[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

貿易と環境ラベリングに関する基本的立場

2003年3月14日
(社)日本経済団体連合会
  貿易投資委員会 総合政策部会

1.はじめに

WTOでは、設立当初より持続可能な開発を考慮したバランスある自由貿易の推進を掲げており i、日本の経済界は、これを高く評価している。ドーハ閣僚宣言(2001年11月)では、環境に関して (1)WTO協定と多国間環境協定(MEAs)の関係、(2)MEAs事務局との情報交換、(3)環境財及びサービスに対する関税ならびに非関税障壁の削減・撤廃の3つの議題について交渉することが決定された。我々は、新ラウンドにおいてこれらの議題についても充分な成果があがることを期待している。このうち、MEAsに関する議論については、日本提案 ii にあるようにMEAsの「特定の貿易義務」について概念整理をしてWTOとMEAs上の特定の貿易義務に関する共通の理解を構築することを支持する。
また、同閣僚宣言では、(1)環境保護を目的とした政策が途上国の市場アクセスに及ぼす影響、(2)TRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)の環境関連規定、(3)環境ラベリング iii と貿易について、本年9月にカンクンで開催される第5回WTO閣僚会議(以下、カンクン閣僚会議)までに議論を行い、その結果、適切な場合、交渉の望ましさを含め将来の行動に関して勧告を行う旨、明記している。
このうち環境ラベリングについては、早急に我が国としての立場を明確にする必要があり、ここに経済界の意見を取りまとめることとした。但し、各国の環境ラベリングの歴史はまだ浅く、技術、運用方法等、様々な面で今後の発展が予想されること、WTOの議論がどのように進んでいくのか明らかでないことから、とりあえず現段階における基本的立場を示すこととした。我々は、今後も環境ラベリングのみならず、貿易と環境の問題全般についてWTOの議論を注視していくと共に、その進展状況に応じて逐次、意見を表明していく所存である。

2.環境ラベリングの現状と我が国企業の活動

環境ラベリングについては、1970年代後半から先進国を中心に各国がそれぞれの取り組みを行ってきた。その後、1998年にISOにおいて、全ての環境ラベリングに適用される原則規格(「環境ラベル及び宣言の一般原則」 (ISO 14020))が発行された。続いて、ISOでは1999年に国際規格として「タイプ I (ISO 14024)」と呼ばれる第三者認証による環境ラベルと「タイプ II (ISO 14021)」と称される事業者の自己宣言による環境ラベルが、2000年に「タイプ III (TR 14025)」の呼称で環境負荷の定量的データ表示環境ラベルの技術報告書(テクニカルレポート)を発行している。
我が国企業は、世界的にも優れた環境技術を有しており、持続可能な発展を図るべく環境負荷の少ない製品の供給に努めている。その一貫として、ISO環境ラベル一般原則 (ISO 14020) に準拠した取り組みを自主的かつ積極的に展開している。近年、我が国では消費者の環境保全に対する意識ならびに企業への期待がこれまで以上に高まっている。このようななか、我が国企業は今後も、環境ラベル等を通じ、製品またはサービスにかかる環境情報を消費者に分かりやすく提示していくことが極めて重要と考えている。
近年、環境ラベリングに関する取り組みは世界的に拡大しており、先進国だけでなく途上国を含む多くの国で環境ラベリングが導入されている。このような動向を踏まえ、既に環境ラベリングに取り組んでいる国では、情報データの交換、相互の技術支援活動、相互認証活動等の国際間協力に取り組み始めている。我々は、このような国際的取り組みが、不必要な貿易障壁を回避しつつ環境ラベリングを世界的に発展させる上で極めて重要と考える。日本の経済界としては、環境立国として相互認証をはじめとして、このような活動を更に積極的に推進していく。

3.我が国企業が抱える環境ラベリングに関する貿易上の懸念

前述したように、我が国企業は、環境ラベリングが環境保護を推進する上で有効な手段の一つであることを認識し、消費者への情報開示と信頼性の高いラベルの運用に努めている。他方、我が国企業は環境ラベリングをめぐって海外において、例えば、(1)自国産業に有利な基準選定を用いる等の差別的で不透明な運用 iv 、(2)環境ラベリングを政府等によるグリーン購入の要件として用いる強制的な運用 v 、(3)実質的に政府が関与して作成される任意の環境ラベリングの差別的な相互認証の基準策定および運用等による貿易上の懸念を感じている。
環境ラベリングは、貿易との関連においては、運用における透明性の確保が最も重要である。更に、要求事項策定段階では既存の各種基準との整合性を図り、審査段階では信頼性を確保することが強く求められる。また、各国政府は、本来、任意を原則とする環境ラベリングを環境政策の推進手段として強制的に用いるべきではない。環境ラベリングは、それ自体直接的な輸入制限を目的としてはいないが、運用方法によっては貿易阻害要因になり得る点が危惧される。

4.WTO新ラウンドへの期待

このような観点から、我が国経済界は、ドーハ閣僚宣言において、国内環境評価を自主的に実施する加盟国の努力に留意する一方で、環境保護を目的とする措置が国際貿易に対する偽装された制限を構成する方法で適用されるべきでない旨を確認したことを高く評価する。我々は、カンクン閣僚会議において、環境ラベリングに関し、以下の点についてWTOでどう取り組んでいくかを決定することを要望する。

