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「破産法等の見直しに関する中間試案」についてのコメント

−法制審議会倒産法部会(2002年10月4日)についてのコメント−

2002年11月29日
(社)日本経済団体連合会
 経済法規委員会企画部会

第1部 破産手続

第1 総則

破産手続の迅速化を図る観点から、試案の考え方を支持する。ただし、インターネット公告の充実等、破産宣告の事実に関する情報入手手段の充実を図るべきである。

第2 破産の申立て

2 破産手続の費用

民事再生法同様、申立人すべてについて破産手続費用を予納する規定を設ける考え方を支持する。その上で、債務者が予納金負担の重さを理由に破産申立てを躊躇することのないよう、国家仮支弁制度を使いやすいものとすべきである。

(破産の申立て関係後注)

破産法において、業態や法人形態によって監督の意味合いや関与の深さが一様でない監督官庁が破産の申立てをすることを認めることに反対する。必要な事情がある場合には、個別法や行政上の処分により対応することが望ましい。

第3 保全処分

1 強制執行手続等の中止命令

取引関係の萎縮を招かないためには法律関係の安定性を維持することが重要であり、「債権者に不当な損害を及ぼすおそれがない場合」という発令の要件を明確化し、限定すべきである。

2 包括的禁止命令

取引関係の萎縮を招かないためには法律関係の安定性を維持することが重要であり、「強制執行手続等の中止命令によっては破産債権者の間の平等を害するおそれその他破産手続の目的を十分に達成することができないおそれがあると認めるべき特別の事情があるとき」という発令の要件を明確化し、限定すべきである。また禁止する期間は必要な範囲に限定すべきである。

4 否認権のための保全処分

(1)<2>において、保全処分の濫用を防止する観点から、否認権のための保全処分は担保を立てさせて、または担保を立てさせないで命ずることができるものとしているが、担保を立てさせることを原則とすべきである。

5 保全管理命令

(1)の発令の要件は法人に限定されているが、個人経営者など個人にも大規模な破産はありうるので個人も対象とすべきである。
また、(2)の保全管理人の権限・常務に属する行為の内容を明確にすべきである。

第4 破産宣告の効果

1 検察官への通知

破産宣告の検察官への通知制度を廃止する代わりに、法律の規定に違反する犯罪があると思料するときは告発する義務を管財人等に課すべきである。

2 破産者の説明義務の強化

破産者は財産状況の内容を利害関係人に対してできるだけ広くかつ書面にて開示・説明すべきであり、書面を提出しない場合または故意に虚偽の記載をした場合には制裁を課すべきである。

第5 破産管財人

1 破産管財人の資格

大規模な破産事件の破産管財人には法律、会計などの知識や経営能力が求められており、法人を破産管財人とすることができるとする試案の考え方を支持する。ただし、管財人となりうる法人の要件、欠格事由については明確にされるべきである。

2 複数管財人の職務執行

破産管財人が数人あるとき、裁判所の許可を得て、それぞれ単独にその職務を行い、または職務を分掌することができるものとすることを支持する。職務を分掌する場合には、債権者に、可能な限り分かりやすく分掌の内容を通知すべきである。

第6 監査委員

監査委員の制度を廃止する試案の考え方を支持する。

第7 債権者集会

1 債権者集会の招集

裁判所は、破産管財人または債権者委員会の申出があったときには、債権者集会を招集しなければならないものとすること、知れたる破産債権者の総債権について裁判所が評価した額の10分の1以上に当たる破産債権を有する破産債権者の申立てがあった場合も同様とすることについて、破産債権者の招集請求については、債権者に情報収集等の機会を保証する観点から、試案の考え方を支持する。
なお、(1)の第1回債権者集会について、裁判所が相当と認める場合は開催しないとする試案の考え方を支持する。この際、(1)注3に示されているように、破産管財人は、裁判所に提出した報告書の要旨を記載した書面を知れたる債権者に送付する等の措置をとらなければならないものとすべきである。
また、(2)イの異時廃止の決定をする際の意見聴取のための債権者集会について、破産債権者の意見を書面によって聴取することについて、破産債権者の招集請求権を認めないことは適当である。
(2)ウの破産管財人の計算の報告については、ファクシミリや電子メール等を活用し、知れたる債権者に送付する等の方策を講じるべきである。

