[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

米国企業改革法(Sarbanes-Oxley Act)第301条に関する
SEC規則(案)についてのコメント

2003年2月18日
(社)日本経済団体連合会
  経済法規委員会
   企業会計部会

米国証券取引委員会(SEC)は、1月8日、米国企業改革法(Sarbanes-Oxley Act)第301条に関する規則(案) "Proposed Rule: Standards Relating To Listed Company Audit Committees" を公表した。
この規則(案)には、外国企業に対する適切で合理的な適用免除規定が導入されており、外国のガバナンス制度を尊重するとともに、米国資本市場を引き続き開かれたものとするという方針が堅持されたことを高く評価する。
ただし、日本企業にとって取り扱いが明確でない事項があるので、以下の通りコメントする。

1.外国企業の取り扱いに関する一般的方向性について

規則(案)(proposed rule)が、監査委員会の要件(required standards)に関し、外国企業に対する適用免除を設けていることについては、外国のガバナンス制度を尊重する趣旨から、その方向性を維持すべきである。また、当該適用免除は時限措置とすべきではなく、恒久的措置とすべきである。したがってsunset条項は設けられるべきではない。
とりわけ、以下に述べるように、わが国の法制は、米国企業改革法が目指しているものと同様の水準のコーポレート・ガバナンスを規定しており、その規制を受けているわが国企業は適用免除とされるべきである。

2.委員会等設置会社の取り扱いについて

規則(案)は、一定の要件を満たす外国企業の "a board of auditors (or similar body), or statutory auditors"について、独立性の要件(10A-3(b)(1))と登録会計監査法人に関する責任の要件(10A-3(b)(2))を免除する旨を規定しており、外国企業とその企業の本国における法制度を尊重するという趣旨を、高く評価する。一方、日本の法制度に照らしてみると、日本の商法においては、監査役(会)と監査委員会は選択可能な同等の制度とされており、この2つの制度は同様の取り扱いがなされるべきである。日本の監査委員会についても、外国のガバナンス制度を尊重するという趣旨に沿うので、一般適用免除規定(general exemptions)に基づいて、独立性の要件(10A-3(b)(1))と登録会計監査法人に関する責任の要件(10A-3(b)(2))の適用が免除されることを明確にするべきである。この場合、日本の監査委員会は、取締役会の中に設置されることから、10A-3(c)(2)(i)(B)の "separate from the board of directors"は削除もしくは適切な修正がなされるべきである。
日本では、十分な監査機能を果たせる社外出身者の監査委員を確保することは容易ではないことから、監査委員会に、社内出身で、かつ、常勤の委員を置くことが監査機能を高めると考えられている(下記「*」参照)。これは、常勤の監査委員は、社業に通じている一方で、非執行役員であり、経営からの独立性があるからである。SEC規則における日本の監査委員会の取り扱いについては、これらの日本固有の事情が配慮されるべきである。

日本において、監査委員会の全てが社外であり、しかも非常勤であった場合に、監査委員会がほとんど機能しないと指摘するものとして、岸田雅雄「委員会等設置会社の監査」(税経通信2003年2月号29頁)。
日本の監査委員会の社外取締役の人数要件が過半数とされた理由について、社外取締役の適格者の人材が十分でないとという事情が考慮されたとする立法担当者の解説として、始関正光「平成14年改正商法の解説[VI]」(旬刊商事法務No.1642・2002年10月25日号19頁)。

3.一般適用免除のための要件(requirements)

(1)10A-3(c)(2)(i)(E) (監査役会等が登録会計監査法人の業務に関する監視に直接責任を有するとの要件)

日本法には、別紙1の通り、監査役(会)・監査委員会の会計監査人に対する権限・義務が規定されており、これらの規定をもって、監査役(会)・監査委員会は10A-3(c)(2)(i)(E)(監査役会等が登録会計監査法人の業務に関する監視に直接責任を有するとの要件)を満たすと理解している。
別紙1の日本法の規定により、監査役(会)・監査委員会が、10A-3(c)(2)(i)(E)(監査役会等が登録会計監査法人の業務に関する監視に直接責任を有する要件)で提案されている文言を満たしていることを明確にするために、必要であれば、10A-3(c)(2)(i)(E)の文言ないし解釈を修正すべきである。

(2)10A-3(c)(2)(i)(D)(母国法等による監査役会等の独立性に関する規定の存在の要件)

監査役(会)については、別紙2の日本法の規定、とりわけ、商法276条の監査役の取締役等との兼任禁止規定および商法特例法18条第1項の社外監査役の要件を定める規定の存在をもって、10A-3(c)(2)(i)(D) (母国法等による監査役会等独立性に関する規定の存在の要件)が満たされると理解している。
また、監査委員会においても、商法特例法21条の8第4項但書の、過半数が社外取締役でなければならないとの規定により、10A-3(c)(2)(i)(D) (母国法等による監査役会等独立性に関する規定の存在の要件)が満たされると理解している。
上記の日本法の規定が要件を満たしていないとの誤解を防ぐために、必要に応じ、この解釈を文言で明示し、独立性の程度が各国法制に委ねられていることを明確にすべきである。

