[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

企業のダイナミズムを引き出し新たな未来を切り拓く

−2004年度総会決議−

2004年5月27日
(社)日本経済団体連合会

海外経済が回復するなか、企業の構造改革努力が実を結び、日本経済の先行きは、次第に明るさを増しつつある。国の活力の源泉である企業は、新たな成長基盤の構築を目指した“攻めの経営戦略”を強化し、新規需要の創造に努めるとともに、雇用の安定を図ることで、自律的な景気回復を確実なものとしなければならない。
加えて、自らの責任を深く自覚し、様々なステークホルダーの声に耳を傾けながら企業倫理を確立すると同時に、企業を取り巻く社会や環境に配慮し、社会的責任への取り組みを強化する必要がある。
一方政府には、企業の付加価値創造力の向上に資する制度環境の整備が求められる。併せて、その活動を支える個人、地域の活力を高め、民主導・自律型経済社会への転換を加速させなければならない。
日本経団連は、企業の社会貢献の一環として政治寄付を促進し、政治との透明な関係を構築しながら、下記の諸課題に全力をあげて取り組む決意である。

1.企業の付加価値創造力を向上させる

(1) 企業法制・税制の整備と規制改革の推進

政府は、企業がグローバル競争に果敢に挑めるよう、株主代表訴訟制度や会社機関の設計、組織の再編に関する商法の規定を見直すとともに、法人実効税率をさらに引き下げるべきである。
企業の創意工夫を引き出し、雇用機会の増大を実現する観点からは、規制改革の徹底や官業・公共サービス等の民間開放を進め、新産業・新事業が次々に生み出される魅力的な市場環境を整える必要がある。
加えて、市場における自由競争の徹底と企業活動の規律強化、企業の国際競争力強化のため、経済活動の基本ルールである独占禁止法を、真に透明でかつ実効性のあるものとなるよう見直すことが求められる。

(2) 科学技術創造立国の実現と環境立国戦略の推進

政府は、科学技術投資の重点化や、国際標準化、産学官連携を戦略的に進めるとともに、職務発明制度の見直しなど知的財産政策の強化を図り、企業の国際競争力を重視した科学技術創造立国の実現を目指すべきである。併せて、コンテンツ産業の振興に向けた官民の取り組みを強化することが求められる。
さらに、税や規制的手段ではなく、わが国企業が強みとしている環境分野の製品、技術、ビジネスモデルの活用によって、国際社会との連携をとりながら地球環境の保全に貢献するという環境立国戦略を官民で推進することが重要である。
加えて、核燃料サイクルを含む原子力の積極的活用や水素の活用をはじめとするクリーンエネルギーシステムの開発など、CO2削減をも踏まえた総合的なエネルギー戦略を確立する必要がある。

(3) 対外経済政策の強化

企業のグローバルな事業環境を整備するために、わが国は、引き続きWTOによる多角的な国際通商体制の強化を図らなければならない。同時に、ODAによるインフラ整備や人材育成などを進めながら、アジア諸国と経済連携協定を早期に締結することで、“東アジア自由経済圏”の実現を図ることが求められる。また、対日直接投資促進の環境整備を図るとともに、外国人がもつ力を活かす秩序ある受け入れ施策を積極的に展開する必要がある。
経済界としては、民間外交を積極的に展開し、各国の政府、経済界との連携を強化するとともに、WTO、ILO、OECD等のルールづくりに際し、わが国経済界の意見の反映に努める。

2.個人の意欲、活力を引き出す

(1) 社会保障、財政、税制の一体的改革

政府には、国民の将来不安を払拭し、社会経済の活力を引き出す責務がある。このため、年金、医療、介護、雇用保険など、社会保障制度全体の給付と負担のバランスについて将来展望を示しながら、社会保障、財政、税制の一体的かつ、抜本的な改革を推進する必要がある。長期的に持続可能な制度を確立するためには、徹底した歳出改革と社会保障給付のスリム化・運用機関の合理化を通じて、国民負担率の上昇を抑制すべきである。そのうえで、国民が広く負担を分かち合える消費税を活用することで、現役世代や企業の負担を抑制することが求められる。加えて、利用者が様々な社会保障サービスを自由に選択できるよう、多様なサービス提供主体の参入を促すべきである。

(2) 21世紀を生き抜く次世代の人材育成

政府は、教育を21世紀における国家戦略の重要な柱の一つと位置付け、児童、生徒、学生の「志と心」「行動力」「知力」の向上のために、大胆かつスピード感のある改革に取り組む必要がある。経済界は、実社会に即した教育の実践に貢献する観点から、教育界との人材交流、産業の姿を学ぶ機会の提供、カリキュラムの開発・ノウハウの提供、インターンシップの推進を通じた若者の職業意識の醸成・キャリア形成機会の提供、採用選考にかかわる倫理憲章の遵守などの面で積極的に協力する。

(3) 多様な働き方の実現

個人がそれぞれの目標に向かって働き方、生き方を選べる社会の実現に、官民が一体となって取り組むことが求められる。政府は、労働法制のさらなる改革や個人の能力開発を支援する制度の充実を図ることが不可欠である。企業も、労使が協力して多様な人材を活かす人事戦略を推進するとともに、男女共同参画に向けた意識改革・啓蒙活動の展開に努める必要がある。

3.地域の自立を促す

(1) 地方自治体の行財政の自立

各地域が、それぞれ多様性のダイナミズムを発揮し、新たな豊かさを実現するためには、地方自治体が行政・財政両面で自立することが不可欠である。そこで、地方自治体が、受益と負担のバランスに配慮しつつ、自らの権限と責任で自立的かつ効率的な行財政運営を行うよう、地方交付税制度、税源配分、国庫補助負担金の見直しを一体のものとして推進すべきである。併せて、自立可能な規模の基礎的自治体の形成や州制の導入について検討を深める必要がある。

(2) 産業の集積促進と観光の振興

企業は、地域の再生・活性化の主役として、社会や住民の潜在的な需要を掘り起こし、雇用を生み出していくことが求められている。大学との連携や構造改革特区制度の活用、さらには地場企業間の戦略的提携の推進により、地域の強みと特色を活かした産業の集積を促進する必要がある。
また、外国人観光客の誘致を含め、成長が期待される観光産業の振興に官民あげて取り組むことが、地域の活性化につながる。自然、歴史、文化、産業技術など、地域の資源を有効に活用するとともに、必要なインフラの整備を進めるべきである。

(3) 社会インフラの効率的整備と住環境の改善

政府および地方自治体は、民間経営手法の積極的な活用を含め、社会インフラを効率的に整備、運用し、地域および都市の再生を促すことが求められる。加えて、個人の活力と創造力の源となる住宅の質的向上、住環境の整備、防犯対策の強化を進めるとともに、情報インフラの活用を図ることで、安全と安心が確保され、かつ利便性の高い街づくりを目指すべきである。

以上に加え、わが国の国家像、国家戦略について議論を深め、意見の集約を図る。

以上

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