第9 代理委員

利害関係が共通している多数の破産債権者が一括して破産手続上の権利を行使することを可能にする代理委員の制度を導入する試案の考え方を支持する。

第10 破産債権の届出、調査及び確定

1 破産債権の届出

手続の迅速性の観点から、債権者が一般調査期日の末日または一般調査期日までに債権を届け出なければ、原則として、配当手続に参加することができないものとする試案(1)の考え方を支持する。この際、届出の前提となる破産手続の進行状況や破産財団の現況情報が容易に入手できるよう、ウェブサイトの活用などをすべきである。
なお、債権届出の追完の認められるやむを得ない事由としては、知れたる債権者であるにもかかわらず通知が到達しなかった場合、天災や事故等によって届出が間に合わなかった場合、破産債権かどうか争いがあり期日に遅れて破産債権であることとなった場合、別除権行使によって回収しきれない債権等の金額が確定しない場合など、実務上想定されるケースを幅広く認め、具体的にコンメンタール等で示すべきである。その際、下記事例を容認していただきたい。
また、(2)で届出名義の変更が可能であることを明確化したことについて、試案の考え方を支持する。

《やむを得ない事由と考えられる事例》
  1. 業務委託先の破産に際しての破産者に対する多岐にわたる債権
  2. 破産者のなした債権額の計算結果を基にする場合において、破産者の計算結果に誤りがあり、届出債権額に変動が発生した場合の債権
  3. 債権譲渡の正当な手続を行ったにもかかわらず詐害行為等の理由によって否認された場合の債権
  4. 債権譲渡や契約上の地位承継の効力に争いがあり、いずれの相手に対し債権を主張すべきかが確定できないような場合の債権
  5. 財団債権と認識していたが後に否定され、破産債権とされた場合
  6. 別除権を行使し競売を行ったが、債権額に満たなかった場合の残りの債権
  7. 支払期限が到来しておらず、かつ、個別に通知されなかったために債権者が確知できなかった債権
  8. 知れたる債権者であるにもかかわらず破産宣告の通知がなかった場合
  9. 知れたる債権者ではないが破産宣告の通知がなかった場合
  10. 価格が後決めという商慣習があるような商品の代金債権
  11. 損害賠償債権
  12. 破産会社の社員の退職金等の債権
  13. 海外にいた等で届出期日を知らなかった場合の債権(個人債権者)
  14. 風水害震災等、不可抗力によって期日に届出が間に合わなかった債権

2 破産債権の調査

手続の簡素化の観点から、(1)の書面による債権調査を導入する試案の考え方を支持する。(2)の債権調査期間については、極力短縮すべきである。

4 破産債権の確定

手続の簡素化の観点から、決定による債権確定手続を導入する試案の考え方を支持する。

第11 係属中の債権者代位訴訟

債権者が提起した債権者代位訴訟について、詐害行為取消訴訟との整合性の観点から、破産宣告による訴訟の中断および受継についての規定を整備するという試案の考え方を支持する。
ただし、転用型の債権者代位訴訟については、転用型の各類型に応じた検討が必要である。

第12 破産財団

2 破産財団の換価
 (1) 換価の時期
財産の劣化による損失を防ぐ観点から、一般の債権調査の終了前でも換価することができるものとする試案の考え方を支持する。
 (2) 別除権の目的財産の任意売却
破産管財人が別除権の目的である財産を任意売却することができること、その場合に不足額責任主義を適用するとの試案の考え方を支持する。
ただし、(注)でなお検討することとなっているが、当該担保権が存続するときは、当該担保権を有する者に対して新たな目的物の所有者となるべき者についての情報を提供する観点から、通知をすべきである。
 (3) 破産管財人による任意売却と担保権の消滅
迅速性を重視しつつ、合理的な限度で担保権者の納得も重視する観点、さらに実務の運用に即しているとの観点から、丙案の考え方を支持する。
なお、担保権者の納得性を高めるため、組入額の設定を破産管財人の裁量に任せるのではなく、一定の基準を設けることを検討すべきである。
 (4) 民事執行手続による換価
(後注)で示された、商事留置権の消滅請求制度の破産手続の導入の是非について、破産法上、商事留置権が特別の先取特権とみなされること、一定の場合とはいえ最高裁が商事留置権の留置的効力を認めていること、民事執行法上引受主義がとられていることから事実上の優先弁済効があること等から、商事留置権についても、他の担保権同様、適正な評価額の支払いにより消滅請求ができるとの制度が創設されるべきである。
なお、商事留置権を消滅させる場合、留置権者に支払う財産価額につき、管財人と留置権者との間で合意に至らない場合の調整手続を措置すべきである。

第13 配当手続

配当手続の簡素化、効率化、合理化の観点から、試案の考え方を支持する。
ただし、少額の配当に関する特則の債権届出書はわかりやすい簡便なものとすべきである。

第14 簡易な破産手続

破産財団に属する財産の規模が一定額に満たない破産事件について、簡易迅速な解決を図る観点から、簡易な破産手続の特則を設ける試案の考え方を支持する。
なお(簡易な破産手続関係後注2)で示された、小規模個人再生と同様のみなし届出制度については、これを導入すべきである。

