[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

ODA大綱見直しに関する意見

2003年4月22日
(社)日本経済団体連合会

わが国のODAをとりまく環境は、財政逼迫による予算の縮小傾向が継続する中、厳しさを増している。政府は、わが国のODA政策が、国内外の関係者、とりわけODAの原資を提供する納税者に、理解と共感をもって受け入れられるよう、実施目的を明確化するとともに、より効果的で効率的なODA政策に向けた改革を実施し、その成果を示す必要がある。
日本経団連としては、かねてよりODAのあり方について提言を行ってきたが、今回の「政府開発援助大綱(「ODA大綱」)」の見直しもODA改革の一環と位置づけ、以下の通り提言する。

1.基本理念

わが国が、将来にわたり貿易立国として生存し繁栄していくためには、世界平和の実現、世界各国との友好関係の維持を図ることはもとより、貿易・投資等の経済活動の維持・発展が必須の条件となっている。わが国にとってODAは、これらの諸目的を実現するための極めて重要な手段である。従って、ODA大綱の基本理念においても、国際社会が共通して取り組むべき諸課題への貢献に加えて、国内資源に乏しい貿易立国としてのわが国の安全と繁栄を確保するという国益のためにODAを積極的に活用するとの姿勢を明確に打ち出すべきである。具体的には、途上国の経済発展を通じた貧困削減、それによるわが国を含めた世界経済の安定と繁栄の実現、東アジアとの経済連携やわが国の優れた人材・技術の活用等によるわが国経済の活性化、環境、エネルギー問題の解決などが考えられる。
併せて、わが国としては、東アジアへの経済発展における協力の経験に基づき、ODAがわが国企業による貿易・投資活動の促進、ひいては現地における民間経済活動の活発化につながることによって、その効果が高まることを強調すべきである。
さらに、わが国ODAの各援助形態(有償資金協力、無償資金協力、技術協力)の果たすべき役割について大綱で整理し国民のさらなる理解を促すことが重要であり、特に、従来から東アジア等において相手国の自助努力を支援し経済発展を実現させた有償援助の重要性を再確認し、今後も継続、発展させるべきである。

2.4原則ならびに要請主義

(1) 4原則

ODA大綱に盛られた4原則は基本的に維持すべきであるが、昨今の厳しい国際情勢に鑑み、これまで以上に安全保障を意識し、わが国の平和と繁栄に寄与する国に重点的に配分すべきである。加えて、わが国の「平和構築」への取り組みをODAで促すことを書き加えるべきである。
運用については、いわゆる総合的判断をくだす際に考慮すべき事項として、安全保障や通商政策など、わが国の安全と繁栄に関わる事項も書き加えるべきである。また、当局においては、総合的判断が恣意的運用と批判されることのないよう、説明責任を果たすべきである。

(2) 要請主義

いわゆる要請主義については、まず、わが国の国益を重視した総合的な戦略(グランド・デザイン)を立て、その上で相手国政府との政策対話を通じて、相手国政府の政策の取り組みを促すとともに、具体的なプロジェクトを策定すべきである。そのためには、大綱整備と並んで、中期計画の充実も必要であり、「国別援助計画」についても、こうした観点からの整備・拡充が急務である。そうした中で、東アジア諸国については、経済連携、ひいては東アジア自由経済圏の実現のためにODAを戦略的に活用することが重要であり、こうした視点に立った政策対話、経済協力を推進すべきである。あわせて、ODAの実施手順等も、わが国の主体性を生かす方向で見直す必要がある。
なお、計画策定にあたっては、産業界からの意見も聴取すべきである。また、計画自体に問題が発生した場合には速やかに見直せる柔軟性も必要である。

3.重点事項

(1) 地域

わが国のおかれた歴史的、地理的、政治的、経済的な状況に鑑み、わが国のODA政策においては、引き続きアジア、特に東アジア地域を重視すべきことを大綱にも明記すべきである。特に、近年、ASEANとの包括的経済連携強化が重要課題となっていることを踏まえ、その推進のためにもODAを戦略的に活用すべきである。具体的には、ASEANの結束強化と安定のために、貿易・投資の促進や関連諸制度のハーモナイゼーション、後発加盟国への支援や域内協力の促進に資するようなODAの活用を大綱に盛り込むべきである。
加えて、わが国にとってエネルギー・資源の確保という視点も重要であり、これに資する重点地域の設定を行うべきである。

(2) 項目

わが国が、国益を実現する手段としてODAを実施する観点から、わが国が技術力・ノウハウの優位性を発揮しうる分野に重点的に取り組むことを大綱に明記すべきである。
具体的には、わが国の経験・実績が十分あり、依然として途上国からの要請も強い経済インフラの整備に引き続き努めるべきである。
また、わが国民間企業の保有する環境・省エネルギー技術の国際的な普及が、地球温暖化問題の解決に資するとの観点から、これにODAを積極的に活用すべきである。加えて、日系進出企業の事業環境の改善、貿易・投資環境の整備といった観点から、法制度の整備を含む各種制度構築支援(知的財産制度、基準認証、中小企業政策等)、日本人技術者の派遣、途上国人材の日本研修等、「顔の見える援助」を推進すべきである。
こうした観点に立って、大綱においても、「経済インフラ支援」「環境・エネルギー」「人材育成」を重点分野として明示的に位置づけるべきである。

4.実施体制

(1) 政府部内の連携強化

ODAを効果的・効率的に実施するためには、関係各省、政府と実施機関、あるいは実施機関同士が、これまで以上に連携を強化する必要がある。その意味で、ODAの計画・実施・フォローの調整部門としての外務省の役割に期待する。
これに関連して、現在の「ODA総合戦略会議」が、日本経団連が提言した「内閣総理大臣を議長、関係閣僚や民間有識者をメンバーとする司令塔」とはかなり異なっていることから、同会議の組織形態・機能・役割などの再検討を求めたい。委員構成については、民間経済界からの委員の拡充を期待したい。
また、ODAの効果的・効率的実施の観点からは、相手国経済発展状況に応じ、借款条件等について柔軟に対応することも検討すべきである。

(2) 国際機関に対する人材輩出

国際機関への出資などを通じた援助において、出資比率に応じた人的貢献の重要性を大綱で強調すべきであり、それに向けた官民の取り組みを強化する必要がある。

(3) 経済協力の担い手としての民間の役割

わが国のODAが、量から質への転換を求められている中で、民間が果たすべき役割がますます重要となっている。例えば、民間の資金・イニシアティブによる貿易・投資は、持続的な経済成長を確保するための重要な要素であり、民間企業は、技術と経験をベースとした経済協力の担い手となりうる。具体的には、民民ベースの経済協力、民活によるインフラ整備等、民間のイニシアティブによる活動を支援することも必要である。また、ODAの現場で途上国のニーズを熟知し、住民のきめ細かいニーズにも通じた民間企業・NGOは、援助の重要な担い手となり得る。こうした経済協力の担い手としての民間の多様な役割を、ODA大綱においても明記し、ODAへの幅広い国民参加を促すべきである。

以上

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