化した場合に、緊急対応型ワークシェアリングの導入を検討するかについては、10.1%の企業が検討を予定しているとし、「その他」の項目に回答があった「状況により検討を行う」なども含めると、15%を超える企業が検討について前向きに考えている。

  2. 中・長期的な観点から、労働力供給の減少、就労ニーズの多様化に対応し、企業活力を向上させる施策として、多様就業型ワークシェアリング(注2)を今後の課題として検討する予定があるかどうかについては、14.5%が「予定がある」としている。また「その他」の項目に回答があった「状況により検討を行う」やすでに「検討中」、「検討の余地あり」などを含めると、2割を超える企業が何らかの検討を考えている。

  3. 多様就業型ワークシェアリングを促進するために、自社にとって必要と思われるものについては、「賃金制度の抜本的見直し」が最も多く(71.9%)、次いで「多様な勤務形態の提供」(61.2%)、「属人的な諸手当の廃止」(42.6%)となっている。
    また制度面で見直しが必要と思われるものについては、「労働市場規制(派遣等)、その他法規制(労基法等)の緩和・撤廃」(68.9%)が最も多く、次いで「税制(所得課税)の見直し」(48.2%)となっている。
注1:
緊急対応型ワークシェアリングとは、緊急的に労働時間を短縮し、それに伴う賃金縮減により、当面雇用を維持するよう努めること
注2:
多様就業型ワークシェアリングとは、労働時間短縮等の措置を講じることにより、中・長期的な観点から従業員に対して多様な就業メニューを提供すること(賃金縮減を通例伴う)

※ なお、集計結果は四捨五入、複数回答の関係で、合計数値(100.0%等)にならない場合がある

本調査結果の詳細をとりまとめた報告書は、9月上旬より頒布予定
以  上

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