第15 大規模破産事件

1 大規模破産事件の要件

債権者数が1000人以上の事件を対象とするとの要件に加え、債権者の地域分布の状況について明確な基準に基づく要件を設け、いずれかの要件に該当すれば特則を活用することができるようにすべきである。

2 管轄の特例

大規模な事件については専門部署を有する裁判所が迅速で的確な処理を規定できるとの観点から、東京地方裁判所または大阪地方裁判所に競合管轄を認めるとする試案の考え方を支持する。

3 債権者に対する公告及び通知についての特則

(注)(b)にあるように、債権者に対する公告および通知については、個別の通知に代えて相当と認められる周知方法(ウェブサイト等を活用する等)を用いることができるようにすべきである。
なお、(大規模破産関係事件関係後注2)に示されたように、書面投票制度を導入すべきである。

第16 強制和議

民事再生法が制定されていることから、強制和議制度を廃止するとの試案の考え方を支持する。

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第1 個人の破産手続に関する特則

1 自由財産

自由財産の範囲について、破産者の経済生活を容易にする観点から、政令で定める額の3倍の金銭(必要生活費3カ月分)に拡大すべきである。
裁判所が、破産者の申立てにより、決定で、破産者の生活の状況その他の事情を考慮して、自由財産となるべき財産の範囲を拡張することができるとの試案の考え方を支持する。

2 破産者に対する監守

破産者に対する監守の制度は形骸化しており、廃止するとの試案の考え方を支持する。

3 扶助料の給与

扶助料の給与の制度は形骸化しており、廃止するとの試案の考え方を支持する。

第2 免責手続

1 免責の申立て

債務者が破産の申立てをした場合には、同時に免責の申立てがあったものとみなすものとする試案の考え方を支持する。

2 免責についての審理

債権者の異議申立期間は期間を定める公告が効力を生じた日から起算して1カ月以上とすべきである。

4 免責の裁判

裁量免責については、個人再生手続等との均衡を勘案しながら、慎重に運用すべきである。

第3部 倒産実体法

第1 法律行為に関する倒産手続の効力

1 賃貸借契約
 (1) 賃借人の破産
民法621条の規定を削除する場合には、民法上の一般的な解約権を行使できるものと考えるが、少なくとも破産申立ての時点において、破産者の一定期間の賃料不払いと支払催告の事実が存する場合の賃貸人の解約権を認めることを明示していただきたい。

 (2) 賃貸人の破産
破産法第59条の規定は、賃借権その他の使用および収益を目的とする権利を設定する契約については、相手方が当該権利について登記、登録その他の第三者に対抗することができる要件を備えているときは適用しないものとするとの試案の考え方を支持する。
なお、賃貸人の破産の場合において、現行制度の下では、担保権実行の各段階における、担保不動産の賃借人の敷金等返還請求権について、その保護の程度にばらつきがあり、予見可能性がない。賃借人の敷金等返還請求権の取扱いについて明確にすべきである。
1988年の米国知的財産破産法では、ライセンサーが破産した場合、ライセンシーが契約違反として損害賠償請求を行うか、ライセンス契約期間内の契約の継続を選択できることとなっている。わが国においても同様の規定を整備すべきである。
少なくとも、通常実施権については、第三者に対抗することができるか否かを問わず破産法59条を不適用とする旨を明文で定めるべきである。
また、フランチャイズ契約においてフランチャイザーが倒産した場合のフランチャイジーの保護についても同様の検討をすべきである。

2 請負契約
 (1) 注文者の破産
注文者の破産の際、破産管財人が契約の解除をした場合に請負人の損害賠償請求を認めるとの試案の考え方を支持する。加えて、請負人が解除をした場合にも、請負人の損害賠償請求を認めるべきである。
さらに、重層的請負関係において、元請負人が破産した場合、発注者との関係においては、請負人破産の場合であるとして、発注者・元請負人間の元請契約につき、管財人が破産法59条で解除を選択すると既成出来高は発注者に帰属し、当該発注者に対する出来高債権は破産財団に属する。
しかし、元請負人・下請負人間の下請契約については、注文者破産の場合であるとして、元請負人の管財人が契約解除すると、下請負人の下請負代金債権は民法642条1項後段により破産債権となるだけである。
したがって、少なくとも、元請負人の破産管財人が解除を選択した際の精算については、下請負人の出来高請求権(下請代金債権)が財団債権となるよう、双方未履行の双務契約の解除における通則である破産法60条2項が適用されるべきである。

 (2) 請負人の破産
請負人の仕事完成義務に関する破産管財人の権限等を定めた破産法第64条と双務契約に関する破産管財人の選択権を定めた破産法第59条との関係、それぞれの適用範囲については無用の混乱を招かないよう整理することが必要である。

