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子育て環境整備に向けて
〜仕事と家庭の両立支援・保育サービスの充実〜

参考事例2  株式会社ニチレイ


1 企業概要

○ 食品製造業

○ 従業員の状況(2003年3月末日現在)
合計男性女性
従業員数2,101名1,661名440名
平均年齢39.4歳40.0歳33.3歳
平均勤続17.1年18.3年12.4年

2 ポジティブ・アクション導入の契機

ニチレイでは、業績の頭打ちなど会社を取り巻く環境激変に対応するための経営改革の一環として、1998年4月に「中期構造改革計画」を策定した。1999年3月期には戦後の混乱期を除き初の赤字決算となったことで、2000年4月より人事処遇制度に関しても、従来の年齢・性別・学歴といった個人属性と結果的に強く連動した職能資格制度から脱却し、仕事を通じ個人と会社のフェアな関係を構築する「フレッシュ・アンド・フェア・プログラム(FFプログラム)」を導入した。
また、FFプログラムの導入と前後して社員満足度調査を実施した結果、男性と女性の満足度の乖離が判明した。これにより個人属性の1つである性別による区別のない、よりフェアな関係の構築が必要であることが確認された。
次いで同社ではFFプログラムに合わせて、管理職の登用についても、従来の年次管理と部門の推薦に基づく選抜の仕組みを改め、完全な公募制(プロチャレンジ制度)を導入した。しかし、このプロチャレンジ制度による応募者は、男性155名(対象者約400数十名)に対して女性5名(同約50名)と、女性の応募者が非常に少なかった。
同社の顧客の大半が女性であるにもかかわらず、社内的に活躍する女性が少ないのは問題であること、また肉体労働から知的労働へと移行する中、成果を生み出すためには優秀であれば性別は無関係であることなどの認識から、社長をトップとする「人財委員会」が、ポジティブ・アクションを制度化して実施することを決定した。

3 ポジティブ・アクションの概要

(1) ポジティブ・アクションの内容

FFプログラムは、職務遂行に直接関係ない属性を廃すること、また、女性社員の満足度を高めることを目的としている。女性社員の満足度を高めるには多面的かつ包括的な施策が必要となるが、同社ではまず管理職に占める女性比率に着目し、この是正を図ることからスタートした。
具体的には、プロチャレンジ制度に基づいて、女性のみを対象とする別枠募集を3年間の期間限定で実施し、管理職に占める女性比率を2000年4月現在の1.2%から2003年4月には5%とする目標とした。優遇措置を設ける理由は、そもそもこれまで女性社員は管理職になるための育成の機会が与えられていなかったということである。内容については、下表参照。

通常のプロチャレンジ制度ポジティブ・アクション
(優遇措置の内容)
対象者主任以上勤続8年以上の全女性社員
選抜プロセス(1)自薦・部門推薦によるエントリー自薦のみでの応募も可
(2)通信教育受講必要に応じた合格点数の考慮
(3)管理職適性検査必要に応じた合格点数の考慮
(4)役員プレゼン全員実施
女性登用枠の設定
(10〜15名/年)
期間3年間の期間限定

(2) ポジティブ・アクション実施にあたっての注意点

同社では、ポジティブ・アクションの実施後、管理職に占める女性比率は、2001年には2.6%、2002年には3.2%、今回の措置の期限である2003年4月では4.6%(43名)となり、当初の目標をほぼ達成した。また、ポジティブ・アクションに関して、新任女性管理職へのアンケートや、社員満足度調査を継続的に実施することによって、課題の発見と施策立案に結びつけるようにしている。調査によれば、新任女性管理職が他の女性社員にキャリアパスを示すことができるようになったことや、全体的に女性社員の満足度が少しずつ向上しているという結果を得ている。
今回の取り組みが成功した理由としては、経営の意思であることを明確にしたこと、登用人数の目安を公開したこと、優遇措置期間と目標値を設定したことなどが挙げられる。また、同社は、部下を持つ者だけでなく、部下は持たなくても、専門性の高い「組織内プロフェッショナル」として企業の競争力を高める者についても、管理職としての位置づけを行なった。このように、管理職への登用が、部下を持つことと直結しないような仕組みにしたことも成功の要因の1つと考えられる。

4 今後の課題

管理職への登用優遇措置から始まった同社のポジティブ・アクションは、女性社員の能力開発についても、施策を講じている。具体的には、ポジティブアクションキャリア研修や男性の意識改革のための研修の実施などである。また、ポジティブ・アクション施策と相まって優秀な女性の応募が増加したため、女性の採用・職域拡大についても着実に推進されており、数年前までは10%前後であった新卒採用に占める女性の比率は、2003年度には約40%となった。
今後も必要な施策については継続的に実施するほか、獲得した優秀な女性社員の就労継続を図るとともに、子育て環境整備の推進や一旦退職した女性社員の再雇用制度の検討も実施していく。


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