[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

「民事訴訟法及び民事執行法の改正に関する要綱中間試案」に対するコメント

2003年10月20日
(社)日本経済団体連合会
経済法規委員会企画部会

先の通常国会において、民事裁判の充実及び迅速化のための民事訴訟法改正、ならびに担保物権制度の改善と民事執行手続きの実効性向上のための民法等の改正が実現したのに続き、今般、法制審議会民事訴訟・民事執行法部会において、民事訴訟法及び民事執行法の改正に向けた取り組みが行われていることは、民事訴訟手続の利便性の向上、民事執行手続の適正化・迅速化に資するものであり、経済界として高く評価する。同部会における検討が、実態をふまえて進められるよう、「民事訴訟法及び民事執行法の改正に関する要綱中間試案」に対して、下記の通り、コメントをする。

法務省ホームページ:
http://www.moj.go.jp/PUBLIC/MINJI37/pub_minji37.html

第1 民事訴訟法関係

1 民事訴訟手続等の申立て等のオンライン化

(1) インターネットを利用した申立て等の許容
  1. 申立方法の選択肢拡大による利便性の増進、事務の効率化につながることから、インターネットを利用した申立て等の許容に賛成する。
  2. オンライン化にあたっては、データの漏洩や消滅、損壊、改竄、成りすまし等がないよう、万全の対策を講ずべきである。
  3. 今後、更なる利便性の向上を目指し、添付資料(訴訟当事者の登記簿謄本や委任状等)や疎明資料についても、電子データ化して送信することにより提出する仕組みを検討していただきたい。
  4. なお、裁判に関する期日の呼出しの手段や期日の指定・変更にかかる書記官や関係者等とのスケジュール調整・諸連絡においても、電子メールを活用し、実質上スケジュール調整のみを目的とするような口頭弁論や弁論準備手続は廃止すべきである。
(3) インターネットを利用した申立て等における署名押印等に代わる措置

申立て等をした者が、申立て等の到達の成否を容易に確認できる手段を講じていただきたい(例:申立て等にかかる電子データが裁判所のコンピュータに記録されると、その旨を自動応答する機能を活用等)。

2 督促手続のオンライン化

督促手続における申立てのオンライン化については、「1」のコメントに同じである。

(3) 督促事件記録の閲覧・謄写等に代わる措置

セキュリティに十分配慮しつつオンライン化を図り、裁判所に出向くことなく、督促事件記録の閲覧・謄写等が可能となる仕組みも検討していただきたい。

3 文書提出命令

刑事事件関係書類等の開示については、刑事訴訟法等における各開示制度に委ねる現行規定を維持する考え方((3)ア)を支持する。

〔理由〕

  1. 刑事事件関係書類等は、社会正義実現と真実発見という公益の追求のため、関係者の利益保護、捜査に関する秘密保持等を前提として、関係者の名誉・プライバシー、機密事項にまで立ち入り収集・作成されたものである。したがって、そもそも当該目的達成以外の用途にこれを用いることについては、慎重でなければならない。
  2. 刑事事件関係書類等が一律に、民事訴訟の受訴裁判所の提出命令に服するようになると、予測できない形で強制的に開示され、関係者のプライバシー侵害、名誉毀損、または営業秘密の開示につながる可能性がある。その結果、関係者による任意の捜査協力は得難くなり、真実の追求そのものが困難になるおそれがある。他の目的に開示できるかどうかは、開示する場合のメリット・デメリット、刑事手続に与える影響等を考慮の上、その必要性が慎重に判断されるべきである。刑事捜査・訴訟手続における具体的事情に精通していない民事訴訟の受訴裁判所が判断することは望ましくない。刑事事件関係書類について最もよく理解している保管者が一元的に判断を行うべきである。
  3. 現行法の下でも、刑事事件関係書類等については、関係者の利益保護、捜査に関する秘密保持等と開示等による公益とのバランスに配慮しつつ、捜査中、公判中及び裁判確定後の各段階で開示手続が定められている。現実に、要綱中間試案補足説明にあるように、相当程度の開示が行われている。開示されないケースについても、開示請求の範囲の特定が不適切など、請求方法に起因する面もあると言われており、現行制度自体に不備があるとは認めがたい。