3 相場がある商品の取引

金融取引の多様化に鑑み、破産法61条の対象を「取引所の相場がある商品の売買」から「取引所その他の市場の相場のある商品の取引に係る契約」に拡大すること、一括清算ネッティング条項の破産手続における有効性を確認すること、再生手続とともに更生手続においても破産法第61条と同様の規律が妥当することとする試案の考え方を支持する。
なお、「当事者間で締結された基本契約」の内容について、さらに明確化していくことが必要である。

4 継続的給付を目的とする双務契約

継続的給付を目的とする双務契約において給付を受ける者が破産した場合の取扱いについて、再建型手続と同様とする試案の考え方を支持する。
ただし、この場合、電気・ガス・水道などライフラインの給付契約やメンテナンス業務など、管財業務遂行に必要な継続的給付を目的とする双務契約であることを明確にすべきである。

第2 各種債権の優先順位

1 租税債権

破産宣告前の原因に基づいて生じた租税債権のうち一定期間以前に納期限が到来したものについては財団債権ではなく優先的破産債権とする。また、宣告後に生じる附帯税を劣後的破産債権とするとの試案の考え方を支持する。
ただし一定期間については、例えば最長2年間程度とすべきである。

3 その他の各種債権
 (1) 無利息債権の期限までの中間利息分
計算方法の簡易化による利便性の向上の観点から、無利息債権の期限までの中間利息分(劣後的破産債権)のうち破産宣告から期限に至るまでの期間に1年に満たない端数がある場合にはこれを切り捨てるとの試案の考え方を支持する。
 (2) 合意による劣後債権(劣後ローン)
実務に法律を合わせていく観点から、破産手続上も当事者の合意に従った取扱いをするとする試案の考え方を支持する。

第3 多数債務者関係

判例、通説の見解の明文化の観点から、試案の考え方を支持する。

第4 否認権

1 否認権の要件
 (1) 否認に関する一般的要件
否認の対象となる行為のうち、破産者の総財産の価額を減少させる詐害行為(狭義、(3)の対象を除く)と、偏頗行為のうちの非義務行為を対象として一般的要件とする試案の考え方を支持する。
 (2) 偏頗行為に関する否認の要件
偏頗行為のうちの義務行為について(1)の否認の一般的要件の特則を設けるという試案の考え方を支持する。 ただし(注1)にも指摘されるように、「支払不能」は一定の評価を伴う概念であり、取引の萎縮を招くおそれがある。危機時期を画するのは「支払停止」によるべきである。
 (3) 適正価格による不動産等の売却等に関する否認の要件
適正価格による不動産等の売却等については、原則として否認されないものとして明確化すべきである。

第5 担保権等の倒産手続上の取扱い

試案の考え方を支持する。非典型担保については適切な類型化、法文化を行うべきである。
また(担保権等の倒産法上の取扱い関係後注1)で指摘されているように、民事留置権についても特別の先取特権とみなすことについて検討すべきである。さらに(担保権等の倒産法上の取扱い関係後注2)で指摘されているように、破産管財人が動産の先取特権の目的財産を任意売却した場合について、動産の先取特権者は、破産手続において、破産管財人に対し、売却代金の優先弁済を求めることができるものとすべきである。

第6 相殺権

1 破産管財人の催告権

破産管財人が期間を定めて破産債権者に相殺するか否かを催告することを認め、期間内に相殺をしない場合には相殺権を行使できないとする試案の考え方を支持する。
ただし、事態の確認と相殺の方針、金額の決定には3カ月程度かかることが見込まれることから、相殺権行使期間は、催告のあったときから3カ月以上とすべきである。

2 破産管財人による相殺

破産管財人が、破産財団に属する債権をもって裁判所の許可を得て相殺することができるとする試案の考え方を支持する。

(相殺関係後注)

相殺の禁止に関する破産法104条第2号および4号について、定義が不明確で取引に萎縮効果のある「支払不能」概念ではなく、「支払停止」によって危機を画するべきである。

第4部 その他

第1 倒産犯罪

1 破産法第375条第1号の見直し

条文の合理化の観点から、試案の考え方を支持する。

第2 その他

条文の表現等の現代化を図り、分かりやすい法律とすべきである。
また、ITの活用により費用の節減、迅速な事務処理を目指すべきである。
さらに、会社整理・特別清算規定については歴史的使命を終えており廃止および抜本的に見直しをすべきである。趣旨を活かして改正をする場合には他の倒産法制と差別化すべきである。
倒産処理相互間における移行は、今後増加すると思われるので、円滑な移行が可能となるような規定の整備が必要である。

以 上

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