[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

第二回産学官連携サミット共同宣言

21世紀初頭の我が国の最大の課題は、日本経済を活性化し国際競争力の回復を果たして、強い経済へと導く構造改革を断行することである。そのための鍵となるのが「科学技術の振興」であり、産業基盤となる質の高い研究開発を戦略的に推進するとともに、科学技術システムの改革を大胆に実行する必要がある。とりわけ、産学官連携の推進は日本の将来を決する喫緊の最重要課題である。
昨年の第一回産学官連携サミットの開催以来、各地域の産学官連携サミットの展開、京都での実務者レベルの第一回産学官連携推進会議の開催を通じ、産学官連携の動きは、国民運動ともいうべき大きなうねりとなって着実に成果をあげつつある。
例えば、共同研究の件数は前年比30%増で5200件を越え、大学等発のベンチャー数は65%増の453社に急増し、九月には初の上場企業も誕生した。またTLOがもたらす経済効果は既に100億円に達しているともいわれている。
しかしながら、米国等の水準とは依然として大きな格差があり、大学等での研究成果が事業化に結びつかない「死の谷」の状況の克服が強く求められている。

本日のサミットにおいて、産学官連携の内外の成功事例が紹介され、参加者による積極的な討議から有意義な成果が生み出されたことを踏まえ、今後、以下の項目に重点を置いて全力で取り組むものとする。

1.経済活性化のための研究開発プロジェクトの推進

産学官の英知、技術力、資金力を結集し、比較的短期間で実用化される、あるいは、次代の産業基盤の構築に資する、研究開発プロジェクトを強力に推進し、日本経済再生の基盤を構築し、わが国産業の国際競争力強化を図る。

2.基礎研究の推進と研究開発の戦略的重点化

将来の産業のシーズとなるような新しい発見を生む独創的で質の高い基礎研究を推進するため、科学研究費補助金等競争的研究資金の改革及び拡充を図るとともに、重点四分野を中心に戦略的に資源の投入を行い、研究テーマの選定から実用化、産業化まで産学官の連携により一貫して推進する。

3.研究開発型ベンチャー創出への集中的支援

大学・企業等の研究成果の事業化・産業化を加速化するため、大学発ベンチャー、スピンオフ企業に対する技術開発助成や知的財産の管理活用等について、ベンチャー企業等の発展段階に応じた支援策の充実、起業に関する制度整備及び創業を支える専門人材層の充実を図る。特に、エンジェル税制の拡充や研究開発促進税制の強化など税制改正は、その緊急性に鑑み速やかな実現を図る。

4.大学改革の推進

産学官連携の活性化に向け、研究者の創造的能力を最大限に発揮できる競争的環境を構築するため、大学が主体的に改革を進める。特に、国公立大学の非公務員型法人への移行、大学内の純血主義による教員人事の排除、若手研究者の自立促進、外部資金の導入による競争原理の徹底、組織的産学官連携のための体制整備を図る。

5.私立大学の基盤強化

私立大学が持てる潜在力を発揮して科学技術研究の第一線に参加できるよう、その財政基盤強化のため、私学助成の充実を図るとともに、私立大学への寄附について、みなし譲渡所得課税の撤廃、損金算入限度額・所得控除限度額の拡大を図るなど抜本的な税制改正を行う。

6.企業による産学官連携を組み込んだ経営戦略の推進

研究開発の自前主義から脱却し、大学等の知的ポテンシャルを活用するため、大学等との連携を従来の個人的、個別的な対応から、包括的契約の導入等により、組織的なアライアンス戦略に発展、強化する。また、大学院修了者の受入れ、大学教員との人材交流、大学での人材育成への貢献等、人材交流の活性化等に取り組む。

7.地域の科学技術振興

産学官連携を促す規制改革を地方主導で推進するため、「特区法」の早期成立により知的特区を実現するとともに、世界に通用する新技術・新産業を連続的に創出する地域クラスターの形成などに取組み、公共事業依存型から科学技術駆動型の地域経済への転換を図る。

8.知的財産国家戦略

知的財産関連人材の育成、大学等における研究成果の機関帰属・管理・移転体制の整備、日本版バイドール条項の適用拡大、再生医療等の先端医療技術の特許法上の取扱い明確化などを実現し、知的財産の創造、保護及び活用を強力に推進する。特に、「知的財産基本法」の早期成立により、速やかに内閣に知的財産戦略本部を設け知的財産に係る政策を国家戦略として集中的、計画的に展開する。

9.産学官一体となった取組みの継続と推進

産学官の相互理解と信頼関係を一層強固なものとするため、引き続き「産学官連携サミット」を定期的に開催するとともに、科学技術分野のダボス会議ともいうべき「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム」の2004年開催を目指す。

右宣言する。
平成14年11月18日

科学技術政策担当大臣細田 博之
日本経済団体連合会会長 奥田 碩
日本学術会議会長吉川 弘之

(注:原文は縦書き)

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