4.10A-3(b)(5)(i)(登録会計監査法人の報酬に関する要件(required standard))

一般適用免除において、監査法人の報酬に関する規定である10A-3(b)(2)を適用免除としている一方、10A-3(b)(5)(i)( (登録会計監査法人の報酬に関する要件(required standard))を設けることは矛盾である。したがって、10A-3(b)(5)(i)も外国企業に対して適用免除とすべきである。
10A-3(b)(5)(i)が適用される場合でも、別紙3の日本法の規定が、監査役(会)・監査委員会が10A-3(b)(5)(i)を満たしていると理解しており、別紙3の日本法の規定が要件を満たしていないとの誤解を防ぐため、必要に応じ、この解釈を文言で明示し、提案された10A-3(b)(5)(i)の意図するところを実質的に実現するためには、別紙3の日本法の規定があれば、十分であることを明確にすべきである。

5.独立性要件とセーフ・ハーバー規定について

非投資会社に適用される独立性の要件(10A-3 (b)(1)(ii)(B))において、affiliateとaffiliated personの定義とともに、その中心的な要素となる支配の有無について、セーフ・ハーバー規定が示されたことは、独立性の要件の判断を容易にするものとして、高く評価する。このセーフ・ハーバー規定によると、当該発行体の資本性証券の10%超の実質的所有者でなく、執行役員でも取締役でもない場合には、当該発行体を支配していないとみなされる。監査委員会のメンバーは、取締役会、その他の委員会のメンバーとしての部分(capacity)を除いて、会社の関係者であることはできないとされていることと合わせると、当該発行会社の資本性証券の10%超の実質的所有者でなく、執行役員でもない取締役が監査委員会のメンバーとなる場合、この監査委員は、会社の関係者には該当せず、もう一つの要件である10A-3 (b)(1)(ii)(A)を満たす限り、独立性の要件(10A-3 (b)(1)(i))を満たすと理解している。
もしこの理解が正しくない場合には、10%超の実質的所有者でなく、執行役員でないことをもって、会社の関係者に該当しないこととなるように、セーフ・ハーバー規定のうちの「取締役でないこと」が削除されるなど、適切に修正されることを要求する。
なお、「10A-3 (e)(1)(i)(A)発行体企業のいかなるクラスの証券の10%超を直接・間接に保有するベネフィシャル・オーナーでなく」の10%については、これを引き下げるべきではない。

6.10A-3(c)(2)(i)(A)(米国以外の市場における公開の要件)

日本企業のコーポレート・ガバナンスは、米国と異なり、証券取引法ではなく、主として会社法によって担われている。したがって、会社法上、資本・負債の大きさによって、コーポレート・ガバナンスが異なることがあっても、公開・非公開の別によるコーポレート・ガバナンスの違いは原則としてない。こうした中で、日本企業に対し、10A-3(c)(2)(i)(A)(米国以外の市場における公開の要件)を課す必要はなく、少なくとも日本企業の大会社については、この要件は削除されるべきである。

7.適用免除に該当しているかどうかの判断

一般適用免除等の適用免除規定に該当しているかどうかに関し、少なくとも外国会社の本国の法制度全体に関わる部分については(例えば、10A-3(c)(2)(i)(A)〜(F))、国毎に一括して適用免除が認定されるべきである。日本の場合では、監査役(会)制度と監査委員会制度が一般適用免除に該当していることが明確にされるべきである。

8.10A-3(d)(適用免除に関する開示)

適用免除を受ける外国企業については、適用免除を受ける旨の開示のみを要求すれば足りる。外国企業が適用免除を受けるためには、自国法の独立性等の基準を満たす必要があり、適用免除を受けることによる監査委員会の独立性に対する重大な悪影響や他の規定の遵守への悪影響があるとは考えられず、それについて開示を課す必要はない。

9.他のSEC規則における監査委員会の読み替え

第301条に関するSEC規則(案)以外にも、監査委員会(audit committee)の用語が使用されているが、それらについても、適用免除を受ける外国会社については、"a board of auditors (or similar body), or statutory auditors"に読み替えるとの規定(第301条に関するSEC規則(案)の10A-3(c)(2)(ii)類似の規定)が設けられるべきである。

[適用猶予期間(10A-3(a)(5)(i))について]

日本企業は、3月決算の会社が大多数であり、このような会社では、6月下旬に定時株主総会を開催し、取締役等の選任を行うのが通例である。また、新たな取締役や監査役の選任などの重要議案を株主総会に提出するための準備期間は、候補者の選定などにはじまり最低数ヶ月を要する。
これらを踏まえれば、仮に、最終的な第301条に関するSEC規則(制定は2003年4月と見込まれる)に照らして瑕疵(defect)ある日本企業が生じた場合には、当該瑕疵を治癒(cure)できるのは、早くて2004年6月下旬の株主総会となる。
したがって、以上のような事情を踏まえ、施行期日を設定すべきである。

以 上

別紙1
監査役(会)・監査委員会の会計監査人(およびその監査)
に関する権限・義務に関する商法特例法の規定について
別紙2
監査役(会)の取締役会からの独立性について
別紙3
監査役・監査委員の監査法人の報酬に関する権限について

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