(1) 議論の対象の明確化

閣僚宣言では "Labelling requirements for environmental purposes" と表現されており、何が議論の対象となっているのか明確でない。そこで、WTO加盟国は、これを明確にすべきである。

(2) TBT協定(Technical Barriers to Trade)vi上の環境ラベリングの扱いに関する解釈の明確化

その上で、TBT協定上の環境ラベリングの扱いについて解釈を明確化することを要望する。例えば、(1)ISOタイプ I、II、III型ラベリングとTBT協定の関係、(2)協定上、曖昧となっている概念(例:「標準化機関」)の明確化等を通じて、TBT協定と環境ラベリングの関係を明らかにし、環境ラベリングの透明性向上を図るべきである。

5.おわりに

現在、途上国を含む多くの国が環境保護の手段として環境ラベリングに取り組んでいる。我々は、これらの動きが今後も全世界的に広がっていくことを期待する一方で、環境ラベリングが不必要な貿易障壁とならないように各国が (1)国際基準への準拠、(2)透明性の確保、(3)内外無差別な運用の徹底、(4)相互認証の促進に努めることを強く要望する。
貿易に関する国際的制度・ルールを整備していくにあたっては、環境保全を目的とする企業の自主的な取り組みを阻害することのないよう配慮していくことが重要である。特に、WTOにおいては、環境ラベリングの扱いに関するTBT協定上の解釈の明確化を図ると共に、環境ラベリングを取り扱う環境専門機関ならびに国際認証機関と密接に連絡を取り、相互の理解促進に努めるべきである。
更に、途上国が過大な負担を負わずに環境配慮型製品を供給することができるような国際的な支援体制の構築も必要であろう。例えば、途上国の環境配慮型製品開発への知的支援を行っていくことも地球環境への負荷低減の観点から重要と考える。我が国経済界は、キャパシティ・ビルディングの一貫として、環境政策ならびに環境関連規格・基準の制定や運用に関する途上国の能力開発についても、公的支援を得つつ、これまで蓄積してきた経験をベースに積極的に途上国に協力していく所存である。

以 上

  1. マラケシュ協定前文では、経済開発の水準が異なるそれぞれの締約国のニーズ及び関心に沿って環境を保護・保全し、そのための手段を拡充することに努めつつ、持続可能な開発の目的にしたがって世界の資源を最も適当な形で利用することを考慮する旨謳っている。

  2. 日本政府は、WTOとMEAsの関係について、"The Relationship Between Existing WTO Rules and Specific Trade Obligations Set Out in Multilateral Environmental Agreements (MEAs)"(TN/TE/W/10)を2002年10月に提出した。

  3. ドーハ閣僚宣言では、"labelling requirements for environmental purposes"と表現している。

  4. 差別的で不透明な運用:
    ISOタイプ I に取り組む一部の国では、基準策定の際に、当該国産業に有利な基準選定を恣意的に行うケースが見られる。ISO環境ラベル一般原則8 (ISO 14020) では、環境ラベリングのプロセスの開発に際しては、利害関係者の参加による公開の協議をすること、作成過程の全体を通してコンセンサスを得ることが強く望まれる旨定められているおり、不透明な基準選定はISOの原則に反する。また、同種の産品を製造する外国企業に対して差別的で不透明な運用を行うことは、WTOの基本原則である内国民待遇にも違反すると懸念する。

  5. 任意ラベルの強制的な運用:
    ISOタイプ I、II、IIIの各環境ラベリングについては、任意であることが原則に定められている。しかしながら、一部の国では、ISOタイプ I 環境ラベリングをグリーン政府調達の条件に入れる等、本来任意のはずの環境ラベルを強制的な形態で運用している。このような運用は、ISO環境ラベルの原則に反するだけでなく、国際貿易に不必要な障害を設けることとなる。

  6. TBT協定では、規格を (イ)義務的規格を指す「強制規格」、(ロ)自発的な規格を指す「任意規格」の2つに分類し、それぞれの規格に関して不必要な貿易障害とならないように原則を規定している。
    非政府機関が行う任意規格には、以下が適用される。
    (1)加盟国政府による領域内標準化機関(中央政府組織であるか地方政府機関であるか非政府機関であるかを問わない)の "Code of Good Practice"(TBT協定附属書3「任意規格の立案・制定・適用のための適正実施基準」の遵守確保。
    (2)非政府機関による適合性評価手続(TBT協定第5条、第6条(但し、適合性評価手続案を通報する義務に関する規定を除く))の確保
    【主な原則】
    1. 同種の産品に係わる内国民待遇の確保
    2. 不必要に貿易制限的でない適合性評価手続の確保
    3. 適合性評価手続に係わる国際標準化機関の指針、勧告の遵守
    4. 適合性評価手続に係わる通報、公表等に係わる透明性確保
    5. 適合性評価結果の相互認証の推進
    最終製品に影響をもたらすPPMsはTBT上認められるが、最終製品に影響をもたらさないPPMs(いわゆるNon-product PPMs)がTBT上認められるかどうかは明らかでない。環境ラベリングのついた産品を環境ラベリングのついていない産品と区別した場合、WTO上の「同種の産品」に適用される最恵国待遇・内国民待遇違反との問題が生じる。

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