(後注)
自己利用文書が一般的に文書提出義務の対象となると、企業は裁判所から提出を命じられるという事態を常に想定して文書を作成しなければならなくなり、円滑な企業活動が著しく阻害されるおそれがある。自己利用文書の範囲については、平成11年11月22日の最高裁決定を前提とした、個々の事件における解釈に委ねるべきであり、法律上の手当てを内容とする見直しは不要である。

第2 民事執行関係

2 不動産競売手続

(1) 最低売却価額制度

A案を支持する。

〔理由〕

  1. 不動産競売手続の主要な問題点は、売却に多大な時間を要すること、ならびに、設定される最低売却価額が実勢価格を反映していないため売却不可能な場合があることである。現行制度のもつ不当安値落札防止の機能は今後も重要である。当面、現行制度の問題点の改善を図るべく、いわゆる3点セット(物件明細書、評価人(鑑定士)の評価書、執行官の現況調査報告書)の提出の迅速化、評価制度の改善等を推進することが望まれる。
  2. B案においては、多くの債権者の同意を得るのに時間を要し、競売手続の迅速化が却って阻害されるおそれがある。また、C案では、第一順位の抵当権者以外の債権者の保護が不十分であるとともに、執行妨害が誘発される懸念がある。
(2) 剰余を生ずる見込みのない場合の措置

租税債権等、公的負担に基づく債権を有する債権者(国や地方公共団体)が優先債権者である場合、予めとるべき態度を定める制度的手当(例えば、本件に関する同意)を講じていただきたい。

〔理由〕
他の債権者の予測可能性が高まるとともに、同意確認の手間が省略でき、手続の迅速化に資する。

第3 その他

1 通常執行の時間帯の拡大

現行法上、裁判所の許可が不要な通常執行は、平日の午前7時から午後7時までとなっているが、例えば午後9時までに延長していただきたい。

〔理由〕

  1. 社会全体のライフスタイルが夜型に変化してきていることに対応し、執行のあり方を見直す必要がある。現に、執行現場の状況に応じ、執行官の判断により柔軟な対応がなされている。
  2. 要綱中間試案補足説明の第3その他にあるとおり、他法令において同様の制限が加えられているのは事実であるが、これらはいずれも公益目的(税金徴収、捜査・押収、道路・下水道建設のための測量)のために個人の自由を制限する場合に係るものであり、私法上の請求権の内容を債務名義に基づき強制的に実現する手続である強制執行と同列に扱うのは無理がある。法文上の外観的な整合性に囚われることなく、実務ニーズを踏まえて検討していただきたい。

2 供託手続の柔軟化

判決前(すなわち控訴の提起前)に、原告の請求を認容する仮執行宣言付き判決が出ることを停止条件として、予め一定額を供託することを可能にしていただきたい。

〔理由〕

  1. 原告の請求が認容され仮執行が認められた場合、原告は、被告に対して直ちに仮執行を請求できる。被告が複数の場合は、各被告に対して全額の仮執行を請求することができる。被告側は供託等立担保することができるが、予め控訴状・仮執行停止申立書提出等の手続が必要であることから、現実には間に合わないことが多い。そのため、被告は、仮執行による事業活動への支障や社会的イメージダウンを回避するため、予め原告と訴訟外で不当な約束を結ぶことを余儀なくされているのが実態である。
  2. 判決前に、予め一定の額につき、仮執行宣言付き請求認容判決が下されることを停止条件として供託することが認められると、請求側(原告)は判決後直ちに賠償金を仮に得ることができるので仮執行宣言付き判決の主旨をより迅速に実現することができ、また、被告側にとっても、予測不可能な対応や、必要以上の損害の懸念が解消される。
以上

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